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「ぅ…………ん……」
龍麻は全体重を預けてきて少し苦しかったが、それ以上に喜びが雛乃の身体を駆け巡っていた。
その喜びを逃すまいと、広い背中に両腕を回す。
龍麻は雛乃がそうするのを待ってから、下腹が猛りはじめるのを雛乃にも伝え、
組み敷いた女体が身を固くするのに牡の興奮を感じた。
「また……この前みたいなの、してもいい?」
下品に腰を押し付けながら、欲望も露にそう告げる龍麻に、
雛乃の脳裏にこの間の出来事が甦る。
龍麻の前で晒した、あられもない痴態。
あまりに恥ずかしくて封印してしまっているのか、
その時の記憶はもやがかかったように断片的にしか思い出せないが、
それでも、味わった快楽ははっきりと脳に刻み込まれてしまっていた。
「…………はい」
小さな、しかしはっきりとした雛乃の返事に龍麻はすぐに黒布を取りだし、
痛くないよう慎重に目を覆う。
再び閉ざされる視界。
胸の鼓動が早くなったのは、怖れか、それとも違う何かなのかは判らない。
雛乃が膝の前に拳を置いてその時が始まるのを待っていると、手首に何かが触れた。
「あ、の……?」
不安に駆られて問うてみても、龍麻は無言のまま何事かをしている。
龍麻の手が離れた時、ようやく何をしていたのかが判った。
手首のところで、両手が結び付けられている。
何事かと雛乃が尋ねる前に手の甲に軽くキスを放った龍麻は、手を取って頭上に掲げさせると、
布をもうひとつ使ってベッドの端に結びつけた。
動きを封じられてしまった雛乃は、怒りよりも、やや呆然と自分の置かれた状況を受け入れていた。
縛り方は緩かったから痛くはない。
それよりも、胸を突き出すような格好を取らされているのが恥ずかしかった。
更に上体が引っ張られているために、足を前に伸ばさないとバランスが取れないのだが、
躾の良い雛乃はそれも恥ずかしく、少し身体に無理をさせて足を折らざるをえない。
苦労して姿勢を選んでいると、龍麻が耳元で囁いてきた。
「……これで、俺が解かないと、帰れなくなっちゃったね」
「は、い……」
「帰りたい?」
「い……いえ……」
狡知に長けた問い。
帰りたい訳ではない。
だからと言って、こんな、巫女装束を着せられ、目隠しをされ、自由まで奪われたい訳もない。
もっと普通に語らい、愛しあいたいだけ。
それは、大それた望みなのだろうか。
そう──それは、手の届かない望み。
何故なら雛乃はもう、それを一番に望んではいなかったから。
龍麻の指が顎をつまみ、優しく上向かせる。
たったそれだけでもう心臓が言うことを聞かなくなってしまう。
こっそりと唇を湿らせると、それまでの仕打ちを詫びるような甘いキスが訪れた。
軽く唇を合わせた後、上唇をほんの少しだけついばむ。
下唇も同じようにやんわりと吸い、それから雨のようにあちこちにキスを浴びせてくる。
息つく暇も無い攻勢に口が痺れ、心が溶かされていく。
「ふ、ぅ……っ」
少しずつ、身体が傾いていく。
丁寧に揃えていた足もいつのまにか乱れ、
龍麻の身体と合わせてひとつのバランスを取ろうと位置を変えていた。

一通りのキスを終えた龍麻は唇を触れさせずに、舌だけでつついてくる。
雛乃も、それが誘っているのだと判るくらいには経験を重ねていた。
ただ、それを断るまでには、まだ駆け引きを学んではいない。
ぞくりと背筋が震え、そっと舌を伸ばす。
口の外で軽く触れた龍麻の舌は、温かく、気持ち良い。
「ふっ、むっ、んっ……うぅっ」
犬のように息を吐き出しながら夢中でねぶっていると、龍麻の唇が褒めるように咥えこんできた。
「ふむぅ……んっ……」
龍麻の口の中で、舌を舐められる。
舌を引っ張られる苦しさよりも、ぬめった舌が撫でてくれる悦楽が勝り、
雛乃はもっと咥えてもらおうと舌を突き出した。
その先端に、生温かい液体が触れる。
雛乃の舌を咥えたまま巧みに唾液を溜めた龍麻が落としたのだ。
まとわりついた唾液は、更に舌を伝って口唇を濡らす。
くすぐったさに鼻息が漏れ、小さく身をよじると、龍麻が一度舌を離し、唾を掬い取ってくれた。
どこか勿体無いと思いながら、再び戻ってきた舌に愛を囁く。
そのさなか、いきなり耳朶に指が触れてきた。
うぶ毛だけをくすぐる指先に、思わず舌を縮めてしまう。
それを龍麻は無理に追いかけず、歯列から陥落させようと舌を這わせた。
「んぅ! ……む……」
歯を舐められるのが雛乃は苦手だった。
舌を絡めている時の夢心地が、醒めてしまうから。
そして、恐ろしいほどの快感に我を忘れてしまいそうになるから。
強張った身体を、龍麻の腕が抱きとめる。
たくましい腕に全体重を預けた雛乃は、存分に幸福を味わうことにした。

表も裏も、歯磨きをするよりも丁寧に舐め尽くした龍麻の舌が離れたとき、
雛乃は半ば意識を失っていた。
ぐったりと呆け、唇を軽く開きながら、それでも、雛乃が持つ清純さはいささかも失われていない。
「もっと……してもいい?」
そしてそれゆえに、綺麗な物を汚したいという、男の持つ救いがたい性に囚われた龍麻は、
頤を伝う唾液を指でなぞりあげて囁いた。
龍麻の誘惑を断る術は、雛乃にはもうない。
小さく頷くと、すぐさま唇が触れた。
再び始まる、甘い、至福の時。
キスで情が昂ぶったのか、龍麻が前髪をかきあげてくれる。
そのまま顔のそこかしこを撫でまわす手の感触を追っていると、
やがてその動きは耳のところで止まった。
音が、閉ざされる。
「……! っ! ぁ、ぁ……ぅ、んぅっ……!」
それが雛乃にもたらした効果は凄まじいものだった。
口の中で立てる舌の絡みあう淫音が幾重にも反響して脳を叩き、理性の全てが支配される。
その淫らな音の波は更に身体全体へと染みわたり、留めきれなくなった身体が愉悦に震えた。
腰が疼くのを感じた雛乃は、それに衝き動かされるまま龍麻の舌を吸い上げ、夢中で貪り始めた。
「っ……」
攻めていた龍麻の動きが止まる。
龍麻は初めて雛乃の方から求めてきたことに、驚き、感動すらしていた。
耳を塞いだだけで、貞淑な姫巫女からこれほどまでに羞恥を奪えるとは思っていなかったのだ。
舌を突き出し、淫猥な音をわざと立てるように絡めてくる雛乃に、
これまでに無かった快感が身体を駆け巡る。
焚きつけられた欲望はたちまち燎原の大火となり、龍麻はその炎で雛乃をも燃やしてやろうと思った。



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