川島さんはトランクスだけになって私の上に覆い被さってきた。
またキスから始まる。
「ふ…っ」
すぐに舌が入ってくる。
絡めて、吸って、その間に手は互いの体をまさぐる。
硬い体。体重を支えてる腕の筋肉。広い背中。
夢の中でも想像して、薬のおかげで現実と思えるほど真に迫っていたけど、やっぱり本物は違った。
男の人の肌も案外すべすべしてるんだ。
背中を撫でながらそう感じた。
もっとざらざらしてたり、年齢的にちょっとぺたぺたしたりするのかな、って思ってた。
そしてすごく温かい。
川島さんの手がTシャツを胸の上までまくり上げる。
「きゃ…っ」
「かわいい声、出せるじゃない」
どういう意味だ。
「きみが思っている以上にきみは女の子なんだよ」
そう、だろうか?
「胸もずいぶん気にしてるみたいだけどね」
あああ! そうだ! ちょっ、見ないで! もう遅いような気もするけど、見ちゃだめ!
慌てて手で隠そうとしたら、その手を押さえつけられた。
「や…ぁっ」
またぞくっとした。
手を押さえつけられて抵抗できない状況ってなんか……。
「感じやすいし色も綺麗だし。こういうサイズが好きって人にはたまらないだろうね」
か、川島さんは?
私にはそういうサイズが好きな人よりも川島さんがどう思うかの方が重要なんだけど。
聞いていいものかどうかわからなくて、じいっと見つめると、川島さんは胸に顔を寄せた。
「あああっ!」
胸の上を川島さんの唇が滑る。
乾いた唇はさらさらしていて、気持ちがいい。
つうっと舌で舐められる。
「う、はぁ…んっ」
びくん、と背中が反った。互いにパンツしか身につけてない下半身が擦れあう。
「ひあっ、あああ」
体中がぞくぞくしてたまらない。
怖いのに、欲しい。
川島さんが欲しい。
ぎゅってしてほしい。
ちゅう、と音を立てて川島さんが胸を強く吸った。
「あ! あああっ! や、あ…っ」
離して、川島さんは満足げに私の胸を見た。
「僕の」
「え」
目を下にやる。
胸元に赤い円い跡があった。
そっか、キスマークってこうやって付けるんだ。へんだな、って思ってたんだ。口紅を付けた女の人ならともかく、なんで男の人が、ってずっと不思議だったんだ。
新しいことを知ってちょっと浮かれた顔を勘違いされたのか、
「もっと付けようか」
と川島さんは私の体の上にかがみ込んだ。
「え? え!? ああっ、あ、ああんっ! や。い、いっ」
吸い付けられ、ほんのちょっぴり痛みを感じる。
川島さんが離れる。
「ふは。あ、あ?」
場所を変えてまた吸い上げられる。
「や、やあっ! い…っ、きゃうぅ」
いやいやと首を振るけど逃げられない。
押さえつけられた手はそのままだし、川島さんの体は私よりも大きいし重たい。
下敷きになってる体を捩るけど、捩る内に太ももになんか違う感触がし始めた。
「結衣ちゃん」
「……は」
息をはいたような返事になった。
胸のあたりに赤い跡がいくつも散らばっている。なんかどす黒く見えるのまである。
「気持ちいいの?」
「え?」
「いや、腰振ってるから」
振っ……!?
「ちが、違いますっ! これは」
逃げようと。
逃げちゃだめなんじゃない? 自分から抱いてくれって言っておいて。
「そっか。でももう遅いからね」
どういう意味?
川島さんは、違う、と言った私を気にするふうでもなく、また顔を伏せてきた。
待って。待って。もうそれは――。
「ああああッ! あッ、アッ」
まだキスマークを付けられるのかと思っていたら胸の中心を咥えられて、それまでとは比べものにならない何かが私を襲った。
「やあッ、いやあ、そ、れぇ……ひ、あ。あん、ああんっ」
口の中で柔らかな舌で転がされる。
胸の先端に一本なにか芯を突き刺されたような感じがする。その芯を川島さんが揺さぶる。私の中はその芯でかき混ぜられたようになって、体が勝手に動いてしまう。
「あ、あー! あああ、んあっ」
怖い。
じくじくするようなこの感じが怖い。
夢の中はこんなじゃなかった。
それは私が知らなかったから。
もしも。もしも私が処女じゃなくてあの薬を使ったら、夢の中ではこれを感じたんだろうか。
そんなの、死んでしまう。
こんな夢毎晩見たら死んでしまう。
「ん、はぁんっ」
ちゅぱっ、と音を立てて川島さんは舌ではじくようにして私の乳首を離した。
「結衣ちゃん」
押さえつけられていた手を片方だけ足の方へ引き寄せようとする。
「わかる?」
「あ……」
トランクス越しに触ったそれは、硬くて熱かった。
川島さんの手に動かされるままにそれを上下にさする。先端があるあたりの布がじっとり濡れていた。
こんななんだ。
こんなふうになるんだ。
これが入ってくるんだ。
「やめておく? それとも」
初めて触るそれをとても愛おしく感じて、私は川島さんのそれをきゅっと掴んだ。
「う」
川島さんが呻く。
「やだ。川島さん、最後までしてくれるって言った」
最後まで。
夢では見られなかったその瞬間まで。
こうなっちゃった以上やめるなんて卑怯だ。
こんなものにまで、直にじゃないけど触っちゃったんだから、後はもう最後までまっしぐらでしょ。
ふ、と川島さんが息を吐いた。
「助かった。こっちにはやめる気なんてさらさら無い」
体を起こして、トランクスを脱ぐ。
うあ。
ちょっとソレは見ちゃいけない感じ。
目は瞑らない。
夢じゃないから、絶対目は開けたままでいる。
でも、やっぱり直接見るのは……。
川島さんの手が私のパンツにかかる。ずり下げられる。
あああ! 待って! ソコは見ないで!
「う、わ」
川島さんの驚いた声に、全身が煮えたように熱くなった。
だめだ。もうだめだ。っていうか、やっぱりだめだ。
「結衣ちゃん、ここ……」
「言わないで……っ」
子供みたいなのは自分でわかってる。
ふつうはもっと生えてるんだよね。ここを覆い隠して守るためなんだから、もっとしっかりあるんだよね。
こんな、ちょろちょろっと細い毛が申し訳ていどにあるようなの、ふつうじゃないよね。
涙のせいで視界が滲む。
「ひゃうっ!?」
熱い、柔らかい物を感じて目を下に向けた。
やだ! 嘘!
「や、やあっ! だめですッ、そんなとこ」
口を付けられてた。
くすりと笑うのが見えた。
舐められる。
「あ、あああっ」
「すごいね。さすがに敏感だ」
なんか……。川島さん、喜んでる?
確かにソコは敏感みたいだ。他のところとは比べものにならない感じ方をする。
何をされてるのか見えないのにわかる。
「あー、だめぇ…っ。きたないから…だ、め…ぁ、ふ」
くちゅくちゅと音をさせながら柔らかい唇と舌でそこを優しくもみくちゃにされる。
なんか、なんか……。
「っく! ああん! や、やああ」
勝手に腰が動く。
最後まで、ってお願いしたけど、これ必要なの?
股の間を中心に体がぐずぐずに溶けちゃいそうになった頃、やっと川島さんは口を離してくれた。
「諸々の責任、きっちり取るから心配しないで」
なんだか真面目な顔をして川島さんはそう言った。
「ん……っ」
川島さんの指が私のそこを弄る。
「んあ…っ! あ、あふっ」
やだ。なんかこれも気持ちいい。
濡れてたら大丈夫なんだよね。
私の体、ちゃんと女として機能してるんだよね。
これはさっきの川島さんの唾液とかじゃなく、私の、だよね。
くちゅっ、っていった。
「ああ…っん」
のけぞる。
体の中でぐじゅって音が聞こえた。
「んああ!」
なんか……っ、入ってきた……っ!
「痛い?」
ぶるぶると首を振る。
痛くない。変な感じがするけど痛くない。平気。
「少し動かすよ」
くちゅくちゅと音をさせて擦られる。
「あ、あっ? あ! あああ、んあ、あ、は…っ」
足の付け根に川島さんの手の甲が当たる。
今入ってるのって川島さんの指なんだ。
あの長くて綺麗な指が私の中に入ってる。
「ああ、ああんっ、あ、あ、はうぅ」
お尻のあたりがじんじんしてきた。
ぬるぬるして気持ちがいい。
なんか得体の知れないぬるぬるの夢も見たけど、あれはやっぱりオイルマッサージのイメージでしかなかったんだと思う。だってあれはこんなすごい感じじゃなかった。
これはぬるぬるっていうか、にゅるにゅるだ。
「あああん! あ、う! んはぁ」
指が中で動かされる。擦られたり、く、って曲げられたりするたびにお尻から背中にかけてびくびくして、それは初めてだけど初めてじゃなくて、怖いけどもっと欲しくて、言えないかわりに声がどんどん高くいやらしくなっていく。
ゆっくりと指が引き抜かれた。
「ふ…はぁ」
川島さん。
川島さん、大好き。
手を伸ばす。
川島さんを迎えるように両手を広げて。
「初めてが痛いってのは知ってるね?」
その問いに頷く。
川島さんは背を丸めて、私の足の間に手を添えた。
ぬるん、と指とは違う、すべすべした熱いものがそこをかすめた。
「ん…っ」
夢じゃない。
夢じゃないから。
だから私はその瞬間も目を瞑らなかった。
ぐちゅ、と丸いもので栓をされたような感じがした。
でもそれは一瞬で、川島さんが私に覆い被さってきながら体重をかけると、そこはめりめりと音を立てそうなくらい軋んだ。
「ア! あああ!!」
広がる。
切り開かれる。
割かれる。
熱くて硬いもので体を押される。
その感覚をどう表現したらいいのかわからない。
でもなんだか一瞬で全身に汗をかいたみたいというか、全身の毛穴が開いちゃった感じがした。ずあっ、と音を立てて総毛立った感じ。
圧力って言葉を思い浮かべた。
それを私は自分の体で本当に感じた。夢じゃなく、現実で、本当に。
「あああああっ!」
ぐっ、とひときわ大きな部分が通り抜けていった。
そうして私と川島さんの体はぴったりくっついた。
「ふ、は…っ!」
「結衣ちゃん」
川島さんが私の目尻にキスをする。
「か、わしまさん」
川島さんの背中に回した手に力を入れる。
くっついたところから鼓動が伝わる。どくどく、ってすごくふつうの音がわずかな振動と一緒に伝わる頃には、この世で一番素敵な音に聞こえる。
「痛いでしょう」
まだそうやって優しく聞くんだ。
首を振る。
「痛く、ないです」
違和感はある。体の中心にくさびを打ち込まれたような変な感じ。
でもそれは痛いのとは違う。
これを好きなのかどうかはわからないけど、川島さんが私の中にいるのは嬉しい。
「これで終わりじゃないのは知ってる?」
「知ってます。大丈夫」
動くんだよね。なんかよくわかんないけど、川島さんが動くんだよね。
私の『大丈夫』を、動いても大丈夫、と取ったんだろう。川島さんは上半身を少し起こして、私の足を掴んだ。
ぬるっと川島さんが中で動く。
「あ!」
こういうこと?
そう思った瞬間、川島さんが腰を引いた。
くっついていた部分が離れる。
川島さんが私から出て行く。
「うあ…」
やだ。やだやだ。行かないで。
何かがぎりぎりのところで引っかかった。
形的にそこが引っかかって止まるんだ、と気が付いたときには川島さんは私を押しつぶすようにしながらまた入ってきていた。
「あああんっ! あっ! あ、あっ」
すっごく苦しい。狭いところをムリヤリ広げられながら、擦られて、奥までごつん、ってぶつけられる。奥の方まで届いたら、そこでぐりぐりってされる。
「ふああっ」
それが繰り返される。
川島さんはすっかり体を起こしてしまっていて、抱きつこうにも抱きつけない。
すがるところがどこにもなくて、シーツをぎゅっと掴む。
「んっ! は、あっ」
少しずつ川島さんの動きが速くなる。
「やっ、やあ…っ! あ、あッ、あ、だめぇ…」
びくびくする。
何に例えていいのかわからない初めての感覚に体がびくびく震えてはねる。
ベッドがぎしぎし音を立てる。
「辛かったら」
「へ?」
「目を瞑っていいんだよ」
瞑るのが本当なんだろうか。
目を閉じた方がもっと感じると思う。
感じるのも大事だ。こんなこと私の人生できっと最初で最後だから、めいっぱい感じておきたい。えっちな意味じゃなく、気持ちいいことも痛いことも感じることを全部覚えておきたい。
でもそれ以上に。
「見ておきたいんです」
川島さんがどんな顔で、どんなふうに、私に何をするのか。覚えておきたい。
「そうなの?」
ちょっと変な顔をして川島さんは言うと、体を引いた。
股の間からずるりと抜け出ていく感触がした。
「ひゃ……」
「じゃあ、こっち」
手を引っ張られて起こされた。手を引かれたまま洗面所に連れて行かれた。
「あの……」
洗面所の鏡の前に正面を向いて立たされる。
貧相な裸だ。痩せてるわけじゃないのに、女の子っぽい感じが全然無い。
柔らかそうって感じが全くしない。
そしてその胸元にはさっき川島さんに付けられた跡があちこちに散ってる。
ふくらんでないからどれが本物だかわかりゃしないわ。って何の本物よ。
私より頭二つくらい大きい川島さんが後ろに立って、手をあばらに沿わせて動かしてきた。
「…ん」
ぐっと上に持ち上げられる。
でも肉はほとんど動かない。
だって無いんだもの。無い物を上に寄せられるわけがない。
川島さんの指は、むりやりかき集めたようなふくらみを守るように支えてむにゅむにゅと動いた。
「…っ、ん、ん は…」
なんで気持ちいいんだろう。
鏡の中で私の胸はなんにも動いてる感じがしない。ただ川島さんの指だけが私を触ってる。それだけなのになんでこんなに気持ちがいいんだろう。
「ふあ…あ、あ」
鏡に映る私はすごく――いやらしかった。
眠いのとは違うとろんとした目をして、熱でも出したみたいに体じゅう赤くなってて、触られてるのは胸だけなのに全身をよじって。
見てられない。
目を瞑るのは嫌だから、のけぞるようにして鏡から顔を背けた。
「ちゃんと見て」
耳元に川島さんが吹き込む。
「前を向いて」
「や、ぁ…」
だって。
だって、こんな。
「ちゃんと見ないのなら」
胸を支えていた指が少し緩んだと思った次の瞬間。
「ひッ! あ! ひゃ、う んっ! ア、やぁあ」
胸の中心を指先でぐりぐりって。
擦れて、潰されて、痛くて、なのに体が熱くなる。
変な声がいっぱい出る。
「やあ、あ、ああんっ! ん、んっ! んぁ」
勝手に体が左右にくねる。川島さんの体にお尻をこすりつけるように動いてしまう。
「ふああっ!」
ふ、と川島さんの手が片方はずれた。
「ひ…は……ぁう」
なに?
振り向くよりも正面を見た方が早い。
鏡に映った、まっすぐにこっちを見ている川島さんと目が合った。
「あ」
川島さんの手は私の足の間に伸びてきていた。
「…や」
足を閉じる暇もなく、川島さんの手が滑り込んだ。
「すごいね。ぐちょぐちょだ」
「や、だ。言わないでください……」
自分でわかってるから。
ぬるぬるとした液体をまとわりつかせて川島さんの手が動く。
「ふぁ」
びくん、と背中が反る。
反った背中に口づけられた。
「っ! は、あ」
そこを指先でかき分けられてるのが鏡に映る。
「やぁ、いやあ…ん」
「嫌なの?」
首を振る。
嫌じゃない。なのにどうして嫌って言っちゃうんだろう。
「じゃあ」
耳にかかった川島さんの息は妙に熱かった。
そこを弄る指先が、つうっと上に動いてきて。
「いッ! ア、アアアッ!」
つるりと何かを撫でられた。
全身に電気が走ったみたいにビリビリする。
「ヒ、あ あ、ア! ああ――」
涙がこぼれる。
川島さんの指がそこを掘り返すように動くたびに、体中が跳ねる。
息もできない。
前へ倒れそうになるのを、胸を触っていた腕が抱え込むように支えてくれた。
足の間に川島さんの膝が入ってくる。
膝の上に座らされるようにして持ち上げられた。
「ヤ、やぁン! な、に…? や、やぁ」
「よく見て。ここをこうするとね」
鏡の前に広げられた私のそこを隠す物は何にもない。
生まれて初めて見た、グロテスクな自分のそこを、川島さんの指はゆっくりとなぞって、割れ目の始まるあたりでくるりと円を描くように動かした。
「ヒッ! ア!」
また電気が走る。
そこになにかある。
とろりと流れ落ちた液体が川島さんの膝に垂れる。
「見た?」
「ふ…はッ…… み、ました」
いい子だ、と膝から下ろされて頭を撫でられた。
洗面台に手をついて息を整える。
こわい。
知らないことだらけだ。
知ってるからあんな夢を見るんだと思ってた。
とんでもない。
あんな夢、子供だましだった。
現実はすごい。こんなことをするなんて思いもしなかった。
後ろから腰を掴まれた。
顔を上げる。
鏡に映った川島さんはちょっと微笑んで、私を引き寄せた。
「う、はぁ…っ!」
ぬちゃ、と音がして後ろから熱い硬い物が中に入り込んできた。
「は…っ、う、あぁ」
ずぶずぶと潜り込んでくる硬いものの感触。
うわあ……。
立ったまま後ろから……。
「あ、あ、あ…ふあ」
ベッドの上の時とまた違う。
奥までぶつかるのは一緒なんだけど、擦られ方とかが違う。背中の側を引っかけられるような感じがする。
「あ、ゃあ ん! ん、んんぅ」
声を堪えようとしたら、くう、と喉が鳴った。
「かわいいね。いいの?」
川島さんの声が背中に落ちてくる。
「い、いい…」
気持ちいい。
相変わらず違和感ありまくりだけど気持ちいい。
川島さんが満足げな顔をするのが見えた。
腰を掴まれていた手に力が入る。
ぐっと引き寄せられ、押し戻された。
「ひ、あっ!?」
突き上げられる。
擦られる。
「あ、あっ! あ、や…あぁん!」
揺すられて、私の中を川島さんがずりゅずりゅ動く。
必死で洗面台に掴まった。
「ぃや…あ…っ! な、んか…っ! かわしまさ、んっ なんか…ッ」
足がひくひく痙攣して立っていられなくなる。
体の奥がぞくぞくする。
ああ、やだ。すごい。
「やッ、やああッ! あ、あーっ!」
ぞくぞくして震え続けていた体の奥の中心がきゅうっと縮んだ感じがした。
川島さんがまだ硬いままのを引き抜くと、ぬぷって音がした。
「ふ、は……」
「いけた?」
頭を撫でられながら聞かれた。
今のがそうだったんだろうか。
「たぶん」
そう返事をすると川島さんは苦笑した。
「よくわかんないか。初めてだしね」
そしてまた手を引っ張られた。
「あ」
膝から力が抜けて、かくん、と体が折れた。
「おっと」
川島さんがとっさに支えてくれる。
抱き上げられた。
「ひゃっ!?」
頬にキスをされた。
「ベッドに戻ろうね」
「はい」
よかった。
ベッドで横になるんだ、と思って安心した。
でもそれは甘かった。
川島さんは私を抱えたままベッドに横になると、私を、川島さんの身体をまたぐように座らせた。
「あ、れ?」
「見たいんだよね?」
にっこりと笑う川島さんがこわい。
なんか、勘違いされてないか。
「僕の上に手をついて腰を上げて」
言われたとおりにしてみると、四つんばいの変形のようなこれまた恥ずかしい姿勢になった。
「川島さん、これ」
「そのまま腰を下ろしてごらん」
川島さんの手にお尻を少し前へ押されながら少しずつ腰を下ろしていくと。
やっぱりだよ!
「や、あ、あの、これって」
足の間に川島さんのが当たった。
股の間を覗くと、川島さんは自分の手でちゃんと上向きにして支えてる。
「大丈夫。そのまま」
お尻をくっと押された。
「は……」
そっとおろす。
にゅる、とそこが滑った。
「そうそう。微調整は自分でするんだよ。大丈夫。心配ない」
微調整ってなんだ。
腰を前後に少し動かしてみる。
ああ、なるほどね。ここに入る……っ!
「はう…んッ!」
さっきまでは入れられるって感じが強かった。
私の中に入ってくる。潜り込んでくる。押し込まれる。
でもこれは。
私が。
私のそこが、川島さんを飲み込んでる。
「やあ…っ、こ、れ…っ」
すごく、いやらしい。
ぬ、ぬ、と抵抗を示しながら入ってくる。ううん。自分でそうなるように飲み込んでいく。
「やあんっ! んっ! んん…っ」
自分から、っていうのがすごく恥ずかしい。
「結衣ちゃん。ちゃんと見るんだよ」
「んんっ… え?」
「入っていくとこ。見てごらん」
もう一回股の間を覗いた。
「う、わ」
広げた足の間に川島さんのが……。
これ、一生覚えておく光景としてどうなんだろう。
いいんだろうか。
ごつん、と天井にぶつかった。
ここが限界だ。
「あれ?」
隙間が。
川島さんと私の間に隙間が。川島さんの上にぺたんって座れない。膝と腕で自分の体を支えないとだめみたい。
えー? 予想外だ。だってさっきはぺったりくっついたのに。
くすりと川島さんが笑った。
ゆらゆらと腰を動かされる。
「あっ、や、やぁん」
奥で擦れて、そこから先がぬるんと。
「あ…っ」
がくんと下に落っこちた感じがした。川島さんの上に座れてる。
ふは、と息を吐いた。
よかった。やっと力が抜ける。自分の体を支えるのって結構大変だ。
それなのに川島さんは容赦なかった。
「動けそう?」
「動くんですか!?」
「そりゃこのままでいいならいいけど」
さっきまでは川島さんが動いてた。
この体勢だと私が動かないとだめなのか。
……どうやって?
「前後に動いてみる?」
ああ、なるほど。
言われるままに体ごと前後に揺らしてみた。
「ひゃ、っあ、ぁ」
また声が出た。
擦れる。
川島さんの位置は変わらない。だけどこうやって私が動くと、私と川島さんが繋がってる部分が擦れる。さっき洗面所の鏡で見たアソコが、擦りあわせる内に剥き出しになって、どろどろになってる液体にまみれた川島さんのそこと擦り合わさって、じんじんしてくる。
「ぁあ、あ…あふ んゃ…あ」
自分でコントロールできるからか、優しい刺激がすごく気持ちいい。
体がほかほかしてくる。
止められない。
どうやったらもっと気持ちよくなる? もっとぴったりくっついたらもっと擦れる?
私は上半身を少し倒して、いっそう川島さんに自分を擦りつけた。
「あ、あ…。い、イ…い。んは、あ…ん」
前後だけじゃ足りない。
ねちょねちょって音がするのも構わずに、ゆるく回転させるようになすりつけた。
「あああ…!」
また体の中心が熱くなってくる。
頭の中もどろどろに熱くなってる。
「いやらしい顔して」
川島さんの、笑いを含んだ声がした。
「ん、んっ」
私の腰を掴んでいた手が離れて、腕を掴まれた。
「あ。重い……ですよね?」
べったり体重かけて体を押しつけてることに今頃気が付いた。
「いや。そろそろ僕も動いていい?」
「は? ぅ、ああんッ!」
下から突き上げられた。
「いッ、い、た…ッ」
つっかえてるところを突き破られそうな痛みが走る。
なのに川島さんのがぬるぬると中を擦って上下するのが気持ちよくて腰を上げてしまうことができない。
腕を掴まれて、腰を跳ねさせる川島さんの動きに合わせて背をのけぞらせながら体を弾ませる様子は端から見たら暴れ馬にムリヤリ乗せられてるみたいに見えるだろう。
「んッ! ん、ンッ! は、うあ…ッ ア、ア」
激しく鋭く突き上げられる。自分の意志で刺さりに行ってる。
なんてエッチな……。
「ふぁ、あ、あん ン あ、ぁあん」
擦れてるところが熱い。中も外も熱い。
ああ、またくる。
「あ、ア! か、わしまさ…っ、また…っ!」
「また?」
荒い呼吸混じりに川島さんが聞いてきた。
「また…っ! あああ、きゅって…! キュってなる…っ!」
激しく動いて、暴力的な感じもするのに、体の中はなんだか切ない。
絞られているような、細かい浅い傷を付けられるような、そんな切ない痛さ。
「い…ッ くぅう ん!!」
背中をぎりぎりまで反らせて、そのきゅうってなる感じを全身で味わった。
腕を掴まれたままだったから後ろに倒れたりはしなかった。
「は… はっ…ぅ」
全力疾走した時みたいに息が上がってる。
川島さんが体を起こした。
「ぅあ…んっ!」
まだ繋がってる。川島さんはまだ私の中にがっちり食い込んでる。
向かい合って座った姿勢で、川島さんは私の体を抱きしめてくれた。
額に、こめかみに、そして唇にキスされる。
「…ん」
「もう少し平気?」
「え?」
川島さんは少し照れたような顔をしていた。
「大丈夫そうなら僕もそろそろいいかな」
――セックスってどうなったら『最後』なの?
私の返事を待たずに川島さんは私を一度持ち上げると、体を入れ替えた。
「ひゃっ!?」
ベッドに仰向けになる。最初と同じだ。違うのはすでに川島さんと繋がってるところ。
足の間は太ももまでべちょべちょだ。
にゅる、とまた擦れた。ううん。擦れるっていうのとは違う。だってもう引っかかりが無い。ぴったりと隙間無く密着している部分が動くんだけれど、ぬるぬるした液体が間にあるから、もぞもぞうねうねしてて……。
「ん、はぁ…んっ」
あれ? なんかもうすでに気持ちいい?
「か、わしまさ、ん… なんか…なんか… あぁ なんで?」
ゆっくりと川島さんが動く。
さっきみたいにめちゃくちゃに突き上げられてるわけじゃない。
なのに同じように体の奥が熱い。
「はうっ!? ん、あ、ああっ」
なんで!? 今、軽くだけどきゅってなった。
「あ、ン う、あ ぁあ…やぁ」
「いいよ。もっと感じて」
川島さんの動きが少しずつ速くなる。それだけじゃない。浅く突いたり、深いところまで戻ってきたりして、全然予想できないところに痺れが走るから私の声も止まらなくなる。
「ああん、あ、あ…っ は、あんっ ゃ…あ、ふ…っあ」
高い丸い声は女の子のものだ。私のじゃない。
でも今私の口から出てる声は紛れもなく女の子のものだ。
ついっと川島さんの指が乳首に触れる。
「ひあ…っ!」
仰向けになったら私の胸はあるのかどうかほとんどわからない。でもその中心にある乳首は小さいけど硬くふくらんでいて、川島さんのしっかりした大きな手で触れられると震える。
にちゃ、ぐちゅ、と音を立てながら浅く深く繋がりあう。
川島さんの顔が苦しそうにゆがむ。後ろへなでつけていた前髪がはらりと落ちて額にかかる。
「んんっ、んは…、あ、ふ」
動きに慣れてくる。
もっと、って欲張る気持ちが腰を揺らす。
「ゆ、い…っ」
絞り出すように川島さんが私を呼んだ。
初めて呼び捨てにされた。心が震える。
「か、わし…っ、あ、あああ! あ、や! それ、やぁああああ!」
返事をしようとして、それができないくらい川島さんの動きが激しくなる。
悠長に引き出していられないのか、奥に押しつけるような動きでごつごつ突き上げられる。
体が揺さぶられる。
「や、やっ! や! ひあ…ッ!」
股の間をべちべち叩かれるみたいに川島さんがぶつかってきて、なんだかそこが麻痺してくる。
それなのに中はぬるぬるが増えていくのがはっきり感じられる。
「あ、あアアア!」
目が眩む。
体がバラバラになりそう。
川島さんの体が倒れてくる。のけぞった背中の下に腕を入れられて、ぎゅっと抱きしめられる。
押しつぶされるみたいで苦しいのに気持ちいい。
私も川島さんの背に手を回す。
ああ、好き。
大好き。
「結衣、結衣」
繰り返し名前を呼んで、苦しいだろうに背を丸めてかがみ込んで川島さんは、届く範囲のあちこちにキスしてくれながら私の中をかき回して突き上げて。
「ん、んっ! あ、ふあ」
唇を合わせる。
くちゅくちゅと舌を絡ませる。激しくて、口の端からよだれがたれた。
こんなに、体のあっちこっちでいろんなことが起こるんだ。すごく忙しい。
体の外も中も気持ちよくて、どこかひとつなんて追いかけていられない。
奥に押しつけられる。
出っ張った部分が私の中を擦りながら削るようにして出て行こうとする。
追いかけようとして体を動かすと、またその熱い塊はぬるぬると滑りながら私の中をいっぱいにする。
もっと。もっと。
川島さん、もっと。
わけもわからないで川島さんの体にしがみつく。手だけじゃ足りなくて、広げられた足を川島さんの腰に巻き付けるようにしてしがみつく。私まるで木の枝にぶら下がるナマケモノみたいだ。
「は…ぅ、ふあ、あッ、あ」
キスをしながらじゃ、声を上げるのも呼吸をするのも苦しくて、涙がこぼれてくる。
「結衣…っ、いい?」
「ふあ、あ、あは…ぁっ! ゃ、あん、ん、ん、くっ」
何がいいんだかわからない。
でもこれは頷かなきゃいけないんだ、って思ったから、必死で何度も頷いた。
「うあ…っ、あ、あつ…っ!」
熱い。
足の間が急に。
っていうか川島さんが急に。
なんで。熱い。硬くて大きくて、すっごく熱い。
「や、やああぁぁぁっ!!!」
どくん、と川島さんのが中で跳ねた感じがした。
続けて二度三度とびくびく跳ねてる。
「あ……あ、はぁ…」
ああ、わかった。
川島さんも気持ちよくなってくれた、ってことだ。
すごくくたびれた気がしたけど、それよりもずっと、気持ちいい、って感じと、嬉しい、って感じの方が大きかった。
汗でしっとりとした肌で抱き合うのは思ったほど嫌じゃなかった。
べたべたしてるのに、それが嬉しかった。
川島さんは私の首筋に、私は川島さんの肩口にそれぞれ顔を埋めていた。
荒くなった呼吸を整えようと深呼吸すると、川島さんのにおいがした。
背中に回していた手でそのあたりを触ってみる。
背中もぺたぺたしていて、思わず笑顔になった。適当じゃなく、ちゃんと抱いてくれたんだ、って嬉しくなった。
「川島さん……」
「ん?」
「ありがとうございました」
夢じゃなくてよかった。
川島さんが相手でよかった。
最初で最後がこんなにすごくていいんだろうか。でも嬉しかった。
「明日は、家を探しに行こう」
「はい」
お別れだ。
新しい家を見つけて、そこまでは申し訳ないけどお世話になろう。
そしてさようならだ。
でも忘れない。
「結衣ちゃん」
また『ちゃん』付けに戻ってる。呼び捨ても最初で最後だったんだな。
「きみのことを教えて」
「私?」
「そう。どんな子供だった? お兄さんとは仲良かった? お父さんやお母さんは?」
なんでそんな事を聞きたいのかな。
もう何日もしないうちに、二度と会わない他人になる相手のことを知ってどうするのかな。
でも私は、川島さんの温かさを感じながら、さっきまでの激しさが嘘みたいな穏やかさの中でぽつりぽつりと話し始めた。
「ふつうの子でしたよ。兄ちゃんとはどうだろう。でも、兄ちゃんに連れられて兄ちゃんの友達と一緒に遊んでもらってたから多分仲は良かったんだと思う」
川島さんは私の上から退くと、すぐそばに横になって、うんうん、と頷きながら私の話を聞いてくれた。
「兄ちゃんはびっくりするくらい母に似てます。顔も性格も。私は父に似てしまった」
それを父さんはすごく気に病んでた。女の子なのにかわいそうに、って。
そうだ! 見ろ、父ちゃん! 私を、一回限りっていう条件付きとはいえ、女として扱ってくれた人はいたぞ!
「母が亡くなったのは私が十二の時で……」
抱き寄せられるように回されてる川島さんの腕の重みが気持ちよくて、川島さんの腕の中でこうやって起きて話をしているのもなんだかとても気持ちよくて、私はだんだん眠くなる。
寝たくない。
もったいない。
まだこうしていたい。
一回こっきりなのに。
眠ってしまったら終わる。
たとえさっきのことを反芻するように夢を見たとしても、それはもう嘘だ。
私は本当のことを知ってしまったから、夢は全部嘘だと気が付いてしまうだろう。
経験したことをなぞるように夢に見ても、それはきっとあんなに強烈じゃない。
思い出してるだけだ。
夢を見ていた日々は楽しかった。
でももう私はあの夢へは戻らない。
もっと大事な現実を教えてもらった。
目蓋が重くなる。
ぼんやりとした視界に川島さんの微笑んだ顔が見える。
頭が温かい。あの大きな手のひらでまた撫でてくれてるんだな。
大好きです。
やっぱり大好きです。
だからありがとうって言って笑ってお別れします。
2009年1月20日