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「あ、おい……っ……!」
 祈りを捧げるようにひざまづき、奉仕する葵に、龍麻は抗えなかった。
抗えるはずがない。
心を奪われ、あらゆる感情を委ねて悔いのない相手が、ただひたすらに龍麻を悦ばせようと、
彼女にとって最も危険といえる場所で行為に及んでいるのだ。
絶対的な道徳規範を持つ守護天使が諫めに現れたとしても、悔い改めなどしなかっただろう。
 いきり立つ怒張を前にしても葵は怯むどころか、白く細い指を血管の浮き立つ
黒々とした男性器官に巻きつけ、桃色の舌先で舐めあげる。
舌の動きは緩慢だが、ぎこちないのではなく、むしろ舐め残しのないよう丁寧に舐めているようだ。
「うッ、く……!」
 いきなり頭で爆ぜるのではなく、背筋をじわじわと昇ってくる快感が龍麻を虜にする。
呼吸のためにときおり舌が離れるのさえ我慢できなくなり、葵の頭に手を置いた。
乱暴に屹立全体を快感に塗れさせたいのをかろうじてこらえ、指先にのみ力を与えて催促する。
 龍麻の自制を知ってか知らずか、葵の舌は動きを速めたりはしない。
少しだけ頭を寄せたものの、こんな場所で行為に及んでいるというのに、
手早く済ませてしまおうなどとは微塵も思っていないような、時間をたっぷりとかけた奉仕を続けるのだ。
脈打つ肉柱の血流をなぞり、先端に位置する、
いずれ噴出するであろう白き液体の吐水口を舌先でくすぐる。
「う……あ……!」
 苦痛すれすれの快楽に引ける、龍麻の腰をすぐには追いかけず、
戻ってくるまで待ってから再び舐める。
根元から先端へと辿った道筋を、今度は反対側の側面から、逆に下ろしていった。
 落ちついた雰囲気の美少女とは思えない、右に左に妖しく、艶めかしくくねる舌に、龍麻は翻弄される。
過敏な刺激に腰を引き、物足りない愛撫に屹立を突きだす。
姿は滑稽ながら、当人は至って真剣なのだが、欲望が満たされることはなかった。
葵は緩く張られた綱の上を目隠しで渡るような、絶妙な緩急を駆使し、
龍麻の欲望の三歩ほど手前でぴたりと刺激を止めてしまうのだ。
はじめのうちは愉しんでいた龍麻も、四度、五度と繰り返されるうち、焦れて我慢ができなくなっていた。
「なあ……もういいだろ、咥えてくれよ」
 苛立ち混じりの声を、葵はどう聞いたのか龍麻には分からない。
だが、この時この場に限れば、彼女は聖女などではなく、男を手玉に取る悪女にしか見えなかった。
彼女の方からセックスを求めてきたのも驚きだが、つぼというより人中必殺の急所を押さえた淫技は、
それなりに理性の厚い壁に覆われていた龍麻の欲望を剥きだしにし、獣に変じさせようとまでしている。
しかも、そこまでしておいてなお最後の薄皮は残し、主導権は渡さずにいるのだ。
 静まりかえった教室に、荒い息だけが響く。
奇妙な均衡の刻は、ほどなく破られた。
「くぅッ……!」
 満を持して咥えられたペニスに、龍麻は思わず声を出してしまっていた。
教室の冷えた空気に当てられていた屹立が、熱い口腔の中に収まる愉楽。
全校生徒憧れの美少女が、唇を尖らせて男の一物を頬張る姿に、
征服欲を満たされない男などいるはずもない。
ほとんど何も見えなくなりつつある夕暮にあって、龍麻の眼差しは葵の顔に注がれる。
 もちろん、いくら龍麻が異能の力を持っていても、闇に透かして葵の表情を見ることなどできない。
しかし、最も鋭敏な器官で感じる呼気と、大腿に添えられた身体を支える右手、
それに淫らがましく肉柱の根元を握る左手から、彼女を窺うことはできるのだった。
「うっ……ふぅ……」
 彼女の口には少し余る大きさなのだろうか、鼻から息漏れが聞こえる。
それでも、葵は口中に収めたものを吐きだそうとはせず、舌を使ってゆっくりと呑んでいくのだ。
「んふぅ、んふっ……」
 鼻息が一際大きくなったとき、屹立はそのほとんどが埋没していた。
それだけで龍麻は狂おしいほどの快感に苛まれるが、葵の奉仕はまだ始まったばかりだ。
 舌が肉柱の下半分を舐めまわす。
どこまでも柔らかく、粘りけを伴った塊が、波のように淫竿を揺らす。
「ん……ん、んんっ」
 苦しげな声は龍麻の征服欲を満たし、熱気と舌の感触は直接的な快感をもたらす。
ほんのわずか教室の隅に残る、最後の紫にも気づかずに没頭させるほど、葵の技巧は優れていた。
そこが排泄の器官であることも厭わぬ様子で、舌を這わせる。
口に余る大きさを咥えているため、端正な顔は滑稽ともいえるくらいに歪んでいたが、
葵には龍麻を悦ばせたいという一心しかないように見えた。
「う……うぅ……ん……っ……」
 甘い痺れが龍麻の腰を満たす。
大地をしっかりと掴み、そこに流れる氣を取りこむ技を習得するために鍛え上げられた足も、
今は何の役にも立たない。
足の間に備わる、長さ二十センチにも満たない器官が、
武術のみならず氣の扱いにも長けた男の全てだった。
 鋼さながらに固くなった怒張をほぐすように舌が優しくさする。
むろんそんなことで男の滾りが鎮まるはずなどなく、硬度はいっそう増していくばかりだ。
すると舌は、先の意図など忘れ、その硬さを称えるかのように、
指で触られているのではないかと疑ってしまうほど自在に蠢き、口中に収めた龍麻そのものを歓待した。
「んふ、う、うふう……ん……」
 卑猥な音がするのも厭わず、唾をすする。
ムースのように滑らかな頬が、端正な美少女の顔に似つかわしくなくへこむとき、
龍麻は背筋を走る快楽に身震いし、歯を食いしばるほかない。
「う、あ、葵……凄い……!」
 舌が、上顎が、頬が、あらゆる方向から襲いかかってきた。
猛る柱の根元から先端まで、鼻腔を膨らませ、顔を前後させてねぶりあげる奉仕に、
龍麻の限界は刻一刻と迫る。
葵が巧みに口の中に隙間を作り、たっぷりの唾液を塗られた肉柱を熱気が吹き抜けたとき、
そして、潤滑液がこそぎ取られ、舌のざらざらとした感触が強い刺激をもたらしたとき、
チューブの歯磨き粉が思いがけず多量に出てしまうときのように、龍麻は危うく射精しそうになった。
 ところが、煽りたてるだけたてておいて、葵は最後の一押しを与えなかった。
喉奥まで呑みこんでいたペニスを未練もなく口から出してしまう。
ほとんど全ての感覚が集約していた場所から、一切の快感が消失してたまらないのは龍麻で、
脈動する己自身を放り出したまま、狼狽寸前で葵に懇願した。
「あッ、葵……早く……っ……!」
「早く、何?」
 葵の囁きは龍麻に苛立たしささえ与える。
良く集中して聞けば、葵の声が愛欲に染まりきったものではないと気づけたかもしれないが、
すでに龍麻からそんな余裕は失われていた。
「意地悪しないでくれよ……!」
 十人以上の仲間を束ねて、東京を護る闘いに身を投じているにしては、
あまりに情けない態度にも、葵は立ちあがって微笑を浮かべたまま、自らのスカートに手を入れた。
 この日何度目のことだろうか、龍麻は息を呑んだ。
スカートの両端が視線を誘うように持ちあがる。
すでに周りは暗く、白い制服の輪郭がぼんやりと浮かぶだけだ。
そしてはっきりと見えないことが、かえって想像を刺激し、
龍麻は、初めて見る葵のストリップをまばたきもせずに見つめた。
確かパンストは腰の――へそのあたりまであるはずだ。
実際葵は深く手を入れている。
衣擦れの音がはじまり、彼女の手が少しずつスカートから出てきた。
白い肌が見える瞬間を見逃すまいと、龍麻は眼を限界まで開いて視線を一点に集中させる。
 ついにその時が訪れた。
スカートとパンストとの間に、色の異なる部分が現れる。
恥ずかしげに寄せられた両足は、一度も留まることなくその素肌を露わにしていき、
膝のところで初めて停止した。
軽くかがんだ姿勢の葵は、左足を持ちあげてパンストを抜き取っていく。
片足立ちでもよろめくこともなく、つま先に至るまでおろそかにせず、
ただ脱ぐというだけで芸術的なまでに優美な仕種になっていた。
 明るいところであれば、眼に焼きついたであろう光景は、まだ終わっていない。

片足を脱ぎ終えた葵が一度左足を床に着け、右足を上げようとした、極小の時間。
おそらくは葵も意識していない狭間の刻、龍麻の興奮は最高潮に達した。
片側だけにまとったパンティストッキングと、剥きだしになった素足。
その鮮烈なコントラストは、暗がりであっても浮かびあがり、龍麻を魅了した。
無造作に右足も脱いでいく葵を、引き留めようかと思ったくらいだった。
 パンストを脱ぎ終えた葵は、いよいよパンティに手をかける。
龍麻の視線は据えつけられたカメラのように、葵の下半身から一ミリも動かない。
ほとんど人の輪郭が見えるだけの暗がりで、集中すれば見えるとばかりに一点を凝視していた。
 再びスカートの両脇が持ちあがる。
すでに勃起し、前戯まで受けた状態なので、焦らされているわけだが気にならない。
頭が痛くなるほどの血流が全身を巡り、葵の下着が姿を現わすその瞬間を今かと待ち受けた。
 呼吸音さえしない、聖なる儀式のような世界で、葵のシルエットだけが動く。
パンストを脱いだときよりも心持ち高く足を上げ、スカートのぎりぎりのところまで下ろした下着を、
一気に抜き取る。
片足立ちになりながらも不安定なところはなく、龍麻は、余すところなく動作を観察することができた。
龍麻が履いているるものと同じ部位を隠すはずなのに、半分以下の大きさにしか見えないパンティは、
あるべき場所から離れた途端に一層小さくなり、ほとんど手品のように消失してしまう。
消える線香花火を見送るように、葵が下着をこの暗闇でどうやってかきちんとパンストと一緒に
畳んで置いたのを見届けた龍麻は、向き直った葵の囁きを、催眠術のように聞き入れた。
「机に……乗ってもいいかしら」
「あ、ああ」
 裸足で床に触れるのは気が引けるのだろうか。
どちらにしても、龍麻に拒むという選択肢はなかった。
そして、手近にあった机に葵が、しっとりと腰を下ろしたとき、
彼女の提案を否定しなくて良かったと心から思った。
 机に座るというのは行儀の良いことではない。
京一などは休み時間に龍麻のところに来るたびに机に座るし、
小蒔も時々はそうしているが、葵はそのような素振りさえ見せたことがない。
それは葵の品性からいって、当然に思われた。
それだけに、彼女が机に腰かけている姿は、背徳の様相が色濃く滲むのだ。
 机に座り、椅子に足を置いた葵は、龍麻とほぼ背が等しくなる。
龍麻の手に指を絡めて招くと、膝を開き、足の間に迎えいれた。
 それは必然ではある。
けれども裸ではない、制服姿の葵が足を開き、あまつさえ、
迎えた男を囲むように足首で輪を閉じるのは、龍麻の溶けた理性を爆発させるのに充分だった。
「葵……っ」
 うわずった喘ぎを放ち、葵の背中に腕を回した龍麻は、無我夢中で腰を押しつける。
今度は葵も逆らわず、腰を浮かせて彼の挿入を手伝った。
 すでにおびただしく濡れる入り口を、ペニスの先端が滑る。
肉が擦れあう感触に、たまらず龍麻は呻いた。
「あ……ぁっ、も……う……落ちついて……」
 葵もかすれた声で龍麻をなじる。
動揺と興奮、焦慮と羞恥に限界まで心臓を脈打たせたまま、龍麻は、
再び彼女の膣口に肉槍の先端を合わせた。
肉と肉が触れ、また滑りそうになるのを、落ちついて一呼吸待ってから挿入する。
そら恐ろしいほどの滑らかさで、屹立は葵の膣内へと挿っていった。



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