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ぼやいた龍麻の鼻先で細い指先が催眠術をかけるように踊り、軽く鼻の頭を押した。
それだけで龍麻はどんな理不尽な要求も受け入れざるを得ない、秘密の呪文。
「……ちぇ」
「うふふ、それじゃ、ご褒美あげる。ね、少し身体起こして」
「こう?」
言われた通りにすると、葵は腋の下に手を潜らせ、頭の後ろに通す。
「つかまえた」
絡め取られる──そんな感覚に酔いしれ、いや増した密着感に息をするのも困難になり、
呼吸を整えようと、浅く息を吐いた所で葵に口を塞がれてしまった。
たまらず龍麻は入ってこようとする舌に抗いながら葵の肩を押す。
すぐに止められたキスに、葵は不満そうに龍麻の耳たぶを噛んだ。
「何よ」
「……これがご褒美? いつもと同じじゃん」
「言ったわね」
龍麻は強がっているが、強張った身体が、言葉が嘘であることを雄弁に伝えていた。
大方気持ち良すぎて息が詰まった、ってとこかしら。
そう正確に推測した葵はわざとらしく頬を膨らませると、
ぴったりと身体をつけたまま下へとずらし始めた。
更にそれだけにとどまらず、唇で皮膚をわずかにつまみあげ、軽く挟み込む。
「……ぅ……」
適度に締まった肉体は少し強い力でないと咥えられず、それが龍麻にえもいわれぬ快美感を与える。
無論葵は手を使って愛撫するのも忘れてはおらず、一方的に奉仕される快楽に龍麻を落としこんだ。
そそり立ったペニスが葵の身体を通過しているという思いがそれを増幅させ、
にじみ出る透明な液が肢体に道筋を残していった。
「気持ち良かった?」
「凄く」
「うふふ、でもまだよ」
下腹まで辿りついた葵がそう尋ねても、龍麻はしばらく息を整えるのがやっとだった。
気の利いた言葉でかわすことさえ出来ない、快楽。
「絶対見ちゃだめよ。見たらジハードだから」
降参した龍麻に満足の笑みで答えた葵は、そう言い残してタオルケットの向こうに消えた。
ほどなく熱い、ぬらぬらとした質感が屹立を包み込む。
何をしているのかは嫌というほど判ったが、
もぞもぞと動くシーツが想像をかき立て、かえって興奮してしまう。
特に、高々と持ち上げられた尻は、二つの盛りあがりもはっきりと判って、ひどく劣情を催させた。
それはまさに絶景だったが、顔を浮かせた体勢では腹筋が辛い。
名残惜しいながらも見続けるのは諦めて横たわった龍麻は、
屹立から得られる快感だけに意識を委ねることにした。
タオルケットを支えるように直立しているペニスを優しく倒し、根元に口付ける。
昨日結局シャワーも浴びずに寝てしまったから、二人の臭いがまだ濃く残っていたが、
葵はその臭いが嫌いではなかった。
幾度もキスを放ちながら、次第に唇を付けている時間を長くしていき、
判ってはいても骨が入っていないのが中々信じられない硬質の肉に、舌を乗せる。
目を閉じ、舌で味わう感覚に集中しながら、唾液を塗りたくると、
走っている血管が脈動を早めていく。
命の、鼓動──葵はそんな風に大袈裟に考えつつ、敏感な先端にまで愛撫の範囲を広げていった。
頂点まで舌を到達させた後は、ごく自然に頬張って口内で弄ぶ。
数ヶ月前までは、まさか自分がこんなことまでするようになるとは思ってもいなかった。
さっき龍麻に言われた、いやらしい、という言葉を思い出して、つい笑いそうになる。
初めてフェラチオをしたい、と言った時の龍麻の微妙な表情は、
もう一生脳裏に焼き付いて離れないだろう。
自分が本当にいやらしいのかどうかは判らないが、
龍麻が抱いていたらしい自分へのイメージを崩すのは、最近では密かな楽しみになっていた。
愛しんでいた屹立を龍麻の腹部に押しつけ、裏筋に舌を這わせる。
よほど気持ちいいのか、小さく身体をひくつかせている龍麻が可愛くて、
思いきって胸の谷間に挟みこんでみた。
逃げ場を失った屹立を、両側から乳房越しに押しつぶし、
途端にびくびくと苦しそうに蠢く先端に舌を触れさせた。
窮屈な姿勢が自分への刺激にもなり、そのまま何度か舐めあげていると、
男性の急所を自らの内に閉じ込めるという行為に、新鮮な興奮が体内に満ちていく。
熱い息をはきかけながら、葵はしばらく口淫に没頭することにした。
なんとなく、女性を股間にかしずかせるのは格好悪いという思いが龍麻にはあった。
だから、葵がそういう事をしてみたい、と言い出した時、
興味よりも恥ずかしさの方が先だって、消極的とは言え反対までしたのだが、
それがもたらす快感には到底抗えるものではなく、結局、毎回ずるずると身を任せてしまっていた。
今も、朝からこんなものを口に含ませて良くない、と思いつつ、
既に半ば射精しそうになっていて、床を掴んで懸命にこらえている有様だ。
ところが、半分から先を包み込んでいる熱い感触が、
不意に、それまでとは違う生暖かいものに変わった。
舌とも掌とも違う、蕩けるような感触。
今まで味わったことのない感覚にたまらず顔を起こして尋ねる。
「う、わ……っ、何してんの?」
「何だと思う?」
「何って……その、なんだよ」
葵は屹立を胸の間から離そうとはしないまま、弾むような声で応じた。
自分と同じ位にはいやらしいくせに、直截的な猥語を言う時は妙に恥ずかしがる。
もちろん葵だって積極的に自分から口にする事はないけれど、
龍麻の恥ずかしがりようは小蒔や京一に言いふらしたくなるほどだった。
「何?」
「その、胸で……」
「何て言うか、本当は知ってるんでしょ?」
なんとかその言葉を使わずに説明しようとする龍麻を、葵は意地悪く遮る。
その意図に気付いた龍麻は、憮然とした調子を声に込めた。
「……言わせたい?」
「聞いてみたいわ」
女性の方からこんな風に言われたら後には引けず、
湧き起こる羞恥心と戦いながら龍麻は乾いた唇を舐める。
「……パ、パイ……ズリって言うんだろ」
「あ、また硬くなったわね。もしかして、言わされて感じたの?」
「かっ、感じる訳ないだろ。気のせいだよ」
「そうかしら」
「そうだって」
「本当に……?」
疑わしげに語尾を上げ、挑発するように挟んだ胸を上下させて先端に口付ける。
極上の質感はずっと味わっていたかったが、情けないことに早くも限界を感じてしまった。
「も、もういいよ、それ以上は……我慢できない」
再び甦った快感に龍麻が悲痛な叫びを上げると、
すぐに下半身を包み込んでいた名残惜しい愉悦は消え、葵が顔を出した。
薄暗がりに浮かぶ美貌は朱に彩られていて、龍麻は瞬間、言葉を失う。
「そんなに気持ち良かった?」
「……いや、綺麗だな、と思って」
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