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「……っ……ふ……」
口を開き、舌を彼と出会うまでは考えられなかった動きでくねらせる。
唾液が混ざる音が腔内で響き、生温かい感覚が喉を濡らす。
次第に増してくる龍麻の重みを受けとめ、雛乃はキスに没頭していた。
どれほど交わしても喪われない快感。
どれほど繰り返しても尽きることのない情欲。
時々顔を動かす龍麻に合わせ、ひとつになる感覚を求め、自分から絡める。
何事につけ姉の後を陰のように従い、危険なことやしてはいけないことは
全て事前に丁寧に取り除かれてきた雛乃にとって、
ごく小さな舌の動きとはいえ禁忌を犯すというのは心震えるほどの愉悦だった。
今ではこれが禁忌などではないと知ってはいるが、
初めて龍麻に舌を吸われた時は気を失ってしまった雛乃だったから、
その後に促されて恐る恐る舌を動かし、龍麻に触れた時の衝撃は今でも鮮明に脳裏に残っている。
姉や家族は悪意を持ってこの手の知識から自分を遠ざけていたのではないか、
そう疑ってしまうほど、それは気持ちの良いことだった。
「ん……っ」
奥深くに入ってきた舌に、べったりと触れ合わせる。
指先を搦めるよりも何倍も快い感触に、芯まで雛乃は浸った。
幾度目のことか、龍麻の顔が離れる。
既に考えることもおぼつかなくなっていた雛乃の瞳には、ぼんやりとしか龍麻は映らない。
それでも固く結びついている手と、シーツ越しとはいえはっきりと感じる彼の猛りに、
雛乃は穏やかに、そして艶美に微笑んだ。
自然に開いた濡れた唇と、伏せた睫毛が情緒を醸す。
するともやの彼方から、愛おしい声が聞こえてきた。
「雛……」
それは単に、欲望が口走らせただけなのかもしれない。
あるいはただ自分が聞き取れなかったか、彼がはっきり言わなかっただけなのかも。
しかし雛乃は、姉以外に初めてそう呼ばれた瞬間達してしまった。
「っ……んっっ」
広がっていく気だるさと、消えていく理性の壁。
五感の全て、つま先から脳の奥底まで、彼に委ねよと命令が下される。
「龍麻、さん……わた……くしを……」
その先は言葉にならなかった。
言葉など必要なかった。
ためらいも、はじらいも必要としない。
ただ龍麻の傍に寄り添っていればよい。
だから。
だから雛乃は足を開き、彼の身体を迎えた。
龍麻が瞳を覗きこむ。
その中に踊る力強い輝きは、自分を見る時だけ深淵が垣間見える。
彼の奥底にあるのは、闇。
そして、自分の中にあるのも。
静かに、誘うように息を吸いこんだ雛乃は、憑かれたように唇を貪る龍麻を唯々として受け入れた。
暴風のように口内を掻きまわす舌に、自分のそれを絡める。
溜まるそばから唾液を掬われ、音を立てて吸われるのが、
爆発的な気持ちよさへと変わり、蜜が垂れるのを止めることが出来ない。
シーツはまだ纏ったままであったが、それがかえって焦らすような感覚をもたらし、
雛乃は太腿に意思を込め、龍麻の熱を傍に寄せるのだった。
組み敷いた身体から伝わる上下動は、少し激しくなっていた。
いつになく興奮している雛乃に驚いた龍麻だったが、すぐにそれを肯定的に捉え、
更なる深みへ彼女を連れていこうと決めた。
自分と彼女とを隔てていたシーツを奪い去り、細い足を押し広げる。
愛を交わす──挿入する為ではなく、淫らな愉しみを満たす為にそうしたのだ。
「は、ず……かしい……です……」
触れる前に溶けてしまいそうな淡い音色で懇願する雛乃を、龍麻は聞いていない。
上品に彼女を覆う薄墨と、それが護る肉襞に心奪われていたからだ。
既にはっきりと判るほど潤っている密やかな湖は、蜜を湛え、淵をわずかにひくつかせている。
それは一言で表すなら靜、となる彼女の躯にあって異質な趣であったが、
それ故に龍麻を惹きつけて離さない。
雛乃がたまらず細い指先で叢を隠したが、龍麻はそれをどかせようとはせず、
隙間から覗く光景をじっと見ていた。
これほどただれきった愛欲に塗れさせても、ひとひらの穢れさえ窺わせない生白い肢体。
少し離れて彼女の全身を眺めた龍麻は、それだけで恐ろしいほどの快感に苛まれる。
もし雛乃がいなくなったら──考えることさえ疎ましくはあるが、もしそんな事態が訪れたとしたら、
龍麻は一秒たりとも耐えられないだろう、と思うのだ。
それはいくらか強過ぎるものであったとしても愛と呼べるものであったが、
そこに肉体の快楽があることも否定は出来ない。
むしろ、身体の結びつきがこれほど強いからこそ、龍麻は雛乃の為に全てを捧げようと決めたのだった。
そしてそれは、きっと──いや、間違い無く雛乃もそうだろう。
もし彼女が本心から嫌がるそぶりを見せたら、
すぐにでも龍麻はこの、恐らく普通とは言えない情交を止める覚悟はあった。
しかしこれまでのところ、彼女にそう窺わせる態度は垣間見えてはいない。
彼女の心の全てが判る、などと自惚れるつもりもないが、事これに関する限りは確信できた。
だから龍麻は、飽くことなく彼女を抱く。
きっと魂が安らぎを求める、その日まで。
彼女の中心から視線を移した龍麻は、今度は彼女の端、踵に触れる。
足ですら、とは思わないが、彼女らしくはないとも言える、薄く皺の見える部分。
いささかの倒錯した欲望に動かされ、龍麻はそっと頬を擦りつけた。
「龍麻……さん……」
「何?」
「き……汚い……です……」
「……でも、俺のものだ」
「……!!」
「雛乃の身体は全部……髪の毛の一本だって俺のものだ。そうだろ?」
それは狂気にも似た独占の宣言だった。
普通の人間ならいくら愛情が深くとも拒むか、あるいは少なくとも嫌悪を抱くに充分な態度だ。
しかし、既に煉獄に身を堕とした雛乃には。
「っ!! そ、そう……そう……です……」
雛乃が肯定したのは、龍麻に恐怖で支配されているからではない。
彼女自身がそうありたいと願っているからに他ならないのだ。
その証拠に、龍麻の指が淫靡な動きで足の裏をまさぐり、そこから指先、
そして爪を侵食していくと、唐突に雛乃の全身が震えた。
ふくらはぎが、太腿が、腹が、乳房が、柔らかい肉が揺れる。
細胞のひとつひとつが燃え、雛乃の肌を薄朱に染めていた。
「今……イッたね」
龍麻の囁きに雛乃は小さく喉を鳴らし、羞恥を燃えあがらせる質問にたまらず顔を覆う。
だがもっとも見られたくない部分は足を掴まれている為に隠すことが出来ない。
気付いてくれないように、と願ってはみたものの、
とろりと染み出す淫らな滴に龍麻が気付かないとはとても思えない雛乃だった。
返事をしなかったからか、龍麻は無言で踝にくちづけ、舌を蠢かせる。
執拗に足首から先を責めたてられ、恥ずかしさに気が遠くなっているであろう雛乃を、
更に快楽の果てに追い詰めようと。
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