お前はなぜここにいる。
「ここに生まれたからだ。他に理由はない」
なぜ、ここに留まる。
「ここで喰っていけないなら、他に行っても同じだ。生きていけないだろう。だから、追い出されないかぎりは、ここでなんとかやっていく」
なぜ、強くなりたい。
「さあ。わからないな。ただ、自分は弱いと思う。だから、もっと強くなりたいんだ」
ギルバートは、白い牙を見せて笑った。
守りたいんだと彼は言った。
「隠れていろ」
ランパスキャットがそう言うと、ギルバートは嫌そうにぴくぴく耳を動かした。けれど、結局は従った。彼より不満そうなコリコパットを連れて、その場から逃げ出す。
たぶん、本猫としてはとても従順に行動したつもりなんだろう。唸り声を残しながらギルバートに引き摺られて行ったコリコパットと違って、ギルバートは、欠片も表情を変えなかった。けれど、彼の大きな耳は癇癪を起こすように激しく動いた。
「なってないな」
ぴんと張ったひげの先まで、完全に統御できなければ、ポーカーフェイスの意味がない。
ギルバートは、まだまだ未熟だった。無理もない。彼は年若い。
ギルバートの手助けを断り、ふたりきりになってから、ランパスキャットはしみじみ目の前の敵と見つめ合った。体長は、ランパスの五倍ほどもあろうか。
長い身をくねらせて、蛇が猫に狙いを定めていた。小粒の黒い目が、きらきらとランパスキャットを見つめていた。身体と同じに細長い舌が、裂けた口からちろちろ出入りしている。いかにも「おいしそうだ」と舌なめずりされているようで、ランパスキャットは悪寒を走らせる。
胴体は細い。猫の脚と同じくらいだ。けれど全身の長さは、立ったニンゲンほどもある。
「めんどくせ…」
しかし、そうも言っていられなかった。なぜなら蛇はすっかりその気だった。丸呑みにしようと、鎌首をもたげる。
「夕飯にするか、されるか」
呟いて、ランパスキャットは笑った。ありえない。猫は捕食者だ。
「こんなに喰いきれねぇ」
鞭のように襲い掛かる蛇を避けながら、ランパスキャットは胃のあたりを撫でた。
蛇は、南国の生き物のにおいがした。
さらりと乾いた表面をもち、血からは濃厚に甘い植物のにおいが香る。それは、ランパスが嗅いだこともない、密林の匂いだった。蛇は、ニンゲンの檻から、逃げ出したのか。あるいは捨てられたか。街中の公園に出没していい生き物ではなかった。
生白い腹を晒して、蛇は息絶えていた。ランパスは本能的に蛇の頭を狙った。蛇は潰れて、赤い血が土に飛び散っている。白い顎が骨ごと露出していた。
青々と茂る芝生に腰を下ろして、ランパスキャットは鱗のある皮を牙で切り裂く。本日の食事は、量が多すぎて胃にもたれた。
背後に草の鳴る音を聞いて、ランパスキャットは鋭く振り返る。うねうね動く、紐に似た影はそこに居なかった。尖った耳をもつ丸い頭と、しなやかな手足をもつ身体。土手の上に仲間の形を見出して、彼は思わずほっと吐息を漏らした。
「戻ってきたのか」
「お前が消えていたら、俺がそいつの始末をつけなければならないだろう」
「馬鹿やろう、俺が負けるとでも思ってんのか」
「いや。
俺は、お前が負けるはずはないと思っていた」
ギルバートは、食事中のランパスに遠慮して、それ以上は近づこうとしない。構わず、ランパスは獲物に食いついた。
「けれどここは俺のテリトリーだ。様子を見に来るのは、当然だろう」
「ああ。そうだな」
「なぜなんだ、ランパス」
「……」
ギルバートは、拳を握ってランパスを睨み据える。
「マンカストラップから……マンカスの好意で、彼から譲り受けただけとは言え、曲がりなりにもここは俺の領域だ。俺が主だ。俺が、そいつの始末をつけるべきだった。
なぜ、お前はそれを俺にさせなかった」
ぺろりと唇の血をぬぐってから、ランパスキャットは獲物を手放した。蛇の胴が、波打ちながら土に跳ね返る。
「こいつは、お前には無理だ」
「それはわからないだろう」
「俺なら、確実にしとめられた」
「だが、俺だって勝てたかもしれない。いや、勝つか負けるかは問題じゃないんだ。ここが俺の狩場だということが、問題なんだ!」
ギルバートはさくりと草を踏んだ。爪先を滑らせるように足を開いて、身を沈める。前足を、軽く土に触れさせる。顔つきが獰猛に変わった。
「お前、やる気か?」
「ああ…食事は済んだんだろう、ランパス」
声さえ、いつもの彼と違う。ギルバートは、じりじりと距離を縮めた。礼儀を重んじる彼が、正面からランパスを睨みつける。ランパスと目線があっても、反らそうとしない。これは初めてのことだった。
身のほどを弁えているはずのギルバートが、到底かなわないと知りながら、無礼にもランパスキャットに挑みかかる。
ランパスは、しとめた獲物を目で量った。蛇は、半分も喰われずに死骸を晒している。その鮮やかな鱗。
おそらく、この国の生き物ではない。どこかから連れ去られ、人の手を逃げ出した蛇。この土地の寒さにやられて、動きが鈍かった。そうでなければ、これほどの大きな獲物を、ランパスとはいえしとめられたかどうか。
そして、今度はギルバートだ。
あまりのわりの合わなさに、ランパスは心底嫌になる。
親指を、唇の端に噛んだ。
「いい。やるだけ無駄だ。結果は見えてる。だから、俺の勝ちってことにしとけ」
「ランパス…」
「それで、俺が勝ったからお前はここから出て行くつもりだろう?
止めねえよ。好きにしろ」
ランパスは、ギルバートから視線を逸らしてごろんと横になった。
「ランパス、いい加減にしろ…立て」
「なんだよ。寝てる俺に不意打ちかけることもできねえくせに。できるわけねえよな。お前、が」
「ランパス。起きろ。俺を侮辱するつもりか」
「弱いやつのことは、馬鹿にしたっていいんだ。お前、知らないのか」
「ランパス。俺を怒らせるな」
「怒らせたからってどうなんだよ」
そう言うと、ランパスキャットはギルバートに背中を向けた。ギルバートは、目を閉じて横たわる雄猫へ、爪をむき出して襲い掛かった。喉笛の太く隆起した首筋を掴み取り、地面にランパスキャットの身体を押し付け、頭上高く爪を掲げる。
鋭くむき出した爪が、新円を描いた月に収まるのを、ランパスキャットはじっと見つめていた。
「ランパス!」
「悔しければ、俺を本気にさせられるくらいには、……強くなってみせろ」
「ここまでしても、お前は」
「お前とやりあうつもりはない」
ランパスは静かに瞼を閉じた。
胸に風が吹きつけ、火を押し付けられたような痛みが走っても、もはや彼の青い瞳をギルバートに見せることはなかった。
「そこまで、俺を、馬鹿にするのかっ」
悲痛なギルバートの悲鳴にも、ランパスキャットは答えない。
傷つけられた身体を、面倒そうに地面に投げ出すだけだった。
「ランパス、お前は、間違ってる」
金属的な響きを帯びた、ギルバートの声が鳴り響く。
「お前は俺たちを守ったつもりかもしれないが、そんなことは何の役にも立たない。弱いやつは弱いままだからだ」
普段の彼の声は、理性的で、平坦といってもいいほど感情がない。
けれど、どこかに温かさを潜めた気持ちのいい声だった。
今のギルバートの鳴き声は、ランパスの血を見た興奮からか、ガラスに爪をたてたように聴きづらい。耳に留めた者の心を、ささくれさせた。
「誰かを一時守るために、自分を危うくするのが尊いことか? 誰かの為に使えるほど、お前たちの命は安いのか。お前が殺した命、踏んだ草、お前自身にはそれだけの価値しかないのか。
お前たちには誇りというものがないのか!!」
彼らの傍には、蛇が骸を晒している。
「お前たち、か。
マンカストラップへの鬱憤まで、俺にぶちまけるなよ」
それだけが、ランパスキャットが年若いギルバートへ贈った忠告だった。
昨年生まれたばかりのギルバートが持つには、あまりに分不相応な広いテリトリー。木々が鬱蒼と茂り、濃い叢が陰影を齎す。豊富な獲物と、昼間にはひっきりなしに行き来するニンゲンたち。
そこから、三毛猫の姿だけが消える事をランパスキャットは覚悟していた。けれど、まだら猫の予想に反して、次の日にもギルバートは、公園の土の上にしっかりと立っていた。
ランパスキャットは、少し彼を見直した。
矜持を傷つけられて、すごすごどこかに逃げ出したかと思っていたのに、ギルバートは図太く根城を変えなかった。
だから、珍しく自分から声をかけてやった。
「よう」
ギルバートは、強い雄に道を譲ろうと足を引いたが、ランパスキャット自身に呼び止められたので、顎を上げて白黒猫を見上げた。
「ランパス、昨日は…」
「いいって。堅苦しいことは抜きにしようや」
「ランパス…」
ギルバートは、ランパスの胸に走った爪あとを目を眇めて見つめた。詫びるように、自分のつけた傷に顔を寄せる。
「よせよ」
ランパスキャットは、跪こうとするギルバートを頭を掴んで制した。そこまで、プライドを捨てさせなくてもいい。
もし、これがマンカストラップのような成獣相手だったなら、足元に這い蹲らせて詫びを入れさせるのも面白い。けれど、ギルバートは駄目だ。子ども相手では、させている自分のほうが滑稽に思えてしまう。
ギルバートは、情けを掛けられたと思ったらしい。唇を隠すように、歯を喰い締める。
「すまない」
「いいって。俺は、触られるのが嫌いなんだよ」
雌以外には、と口のなかで呟く。ギルバートには聞こえなかったようだった。
「そうか…」
それなら、と、ギルバートは、膝を払った。無理に手当てを進めようとはしない。もし、これが正当な喧嘩で負わせた手傷なら、ギルバートもランパスに指一本、触れようとはしないだろう。
本来なら、ギルバートがランパスキャットに傷ひとつ付けられるはずはない。実力の差がある。自分を落ち着ける為に、わざとランパスキャットが許したのだと知っていたので、ギルバートはランパスの傷から、目を離さなかった。彼は、何重にも打ちのめされていた。
「俺は、お前がいなくなると思ってた」
ランパスキャットは残酷で、隠すことなく思っていたことを述べる。いつものように気安げな笑い顔が、いっそう彼の酷薄を際立てた。
薄い身体と、よく撓る長い手足を持ったランパスキャットは、ギルバートを睥睨する。圧されて、少年は毛並みを逆立てた。
「俺は、今もお前が正しいとは思わない」
ギルバートは確かにそう言った。頑固な子どもに、ランパスキャットはため息をつく。
「ランパス。お前やマンカストラップは、誰よりも群れを守ってる。だけど、俺はそれを立派なことだとは思わない」
「ああ?」
「だけど、お前たちがそうしたいなら、俺が口をだす筋合いじゃなかった。
そういう意味で、昨夜は迷惑をかけた」
睨まれながら謝られたことに、ランパスキャットは声をたてて笑った。限定ありの謝り文句。こんなに不愉快にさせられたのは、いつぶりだろう。
若いくせに、ギルバートはけっこうやる奴だった。
「俺は、決してそんなことはしない」
「あー…聞いてねえよ」
白い毛並みをかき乱しながら、ランパスキャットは気の抜けた声を上げる。
本当に、こんな面倒な問答からはすぐにケツを捲くって逃げ出したいところだった。
それをしないのは、ランパスキャットも、挑まれて背中を向けられるほど悟っていなかったからだった。血気盛んな少年と、そう違いのない自分を自嘲しながら、おざなりに相槌を返す。
「なに。お前、可愛い女の子が襲われていても、無視すんのかぁ?」
「自分の面倒も見られないやつが、誰かを守ろうなんておこがましい話だ。
完全に自分の足で立って、だれの手も借りずに生きていくことができたら…。俺は、いつかきっとそうなる。きっとだ。
それまでは、俺は俺を生かす。それ以外を考えるのは、傲慢だ」
ギルバートは真顔で言う。本気なんだろう。もともと、冗談を飛ばすたちでもない。
「ギルバート」
「ああ。なんだ」
「お前は、一生、自分のため以外には、指一本動かせねえよ」
ランパスキャットは、くしゃりと顔を笑いの形にゆがませると、土を蹴立ててそこから退散した。腹の底から沸き立つような高揚感は、波紋も残さず消えていた。
ランパスを見つめ返す彼の頑なな瞳は、黒く光を弾いた。何者も寄せ付けないという、決意に硬く張り詰めていた。
それが変わったのは、いつの日からだろう。
ギルバートは、とろけるような目をして猫を見るようになった。ごく一部の猫を。
「タントミール」
呼ばれると、彼女は体中で振り向いた。
「こんにちは、ランパスキャット」
乾いたことなど一度もないような、艶やかに濡れた瞳、唇、肌。中でも青い瞳は、彼女の種族に共通のものだった。彼女がギルバートに添うようになってから、ギルバートは纏う空気までをも変えた。彼女の華やかさが、傍にいる誰もに、明るさを差し掛ける。月のない闇夜でさえ、彼女の香りは馥郁と漂って、雄猫を惹きつけた。
「あまりひとりになるな」
ランパスキャットは、彼女の肩を抱きながら忠告する。肩に掛かったランパスの手を取ると、彼女はふいにそれを放した。自由になって、踊るような足取りで駆ける。
振り返らずに問いかけた。
「マキャヴィティ…?」
「ああ、まあ。それ以外にも、あるけどな」
ランパスキャットは、空いた手で額をかきあげる。乱暴な仕草だが、タントミールは意に介さなかった。
「大丈夫よ。私たちは、もともと夜の眷属なのだし、ジェリクルムーンも近いのだから」
「だから、心配なんだ」
「やっぱり、貴方が一番気にかけているのは、マキャヴィティのことなのね」
「違うって」
タントミールは、緩く頭をふってみせた。子どもの我侭を、言い聞かせるようなしぐさだった。ランパスキャットの嘘を見透かす。
「月が近づくにつれて、『彼』の気配が濃くなる気がする。私だけじゃなかった、の」
「…タントミール、送っていこうか」
彼女の住むニンゲンつきの住居は、小高い場所にある。街の中心に位置しているから、ごみためからは遠かった。異臭を放つジャンクヤードは、彼女とかけ離れている。すべての猫があつまる集会場も、彼女の華奢な足にとっては、歩きなれない場所だったろう。
タントミールは、宝石のようなごみを取り上げて石像のごとくに微笑んだ。
「大丈夫。私には、『彼』に奪われて困るものもないんだから、心配しないで」
ランパスキャットは、彼女の瞳を見つめた。
儚いくらい薄い青なのに、雄猫の鋭い双眸をゆったりと受け止めて、微笑みに溶かしこむ。ねめつけられて、体を揺らしもしない。彼女は、無防備に背中を向けると夜の街へむかってまた一歩足を踏み込んだ。
「おい」
「心配しないで。ギルバートも貴方も、ふふ。少し心配しすぎよ」
何を考えているのかわからない。
どんなに子供でも、内気なように見えても、底知れないのが雌猫たちの習性だった。
数日前にタントミールが見せた、神秘的な微笑みを重ねて思い出す。ランパスキャットは、打ちひしがれる雄猫の背中を見下ろした。すっかり大人になって、それでもあまり大きくはない背中。
無骨に隆起する背中は、悔しさを押さえきれず震えている。
ギルバートは、拳で地面を叩いて自分を呪っていた。
自分と、マキャヴィティとを。
「いーかげんにしろよ。いいじゃねえか。結局、タントミールも無事だったんだし」
ギルバートは、目を光らせてランパスキャットを睨んだ。悪い事を言ったわけでもないのに。ランパスキャットは、肩をすくめた。
夜は明けて、清浄な光がジャンクヤードを照らしている。強い光が差し込んで、顔を上げるギルバートの、黒い瞳をぎらぎら輝かせる。
「結果的に、だ」
「お前なぁ…自分が助けられなかったからって、拗ねるなよ」
ランパスは、下唇を突き出すようにして顔をゆがめる。まだら猫の揶揄の表情に、ギルバートは笑って答えた。調子はずれの笑い声は、まったくもって不健康だった。
「ああ、お前たちには礼を言う。お前たちが、群を守った」
「……含みのある言い方をするなよ」
「俺が悔しがるのが不思議なことか? ちくしょう、俺があいつを捕まえて、仮面を剥いでやりたかった」
恋猫を傷つけられて、ギルバートは明らかに逸っていた。いつも表情を押し殺す彼の顔が、血気にどす黒いほど紅潮する。ギルバートの分まで、ランパスは体の力を抜いた。だらりと顎を上げて、手を広げる。
「そんな、なあ?
いいんじゃねえの。みんな無事だったんだし」
「ふざけるな、ランパス。お前、もう帰れ」
「俺は帰りたいよ。けどな、俺の帰り道にお前がでんと腰を降ろしてたら、俺が通れないだろう? 俺に、お前を避けて歩けっていうのか?」
ギルバートは、また笑った。低く平坦な笑い声は、やはり明朗さを欠いていた。
「そうか。それはすまない。さあ、行け」
土に指を埋めて握り締めていたギルバートは、風を巻き起こして立ち上がると、胸の触れそうな距離でランパスキャットの前に立った。
「頭冷やせ」
声は、年長者の威厳に溢れて冷たかった。
ギルバートが猛れば猛るほど、ランパスキャットは冷める。ギルバートほどではないが、彼自身も、マキャヴィティによって手傷を負わされている。手をあてて感触を確かめながら、ランパスはギルバートを憐れむ。
ギルバートは、塞がりかけた傷が血を噴出すほど興奮していた。
「ランパス、お前は正しかった」
ランパスキャットに挑むように爪をむき出しながら、ギルバートが吠える。
「俺は、守りたい。
俺は、俺の大事なものに手をふれるやつを許さない。
決して、許さない。追い詰めて、消してやる」
「…勝手にしろ」
「守る。どんなことをしても。ランパス、お前は正しかった。
どうしても、あいつを捕まえて消してやる!!」
ギルバートを押しのけて、ランパスキャットは家路についた。ギルバートの絶叫が反響して、ランパスは耳の奥にそれを思い出すたび、奥歯を食い締めた。
朝日は、路地裏のごみもひびわれも、全てを隠すことなく明らかにした。
どこまでも見通せる道に、道のりの遠さを思ってうんざりする。
「守りたい」
ギルバートは、ねぐらに一匹の猫を匿っていた。
誰も名前を知らない、優しい色の猫。
「守ってやるから」
タントミールの、チョコレート色の毛並みと、青い双眸。
美しいそれを思い浮かべながら、ギルバートは何度でも誓う。彼女を守りたい。手の中の温かい体が、ふわりとギルバートを抱き返す。柔らかい毛並みが、ギルバートの鼻をくすぐった。
「お前のこと、守るから」
ランパスキャットに聞かれて、彼は答えた。
「強くなりたい」
猫は、誰もが、他の誰にも知られない秘密を、自分の胸にだけ握っている。
「守りたいんだ」と、ギルバートは言った。
猫の秘密