ランペルティーザは、ショーウィンドウのなかに映りこむタガーをどきどきと見つめた。ライオンのような鬣と、笑っているのに不機嫌そうな顔を、睨みつける。
金色の瞳を動かして、ぺたりとガラスにすがりつく自分の姿に焦点を合わせるとそこには、小柄だけれど、ちゃんと女の子が立っていた。毛並みは野性味溢れたトラ柄だし、タガーに似合う。顔だってすごく可愛い。

「よっし」

勢いよく踵を返そうとしたとき、ガラスの中、腰のあたりでぴょこんと跳ねたものがあった。落ち着き無く、ぴこぴこ動いている。
短い自分のしっぽを手繰り寄せて、ランペルティーザはため息をついた。
タガーに声を掛けている女性たちの、腰からすらりと伸びているのは彼女たち自身みたいに細くて優美な、長い長いしっぽ。

ランペルティーザは力なく手を開いた。短いから、しっぽは掌を撫でてすぐ逃げていく。タガーを囲む雌猫たちの高い背と、長い手足を見つめて、小柄なランペルティーザは少しの間立ち尽くした。
突然、体の先に走る細い痛みとともに、背筋をぞわぞわっとくすぐったさが駆け上がっていく。

「なーにするのよぉっ」
「はんぺ、ないやってるの」

ランペルティーザがしっぽを持ち上げると、細い牙でそこにかぶりついている赤毛の雄猫もついでに釣りあがった。マンゴジェリー。彼がぷはっと息を吐き出すと、重さを失ったランペルティーザのしっぽはぴぃぃん!と勢いよく天上を指した。

「ランペルティーザ元気ないな、どした?」
「くすぐったいじゃない! あ、しっぽの毛並みぐちゃぐちゃ。何するのよ、もう」
「だって、嬉しくって」
「何が?」
「だって、ほかの皆、しっぽが長いのに、俺のランペルティーザだけしっぽが短い!」
「…なによぉ、私だけじゃないわよ」
「ううん、ランペのしっぽが特別短い。特別かわいい!」

ランペルティーザはガラスの鏡に向かう。そこにいたのは、ふくれた顔をして、でも嬉しそうな雌猫。必要もないのにもう一度、時間をかけて頭の先から毛並みを整えていると、マンゴジェリーが横から手をだして手伝った。
短いしっぽをちょっといやだなと思ったこと、今は嘘のようだった。ぴこぴこ動いて、可愛いじゃん。
くるんとカールした髭の先から短くて太いしっぽまで、つやつやだと確認してから、今度こそ大好きなタガーに向かって突進する。風を蹴立てて。相棒の「がんばれ〜」という声に、背中を押された。


『しっぽ』
2008.06.09