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「うわぁ……」
そう呟いたきり、次の言葉が出てこない。
見渡す限りの白い砂浜、蒼く澄んだ海原、遥か彼方の水平線。
椰子の木が無いのが惜しいくらい、葵の眼前にはイメージ通りの海岸が広がっていた。
「これ……どこまでがサラはんの家なんどす?」
「全部」
「え?」
「ここからあそこまで全部うちのよ」
簡単に言ってのけるサラに、葵はそれ以上言葉が出てこない。
ブライアント家が富豪だというのは解っているつもりだったが、
改めてスケールの違いを思い知らされた。
立ち尽くす葵をそのままにしておいて、サラは倉庫兼雨宿り用の小屋から
パラソルとサマーベッドを取り出し、砂浜の真ん中に並べる。
具合を確かめるようにベッドに横たわるサラを真似して、葵も隣のベッドに身体を伸ばした。
広大な砂浜の真ん中と言うことではじめこそ落ちつかなかったが、
見渡す限り人の姿もなく、ほどよく照りつける陽射しとあいまって、
異国の海を満喫しようという気分になりつつあった。
大きく伸びをする葵を横目で見ていたサラは、気取られないようバッグの中を探る。
お目当ての物をしっかりと掴むと、勢いをつけて立ちあがった。
「オイル塗ってあげるわよ」
そう言ってにじりよるサラによからぬ気配を感じて、葵は思わずベッドから飛びはね、後ずさりする。
「い、いえ、自分で塗れます」
「何言ってるの! 万が一塗り残しでもあったらどうする気よ!
この肌が日焼けするなんて私は絶対に許さないわよ。さ、そこに寝なさい」
気迫に満ちたサラの勢いに更にもう一歩後ずさりしようとしたが、砂に足を取られてしまった。
よろめいたところに素早く腰を抱きかかえられ、バレエのような格好で支えられる。
「あ……す、すいまへん」
「ほら……もう観念しなさい」
ほとんど抱きかかえられるようにして、うつぶせに寝かされてしまう。
抗ってもねじ伏せられてしまうのは明らかだったし、日に焼けてしまうのも嫌だった。
……それに、支えられた時、逆光に煌くサラの歯に眩しさを感じてもいたから、
葵は一時身を委ねることにした。
「ほなら、お願いしやす」
「任せてよ」
妙に力強い頷きに漠然とした不安を覚えていると、ぬるりとした生温かい液体が肌を濡らす。
なんともいえない感触にもう少しで声を上げてしまいそうになり、
さりげなく口を手首に押し付けた。
幸いにも気付かれなかったようで、
サラはオイルにまみれた細い指先を陽光に煌かせて丁寧に塗り広げていく。
その繊細な指つきは、葵の身体にじんわりと、陽の暑さだけではない火照りを生み出し、
ほどなく、葵はより強く口を押しつけねばならなくなってしまった。
「はぁ……それにしても綺麗よね。惚れ惚れしちゃう」
「サラはんかて、綺麗どす」
「ふふ、ありがと」
心底嬉しそうに笑うサラに、葵もつられて微笑む。
最初の出会いがそう思わせるのか、ベネッサには被保護者めいた気持ちを抱くことが多かったが、
サラに対しては姉と妹を行ったり来たりするような感覚で接することができた。
「サラはんは、ベネッサはんといつ頃からお知り合いなんどす?」
「え? えっと……まだ一年は経ってないんじゃないかな」
「そうなんどすか? 仲がよろしいから、もっと、ずっと昔からのお知り合いやと思うてました」
「まあね……レズだとは思ってなかったけど」
「あ……そ、そうどすね……」
葵は自分がベネッサのそばにいるようになったいきさつを思いだし、顔を赤らめる。
しかしサラの言葉には嫌悪の響きは無く、サラ自身は、
むしろ葵と接したことでそれを歓迎さえしていたのだった。
「葵は? 最初から女の子の方が好きだったの?」
「いえ……そないなことはありまへん」
「ふーん……じゃ、初恋は男の子だったんだ」
「あ、いえ……その、うちはまだ……男の人とか好きになったこと……」
「ないの?」
以前にもベネッサに似たような問いかけをされた葵はその時のことを思い出しつつ、小さく頷く。
しかし、サラはその時のベネッサよりも遥かに積極性に飛んだ眼差しを葵の横顔に投げかけてきた。
「あら、それじゃ私が立候補してもいいのね」
「へ? あの……それは……」
「私……本気よ」
透き通った空色の瞳に至近から見つめられ、葵は呼吸を忘れてしまう。
「サラ……はん……」
いつのまにか、肩が温もりに包まれている。
口紅も引いていないのに、ひどく艶かしい色のサラの唇が、催眠術をかけるように蠢く。
肩に置かれていた手が滑るように動き、向こう側からそっと顎を押しやって、そして──

葵の小さなため息を、サラは聞き逃さなかった。
離しかけた顔を止め、鼻をこすりつけるようにして葵の口元に囁く。
「何?」
「あ、いえ──」
「もっとキスしてても良かった?」
くすぐるような吐息に、葵は返事が出来ない。
その唇の端にもう一度自分のそれを押し付けたサラは、笑って起きあがった。
「でも、駄目よ。オイルがまだ塗り終わっていないもの」
いけずや──
心の中で頬を膨らませた葵は、枕にしていた腕の中に顔を埋めてしまった。
そんな葵が、サラにはもうどうしようもなくいじらしい。
こぼれでる程のオイルを手に取ったサラは、
無防備に晒けだされている日本人の少女の背中に遠慮無く食指を伸ばした。
「んっ……」
浮き出ている肩甲骨を撫でられ、身体が反応してしまう。
サラの指先はもうその意図を隠そうとせず、女性の敏感な場所を集中的に責めてきた。
二の腕の内側。
腋から腰に連なる、なだらかな曲線。
そしてその先の、丸みを帯びた丘。
「お尻、小さいのね。ベネッサとは大違い」
その淫らさに満ちた指先を、葵ももう否定しない。
「やっ、サラはん……あきま……へん……よ……」
「ん? どこが? この辺?」
期待通りの反応を見せる葵に、期待通りの反応で返したサラは、
内腿に力を込める葵の尻から足へと変わるラインをなぞり、足の隙間に指をねじ込んだ。
「は、ふっ……や、だめ……」
「葵は敏感なのね。触ってて楽しくなっちゃう」



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