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何も言わないのはてっきり快感が強すぎるからだと思っていた葵は、
龍麻の台詞に目を顔の中心に寄せてまばたきした。
褒められて嬉しくない訳は無いけれど、
あまりに雰囲気を選ばない龍麻の不器用さには喜びも半減してしまう。
「龍麻こそ、そういうこと言う人だったかしら?」
「ん……じゃあ、もう言わない」
「何よそれ。ひどい」
おねだりするように肩に頬を乗せ、軽く首筋に舌を這わせる。
「も、もうちょっと待ってくれよ。まだ、その……落ちついてない」
「別に、出しちゃっても良かったのに」
「……朝だしね、多分何回もは出来ないよ」
「そう……そうね。まだ今日は始まったばかりだものね」
さりげなく怖いことを言う葵に、龍麻はひきつった笑いを浮かべるしかなく、
形勢の不利を覆そうと攻めに転じた。
腰に腕を回し、なだらかなカーブを描いている背骨の下端に指を踊らせる。
掃くようになぞっていると、葵が軽く身をよじった。
「ん……っ」
「どうしたの?」
「……私がそこ弱いの、知ってるくせに」
「そうだったっけ?」
龍麻はとぼけながら、少し強く押して硬さを確かめる。
葵が特に弱い部分は肩甲骨の間辺りだけれど、もちろん背骨ならどこでも敏感で、
鍵盤のように、少しずつ感じ方が大きくなっていくのが好きだった。
「やっ……変な触り方、しないで」
「気持ちいい?」
「……知らない」
葵は形良く尖った顎を龍麻の鎖骨に押しつけてそっぽを向いてしまう。
それが葵流の催促だと気付くまで、龍麻は豹変する機嫌についていけなくて困った時もあった。
軽やかな芳香を漂わせる葵の髪をかきあげ、耳朶を咥える。
「んっ……」
少し熱くなっている耳に幾度もキスをすると、全身に快い重みが加わった。
首筋にかかる物憂げな吐息に、情感が込みあげて薄い背中を力任せに抱き締める。
「ちょっと、痛いわ……」
「俺ね」
抗議の声を無視して、直接耳の中に想いを注ぎ込む。
空気中に触れたら、嘘になってしまう気がして。
「好きな人が出来たら、こうやって思いっきりさ、身体中全部くっつけて抱き合いたかったんだ」
「…………」
「変かな?」
「変には思わないわ。女の子みたいで可愛い、って思ったけど」
「……そりゃどうも」
小さく肩をすくめた龍麻は、再び腕を、ほとんど反対側の肩が掴めるくらいまできつく回した。
葵はあまりの強さに顔をしかめながらも、もちろん振りほどく気などおこらず、
男の腕の中に包まれる幸せに浸る。
胸の先から伝わる呼吸が、ゆっくりとしたものになり、やがて、一つに溶けあっていった。
肩を抱いていた強い力が、ようやく緩んだ。
心地良い拘束を解いて、少しだけ背伸びした葵は、キスよりも近い場所から龍麻の目を覗き込む。
「龍麻」
「ん?」
「うふふ、なんでもないわ」
恥ずかしげに顔を逸らそうとする龍麻に軽く額を押しつけ、笑って耳に触れた。
縁に沿って指を滑らせ、中々離そうとしない。
「な、なんだよ、くすぐったいな」
「好きよ」
「……え?」
「好きよ、龍麻」
戸惑う龍麻の反応を愉しみながら、触れる場所を次々と変えていく。
優しく、情感に満ちた触り方に、猫が耳の裏を掻いてもらった時のような顔をした龍麻は、
ふと思いついたことを口にした。
「……葵はさ、俺のどこがいいの?」
「そうね……ここかしら」
「そこかよ……」
半ば喜び、半ばがっかりしているような微妙な返事に葵は失笑をこらえながら、
慰めるように力を失った下腹を撫でる。
一度限界近くまで昂ぶっていたペニスは、わずかな刺激ですぐに活力を取り戻し、
今度こそ欲望を果たそうと手の中で暴れた。
「龍麻は、私のどこが好きなの?」
「……優しいところ、とか」
「嘘ばっかり。どうせ胸とかなんでしょう」
「そんなことないって」
「あら、じゃあ胸はどうでもいい?」
「……そんなことも、ないけど」
「どこかあるんでしょ? 教えてよ」
「うーん……やらしいところかな」
「もう……ひどい」
語尾を龍麻の口の中で溶かし、手を握る。
舌先を軽くそよがせた後、頬擦りしながら続きを囁いた。
「でも、本当はね」
「何?」
「本当は……考えてたわ」
何を、と尋ね返す前に、太腿が葵のそれに挟みこまれる。
少し火照って熱を帯びた肌と、その表面にうっすらと浮かんだ汗、
そしてもう一つ、別の種類の湿りが腿に伝わってきた。
「目が覚めてね、龍麻が隣にいるって思ったら、こんなになっちゃった」
「こんなに……って、なんかもの凄く濡れてるんだけど」
「いやね、最初からこんなじゃないわ」
「いつから?」
「龍麻が興奮しちゃったのを隠そうとした時くらいかしら」
「……知ってたの?」
「判るわよ。あんな腰を引いて、変な姿勢したら」
「そっか……な、もう……」
「……ええ」
小声で頷いた葵は龍麻の胸板に手をついて身体を起こし、
はちきれそうになっているペニスを掴み、ゆっくりと腰を下ろした。
粘膜が焼ける感覚を味わいながら、体内に龍麻を迎え入れる。
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