<<話選択へ
<<前のページへ 次のページへ>>

(4/5ページ)

「あぁ……」
龍麻が入ってくる。
息を吐くよりも、もっとゆっくりと。
肉が歓喜にさざめき、心が欲に悶える悦びを存分に感じながら、雛乃は龍麻の熱茎を迎え入れた。
「んあっ、ぁ……龍麻……さんっ」
しかし、快感に溺れる前に身体が抱き起こされる。
より深くに入ってくる屹立。
頭が真っ白になるような快感の源が眠る深奥を探る龍麻に、雛乃は全身でしがみついて応えた。
「あっ……はぁ……龍麻さん……龍麻さんっ」
汗ばむ身体を龍麻に擦りつける。
そうすると龍麻が中で更に大きくなって、たまらなく気持ちよかった。
向かい合って座っているために龍麻はあまり動けないようだったが、
抉るように腹を貫く杭と、彼と密着したまま愛を交わせるというのはまた異なる悦びを与えてくれた。
「ぁ……あんっ」
龍麻が小刻みに突き上げる。
尻を掴まれ、軽く揺すられると、体内に深く食い込む猛りが狂おしいほどに腹を掻き回した。
解かれ、床にまで届いている雛乃の豊かな黒髪が乱れる。
恍惚を彼女に代わって表すように艶やかに、激しく。
龍麻が腰に腕を回し、乳房を吸いながら強く抱きしめる。
彼の頭を抱くことで応えた雛乃は、強く下から突き上げられ、大きくバランスを崩した。
忘我の中に訪れる、空白の恐怖。
しかしそれは、力強い腕によって打ち消される。
「あ……ふっ」
反動をつけて再びしがみついた雛乃に訪れたのは、穿たれた愉悦。
自ら招いたはらを引き裂く衝撃に、雛乃はもう何度目かわからない頂点を迎えた。
「あ、あ……っ、や……!」
肉が、深く咥え込んだ龍麻を貪る。
灼けた杭の硬さを下腹で存分に食らい、壊れた時計のように不規則に痙攣を繰り返して、
雛乃はまた水底へと沈んでいった。
不意の絶頂は龍麻にとっても予想外だったらしく、何の前触れもなく彼の飛沫が膣に注がれる。
胎を満たす粘液に至福を感じ、彼に身体を預けながらも、
どこかで物足りなさをも感じてしまう雛乃は、既に引き返すことの出来ない深淵にまで達し、
そこにたたえられたあおぐろい水に溺れてしまった仙女だった。

彼に触れた胸の頂がもたらす甘美な温かさに意識を呼び戻された雛乃は、
まだ龍麻から離れたくなくて彼の首に腕を回したが、
心ゆくまで抱擁したのは、次に彼がしようとしていることへの覚悟を伝える為でもあった。
あぐらを掻いた龍麻が髪と背中を撫でてくれる。
その優しさに吐息を漏らした雛乃は、龍麻が左手で自分を抱いたまま右手で道具を取り出すのを、
既視感をもって見つめていた。
いびつにとぐろを巻いている、赤い縄。
何故彼がこんなものを使って縛めたいのか、雛乃には解らない。
自分は既に身も心も彼に捕らえられ、離れられないというのに。
雛乃はそう自問するが、同時に、彼が忙しく自分の周りを動き回り、
手間をかけて縄を通していく時間を貴重だとも思っている。
龍麻が自分だけのことを考え、自分だけの為に費やしている時間。
その幸福に較べれば身体の拘束など、較べるべくもないささやかな苦痛だった。
いつになく快感を享受している身体は、全く彼を手伝おうとしない。
だがそれはそれで彼が労力を払うことになるのだから、
雛乃は積極的に己を叱咤しようとはしなかった。
もう何度も行って慣れてきたのか、みるみるうちに身体に走る縄の数が増えていく。
それはもしかしたら、犯してしまっている過ちの数なのかもしれなかった。
二の腕を、胸を、くまなく締めていく縄をぼんやりと見ていた雛乃は、
龍麻が縛り終えた後もしばらくの間気付かなかった。
「雛乃……?」
名を呼ばれ、ようやく顔を上げ、彼を見る。
彼が呼んだ名はさっきとは異なっており、雛乃は顔に出さないよう注意しながら落胆した。
そんな彼女の内心など知る由もなく、ただ表に浮かぶ、
まだたゆたっている淫情のゆらめきに息を呑み、龍麻はゆっくりと雛乃を押し倒した。
「痛くない?」
「は、い……平気、です……」
二人は嘘を吐く。
龍麻は縄を締め上げた時に雛乃が漏らした苦痛の呻きを聞き逃していなかったし、
雛乃は酸素を必要としているのに息を大きく吸いこめず、少し苦しかったからだ。
それでも二人は嘘を吐いた。
この時が不確かな砂の上に築かれたものであり、
少し不安定さを見せただけで簡単に崩れてしまうと知っていたから。
くくられた腕のせいで、押し上げられた乳房が艶に揺れる。
その小高い丘に、灯に誘われる蛾のように龍麻は手を伸ばした。
雛乃が触れられたい、と意識した胸の隆起は、汗ばんだ掌で表皮を撫でられると狂おしい愉悦をもたらす。
「ん……龍麻……さん……」
それは縛られる前に触れられたのとは肌の鋭敏さがまるで異なり、ほとんど電流のような刺激だった。
龍麻は括りあげたことで一層鮮明になった乳房の丸みを丹念に擦っている。
愛撫によって張りを増した柔肉は、指の力の加わり具合をつぶさに読み取り、次第に熱を帯びていった。
その狂熱に心臓までもを燃やされ、雛乃は誘うように乳房を小さく揺らした。
胸の先が彼の爪を掠める。
それは、彼と自分とどちらにより快感をもたらしただろうか。
雛乃は束の間そんなことを考えたが、すぐにその先端に目を付けた龍麻につままれ、忘れてしまった。
「やっ、あっ……んっ」
縛られ、身動きが取れない分、快感が直接身体を走り回る。
甘い刺激に慣れきってしまった身体は、
龍麻の茶筅のような細やかな動きでも簡単に蜜を吐き出してしまうが、
それを隠すことは出来ない。
その羞恥が毒となり、雛乃の、二人分の体液に塗れた鼠蹊部を新たな滴で濡らすのだ。
「そんなに……気持ちいい?」
淫情に満ちた龍麻の問いにも、もう首を横に振ることは出来ない雛乃だった。

龍麻は縄を手に入れる時、特に色に拘った訳ではなかった。
そんなことを気にする余裕もなかったのだが、こうして幾重にも柔肌に食いこんだ赤い縄を見ると、
この色は彼女の為にあつらえたのだろうと信じてしまうほど良く収まっていた。
始めはどうにか上半身を締めているだけだった縛り方も、情熱は最大の原動力と言うべきか、
今では彼女に無理な苦痛は一切与えず、肢体の持つ美しさを最大限に引き出せている、
と自負出来るまでになっている。
出会ってから数ヶ月と経たないうちに、
およそ普通の恋人なら経験しないであろう奈落に彼女を落としてしまった悔悟はもちろんある。
だがそれも、縄の赤と縄を縁取る朱、
そこから穏やかに色を減じていく珠玉の肢体を目の当たりにしてしまっては、
遠く霞んでしまうというものだった。
それに、雛乃は未だ何も知らぬ乙女のような振る舞いを見せながら、この行為を愉しみつつある。
確信は無いし、男の妄想の可能性も高いのだが、
もしかしたら虐げられることに悦びを見出してしまうさがが、
彼女の裡には眠っているのかもしれなかった。
それならば。
そう都合の良過ぎる仮定による結論を導いた龍麻は、乳首を玩んでいる手を片方下ろし、
雛乃の下腹の具合を確かめに向かわせた。
薄い肉に隠されたあばらを通り、縦に小さく刻まれたへそを撫でる。
雛乃が小さく身じろぎしたが、それ以上愛撫は与えずに更に下へと向かい、
くさむらに覆われた湿地に指を降りたたせた。
「あ……」
残滓に──いや、まだ終わってなどいない行為の温もりが色濃く漂う花唇を押し開いていく。
「ん、んっ……」
乱れた声にどうしようもないほど劣情を掻き立てられ、龍麻はやや早急に指を押し沈めた。
屹立が入ってくると勘違いした襞が哀れなほど吸いついてくる。
その刺激に加え、顔をそむけ、今や紅梅の色をしている頬を黒髪で隠そうとしている雛乃と、
大きく足を開かせた彼女の膣にごく一部だけを突き立てている中指とが織り成す光景の
あまりの卑猥さに、射精しそうになった龍麻は思わず呻いてしまった。
荒くなった呼吸が快く、雛乃に聞かせるように口を開き、熱気を押し出しながら彼女のなかを探る。
呼気にかき消されないよう、殊更大きく染み出す蜜の水音を聞かせてやると、
雛乃はいよいよ身体を強張らせつつも淫裂をひくつかせるのだ。
生唾を飲み込んだ龍麻は、さほどの苦労もなく露になった小さな尖りを親指で触れる。
ただそれだけで雛乃の腰は浮き上がり、太腿に筋肉の筋が浮かび上がった。
「ひっ、ん……っ、た、龍麻……さ、ん……」
しかし彼女よりも、むしろ自分の限界が近いと感じた龍麻は屹立の先端を溝口にあてがう。
軽く触れさせただけでするりと呑みこみ、しっとりと吸いつく淫路は、
ともすれば一気に全てを呑みこまれてしまいそうだった。
龍麻はそれに抗ってゆっくりと、亀頭から雁首までを沈めていく。
熱い蜜にあふれた淵は情欲をいや増す音をもって男根を迎え、歓迎するようにひく、と蠢いた。



<<話選択へ
<<前のページへ 次のページへ>>