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三人が指定された病院に到着したのは、五時の五分前だった。
もう少し余裕を持って到着したかったのだが、新宿区から江東区ではどうしてもこれくらいかかってしまう。
「このフロアに、綺羅という患者が入院しているそうだ」
Azureは綺羅の病室の番号まで知らせていた。
その親切さが罠だという懸念を強くさせる。
「罠だとしたら……中で誰かが待ち構えているのかしら」
「病室内で何か仕掛けるとしたら、Azureって奴も相当常識がないよな」
「東摩君よりもね」
不愉快さが瞬間的に脊髄を登って脳に達したが、ここで騒げばさゆりの思う壺だと龍介は自重してドアをノックした。
中から反応はない。
龍介と支我は視線を交わし、支我が部屋の中からは見えない位置に移動した。
さゆりは強気にも龍介と一緒に部屋に入るつもりのようだ。
止めようとして龍介はやめ、もう一度ノックして反応がないのを確かめると、押しやるようにドアを開けた。
「……」
まだ部屋の内側は沈黙したままだ。
意を決して、龍介は中に入った。
少し遅れてさゆりが、次いで支我が入室する。
部屋には彼らが予想したようなものは何もなかった。
あったのはベッドがひとつとそこに眠る少年、あとはわずかな置物だけだった。
「眠っているのかしら?」
龍介達が部屋に入っても眼さえ開けない少年を見て、さゆりが囁いた。
「いや……意識がないみたいだな。寝返りを打ったり、動いた形跡がない」
龍介が囁き返すと、支我が付け足した。
「それにあのチューブ、胃へ直接栄養を送るものだろう」
支我の観察力に舌を巻きながら、龍介も彼が見たものを見た。
まだ中学生には見えない少年の、小さな身体の中央に接続されたチューブは、龍介に苦い記憶を呼び起こさせる。
この少年がどのような事情でこんな風な痛ましい姿になってしまったのかは判らないが、同情を禁じえなかった。
龍介が壁の方に顔を向けたので、彼の表情は他の二人には見えなかった。
もし見ていれば、普段と異なる険しい顔をしている龍介を、不思議に思ったかもしれない。
「Azureからはこの子に話を聞けって連絡が来たのよね?」
「いや、綺羅という患者の部屋を訪ねろと言ってきたのであって、話を聞けとは言っていない」
支我は雑誌編集者というよりは新聞記者めいた表現への気の使いようだった。
彼がそう言ったのには理由があると考えたさゆりは、数秒唇を硬く引き結んだあと、彼が言いたいことを理解した。
「じゃあこの場所に事件に関する何らかの手がかりがあるってこと? 空っぽの鳥かごとチェス盤しかないわよ」
さゆりの言う通り、この病室には彼女が指摘した二つ以外は何もなかった。
本やその他、彼の身の回りの品は、彼が寝たきりだからないのだとしても、
彼の付き添い、あるいは見舞いに来た誰かが、ひとつくらいは置いていきそうなどんな品もなく、
はっきり言えば誰かがこの部屋を訪れた形跡さえなかった。
「鳥かごとチェス盤か……中世の静物画みたいだな」
十六世紀頃のヨーロッパでなんらかの寓意を秘めたものを描く、
空虚という意味を持つ、ヴァニタスという静物画のジャンルが流行した。
骸骨は避けられない死を、砂時計は人生の短さを、チェス盤は触覚を暗示するといった具合にだ。
空の鳥かごはさしずめ、得られない自由といったところだろうか。
「でもこれは現実よ。誰かが意図を持って置いたなんて考えにくいわ」
「それはそうだが」
さゆりが苛立っているのは、眠っている少年に多少なりと同情しているからだろうか。
引き下がった支我に一瞥を与えたさゆりは、今度は龍介に矛先を向けた。
「ちょっと、何黙ってるのよ。あんたも少しは考えなさいよ」
「考えるって、何をだよ」
「事件の手がかりをよ!」
さゆりの声が高まり、病室で許される限度を超えたと判断した支我がたしなめようとすると、突然病室の扉が開いた。
三人が驚いてドアの方を見ると、上品なベストを着た少年が立っていた。
少年は小柄で、中学生くらいに見える。
灰色がかった髪と明るく大きな茶色の瞳は日本人離れしていて、さまざまな意味で彼が何者か、龍介達には見当もつかなかった。
少年も龍介達に驚いたようだったが、瞳に浮かんだ驚きは一瞬で消え、落ちついた声で質問した。
「君達は一体……?」
「俺達は五時にこの場所で待ち合わせをするよう言われてきたんだけど、心当たりはないか?」
「じゃあ、君達が夕隙社の……? まさか、学生だったなんて」
龍介の返答に再び目を瞠った少年は、三人を順に見渡して告げた。
「君達を呼んだのは僕だよ」
「それじゃ……あなたがAzure?」
さゆりが確認すると、少年はあっさり頷いた。
「うん。詳しい話はここではなんだから外に出よう」
病室を出た少年に、龍介達も続いた。
待合室には人が居たので、一度病院を出る。
人気の少ない場所に来たところで、少年が名乗った。
「僕の名前は久伎千草。中央区、トリニティ・カレッジ附属高校の三年生だよ」
千草が中学生どころか同じ歳であることに、龍介は内心で驚いた。
見た目で人を判断してはいけないという普遍的な真理を痛感させられたわけで、恥じいるしかない。
黙った龍介に代わって、支我が質問した。
「何故Azureという名前を使ってまで俺達に接触してきたんだ?」
依頼が自分たちを誘い出すためだと考えたのか、彼の口調は厳しい。
しかし、千草は動揺したりせず、落ちついて説明した。
「この東京で霊と接触し、それに対抗できると言われる人達に会ってみたかったんだよ。
本当に噂通りなのかどうか、自分の瞳で確かめたいなって」
「なるほど……それで時間まで指定して。随分と回りくどいやり方だな」
「慎重だと言ってくれないかな?」
千草は公式の誤った使い方を指摘する数学教師めいた厳しさの支我相手にも一歩も引かない。
それは、彼が興味本位で夕隙社と接触しようとしたのではなく、何か確固たる目的があってのことだと思われた。
今度はさゆりが彼に訊ねる。
「あの綺羅という少年は誰なの? あなたとどういう関係?」
その質問に初めて、千草の表情が揺れた。
軽く唇を噛み、落ちついた声から一転して自信のない口調になる。
「綺羅君と知り合ったのは、チェスの大会だったんだ」
「チェス? そういえば、病室にもチェス盤があったわね」
頷いた千草は話を続けた。
「僕はチェス部の部長をやっていて、毎年チェスのジュニア大会に出場しているんだ。そこで綺羅君と出会ったんだ。
驚いたよ。僕の五手先を読んでいたんだ。彼の盤を読む能力の高さが印象に残っていた」
チェス、囲碁、将棋といったボードゲームは、読みの能力がすなわち実力と言える。
プロ同士なら現在の盤面から自分が指しうる最善手を見つけ出すために数時間の長考に及ぶことも珍しくない。
ジュニア大会でも上位に入賞する実力の持ち主である千草は、綺羅が自分に匹敵する強さを持つとすぐに見抜いた。
「綺羅君とはすぐに仲良くなって、連絡先を交換した。いつか一緒にチェスをしようって約束したんだ。
でも、その約束は果たされなかった……交通事故だよ」
その言葉を耳にしたとき、龍介の身体は自然と強ばった。
さゆりが怪訝そうな顔をするが、気づかないふりをして、龍介は千草に訊ねた。
「それからずっと昏睡状態なのか」
「……うん。それからほぼ毎日、お見舞いに来ていたんだ」
綺羅が事故に遭ったのが、おおよそ一ヶ月前だという。
「あなたは、綺羅君と今起きている事件が関係してるって思うの?」
「うん。そう確信して依頼したんだ」
「鳥が関係しているんじゃないのか?」
千草は感心したように支我を見た。
「もうそこまで掴んでいるんだね」
「被害者の何人かと話をしたんだ。共通項は鳥のようなもの。そして、病室には空の鳥かごがあった」
「うん。綺羅君は鳥を飼っていたんだ。キアラって名前で、とても大切にしていた。
でも、つい一週間ほど前に、そのキアラが死んでしまったんだ。それからすぐ後のことなんだけど――
その日はお見舞いに行くのが遅れて、二十時少し前に病室へ行ったんだ。
その時に何かの気配と羽音のようなものを感じたんだけど、気配はすぐに消えてしまったし、
まさか霊だなんて考えもしなかった。でも、それからだよ。事件や事故が増えたのは。
たまたまお見舞いの時に、最近鳥に襲われて運びこまれた人が妙に多い、
だけど何人も怪我しているのに肝心の鳥の方が全く目撃されていないっていう話を耳にしてね。
それでもまだ僕は今回の事件が綺羅君と関係あるだなんて思わなかった」
「いつ関係があると気づいたんだ?」
「三日前だよ。お見舞いに来たときに、また噂話を聞いたんだ。それは、この病院で鳥のような羽音が聞こえる、とか、
鳥のようなものを見たっていう話だった。それでインターネットで調べてみたら、
事件や事故の発生場所はこの病院の近くに集中していた。もしかしてって思ったときは身体が震えたよ。
それが綺羅君の飼っていた鳥と関係してるなら、とても恐ろしいことが起きてるんじゃないかって」
「それで依頼をしたと言うことか」
「うん。これ以上被害を出さないためにも、そして綺羅君のためにも、なんとか君達に止めて欲しいんだ」
もともと千草の依頼は正式なものであり、断る理由もない。
龍介達は作戦を練り、装備を整えるために夕隙社へ戻ることにした。
扉が開く音ひとつ取っても、個性というものはある。
この春から加わった新たな音は、どちらかというと伏頼千鶴の好みではなかった。
あくまでも音が、であって、その音を発生させた人間が、ではない。
人間に関しては、むしろ好みである。
何しろ彼が入社して以来、夕隙社の収入はずっと増加しているのだから。
このままのペースでいけば、十年後にはこの、築三十年のくたびれたビルなど出て、
もっと大きく近代的なオフィスに引越しができるだろう。
だとすれば、ドアの開け閉めくらいでとやかく言うのは、おとなげないことなのかもしれなかった。
「ただいま戻りました」
「ドアは乱暴に開けないっていつも言ってるでしょ? 立てつけが悪くなってきてるんだから、壊れたら弁償してもらうわよ」
龍介がドアを開け閉めするようになったのは、ドアの歴史からすればまだ最近のことだ。
それで壊れたら弁償というのはあんまりではないかと支我正宗は思ったが、
金の問題に関して千鶴とやり合うのは良くないことだと知っているので、何も口を挟まず、
若干背中を引きつらせている龍介に同情の視線を向けただけで入室した。
「お帰りなさい」
龍介達を出迎えた千鶴は、彼らの他に見知らぬ少年がいることに気がついた。
年齢は龍介達と同年代かやや下だろうか、なかなかの美少年だ。
守備範囲外ではありそうだが、鑑賞するだけならどのような罪に問われるわけでもない。
千鶴は客人をソファに案内すべく立ち上がった。
「で、こちらはお客様?」
「こんにちは。あの……」
少年はどう自己紹介したものか迷っているらしい。
初々しさに母性本能めいたものを刺激されている千鶴に、支我が彼に代わって紹介した。
「彼が『Azure』です」
「貴方が……?」
「はい。僕がAzure――久伎千草です」
「夕隙社へようこそ。私が社長の伏頼千鶴よ」
依頼人が少年であったことに龍介達同様千鶴も驚いたが、上司の方は部下よりも割り切りが早かった。
本物の霊が存在する依頼で、きちんと報酬が支払われれば、子供であろうと宇宙人であろうと依頼は依頼なのだ。
支我から千草が編集部に来た理由を聞いた千鶴は、煙草に火を点け、一服してから少年達に命じた。
「それじゃ、ここまでの状況をまとめてみなさい」
ノートパソコンを開いた支我が、画面に素早く目を走らせながら報告した。
「まず、入院していた少年――綺羅は、事故によって脊椎損傷、昏睡状態にありました。
彼の飼っていた鳥が一週間ほど前に死に、それから、事故や事件が多発するようになった。
聞きこみの結果、襲われた人全員が鳥のようなものを見たと証言しています。
それに久伎君が病院で、鳥に襲われた人が運びこまれたという話を聞いています。
今回の事件は彼の飼っていた鳥が人間を襲っていると見て間違いなさそうです」
支我の報告に龍介とさゆり、それに久伎千草が頷く。
彼らを見渡しながら、千鶴は彼らの思考に筋道をつけてやる。
「それで、鳥の霊が関係していることは解ったけど、被害者達はどうして襲われたのかしら?」
「無差別に襲っているとは考えにくいですね」
「何か共通点があるのかしら? 襲われた場所も時間もバラバラなのに」
千鶴が言うと、支我がノートパソコンを操作しはじめた。
「もう一度聞きこみの内容を整頓してみよう。何か見落としていることがあるかもしれない」
全員が画面を覗きこもうとするが、ノートなので支我が操作するとかなり密集することになる。
支我の後ろに千鶴、左側に千草が陣取って、右側には龍介とさゆりだ。
さゆりの後ろから画面を見ようとした龍介の、鼻先をシャンプーの爽やかな香りが漂う。
思いの外彼女に近づいていることに気づいた龍介は、若干背中を反らした。
「何してるのよ、真面目に見なさいよ」
「見てるよ」
横目でじろりと睨むさゆりの追及をかわしたと思ったら、頭上で千鶴が笑っていた。
口の端を片方だけつり上げた、端的に言って下品な笑みだ。
一言言ってやりたい龍介だったが、そうすればさゆりがさらに怒るのは確実なので、ここは言葉を呑んでおいた。
支我は江東区周辺の地図を表示させている。
昨日聞きこみに行った場所にフラッグが立っていて、位置関係が一目で分かる。
「まず、最初に行った主婦の家と、次に行った男子高校生の家。この二軒では全く話を聞き出せなかった。
三軒目が自宅で襲われた若い女性だ」
「ジェルネイルをしている最中に襲われたって言ってたわよね」
さゆりもメモを取りだして参照している。
「それから爬虫類ショップ。ここの店長は店のシャッターを下ろしているときに襲われたんだったな」
「最後が夜釣りの男。若洲海浜公園で、夜釣りをしているときに襲われたって」
「ルアーにブラックライトを当ててる時って言ってたな」
支我とさゆりのコンビネーションは中々で、龍介が入りこむ余地はない。
入りこむ必要もないのだが、なんとなく手持ち無沙汰な感じもするのだった。
有用な情報は結局三件で、それらをもう一度精査してみる。
「ジェルネイル……ネイルか……ネイルはUVライトを当てて固めるって言ったよな」
支我の呟きに龍介とさゆりが同時に頷く。
きれいに揃った仕種に、千鶴が少し笑ったようだが、そんなことを気にしている場合ではない。
さゆりはメモをめくりあげ、書き留めた情報を確かめた。
「あのカメ、確か紫外線ライトで照らしてたって」
メモにもきちんと書いてあるし、さゆりは危うく買わされそうになったので良く覚えている。
ノートPCのフチを指で叩いていた支我が、不意に叫んだ。
「それに、ブラックライト……共通しているのは紫外線……そうか、紫外線か!」
UVライト、紫外線ライト、ブラックライト。
これらは名称は異なっても、紫外線を照射するという点は共通だ。
そして、そこに支我は何かを見いだしたようだった。
「どういうこと?」
「四色型色覚って知っているか?」
千草を含めた三人が一斉に首を振る。
「俺達人間は三原色のフルカラーで世界を見ている。だが、人間の視える可視域は限られているんだ。
これに対して、鳥の目には人間よりも一つ多い四種類の視細胞があるんだ。
これによって鳥は紫外線領域まで見ることができる。鳥には紫外線の光が見えていたんだ」
支我の説明に、千草が得心したように頷いた。
「ネイル、カメの水槽、夜釣りのブラックライト、全部に紫外線の光が共通しているんだね。
紫外線の光を目印に襲ってたってこと?」
「そうだ。おそらく、話の聞けなかった二人も、何らかの形で紫外線を発するものの近くにいたんだろう」
「なるほど、それならつじつまが合うね」
謎解きもタネが解ってしまえばどうということはない。
メモ帳に書きこみながらさゆりが言った。
「綺羅君の病室から出たキアラの霊は、ブラックライトを発するところに行って人を襲う。こういうこと?」
「そうだな、悪意を持って襲っているのかどうかはわからないが、そういう解釈でいいと思う」
「それじゃ、私達はどうやってキアラを探すの?
まさか道の真ん中で『ブラックライトを持っている人は居ませんか』って叫ぶわけにもいかないわよね」
ここでこれまで無言だった龍介が発言した。
「紫外線を目印にしてるんなら、こっちで紫外線を用意してやればいい」
「東摩」
龍介の意図を察知したのか、支我が彼を見る目には驚きが滲んでいた。
冷静な彼を驚かせたことに、龍介は内心で満足を覚える。
「病院から出て行くってわかってるんだから、その近くででっかいブラックライトでも点けて待てば、向こうから来るだろ」
「一理あるわね」
「でも、危なくないの?」
頷いた千鶴に続いてそう言ったのがさゆりだったので、龍介は驚いた。
まさか彼女に心配されるような日が、生きている間に訪れるとは思ってもいなかったのだ。
顎を引き、猫が喋るところを見たような表情で見つめる龍介に、さゆりはたちまち頬を紅潮させた。
「別にあんたを心配したんじゃないわ。久伎君が巻きこまれたら大変だって言ってるのよ」
「そりゃまあ、久伎君には隠れててもらうけど」
さゆりはなお不満なようで、黒い瞳に強い感情をほとばしらせていた。
苛立たしげに親指を口に当て、何かを思いついて再び口を開く。
「あれは使えないの? 前にヤクザの家でオタクが使った眩しい銃」
酷い説明に事情を知らない千草が不審げな顔をする。
しかし、彼に説明する者はおらず、代わりに千鶴が現況を告げた。
「今日は萌市が来ていないのよ。先月ちょっと給料が多かったからって、
なんとかいうアイドルのライブに行く回数を増やすって」
仕事よりも趣味を優先する輩などクビにしてしまいたいくらいだが、
表の――つまり、雑誌制作の方は滞りなく進めているし、それ以上に霊退治に有用な装置を開発する才能は
おいそれと見つかるものではなく、渋々使い続けるしかなかった。
「それに、プロトンガンなら今は確か修理中のはずだ」
「ああ、そんなこと言ってたわね。予算が欲しいって言ってたけど、二回に一回は壊してるんじゃちょっと無理よ」
そもそもプロトンガンは霊に対してはかなり有効な兵器であるものの、
駆動するためのエネルギーをチャージするコスト及び時間が大変にかさみ、
また、東京の街中でおいそれとは使えないので、千鶴としてはなるべく使ってほしくないのだ。
霊を退治しても破壊した建物の修理費や弁済費用で赤字になっては夕隙社が立ちゆかなくなってしまう。
最近になって龍介が加入し、コストを大幅に抑えられるようになって万々歳なところなので、
プロトンガンはできればお蔵入りさせてしまいたいくらいだった。
「もう……肝心なときに使えないのね」
腕を組んださゆりはこの場にいない誰かを睨みつける。
「仕方ないわね。東摩君が囮になって鳥の霊をおびきよせる作戦でいきましょう」
なぜか指揮官のように振る舞うさゆりに、発案を横取りされた気分になった龍介だった。
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