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「……俺もさ、好きだよ、雪乃」
夢に見た台詞に、顔が勝手に龍麻の方を見てしまう。
そこにあった笑顔が、限界だった。
視界が急速に滲み、もっと良く龍麻を見ようと目を見開いても、すぐにまたぼやけてしまう。
口の端にしょっぱい何かが触れるのを感じて、それが涙だと気付いた時、
再び、今度は自分から龍麻の胸に顔を押し付け、思いきり声をあげる。
龍麻の大きな手が背中をさすってくれたが、目から溢れる想いは強くなるばかりだった。

短い間だったけれど思いきり泣いた雪乃は、泣き声を嗚咽に変えると、
ぐしぐしと手の甲で涙を拭きながら龍麻を見た。
「そんな……嘘ばっかり……オレを……からかうのは、止めてくれよ……」
「嘘じゃないって。雪乃ってあんまり男に興味なさそうだったからさ、迷惑だと思って黙ってたんだ」
「…………本当……かよ」
らしくもなく、二度も確認してしまう。
泣きすぎて声が上手く出せなかったが、龍麻はちゃんと聞いてくれた。
「あぁ、本当だよ。雪乃も雛乃も、同じくらい」
ひどく図々しい言い種も、自分達には似合っているような気がした。
少なくとも、どちらか片方を選ばれるよりはずっと良かった。
雪乃はちょっとだけ嬉しくなって、笑ってみせる。
するといきなり強い力で引き寄せられた。
「ちょ……何……」
「今まで雪乃をほっといた分」
「そッ、そんなのいいよッ」
「だめ。俺が良くない」
再び押しつけられた制服は湿っていて、
さっきまで自分が泣いていたのを思い出して恥ずかしさがこみ上げてしまう。
でももう腕をふりほどく気はなくなっていて、
少しだけ胸に顔を押し付けたあと、恐る恐る背中に腕を回した。
濡れた制服は気持ち悪かったけれど、なぜか暖かくて、雪乃は自分から頬を強く擦りつけていった。

龍麻が離そうとしないから。
そう自分に言い訳をして龍麻にしがみついていた雪乃が視線を感じて顔を上げると、
黒い、優しげな瞳が自分を見守っていた。
こんなに近くで異性の顔など見た事の無い雪乃は、どうしたら良いか判らず固まってしまう。
そこに龍麻の顔が近づいてきて、
あっ、と思う間もなく頬を濡らしている滴を掬いとられてしまった。
「よ、よせよ……くすぐったいだろッ」
「でも、甘くて……美味しいよ」
涙が甘いなんて話は聞いた事が無かったが、龍麻がそう言うのならきっとそうなのだろう。
それに今、自分の胸は確かに、前の自分なら絶対に許せなかった甘ったるい気持ちに溢れている。
それが涙になったんだったら、甘いのかもな。
片側だけでは飽きたらず、反対側もついばみ始めた龍麻の匂いを感じながら、
ぼんやりとそんな事を考えていた雪乃は、ふと思いついた事があった。
「あ……あのさ」
「ん?」
「その」
「何だ?」
どうして察してくれないンだよッ!
龍麻の鈍感さに腹が立ったが、これだけで察しろという方が無理な話だった。
口を尖らせてそれとなくアピールしてみたが、一向に気付く気配の無い龍麻に、
あまり気の長い方では無い雪乃はすぐに根負けしてしまう。
「だからさ、その…………キ、キス……してくれない……か……?」
「今してるよ」
「そうじゃなくてさ! …………く、唇……に……」
そこまで言って、楽しそうに口元をほころばせている龍麻に、ようやくからかわれていた事に気付いた。
「なッ、なンだよッ! 嫌ならいいよッ!」
「嫌な訳ないだろ? ほら、目閉じて」
「へッ!? も、もうすンのかよ!?」
自分でも良く判らない事を言うと、笑いを堪えている様子の龍麻に肩を掴まれ、慌てて目を閉じる。
まぶたの端が完全に降りきる直前に、何かが唇に触れた。
それがキスだと判るまで、しばらく時間がかかった。
唇に伝わった感触は、一度全身を駆け巡ってから脳に伝わったから。
もちろん雪乃にはそんな事は判らなかったし、判ったのは全身から力が抜けた事、
それから龍麻の唇は少し暖かかった事だけだった。
最後にもう一度軽いキスをして、龍麻の顔が離れた。
薄く開いていた口を閉じ、今のが夢で無い事を確かめる。
雪乃はもう一回、今度はもっと長くしたいと思ったが、その前に妹が口を挟んできた。
「もう、よろしいですか?」
妹の声はいつもと変わらなかったが、少しだけ、
本当に少しだけとげが含まれているようにも聞こえた。
それが間違いで無かったのは、すぐに判った。
抱き締められていて動けないのを良い事にいきなりスカートを脱がされ、
隠す間もなく淡いオレンジ色の、お気に入りの下着が、丸見えにされてしまう。
「なッ、なんでスカートから脱がせるんだよッ!」
「ふふ、それでは上も脱いでしまいましょうか」
「まッ、待ってッ……!」
失言を悟った雪乃は暴れようとしたが、膝を龍麻に押さえつけられて、
抵抗も空しく上着も脱がされてしまった。
下着とお揃いの色のブラが露になり、全身を見られてしまう。
ただただ恥ずかしくて、胸だけでも隠そうともがいても、
両手両足を抑えられてはどうする事も出来ない。
「見、見るなッ! 見ないでッ!!」
「姉様、落ちついてください」
「だ、だってよ、オレだけこんな格好で」
その言葉に龍麻と雛乃は顔を見合わせ、頷き合う。
またしても失言してしまった事に雪乃は気付いたが、もう遅かった。
二人は立ちあがるとあっという間に服を脱ぎ捨てる。
龍麻はまだ下着一枚残していたが、雛乃が装束を脱いだその下には何も着けていなかった。
妹の全裸など小さい頃からでも見た事が無い雪乃は、
双子のはずなのに随分と成熟の度合いが違う身体をしげしげと見てしまう。
「どうしました?」
「い、いや……いつのまにそんな大きくなったのかな……って」
視線に気付いた雛乃に尋ねられ、つい正直な感想を漏らしてしまった。
雪乃は身体全体を指して言ったのだが、雛乃はわざと曲解したようだった。
惜しげもなく胸をさらしながら、雪乃の左側に添い寝して押しつけてくる。
素肌に触れるその柔らかさに、雪乃は頭がぼうっとしてしまう。
「ふふ……姉様もこれくらい、すぐに龍麻さんに大きくして頂けますよ」
「そ……そうなの?」
「ええ……きっと」
つややかな黒色の髪を揺らして頷く雛乃が随分と大人に見えてどぎまぎしていると、
反対側に龍麻が横たわってきた。
二人の身体が所々触れて、その温かさに胸が高鳴ってしまう。
どちらの方を向いて良いか判らず不自然に天井を見ていると、雛乃の手が頬に添えられた。
「姉様……わたくしとも、口付けしてください」
「う……うん……」



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