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 その時、これまで一言も発しなかったギルが、初めて口を開いた。
「なぜ、カイを一人で行かせた」
 ギルの声は冥界に吹く風よりも冷たかった。
カイが死ぬよりも辛い辱めを受け、精神を壊してしまったその原因が、恋人が信じた神にあったのだ。
ギルの絶望は、誰によってもあがなえるものではなかった。
 イシターを犯すことで報復が果たせるなどとギルは思っていない。
だが、カイの受けた辱めの、ほんのわずかでもこの女神に思い知らせてやらねば、
という復讐心に若い騎士は駆られる己を抑えられなかった。
助けを差し伸べるのが悪魔であっても構わない。
神に、人間を駒のように玩ぶ神に報いをくれてやれれば、ギルは魂が地獄に落ちることさえいとわなかった。
「それは……」
 怒りをぶつける人間に、神が言葉を詰まらせる。
その事実が、ギルの怒りが不当なものではないと語っていた。
あるいはギルは、この瞬間までカイが信じた神を信じようとしていたのかもしれない。
しかしイシターの態度は、最後に残った信仰の欠片さえ打ち砕くものだった。
 憎悪で焼き尽さんばかりにイシターを睨みつけたギルは、
閉じようとする足を強引に開かせると、前戯も行わず男根を挿入した。
「あッ、うぁッ……!」
 イシターは声にならない叫びを発して、肢体をのけ反らせた。
慈悲のひとしずくもない酷い行為に、女神は打ち上げられた魚のように惨めに痙攣するしかなかった。
しかも苦痛は、それで終わりではない。
女神の陵辱を果たしたギルは、女神の顔から苦痛が消えるのを許さず、腰を打ちつけ始めたのだ。
「ひっ……ぁ、やめ……なさ、い、ギルガメス……うぁっ」
 ほとんど濡れていない状態で行われる抽送は、のこぎりを引かれるのと変わらない。
体内に爆ぜる激痛に、イシターは全身をこわばらせて耐えた。
侵入を拒む狭隘きょうあいな肉洞を、ギルは構わずえぐる。
快感など求めず、また与える必要もない。
ただ復讐心と、カイを救うために必要なことだから行うという意識のみに支配され、
ギルは強引な抽送を繰りかえした。
「あぅっ、くっ、ひぃ、はっ」
 およそ女神の美しい唇から発せられたとは思えない醜い悲鳴も、ギルの耳には届かない。
 ギルは、まだカイを知らなかった。
そしてカイも、ギルを知らなかった。
なのにカイは魔物に囚われ、聞いただけで吐き気をもよおすような辱めを受け、
その心は永遠に砕かれてしまったのだ。
 ギルは赦せなかった。
自分自身と、カイをそそのかした女神を。
「くぅ……っ、ギ、ル……」
 助けを求めるように腕を掴むイシターの手を、ギルは払いのける。
イシターは再度手を伸ばしたが、それが届くことはなかった。
「ダメよ、女神様」
 彼女の両手を頭上で抑えつけたサキュバスが、軽い口調でたしなめる。
人間による神の陵辱が天界にとってどのような事態をもたらすか、
知っていてサキュバスは愉しんでいた。
愉しまないはずがない。
天界の崩壊は彼女の望むところであるし、彼女は淫魔なのだ。
牡と牝の交わりに興奮しないはずがなく、
なんといっても今眼前で犯されているイシターは性愛の大女神だ。
最高の舞台を前にして、サキュバスはかつてない昂ぶりを覚えていた。
 獣のように床に這い、唇を淫靡に舐めまわすと、逆しまにイシターに顔を近づける。
「んっ……!」
 イシターは口を閉ざして拒むが、サキュバスは構わず蛭のように吸いつき、
巫女の舌を使って女神の唇をなぶった。
唾液が垂れるのも構わず舌を一杯にまで伸ばし、固く閉じた門扉を開かせようと舌先を蠢かせる。
「んんっ、んぅ」
 下腹を苛む激痛と、顔に伝わる生ぬるい気持ち悪さに、細い眉が歪む。
サキュバスの、身体の持ち主ならば決してしないであろう淫猥な舌の動きに女神は翻弄されるばかりだった。
閉ざした唇の隙間から鼻の近くまで、ところ構わずに舌が這う。
時に鼻の穴にまで入ってくる粘塊に、しみひとつない乳白色のイシターの顔は妖しくぬめっていった。
口を閉じ、鼻腔もこのありさまでは呼吸ができない。
しかも下半身はギルがほとんど力任せに腰を叩きつけており、
強く意識を持っていないと口が開いてしまう。
 それでもイシターは良く耐えていたが、執拗に這いまわる舌に、遂に一瞬、顎の力を抜いてしまった。
 その、まさしく悪魔的な瞬間に、サキュバスは舌を侵入させる。
ひとたび侵入を許してしまえば、イシターにはもうどうしようもなかった。
自分を信じ、悪魔に囚われた巫女の舌を噛むことはできない。
たとえそれが悪魔に支配されてのことであったとしても、自分を信じてくれた者を傷つけることは、
イシターにはできなかった。
 カイの舌が、口腔の奥をまさぐる。
女神が抵抗しないと知ったサキュバスは、イシターを組み敷き、口の中をねぶり始めた。
容赦なく顎を開かせると、歯が当たるほど口を押しつけ、舌を絡める。
イシターは無論応じなかったが、構わずすすり、歯列の隙間に至るまでを執拗に犯していった。
「あぁ……ぁ……」
 喘ぎさえ奪われたイシターから、鼻声に近いうめきが漏れる。
抗うことも、逃れることもできないで愛撫を受けていれば、
少しずつでも快感が高まっていくのは避けられない。
ましてや性の技に長けたサキュバスのくちづけでは、
信仰と尊敬を一身に集める女神といえども篭絡されてしまうまでに、さほど時間はかからなかった。
「ぅ、ぁ……」
 舌の表面を撫でられ、イシターは背筋を反らせる。
呼吸すら忘れるほどの快感に、頭の中が白んだ。
その瞬間に、体内を貫いている男の杭がはらを撃った。
「……っ、っぁ!!」
 たまらずよろこんでしまう。
サキュバスに口を塞がれたまま、イシターはむせいだ。
腹のところでせき止めていた、受け入れてはならない愉悦が、一気に全身に回っていく。
若く、猛々しい男根。
どれほど抗おうとしても、性を司る女神は、その神性にふさわしいみだりがわしさを持ち合わせている。
愛撫すらされていない、怯えたままの身体にねじこまれた猛りは暴力でしかなかった。
だが男根に奥まで貫かれてしまうと、下腹がそれを受け入れようとうごめき、淫らな熱が全身を冒し始めるのだ。
加えてサキュバスの、性的な快楽の夢を与え、
人間から精力を吸い取る淫魔の愛撫は、一夜にして聖人も色欲狂に成り果てると言われる。
むしろ、これまでイシターは良く耐えていたと言ってよかった。
「あ……あっ、あ……」
 吐息が甘く、熱を帯びていく。
荒々しく繰りかえされる抽送と、細やかに行われる愛撫は、二つの波となってイシターの全身を舐めていった。
「イシター様って敏感なんだ。さすがは愛の女神様ってところかしらね」
 イシターの上半身を背後から抱き起こしたサキュバスは、女神の熟れた乳房に指先を這わせる。
カイの手に余るほど大きく、それでいて張りを失っていない乳房の中心にある、
薄いあずき色をした部分は、淫魔の優しいほどの手つきにすぐに反応した。
「ね……気持ちいい? 気持ちいいでしょう?
こんなに固くしているんですものね、気持ち良くてたまらなくなってるんでしょう?」
 薄く赤らんでいる耳に息を吹きかけ、羞恥の言葉を囁く。
摘まめるほどの大きさになった乳首をゆっくりとしごき、こりこりと捻ってやると、
女神の喉が心地良さそうに震えた。
「あぁ……ん、っふぅ……っ、ち、が……いま、す……」
 しかし、イシターはなお拒む。
悪魔と人間に犯され、快楽に溺れてしまうなど女神には許されなかったのだ。
たとえ身体は感じてしまっても、心を委ねるわけにはいかない。
足をギルの肩に乗せられ、深く身体を折られた状態で嬲られながらイシターは屈せぬと誓っていた。
「あら残念、違うの?」
 サキュバスは怒ることもなく、囚われの女神に淫毒を囁く。
すっかり熟した耳朶に軽く息を吹きかけてやるだけで、
欲情した匂いが立ちこめることを、イシターはまだ知らないようだ。
知らぬ者をかどわかし、淫欲の沼に引きずりこむのはサキュバスの得意とするところであり、
聖職者を堕落させるのは、それ自体が至高の悦びだった。
 イシターの長い、絹織物のような光沢を放つ髪を掬ったサキュバスは、
露になった細いうなじに舌を這わせる。
じっとりと汗が浮かんだ、やはり上質の織物を思わせる肌は、サキュバスでさえ感嘆するほど美しい。
今サキュバスが借りているカイという娘も、
巫女に選ばれるだけあって均整の取れた肢体は充分に美しかったが、
やはりイシターの、成熟と清楚を完全に調和させ、そこに色香をまぶした肉体には及ばなかった。
 男根が女神の雌壷をかき回す、耳にまとわりつくような水音を下に聞きながら、
サキュバスは五本の指を見惚れるような美しさで操り、手の内に収めた乳房を愛しむ。
仰向けにされてもさほど形の崩れなかった、張りを持つ見事な肉果は、
しかし指が這うとその重みだけで沈みこんでしまうような柔らかさをも持ち合わせていた。
 女神の乳を大きな動きで捏ね、揉みしだいたサキュバスは、
その頂点にある今にも母乳が出そうにしこっているつぼみに爪を立てる。
「んっ……、あッ」
 イシターの声がうわずる。
快感と苦痛の狭間に陥った声は、爪の動きに合わせて強弱を変えた。
それはさながら楽器のようで、
そこから紡ぎ出される音色はどんな詩人の紡ぐ愛の歌よりも情感に訴えかけるものだった。
「ねぇ、女神様……もう我慢できないでしょう?
おっぱいもおxxこもこんなにされて、たまらないんでしょう?」
 イシターが楽器ならば、サキュバスは奏者にして歌い手だった。
恍惚に唇を濡らし、肌を燃やす女神の耳元に卑猥な言葉を注ぎ、
彼女の音色をより美しい調べに整えていく。
カイの声色で語られる淫らな言葉は、女神から徐々に抗う気力を奪っていった。
「あぁ……ぁ、ぁんっ……ぅ」
 閉じていたはずの口が、いつのまにか開いている。
背中に感じる温もりに身を委ね、それが悪魔が乗り移った巫女のものだと思い出して慌てて背を浮かせる。
すると身体を起こしたことによって、自分から深く牡を咥えることになってしまい、
たまらない痺れが雷鳴のように響く。
 イシターは自分が、もう逃れようのない檻に閉じ込められてしまったのだと悟るしかなかった。
枷はなく、縛められることもない。
だが、途切れることなく与えられる快感がイシターを縛りつける。
両の乳房と女の中心をいいように弄ばれて、もっと欲しいと願ってしまう気持ちを、
イシターはもう抑えられなくなっていた。



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