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首から上が完全に見えなくなってしまった龍麻はもうピクリともせず、
はじめのうちはふりをしているのだと思って意に介さなかった雪乃も、
手すら動かそうとしない龍麻に次第に不安に駆られはじめた。
「あれ……龍、麻……?」
やり過ぎてしまったことにようやく気付き、慌てて雪を掘り返す。
結構な量を取り除いた後に現れた龍麻の顔は青ざめ、既に死人のようだった。
「ちょ、おい、冗談は止めろって……」
時間にして数分も経っていないのに、そんなはずはない。
いつもの性質の悪い冗談だと思って雪乃は雛乃を仰ぎ見るが、
そこには笑顔のひとかけらも浮かんでいなかった。
たちまち龍麻に負けず劣らず顔を蒼白にして、息をしているかどうか確かめてみる。
「とまって……る……」
寒さではないものに心が凍てつくのを感じ、ひどい耳鳴りが襲ってきた。
しかしそんなことに構っている暇などない。
一刻も早く、龍麻を死の縁から呼び戻さなければならないのだ。
体育の授業で形だけ習った人工呼吸のやり方を必死で思い出す。
こんなことなら真面目に聞いておけば良かったと今更思っても、今はどうしようもない。
まずは腰に跨り、ダウンジャケット越しに心臓をマッサージする。
これで合っているのかはなはだ心もとないまま、
意を決し、息を吸いこんで顔を近づけた瞬間、龍麻の手が動いた。
「!!」
心臓が飛びあがるほど驚いている間に、顔が、冷えきった頬に引き寄せられてしまう。
「ううっ、温かいなぁ」
「うわっ、はッ、離せッッ!」
また騙されてしまったことに気付き、悔しさと怒りと恥ずかしさがいっしょくたになって沸騰する。
三度ほども体温を乱高下させた雪乃をよそに、龍麻は全く呑気な、笑いさえ含んだ口調で囁いた。
「もうちょっと待ってれば人工呼吸とかしてくれないかなって思ったんだけど、
さすがにもう息が続かなかったよ」
「お前、いいかげんにしろよッ!!」
雪乃は安堵の気持ちもあるにはあったが、それを表に出すのはしゃくだったし、
気を緩めると泣いてしまいそうだったから、龍麻の顔は見ないようにしていた。
もう家に戻って、今日は龍麻と会わねぇ。
少し子供っぽいすね方は、雪乃の心情からするとやむを得ないものではあったが、
それを実行には移せなかった。
力ずくで腕を剥がそうとしても、龍麻はかなり強い力で抱き締めていて外すことができないのだ。
「はッ、離せよッ」
「雪乃、まだ怒ってるだろ。だからダメ」
「怒ってねェよッ。離せったらッ」
しかし、雪乃が暴れる限り、閂のようにかけられた腕は全く緩むことがない。
白い息を龍麻に叩きつけてもがいていた雪乃もやがて根負けしてしまい、
最後に勢い良く頭を龍麻の鎖骨の辺りに叩き付け、ぼそぼそと呟いた。
「……わかったよ。もう本当に怒ってねェよ」
「んじゃ、仲直りのしるし」
背中に回された腕が頭をかき抱き、そっと唇が合わさる。
ぞっとするほど冷たい唇に思わず顔を離そうとしたが、龍麻に強く抑えつけられてしまった。
幾秒か我慢していると、少しずつ暖かさを取り戻した唇が、
血が通ったのを確かめるように動きはじめる。
それは何故か琴線に触れたようで、雪乃は自分の単純さに呆れながらも、
それでもいいや、と思い、キスを自分から止めようとはしなかった。
「はぁ……生きかえった」
軽いけれど長いキスを終え、龍麻が心の底からのため息をつくと、
上になっている雪乃が何かいいたげな表情をした。
「ん? どした?」
「……そんな言い方しかねぇのかよ」
言葉遣いに似合わず乙女が心の主成分を占める雪乃は、どうももう少しムードが欲しかったらしい。
落ちかかる髪をかきあげてやった龍麻は、
その後ろにある視線を微妙に気にしながらも、もう一度キスを捧げた。
「いやほら、眠りについたお姫様を起こすのは王子様のキスだろ」
「誰がお姫様だって?」
それはムードからは程遠い物ではあったけれど、雪乃は許してくれたらしく、
口調は毒づいていても目は笑っていた。
逆光の為にわずかに目を細めながら、同じく目だけで笑みを返した龍麻は、さりげなく手を動かす。
もちろんそれはすぐに雪乃の知る所となり、雪乃は忙しく表情を交代させられる羽目になった。
「……何してんだよ」
「いやあ、まあ」
真顔で睨む雪乃にとぼけつつ、ジーンズの上からお尻を撫でまわす。
こういう時、言葉で止めようとしても無駄なことは学んでいる雪乃は、
悪さをする手を後ろ手に掴もうとしたが、更にその上から掴む手に阻まれた。
「雛乃……!」
「もう、待ちくたびれてしまいました」
出番を遅しと待っていた雛乃は前置きなど不要とばかりにジーパンに手をかけ、
電光石火の早さでボタンを外してしまう。
「ちょ、止めろ、止めろって……!」
二人がかりで脱がそうとされてはどうにもならず、
たちまちお尻を寒空の下に晒されてしまった雪乃は、ようやく妹達の邪な企みを理解した。
「さてはお前ら最初ッからそのつもりで」
「気付くの遅いよ、雪乃」
雪乃が自分の鈍さに呆れている間に、龍麻は魚をひっくり返すように、
くるりと雪乃の体をあお向けにする。
すると阿吽の呼吸、と褒めてしまって良い物かどうか、雛乃がジーパンを引き抜き、
雛乃ほどでは無いものの、雪の白さにさほど劣らない肌が露になった。
「あら姉様、こんな下着いつのまにお買いになったんですか?」
「い、いつだっていいじゃねぇか」
姉の下着は全て把握済みの雛乃だったが、これは初めて目にするものだった。
すかさず顔を寄せてチェックする雛乃に、
雪乃はセーターの端でオレンジ色の可愛らしい下着を隠すのがやっとで、
自分が既にして受け身の姿勢になっていることを気付いていない。
「雛乃、雪乃の身体起こして」
「はい」
雪乃の上半身が引っ張られると、龍麻もそれに続いて腹筋の要領で身体を起こした。
両手でセーターを抑えているためにがら空きになった横腹から手を差し入れ、胸の膨らみを押し包む。
いよいよ貞操の危機を覚えた雪乃は身を縮こまらせて護ろうとするが、
多勢に無勢ではどうしようもなく、
どんどん大胆になっていく二人にいささか深刻な心配を抱きつつ叫ぶしかなかった。
「な、何もこんな寒いところでしなくたって、中ですりゃいいじゃねェかッ!」
「まあそれはそうなんだけど」
もちろんそんな提案を聞くつもりは二人には無く、
するすると顔を近づけた雛乃が口を塞いで雪乃の儚い抵抗も潰えさせてしまった。
龍麻よりも幾分温度の低い唇は、しかし、それを補うように情熱的に動く。
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