<<話選択へ
<<前のページへ 次のページへ>>

(3/5ページ)

「まだ……ひくひくしてる。そんなに気持ち良かった?」
龍麻の言う通りだった。
龍麻とこうして逢瀬を交わすようになってから、
雛乃は日増しに自分がはしたなくなっていくのをはっきりと自覚していた。
彼と逢い、肌を重ねている時はもちろん、家に帰ってからも彼を想うだけで下腹が熱くなり、
いけない、と思いつつも行為に浸ってしまうのを抑えることが出来なかった。
それは間違いなく龍麻が原因のほとんどなのだが、
人を疑うことを知らない雛乃は自分の裡にこそ淫らな資質があったのだ、と恥じるほかなかった。
もっとも、もし龍麻のせいだと知っても、雛乃が彼を非難したかどうかはわからない。
今や龍麻の傍らにいることこそが全てだと考えている雛乃には、
それで彼が喜ぶのなら拒むどんな理由もなかったからだ。
龍麻は右手でふっくらと息づき始めている秘裂を愛撫しながら、
持ち上げている踝に唇を寄せ、短いキスを放っている。
そのいずれもが雛乃には狂おしい愉悦であり、
淑やかな巫女から一人の女へと彼女を変じていくものだった。
「あ……ぁ……」
躯の奥からこぼれた喘ぎが、掌に当たって反響する。
ゆっくりと、焦らしているのがはっきりと判る愛撫で、
もう上擦ってしまっている声を聞かれたくはなかった。
しかし、どうにか最初の波は堪えることが出来たものの、
龍麻は指を単調ながらも決して止めず、すぐに新たな喘ぎが喉元からせりあがってくる。
腹に力を込めれば我慢出来たかもしれないが、
片足が高々と持ち上げられているのでそれは無理だった。
仕方なく足先のみで力む。
強張った指先が、まだそこにいる龍麻の手を掴む。
恥ずかしさと、そこに龍麻がいるという安心感。
それに爪先をくすぐられる心地良さが加わったものが、足の付け根へと降りていく。
「あ、くっ……!」
短い叫びと共に、雛乃は果てた。
唐突に、あっけなく。
日を追う毎に歯止めが効かなくなっている身体に恐怖しながらも、
そこにある快楽を手放すことはもう雛乃には出来ない。
下腹に溜まった熱を解き放つ時の、気が遠くなるような快感。
浚っていく波に抗うことなく身を任せ、雛乃は水底へと沈んでいった。

底まで沈んだ意識に、龍麻が触れる。
龍麻は気遣って半分だけ身体を重ねている。
それは当然の配慮ではあったが、
既に全身が情欲の海に浸かっている雛乃には物足りないこと甚だしかった。
だから、耳朶に触れてくる龍麻の隙を突いて両腕を絡める。
「……」
龍麻は一瞬動きを止めた後、体重を預けてきた。
のしかかる重さは乱れた呼吸には苦しかったが、
皮膚に感じる彼の全てが愛おしくて、雛乃は更に強く龍麻を抱き締めた。
「龍麻……さん……」
「何?」
それはあふれ出した想いが形となっただけのものだったから、
龍麻の関心を惹いてしまって雛乃は返事に窮する。
「い、いえ……なんでも……」
「ないの?」
訊ねる龍麻の口調は怒ってはいなくても、残念な様子がありありとうかがえた。
「申し訳……ありません」
「別に謝ることなんかないよ。俺も少し意地悪だったから」
龍麻はそう言い、またキスをしてくれたが、
雛乃はすぐに彼が少しどころではない意地悪だと思い知らされることになった。
龍麻が顔を離す。
程なく、胸の先が生温かい感触に包まれた。
隠しようもなく硬くなっている乳首を、龍麻は優しく、強く吸う。
唇だけで含み、赤子のように吸いたててから、少しずつ口を開いていき、立てた舌で転がす。
「……っ、は……っ」
そのどれもが鋭敏な快感となり、雛乃はたまらず龍麻の頭を掴んだ。
続けざまに達してしまっている今の状態では、辛かったのだ。
「ぁ、ぁ……っ」
しかし、一度動きが止まった龍麻が、再び動く。
訪れる苛烈なまでの快感に、意識が弾けた。
全身の感覚がぼやけていく中、胸の先だけが疼き続ける。
龍麻の舌で玩ばれているその部分が、自分を乗っ取ってしまったかのようだった。
そこに龍麻が歯を立てる。
鋭い痛みと、食いちぎられてしまうのではという恐怖が脳裏を掠める。
しかし同時に、龍麻にならそうされても構わないという被虐にも似た陶酔が、
腋の下から染み出るのを抑えることが出来ない雛乃でもあった。
無論龍麻はそんなことはしない。
上半身を拘束する縄を用いた後など、自分でそうした癖に跡が残っていないか本気で心配し、
細胞まで見透かすように確かめる龍麻が、そんなことをするはずがないのだ。
だから雛乃は安心して、龍麻がもたらす苦痛と快楽の境界線にもたれかかることが出来るのだった。
「う……うっ」
龍麻の歯が敏感な蕾を潰し、雛乃は呻く。
痛みに眉を限界まで撓め、背中を折れそうなほど仰け反らせて。
しかし、柔らかな乳房をいいように捏ねられ、桃色に熟した乳首を散々にねぶられても、
ついに雛乃は龍麻を拒む言葉を発しなかった。
もう理性は遠く及ばないところまで来ているというのに。
「っ、は……っっ!」
遂に胸だけで雛乃は昇りつめる。
必死に堪えていた甲斐もなく──いや、甲斐はあった。
訪れた法悦を、より深く味わえたから。

波は引かず、いつまでも雛乃を濡らし続けていた。
視線を儚く宙にさ迷わせ、息を整えている彼女の耳元で龍麻が囁く。
「挿れるまでに……何回イッちゃうかな」
意地の悪い問いは、まだ龍麻が挿入するつもりがないことを示していた。
恥ずかしい、と思う余裕もなく雛乃は懇願する。
「い、や……嫌です……」
「どうして? 気持ち良くない?」
問いと同時に臍の下に感じる熱い塊。
龍麻が何を言わせようとしているか、あざとすぎるほどだったが、雛乃は言った。
目の端に涙を。
口の端に、うっすらと涎を滲ませて。
「……た、龍麻さんの……龍麻さんのが……い、い……です……」
言葉を発した直後、雛乃は達した。
雛乃の情欲はもう愛撫さえ必要なく、
ほんのわずかな揺らぎだけで零してしまうほど水位を増していたのだ。
「あ……ぁっ」
満たされず、満たされた悲鳴。
怨嗟すら混じったその声は龍麻を恐れさせ、雛乃の求めるものを与えさせる。
龍麻は彼女と同じく、刺激らしい刺激を与えていないのにもう爆ぜそうになっている屹立を掴み、
彼女の花唇へとあてがった。



<<話選択へ
<<前のページへ 次のページへ>>