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意識を取り戻した龍麻の目が捉えたのは、一面に広がる砂だった。
砂の集まりを砂漠と言うことくらいは知っているが、
あまりに唐突な光景が、その言葉を使うのをためらわせた。
一瞬の自失の後、龍麻は周りを見渡す。
さほど離れていない場所に、仲間達が倒れていた。
思わず最悪の想像をしてしまった龍麻だったが、近寄る前に京一がもぞり、と起き上がった。
「痛てて……頭が痛ェ……」
やや遅れて醍醐と小蒔も身体を起こす。
最後まで倒れていたのは舞子だったが、彼女もやがて起き上がった。
「皆、無事か?」
「醍醐クン……京一……緋勇クンはいる?」
「うん……高見沢さんは?」
「おはよォ〜」
少し眠そうながら、どうやら舞子も怪我などはないようだった。
立ち上がった京一が、呆然と前方を見ている。
「一応全員無事みてぇだな。……ところでよ、ここは一体どこなんだ?」
「砂漠……みたいだね」
「砂漠って、墨田区のどこに砂漠があんだよ」
「じゃあ京一はこれが何に見えるのさ」
京一と小蒔の掛け合いはどこであろうと繰り広げられるものらしかったが、
今はそれが龍麻を落ち着かせた。
「これが……国……?」
罠にかかる直前に亜里沙が言っていた事を思い出した龍麻は、戸惑ったように呟く。
目の前に広がる砂の海は、単に人気が無いという以上に乾いていた。
砂丘や起伏がある訳でもない、ただ平坦な──あまりに平坦な光景がそう思わせるのかも知れない。
しかし、見ているだけで気が滅入り、何か絶望的な印象さえ受けてしまうのは、
ここが普通の世界では無いからなのだろうか。
我知らず、乾いた唇を軽く舐める龍麻の耳に、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「うふふッ、その通りよ。目が覚めたようね。ようこそあたしたちの国──夢の世界へ」
後ろから聞こえてきたその声に振り返ると、そこには一組の男女と、何故か公園があった。
一組の男女が亜里沙と麗司と言う少年なのは間違いない。
しかし、公園というのは一体なんなのだろうか。
まだはっきりとは解らないが、もし夢の世界というものがあって、それが自分が望んだ世界であるのなら、
麗司という人物の理想はこんな乾いた世界なのだろうか。
奇妙に輝いているジャングルジムやブランコを見て、龍麻はなぜか突然恐怖を覚えた。
彼の、彼だけの遊具。
麗司は背丈は低く、体つきも小さいものの、制服を着ているところからして、
少なくとも中学生以上なのだろう。
そんな歳の彼が執着するのが子供向けの遊具であることに、薄ら寒さを覚えたのだ。
「夢の世界? そんな……だって皆と話も出来るし、意識もハッキリしてるじゃないかッ」
「ふふふッ、夢とは、現世の出来事にも似た儚(ばのこと」
つっかかる小蒔をあしらう亜里沙に、醍醐が得心のいった表情をした。
「それで俺達を眠らせる必要があったってことか」
「そうよ。あんた達が嗅いだのはただの催眠ガス。眠る以外に何の影響も無いわ。
ただし──そこから目覚めることはないでしょうけど。ねェ、麗司」
呼びかけに応えて、彼女の傍らにいた少年が前に進み出る。
最初からそこにいたにも関わらず、亜里沙に言われて始めてその存在に気付くような、
奇妙に薄い印象の少年だった。
「ボクはただ……誤解を解きたかっただけなんだ」
「誤解……?」
「ボクは亜里沙と同じ覚羅高校の3年、嵯峨野 麗司」
麗司と名乗った少年は、小声で話し始めた。
しかし、麗司は小声に加えて誰とも目を合わせようとしないので、
龍麻達は聞き取りに神経を集中させねばならない。
そしてその集中させた神経は、すぐに怒りに満たされることとなった。
「……ボクは葵を苦しめてなんかいない。ボクはボクなりに、葵を見守っているんだ」
「何が葵だッ! ふざけんじゃねェッ!! 美里はなァ、病院で死にかかってんだぞッ!!」
「葵が……死ぬ? くッ……くくく。葵は死んだりなんかしないよ。ボクと、このボクの王国で、
ずっと一緒に暮らすんだから。……ほら」
木刀を突きつける京一の啖呵は相当なものだったが、
頼りない──というより儚さを感じさせる麗司は歪んだ笑いを浮かべた。
蜃気楼のように浮かび上がる像。
やがてはっきりとした形を取ったそれは、十字架だった。
そしてそこには、生贄を思わせるように鎖で幾重にも縛りつけられた葵がいた。
素足に巻きついた鈍い光沢を放つ鎖は、ひどく場違いな淫靡さを醸しだしている。
葵は気を失っているようで、傾げられた頭が、不吉な予感を龍麻に与えた。
「あッ、葵ッ!」
「美里さん!」
今にも駆けださんばかりの小蒔に、慌てて醍醐が肩を抑える。
龍麻は京一に抑えられ、四人がわずかに揉めている間に、麗司は独白を始めていた。
その薄気味の悪さに、龍麻達の足が思わず止まる。
「あの日──あいつらは、ボクに犬の格好をさせてずっとゲラゲラ笑ってた。
犬なら喜んで舐めるはずだって、あいつらの靴をボクの顔に押しつけてきたんだ。
──でも。でも、もう死んでるって思えば、ボクはなんだって我慢できた。
……いつもと同じ帰り道、ボロボロになったボクは、道端で、まるで石ころのように倒れていた。
いつもの街並み、いつもの日常。……でも、あの日は違った。
そっと額に当てられた手。透きとおるような優しい声。今まで、誰もボクを見向きもしなかったのに、
そんなボクに葵は優しく笑いかけてくれた。制服の汚れを拭いて、殴られた顔を冷やしてくれた。
あの日からボクは、生まれ変わったんだ。あの日からボクは、本当に生き始めたんだ。
……葵がいなければ、ボクはもう生きられない」
この少年が葵とどのように知り合ったのか、その事情の一端が明らかになったのだが、
だからと言って納得など出来るはずもない。
いかに理由があるにせよ、人を磔にするような輩を許す訳にはいかなかった。
そんな龍麻の気持ちを代弁してくれたのは小蒔だった。
短い髪を激しく揺らし、親友を救おうと感情を迸(らせる。
「だからって、そんなの……。だいたい、葵の気持ちはどうなるんだよッ」
「葵を護るのは君たちじゃない。これからはこのボクなんだ。そのことを葵にもわかってもらわないとね」
「そんなの……間違ってるよ。葵の優しい心を踏みにじって……」
そんな小蒔を亜里沙は容赦無く笑い飛ばした。
言葉そのものが棘と化しているような口調だった。
「こいつは傑作だねッ。ぬるま湯に浸かった嬢ちゃんがキレイ事を言ってさ」
「キレイ事なんかじゃないッ!」
「それじゃあ、踏みにじられた麗司の心はどうなるんだい?
苛めなんてやる方もやられる方も悪い、なんて言う奴もいるけど、それは苛められた事の無い奴か、
力の強い奴が言うセリフさ。苛めた奴のどこかに一生消えない傷が残るってのかい?
苛められた方には一生消えない魂(の傷を背負って生きてかなきゃならないんだよッ。
……そうじゃなきゃ、弘司だって──!」
「それと美里さんとどう関係があるんだ。お前らのやっていることは、
お前らの言う力の強い奴らがすることとどう違うって言うんだ!」
たまりかねた龍麻が激昂する。
しかし、小蒔に続いて感情を露にする龍麻を、麗司はどこか焦点の定まっていない瞳で見やる。
おもちゃで遊んでいた幼児が、突然そのおもちゃを放り出してしまうような、投げやりな感じだった。
「いいんだよ、別になんだって……葵さえ、ボクのそばにいてくれれば。
どうせ君達はこの世界ではボクに敵わない。
どうだい? 葵をボクに譲ってくれるなら、君達は無事に帰してあげてもいいよ」
「ふざけるなよ」
もう、何を言っても無駄だと思った。
彼の境遇に同情はしても、その歪んだ心は到底許せない。
相手は明らかに武術も──それどころか喧嘩すらしたことがないようだったが、
龍麻に容赦する気はなかった。
「弱い犬ほど、良く吠えるんだ。そんな顔したってボクはもう、怖くない。
ボクは……生まれ変わったんだッ。ねぇ亜里沙、あいつら、やっちゃっていいよね?
ボクを苛めたあいつらのように」
「もちろんよ、麗司。所詮、力のない者は、力のある者に屈する運命なの。
見返してやりなさい、あなたを虫ケラのように扱った、薄汚い人間達を──!!」
高らかに宣告した亜里沙が腰にぶら下げていた鞭を外し、大きく一振りする。
次の瞬間、彼女の数メートル先の地面が砂埃を舞い上げた。
どこで覚えたかは知らないが、彼女は相当に鞭の扱いに長けているようだった。
「精神が強力なダメージを受ければ、肉体もまたダメージを受ける。
君達も、ボクが受けた痛みを知ればいいんだ。……さぁおいで、ボクの仲間たち。
ゲームをはじめよう……」
麗司の周りに、悪しき氣が集まり、形を取りはじめる。
輪郭のぼやけた人型は、麗司の心を象徴しているかのようだった。
氣を練り、身構えようとした龍麻は異変に気付く。
「なんだこりゃ、身体が動かねェ……ッ」
隣で京一が叫んだように、身体が見えない力に縛られていた。
「ここはボクの王国。ボクが思い通りに出来る世界。
現実(では強いのか知らないけど、こっちじゃボクには誰も勝てない」
不気味な笑みを湛えた麗司は、何かを思い出したような顔をした。
「……あぁ、そうだ。葵にも、ボクの方が葵を護るのにふさわしいって知ってもらわないと」
生気に乏しい顔にわずかに赤みをさした麗司が後ろを向くと、括られていた葵が目を覚ました。
「……私……ここは…………小蒔……緋勇君……それに、みんなも……」
磔にされた十字架の上で目覚めた葵は、咄嗟には状況が把握出来ない。
しかし、ぼやけた視界に仲間達の姿を捉えた時、全てを理解した。
素肌に鎖が食い込むのも構わず、身を乗り出して叫ぶ。
「お願い、助けて……!」
「あったりまえだよッ! 待ってて、葵ッ!」
小蒔は答えたものの、身体が動くようになった訳ではない。
苦しんでいる親友を目の前にして何も出来ない悔しさに、歯を折りそうなほどに噛み締めるしかなかった。
龍麻も氣を練ってはみるが、チャクラに氣を巡らせることが全く出来ない。
そんな無駄な努力を憐れむように、亜里沙が前に立った。
「緋勇龍麻……麗司はいやにあんたの事を警戒してた。
けど、こうなっちまったら同じだねぇ。せめて、あたしの手でイカせてあげるよ」
亜里沙が右腕を振り上げる。
その腕の動きだけなら充分に目で追えたが、振り下ろされた鞭の先端は全く捉えることが出来なかった。
空気を切り裂く音と共に、痛みが胸を撃つ。
身体を斜めに走った灼熱感は、たちまち痛覚を満たした。
「うッ……!」
「緋勇くん!」
激痛は目も眩むほどだったが、不可思議な力で縛られている身体が悶えることは無い。
苦悶の喘ぎを半分ほどでなんとか噛み殺した龍麻は、
葵の悲鳴を聞いて、醜態を晒さずに済んだ、と妙な所で安心していた。
しかし、痛みが全て引く前に、今度は身体を逆方向に鞭が走る。
「ぐ、ぅ……ッ」
「緋勇ッ!」
たとえ身体が動いたとしても、仲間達の声に答えることは出来なかっただろう。
生物のようにしなる鞭はそれほどに龍麻から戦闘能力を奪っていた。
それでもなお己の矜持を総動員して耐える龍麻に、亜里沙は感心したように笑う。
しかしそれも刹那のことで、すぐに鞭を構えなおし、殊更に高く振り上げた。
「あんた、本当に結構イイ男だったけど、残念ね」
亜里沙の背後にいた葵の姿が、右腕が掲げられたことで視界から消える。
それはもちろん錯覚に過ぎないのだが、龍麻はこの時、葵の存在自体が消失したように感じた。
「うおぉォッ!!」
美しい黒髪を持つ隣の席の少女のことを想った時、龍麻は吼えていた。
全身を声帯にしたような、魂の咆哮。
その荒々しい雄叫びに気圧されるように、縛めが解けた。
一気に前に飛び出して転びそうになりながら、
小蒔に襲いかかる寸前だった悪霊に渾身の一撃を撃ち込む。
音も無く消え去った悪霊を見て、驚いたのは夢の世界の王を名乗る少年だった。
「なんで……動けるんだよ」
龍麻にきっと睨まれ、怯えが増大する。
麗司が怯えたことにより、他の仲間の呪縛も解けた。
「京一ッ、皆を頼むッ!」
叫んだ龍麻は亜里沙の横を擦り抜け、後ろを省みることなく麗司の下へと走った。
「麗司ッ!」
危険を悟った亜里沙が、龍麻を背後から狙う。
がら空きの背中は外しようのない大きな的だったが、振り上げた手が下ろされることは無かった。
「あうッ……!」
「ヘッ、女に手を上げるのは趣味じゃねぇが、ま、このくらいはさせて貰わねぇとな」
崩れ落ちる亜里沙の背後で、首筋に当て身を食らわせた京一が呟く。
彼女が龍麻に集中していた為に木刀を使わずに済んだのは、幸いというべきだった。
物騒な武器を拾いあげ、京一は後ろを向く。
小蒔は既に醍醐に庇われ、危険はなさそうだ。
安心しかけた京一だったが、その場にしゃがみこんでしまっている舞子に気付くと、
心臓が飛び出す思いで彼女の許へと走った。
上から覆い尽くそうとしている悪霊を、横薙ぎに切り払う。
舞子にかすり傷でもつけた日にはたか子の恐ろしいおしおきが待っている。
それだけは何があっても回避せねばならない京一は、文字通り必死になった。
「大丈夫かッ!」
「……」
心の底から心配する京一を、舞子はやや厚めの下唇に指を当ててぽかんと見つめている。
しかし、どこかやられたのかと青ざめる京一が一歩近づくと、いきなり抱きついてきた。
「ありがと〜ッ!! 京一くん〜、強いのね〜」
「おっ、おい」
バランスを崩しそうになりながらも柔らかな膨らみが思いきり押しつけられて、
京一はにやけるのを抑えることが出来ない。
全く、幽霊がどうのと言わなければ、彼女はプロポーション抜群の看護婦なのだ。
鼻の下を限界まで伸ばして舞子のバストの大きさを推測する京一に、指向性の罵声が飛んできた。
「何やってんのさ、このバカ京一ッ!」
「ちッ、ッたくうるせーな。おい、ちょっと離れろ」
「はァ〜い」
胸の大きさでひがんでいるのか──さすがにその台詞は飲み込んで、京一は木刀を握り直す。
そして舞子が離れた瞬間、大きく、宙に旋を描くように得物を振るった。
舞子の髪が巻き上がり、近寄ってきていた悪霊が数体、まとめて消滅する。
「すッごーい!」
「へへッ、まぁな」
木刀を降ろした京一は、自分達の周りに悪霊がいなくなったことを確かめると、
勝負の決着を見届けるために龍麻の方へと視線を向けたのだった。
術を解かれた麗司は、全く無防備だった。
龍麻の突進に逃げるどころか構えようともせず、ただ立ち尽くしているだけだ。
撃ちこむ寸前で手加減を加えた一撃だったが、それでも麗司を昏倒させるには強すぎるくらいだった。
身体を折り曲げて悶絶した麗司は、そのまま地面に手を着き、胃液を吐き出す。
もう彼に戦闘能力は無いと判断した龍麻は、いつでも相手に即応出来るようにしつつ半歩下がった。
しかし、麗司はもはや龍麻を見ておらず、地面を亡羊と見つめているだけだ。
葵にした仕打ちを考えれば当然の報いであるとしても、やはり後味の悪さは拭えず、
龍麻は困惑しながら葵を助けようと歩き出した。
「どうして……ここは、ボクの世界なのに……
やっぱり、ダメなんだ、ボクなんか……生きていても……」
その負の響きに満ちた慟哭は、世界の崩壊を告げるものだった。
俄かに地面が揺れだし、龍麻の目の前で葵の姿が薄れていく。
「美里さんッ!」
「緋勇くん……」
葵の声は最後はほとんど聞き取れなかった。
砂塵に埋もれてたちまち見えなくなった葵に、龍麻の顔はこれ以上ないほど青ざめた。
あの葵は精神体にすぎないと解っていても、
縛りつけられている鎖から彼女を解き放つことには何らかの意味があると思われたのだが、
こうなったら現実世界での彼女が回復しているように祈るしかなかった。
そして、危険は龍麻自身にも迫りつつあった。
「なッ、なんだ!?」
「崩れる……?」
揺れは刻一刻と大きさを増し、立っているのも難しいほどになっていた。
倒れないようにバランスを保つのがやっとの中、亜里沙が叫ぶ。
「ダメ……麗司、止めてッ!!」
「いいんだよ、亜里沙……ボクはもう、疲れたんだ……生きることに」
「待って、そんなこと言わないで! 生きて……生きて、あんたを苛めたやつらを見返してやるのッ!
そのための『力』じゃない、自信を持って!」
麗司を励ます亜里沙の声は、ついさっきまでの彼女からは想像も出来ない、
優しさと哀しみに満ちていて、まるで弟を励ます姉のようだった。
「生きるのに疲れたなんて……そんな──あの子みたいなこと、言わないで……」
しかし、そんな亜里沙の必死の呼びかけにも麗司は答えることなく、黙って立っている。
これだけの揺れの中で彼だけが全く揺れていなかったのが、やがて、その輪郭がぼやけ始めた。
「見て、身体が……消えてく……」
葵と同じように姿を薄めていく麗司は、遂に完全に消えてしまった。
呆然と彼がいた場所を見つめる一行だったが、いなくなってしまった彼の背後に広がっていた砂漠に、
小さな染みのような黒い点を見つけた。
「なに、あれ……?」
小蒔が呟く間にもその点は大きくなっている。
一度線となったそれはたちまち面となり、空間となって砂漠を呑み込みはじめた。
王を失った王国に、存在する理由はない。
既に三分の一ほどが黒に塗り替えられた麗司の精神世界は、
その勢いを止めることなく、現実に近い記憶から徐々に虚無へと還っていく。
龍麻達がいる、彼の唯一幸せだった頃の記憶の部分も、失われてしまうのは時間の問題だった。
「ねぇ、砂漠が崩れてくよッ! 早くここから出ないと──」
「出るったってここは夢の中なんだろッ!? どうやって出るんだよ」
「だって、このままじゃ……ボクたち、どうなっちゃうのさ。
どうやったら、この悪夢から醒めることが──」
「しッ! 何か、聞こえないか」
醍醐に言われて京一と小蒔は口を閉ざす。
聞こえてきたのは、犬の声だった。
二人とも全く訳がわからずに顔を見合わせる。
唯一人鳴き声に反応したのは、亜里沙だった。
「エル……?」
亜里沙が名前を呼びかけると、嬉しそうな鳴き声が帰ってくる。
「そうなのねッ! エルよ、あたしの犬よッ」
「あたしの犬……って、どっから鳴いて──現実の世界(からか!?」
「うわ、なんか、身体が……浮き上がって──」
意識の中に白い光が流れ込んできて、心地よい飛翔感が龍麻を包む。
身を任せ、上昇して──更に輝く光の中に、吸い込まれた。
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