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「……ぁ……」
本当にただ撫でるだけ、どんな力も加えない愛撫に、紗夜はただ耐えるしかない。
形を再認識させられる単調な縦の動きに、噛んでいたはずの唇から疼きが漏れる。
足を動かしたい。
膝を閉じ、さやかの手にもっと強く触られたい。
しかし紗夜に許されるのは、顔を傾けて吐息をこらすだけ。
爪で軽く引掻く。
甲でひそやかに撫で上げる。
腹でそっと窪みを押しこむ。
さやかは指の全てを使って、紗夜の感覚を官能だけに絞りこんでいく。
それでも、決定的な刺激は与えない。
身体を知り尽くしたさやかの動きに、満たされない辛さだけが高まっていき、
それは、次第に紗夜の意識を朦朧とさせていった。
「紗夜ちゃん、出ようか」
しかし、突然入ってきたさやかの声に、紗夜は現実に引き戻されてしまった。
言葉の意味を吟味する前に、ずっと握られていた腕を取られて立たされる。
スクリーンではまだ映画が続いていたが、彼女達よりも後ろに座っている客はいないために、
出ていっても気付かれることは無かった。
傍目から見たら調子が悪そうにも見える紗夜を支えるようにしてさやかは化粧室に向かう。
個室に紗夜を連れこみ、座らせてキスをすると、紗夜の方からしがみついてきた。
その唇は切なさに濡れ、吐息は想いにあふれていて、満足したさやかは、
肘を掴む紗夜の汗ばんだ手をそのままに、さっきまで触っていた場所へ指を伸ばす。
「やっぱり……下着、濡れちゃってるね」
「だって……だって」
「ね……見せて」
耳に注ぎこまれる甘美な言霊に、紗夜はおずおずとスカートを掴む。
館内と同じ格好は、しかし、はっきりと異なっている部分があった。
さやかがなぞり続けた部分が小さな溝を作り、しっとりと湿っている。
そして、こうして見ている間にも、その染みは目に見えて大きくなっていた。
足の間に身体を割りこませたさやかは、かがみこんでその場所を正面に捉える。
狭い空間に無理にかがみ込んだ為に、紗夜が嫌がる距離の更に内側にまで顔を近づけられた。
「や……さやか……ちゃん……」
不格好に開かれた足を抑えつけ、濡れている中心に指をあてがう。
充分な柔らかさで応えたそこは、温かく沈みこんでさやかを迎え入れた。
「くっ…………ん……」
人が居ないという安堵が、紗夜の口から喘ぎを漏らさせる。
か細く、けれど身震いするほどそそるその声をもっと聞きたくて、さやかは腹に溜めた息を吐きかけた。
「ひゃっ! ……や……」
跳ねあがった足が、扉を蹴とばす。
その音に驚いたのは、さやかよりも紗夜自身だった。
「もう」
「あ、の……ごめん……ね」
「いいよ……そのかわり、お尻……浮かせて」
断る方法の無い、狡猾な取引。
紗夜が言われた通りにすると、この場を支配している少女は一気に膝下まで下着をおろしてしまった。
片足ずつ抜き取った、今はもうただの水分の塊を、うやうやしく広げる。
「やっ……恥ずかしい……よ……」
「こんなになって……もう、履けないね」
何気ない宣告に紗夜の顔が瞬時に青ざめた。
無邪気に微笑むさやかの瞳には、紗夜を惹きつけて止まない輝きが煌いている。
初めて逢った時から宿っていた、夢幻の彩を帯びた輝き。
笑顔が支配を告げているなら、瞳が告げているものは、想い。
そして、そのどちらもが、紗夜の求めるものだった。
「さやかちゃん……わたし」
「どうしようか。このままお買い物する? それとも……今日はもう、わたしの家に行く?」
今紗夜の欲しているのは、そのどちらでも無かった。
もう二時間近くも焦がされて、おかしくなりそうなのだ。
ここでならさやかが──してくれる、と思っていた紗夜は、
押し寄せる本能が苛立ちとなっていくのを抑えねばならなかった。
「どうしたの?」
「……ううん、なんでも……ないよ。さやかちゃんの……うち……行こう」
急いて立ちあがろうとする紗夜を、さやかが押し留める。
「待って。拭いてからじゃないと……汚れちゃうよ」
正論に反論出来ず、紗夜は再び、自分の体温で温かくなった陶器に腰を下ろすしかない。
紙の感触が、敏感な場所を往復する。
もしかしたら、指が滑って──
そんなふしだらなことを紗夜は考えていたが、
さやかの手は、天使にも不可能なほどその役目だけを果たして彼女の許を去ってしまった。
「はい、終わったよ」
腕を掴まれて、立たされる。
相変わらず足に力は全く入らなかったが、刺激を受けなければ、
なんとかこれ以上恥ずかしいことにはならずに歩くことは出来そうだった。
ところが。
「待って」
ほとんど抱き合うように立っているさやかが、掴んでいる手を自分のスカートの中へと導く。
そこは、紗夜と同じように濡れていた。
「わたし……も……ね?」
吐息にかろうじて声を乗せ、耳元で囁いたさやかは今まで紗夜がいた場所に座り、膝をわずかに開く。
機械仕掛けの人形のようにその間にかがみ込んだ紗夜は、
もう新しい滴が内腿を伝いだすのを、陶然と受け入れていた。

タクシーが走り去るのを、二人は見ていなかった。
乗っている間中ずっと我慢していた手を固く握りながら、ゆっくりとマンションの入り口へと向かう。
二人とも足取りは全く定まっておらず、特に紗夜は、もう今にも倒れてしまいそうなほどだった。
震える手でオートロックを外し、エレベーターを呼ぶ。
先に乗りこんだ紗夜が振り向いた瞬間、さやかがほとんど体当たりで壁に押しつけてきた。
壁と挟み込むようにキスをしながら、何も履いていない下腹に指を踊りこませてくる。
「いや、さやか……ちゃん……だめ……だよ……」
まだ閉まってもいない扉に気付いた紗夜はボタンに手を伸ばすが、
その手もさやかに抑えつけられてしまった。
「ここで一回……いかせてあげる」
そう、低く、冷たい声で囁いたさやかは奥深くまで指を埋め、
もう滴るほど潤っている紗夜の中を、ゆるくかきまぜる。
「だ、め……あっ……さや、か……ちゃん……」
映画館から、ずっと求めて与えられなかった感覚に、紗夜はあっけなく負けてしまった。
腰と膝から力が抜け、ずるずると滑り落ちていくところを、
手首と、身体の中心だけで支えられている。
そこにある熱さは、枷。
それまでの鬱憤を晴らすように激しく動く指は、いつしか二本に増え、体の中を掻き回していた。
「ひっ……っく、あ、さや……か……ちゃ……」
「凄いね……こんなになって……」
さやかはその言葉を裏付けるように、音を立ててそこが今どうなっているのかを紗夜に伝えた。
閉ざされた空間は小さなはずのその音を幾重にも増幅させ、
それを伴奏にしたさやかの囁きとでひとつの歌となって紗夜へと贈られる。
「わたしの手まで……びしょびしょになっちゃってるよ」
「だっ……て……あっ、ん……ゃ……っ!」
なお何か言おうとする紗夜の体内で、指が曲がった。
お腹ごとねじ曲げられてしまったのではないかという強烈な刺激が、
もうほとんど余裕の無かった紗夜を連れ去る。
「あ…………っくぅ……っ!」
もう一度、今度は手首まで埋めてしまうかのような強さで。
逃れるように壁に背中を押し付け、そこから落ちていく。
崩れ落ちそうになるのを必死にさやかにしがみついたところで、紗夜の記憶は小さく途切れた。



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