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■ have a dream |
Fate/stay night |
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作者/バリゾウ:掲載/2006/06/20 |
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プロローグ
それは真実、予期せぬ到来だった。
端的に言って、自ら引き起こした事故による偶発であった。
何がどうなったのか、頭では理解できずとも体は自然に受け入れた。
呆けたままの意識の傍ら、頬を流れ落ちる滴と、口腔から漏れる嗚咽が確かなことだと告げていた。
追い求め続けたものに届いたのだと。
そして――
――停止していた思考がようやく理解に到る。
「――ああ……そうか」
それが、自らの意思で発した最初の言葉だった。
幾重にも立ち並ぶ墓石の群れに影が一つ在った。
影は何かを発していたが、風に吹かれて解けて消えた。
用が済んだのか、いつの間にか影は消えていた。
次に訪れたのは一人の女性だった。その顔はどこか暗いものを含んでいる。
ある墓前の前に来ると、少し無理した笑顔を浮かべた。
「また来ました切嗣さん。そっちはどうですか。楽しくやっていますか」
女性は衛宮家と彫られた墓石に話しかけた。
「私は元気にやっていますよ。大分慣れましたから……あれ?」
見ると墓前にはまだ新しい線香が上げられていた。
女性は心当たりとして妹のような存在を思い浮かべる。それから自身が持ってきた花を一緒に添えた。
「そうそう。桜ちゃんのことは心配しなくていいよ。最近はまた前みたいに笑ってくれるようになったから。でも、女の子を泣かすような子に育てた覚えはないんだけどな。そうですよね切嗣さん」
先程の無理した笑みは消え、楽しそうに言葉を紡ぐ。だが、やはり最後は悲しみを隠しきれない表情だった。
「だから、そこで反省してなさい。先に行っちゃたんだから。お姉ちゃんが行くまで待っているんだぞ。ねえ、――士郎」
音もなく光さえ射さない暗い蟲倉の中で、二つの影が立っていた。
小柄な影が沈黙を破る。
それは老いた男の声だった。
「のう桜。この前話したことの覚悟はついたかのう?」
問いかけられたもう片方の影は微かな動きさえ見せなかった。ただ弾んだ若い娘の声だけが返ってきた。
「はいお爺さま。聖杯を手に入れれば、わたしの望みを叶えてくださるんですよね」
「衛宮の小倅を生き返らしてほしいんじゃったな」
「はい、先輩を元に戻してほしいんです」
まるで気負いがない娘の言葉に老人は疑問を感じるも、些細なことだと断じた。
「ふむ、其の為には此度の聖杯戦争を勝ち抜いてもらわねばな」
「分かっています」
「いい返事じゃ。が、此度の遠坂の娘はなかなか優秀じゃぞ」
「…………」
老人のある言葉を聞いた途端、娘は押し黙り何かを耐えるように俯いた。
「おぬしにはあの娘を出し抜いてもらわねばならん。では、期待しておるぞ」
老人が消え、残ったのは娘が一人。
――気のせいか。
闇に佇むその娘は、暗闇よりなお暗い笑みを浮かべた。
「――ええ、分かっています。邪魔をするなら、姉さん貴女でも……」
――その凄惨な笑顔はどこか泣いているようにも見えた。
地下の工房で召喚の準備に勤しむ影が一つ。凛とした佇まいはその名に相応しかった。
「よし! 完璧ね。後は……」
その魔術師は留学先から帰国したばかりだというのに、生き生きとしていた。
それもそのはず、彼女が幼い頃から待ち望んでいた機会が訪れようとしているのだ。
魔術師の心は半ば、戦場へと移っていた。
ただ一つの心残りは、
「――そういえば、何も言わず帰国したから。今頃、ルヴィア……」
好敵手との決着だった。しかし、すぐに意識を切り替え目前のことに集中する。
準備は整い若い魔術師は始まりの言葉を紡ぐ。
「――告げる」
――その瞳に宿るのは勝利の二文字。
着陸した飛行機から、時代錯誤なシルエットをした影が降りてくる。
貴族が着るようなドレスに髪型。衣服だけでなく、その女性は佇まいさえも泰然としていた。
「まさか、私がこの島国の地を踏むことになるなんて」
不敵な笑みを浮かべ、未踏の大地へと降り立つ令嬢。その相貌には、見知らぬ土地への不安は微塵も見られない。
「協会からの正式な要請とはいえ、これも何かの因縁かしら」
祖母から聴かされた昔話を思い出す。しかし、それよりも彼女に何も告げず、帰国したある人物の姿が浮かんだ。
「意外に楽しい仕事になりそうですわね」
思わず笑みがこぼれるが、気を引き締める。そして、協会からの指示を思い出した。
「先行しているバゼット・フラガ・マクレミッツと合流後、協力して調査にあたれ、ですか」
出発前に見せられたある女性の経歴を思い返すと、令嬢はますます不敵なそれでいて楽しそうな笑みを浮かべた。
そして、悠然と歩き出す姿は言葉ともに語っていた。
「――では、参りましょう」
――戦場こそ最も己が映える舞台だと。
ある西洋館の一室で、小刻みに震える影が横たわっていた。床はその影から流れる液体で赤く染まっていた。
「――――!!」
女性は今にも消えそうな意識を必死になって繋ぎ止めている。
眠ってしまえば、二度と目を覚ますことはないと知っているからこそ、自らの逃れられない運命を頑なに否定し続ける。
死にたくないという一心で。
そのはずだった。
ところが、霞んで見えなくなっていた瞳に突如一つの影が映った。
「あなたは……」
その影は女性にしか聴こえない声で問いかけた。
彼女は残された最後の力でその問いに頷き、同時に部屋中を光が埋め尽くした。
光が消えると、傷一つない女性がいた。
そして、先程とは違う安堵による睡魔が彼女を襲った。
閉じようとする瞼の隙間から、己を救った影を見つめる。
立ち去ろうとする影に思わず、言葉が漏れた。
「待って……」
――しかし、今はただ静かに眠るだけ。目覚めた後に待つ試練のため。
世界の中心とも言える大聖堂の一室で、ある報告が行われていた。
「……またもや観測されたか」
「はい。いかがいたしますか」
報告の言葉に円卓に座する影たちがどよめいた。
「まさか、再来だというのか」
「いや、ただ過ぎた力をもつ偽者でしょう」
「何にしても早急に調査するべきです」
「協会もすでに動き出しているはずだ」
周りから矢継ぎ早に出される意見にも中央の影のみが一向に動じなかった。その姿に焦れたのか、周りの影たちは中央を見据え発言を待った。
「――しばらくは、静観する」
「猊下――――!」
重々しい決定の言葉に反発の声が上がる。
「静まれ――」
「……――」
ただ一言で、波を打ったような騒がしさが止む。
「知っておるであろう。今も昔も我々の方針は変わることはない」
「しかし、現在彼の極東の地では聖杯戦争が行われております」
「その程度の試練乗り越えられぬようでは、利用する価値もない」
「しかし、場合によっては我々の脅威にも――」
起こり得るかもしれない危機を告げる影を笑い声が遮った。
「何を心配する必要がある。我々の邪魔するものの末路は歴史が示しているではないか」
さも可笑しそうに言う影の言葉に、周りは震え押し黙った。沈黙する部屋の中で、始まりの言葉を告げる。
「では、見守ろうではないか。新たなメシアの誕生を――」
――舞台裏から見守り続けるは世界に蔓延る人類の代行者。
ここでプロローグは幕を引く。
さあ物語を始めよう。
新たな神話の始まりの始まりを。
このお話しはとある理想の一つの形。
第一話へ
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