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「I……love you.ずっと大好きだったよ、お兄ちゃん」
「マリィ」
 少女の身体を強く受けとめ、龍麻はマリィの名を呼ぶ。
意味を変えた名は、口にするだけで深い幸福をもたらした。
愛しげに頬を寄せたマリィが、驚いたように顔を上げた。
「泣い……てるの?」
「少しな」
 恥ずかしいとは思わなかったから正直に認めた龍麻に、マリィは小さく笑いかけた。
「マリィと……一緒だね」
「ああ、一緒だ」
 龍麻も笑い、マリィを抱き寄せた。
少し強く押し当てた唇は、少ししょっぱく、とても甘かった。
長く、長い間唇を合わせていた龍麻は、名残惜しくも一度顔を離した。
唇を離した後も龍麻にしがみついたまま、マリィは幸せそうに囁く。
「マリィ……ファーストキスなんだよ」
「そ、そっか。良かったな」
 黙っていれば良いものを、男同士の拳のふれ合いなら十回以上も経験がある龍麻も、
女性と唇を触れ合わせるのは初めてで、緊張し過ぎて間が持たず、つい余計なことを口走ってしまう。
そしてその一言が、更に龍麻を追い詰める質問をマリィにさせることとなるのだった。
「お兄ちゃんは……何回目?」
「お、お、俺も……一回目」
 虚勢を張る余裕もなく、どもりながら真実を告げてしまうと、マリィが息を呑むのが伝わってきた。
この時、灯りをつけていなかったのが龍麻に幸いした。
もし新たな涙を浮かべてうっすらと微笑むマリィを見たら、きっとうろたえてしまったに違いないから。
「そう……なんだ? 葵お姉ちゃんとしてるのかと思った」
 そういうことをしれっと言ってのける辺り、この手のことに関する限りマリィの方が上手うわてのようだった。
現に龍麻はと言えば、怒らせると鬼よりも恐ろしい友人の名前を出され、すっかり動揺しきっている。
「し、してないよ、するはずないだろ、葵は友達なんだから」
「じゃあ……マリィも今までは友達だったの?」
 子供じみた、それでいてきり・・のように鋭い質問。
暗がりにあって、マリィの明灰色の瞳から放たれた真摯しんしな光は心を真っ直ぐ射通すようで、
龍麻は再び返答に窮してしまった。
束の間マリィの顔が曇るが、すぐに晴れ、甘酸っぱい喜びが浮かぶ。
「でも、今からは違う……よね」
「ああ」
 控えめな返事だけではマリィを納得させることはできなかったらしく、
龍麻は両頬に繊細な冷たさを感じた。
真っ向から見つめる灰色の瞳に、魅了されたのはきっと、今が最初ではなかった。
「今はマリィのこと、どんな風に思ってるの」
「大事にしたい。ずっと、一緒にいたい」
 世慣れぬ少年のように、素直に想いを口にする。
照れくさくて熱くなる頬は、マリィの掌にすぐに冷やされて、とても心地が良かった。
「それからこうやって……ずっと抱き締めていたい」
 マリィは顔をほころばせる。
その抱き締め方では足りないと、しっかりと身を寄せて。
「マリィもね、お兄ちゃんと一緒にいたい。一緒にいて、たくさんキスしたい」
 唇から、吐息が押し出される。
淡く触れる場所を変え、その度に幸福を感じ、龍麻はマリィの求めに応えた。
数を重ねるごとに柔らかく、少しずつ溶けていく感覚。
頭の奥から生み出された熱を掌に滲ませ、強くマリィを抱く。
ぼやけていく自分の中にいる冷静な自分が、より深い悦びを求めて身体を衝き動かした。
「……!!」
 こじ開けた口から、マリィの驚きが伝わってくる。
しかし龍麻は自分を顧みる余裕もないまま、舌をこじ入れた。
それは後日何度もからかわれるほど稚拙で乱暴なキスだったが、
この時のマリィは抗わず受け入れてくれた。
息を詰め、詰まらせて、もどかしく舌を絡める。
舌先に感じるもの全てが気持ち良く、龍麻は唇を離せなかった。
「……っ」
 温もりが遠ざかる。
初めて味わう甘美な感覚を続けざまに求めようとして、龍麻はすんでのところで思いとどまった。
もう少し余裕を見せないと、格好がつかなかった。
「今の……大人のキスだよね」
「ああ」
 どうにか面目を保った龍麻は、感慨深げに唇を撫でるマリィに、偉そうに頷いてみせる。
しかしそれも、マリィが柔らかく腕を回し、唇を軽くすぼめるまでのことだった。
再び触れる、唇。
マリィをしっかりと支え、龍麻は激しくキスを交わした。
「ん……ぁ……」
 少しずつリズムが揃い、溶け合っていく。
全身の力は抜けてしまうのに、腕だけは力強く、決してマリィを離そうとしない。
抑えられない──
これまで意識しないことで抑えていた欲望も、
ひとたび解き放たれてしまえば、焔の如く裡で燃えさかる。
龍麻は震える手をなだめ、マリィの胸に伸ばした。
しかしふくらみに指先が当たった瞬間、マリィは半ば拒絶するように身を離した。
「あ……」
 怖れ、龍麻は手を引っ込める。
狂熱も一気に醒め、おののく龍麻に、マリィはその手を取り、そっと絡めた。
「いい、よ……」
 周りをも照らす明るさを持つマリィの声が、ひどくか細い。
だがその全てが自分ひとりに向けられているのだと思うと、龍麻の一度沈んだ心は再び熱を帯びた。
「ああ」
 ボタンをひとつひとつ外していく。
時間がかかったのはわざとではなく、緊張で指が上手く動かなかったからだ。
それでもどうにか全てのボタンを外し終えると、身体の中央に沿って肌が覗いた。
青白く浮かび上がる肌に、吸い寄せられるように龍麻は触れる。
すぐに出会った行く手を阻む丘を、慎重に手で包むと、温かな塊が小さく揺れた。
いつのまにか凝視していた胸から顔を上げると、マリィが笑っていた。
「触り方……やだ」
「大きくなったよなぁ」
「エッチ」
 短い会話だったが、緊張がほぐれる。
笑いあい、そのままキスを交わし、龍麻はもう一度掌を押し付けた。
 マリィの胸は、触った感じでは、葵よりも大きいかも知れないと思わせるものだった。
もちろん葵のには触ったことがないから適当なのだが。
 人体実験の犠牲になったとは言え、子供から女へ、一気に大きくなってしまったマリィに、
龍麻はまだ戸惑いがぬぐい切れない。
頭を切り替えなければマリィに対して失礼だ、と思ってはいても、
こればかりはどうしようもなかった。
 しかし、掌に感じるこぼれ落ちそうなふくらみは、
百の理屈よりも簡単にマリィがもう子供ではないのだと告げている。
そして、そこを触れていると聞こえてくる、かすかな喘ぎ声も。
「……ん……」
 淡い満足に包まれた吐息。
手を少し動かしただけで壊れそうなほど形を変える乳房を、龍麻はいつまでも撫でる。
はじめは慎重に、撫でるように動かしていた掌も、次第に大きく、揉みしだく動きに変わっていた。
「あ……」
 耳元に浴びせられる熱気に、背筋がぞくりとする。
今日一日だけで、幾つの異なるマリィを見たのだろう。
幼虫がさなぎになり、蝶になるよりももっと激しく変化を遂げたマリィに、龍麻は圧倒されていた。
彼女の魅力に気付かないでいたのは、あるいは防衛本能だったのではないか。
そうも思う。
変化を確かめるように身体に手を這わせ、美しい曲線を描く肢体に触れていると、
よこしまな独占欲が蠢くのを感じるからだ。
それほどまでに、成長したマリィを龍麻は女として意識させられていた。
頭部から流れ落ちる金色の滝に顔を沿わせ、細い首筋に唇を吸いつかせる。
長く、弱く。
「ゃ……」
 せり上がってくる熱っぽい吐息を、吸い出すように。
少しずつ場所を変えながら何度も、同時に掌の内で硬く尖り始めた胸の先端を転がすと、
マリィの爪が皮膚に食いこんだ。
 小さな痛みは、何故か龍麻には感慨深かった。
これまでマリィにほとんど喧嘩や、反抗めいたことさえされたことのなかった龍麻が、初めて受けた抵抗。
それを自分が与えたということに、思いがけず情感が昂ぶってしまったのだ。
「マリィ」
 愛撫を止め、マリィと目を合わせる。
声に真剣なものを感じたのか、マリィはまばたきもせずに見つめ返してきた。
「あ……」
 しかし、こんなにも近くで見たライトグレーの瞳は、言葉を奪う魔力を秘めていた。
言うべき言葉を奪われ、龍麻はどうしたらよいか解らなくなる。
するとマリィの、愛おしい唇が小さく動いた。
「タツマ──」
 耳には何も聞こえてこない。
だが龍麻は、確かにそう呼ばれたと思った。
意味を変えた自分の名は、とても新鮮に感じられた。
「マリィ」
 これからもきっと、たくさんその情感を呼び起こしてくれるであろう唇に、愛情をこめてくちづける。
触れた唇がそうして欲しがっているような気がして、龍麻は華奢な身体をそっと押し倒した。
「ん……ぅ」
 首に腕を回すマリィに覆い被さり、彼女の望むキスを何度も与える。
そして、龍麻の望むキスも。
お互いを捜し求めるように触れ合った舌の先は、戸惑いながらも絡みつき、結びつく。
もたらされる快感にすぐに夢中になった二人は、
全身の感覚を舌先に集め、混ざり合う快感を貪りあった。



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