ちらちらと、兄弟子の視線が真田を向く。真田はそれを頬に感じながら茶を点てる。さかさかさかという音が狭い茶室に響いている。薄い光が障子紙を透かして、畳を青く見せている。くるりと茶碗の肌を舐めて、茶筅を置いた。茶碗を滑らせる。伏せた視線の先に、藍色の袴をつけた膝がある。節ばった指が茶碗を持ち上げる。伊達のその動作一つ一つに、兄弟子の彼が息を飲んでいるのが判る。
 やがて伊達は茶碗を置いた。言葉はなく、小さく鼻を鳴らせたのみであった。びくりと兄弟子が肩を揺らせる。その仕草一つで茶室の空気がピンと張った。真田は黙って畳の目を見つめている。膝に拳を握りしめた。……赤鬼殿が、槍を茶筅に持ち変えたと聞いておりましたが。笑うような息とともに吐き出される言葉は棘を持った。まだまだ巧くは扱えぬらしい、これでは私のほうが先に上達もいたしましょうなあ。伊達の隣に座っている長曾我部が肩を少し動かし、兄弟子が腰を浮かせた。小声で、陸奥守様……とたしなめている。しかし伊達は彼に一瞥をくれて、また鼻を鳴らせた。己の言い分は正しいと言わんばかりである。長曾我部は我関せずを貫いて、細く開いた障子の外をじっと見つめている。真田は一つ息を吐いて、袴の膝を立てた。畳に立ちあがり、いまだかたわらに座っている伊達を見下ろす。伊達の視線が真田をなぞるようにする。上田様、と兄弟子が小声で寄越してくる。それこそ泣きそうな目で見てくるので、真田はこころの中で少し笑った。片目を細めるようにして睨んでくる伊達を見下ろして、口の端を少し吊り上げた。
 陸奥守殿こそ、六爪を扱っていた手では柄杓を折ってしまうのでは? ハ、と伊達が腹から息を吐きだした。口ばかり達者になりおって……。伊達もまた袴をさばいて立ち上がる。爪先の触れあう距離で睨みあいながら、先にふきだしたのは伊達のほうであった。くく、と喉を鳴らしながら真田の肩に手を置いてくる。まあいい、次までにはもうちょっと上達しておけよ、まずい濃茶など飲む気にもならん。
 兄弟子は呆然と伊達の出ていった障子を見つめている。その背中の丸まっているのを、真田は少し気の毒に思った。しかし真田を振り返った彼は少し重たいものが取れたような顔でいる。彼の仕事は口も利かなくなった上田守と陸奥守の間を取り持つことなのだから、それも当然だろう。
 ……いやはや、なにやら激しい気性の方でいらっしゃいますなあ。そこで初めて長曾我部が笑むふうに肩を揺らせた。伊達の置いた茶碗を取り上げ、茶を一口含む。……さて、どっちが上達するのが早いか。言って、ぐるりと右目を回して真田を見上げた。視線は少し咎めるふうだ。この男は、知っているのだろうかと思う。……昔からにございますよ。京にもあの方の噂は届いておりましたが、いや、目の前にしてみるとなんとも。兄弟子はうなじをかきながら口の端を緩めている。真田は彼の肩口の向こう、開け放たれた障子の向こうを仰いだ。射しこむ陽があたたかい。

 その、数日前のことを思い出しながら、伊達の少し乱れたつむじを眺めている。彼は少しの疲労にまどろみながら真田の後ろ髪に指を絡めている。時折冗談とは言えないような力で引っ張ってくるので、そのたびに真田はまどろみの向こうから引き戻された。互いに一度ずつ遂情しただけで、まだ腕を通した小袖もさほど乱れてはいない。だが裾からのぞく彼の足が真田の向う脛に触れるたび、少しだけ心の臓が跳ねる。腰のあたりが重たく沈む。すでに陽は落ちて、庭に焚いた灯りが障子の向こうにゆらゆらと揺れた。目を閉じても、まぶたの裏にそれが赤く焼き付いている。
 膨らんでるぞ。喉で笑いながら、伊達は腿を真田の股に押し付けた。無言で彼のつむじに鼻先を擦り付ける。すると手癖の悪い蛇はするすると真田のからだを撫でおろして、股の間のものに絡みついた。ゆっくりと布の上からさする。足の筋が張る。ふ、と息を彼の髪に吹きかけると、いよいよ蛇は調子づいたようだった。じかに幹や嚢に触れてくる。そう思ったら、するすると真田の腕の中から抜け出してしまう。あ、と思ったときにはもう遅かった。ずり下がった伊達の頭は今では足の付け根のあたりにある。動揺は、しかし興奮を一緒に連れてきた。彼は蛇の末端を布の中に滑り込ませてくる。ゆるく勃ち上がった陰茎をまじまじと見つめたかと思うと、視線を真田に一瞬くれた。そうして、粘膜を舌でくるむ。眉をひそめてその様子を眺めた。ゆるゆると膜を通してしか感じていなかった腰のだるさが、直截的にからだを包む。彼の髪をくしゃりと握った。先端から根元までに舌を滑らせ、後ろの嚢にしゃぶりついていた彼は、そうして初めて口を開いた。……よさそうだな。このようなこと、させたこともありませぬ。ふうん? 伊達はにやりと笑って、根元にちゅうと吸いついた。思わず足の指が丸くなる。
 忙しく息を継ぎながら、天井を振り仰いだ。もうすでに陰茎は腹につくほど成長してしまっている。肘を突いて少し起き上がると、あの日真田が伊達にしたように、先の張った部分を舐めまわしている様子が目前に迫る。奥歯を噛む。大きく息を吐いて性感を散らそうと努めた。……出していいぞ。しかし。ほら、出せ。言って、大きく開いた口の中にすっぽりとおさめてしまう。裏筋を舌のざらついたのでずりずりと擦られ、ううと呻いた。なりま、せぬ。かたく目を閉じるがまぶたの裏に、赤く染まった伊達の顔が真田の陰茎を咥えている様子がまざまざと焼き付いてしまって離れない。畳の上に足の裏を擦り、腰の感覚に耐えた。
 ん、と鼻から抜けるような声を出した伊達が、突然口の中から真田の陰茎を吐き出した。彼の口の周りは体液でべたべたに濡れている。大きく息を吐きながらなにごとかとまじまじと見つめていると、見るんじゃねえとぴしゃりとはねつけられた。その険しくなった目のあたりにわずかに色がのっている。ごそごそと体勢を整えなおして、もう一度真田の陰茎を口に含んでくる。その右手はからだの下に伸ばされた。……ま、政宗殿、その。うるせえなあ。しかし。くどい! 緩く動く彼の右肩、その先のてのひらが包んでいるものを思って真田は目のくらむような思いをする。頭にやにわに血がのぼる。間違えようもなく赤く照った伊達の目のあたりを指の背で撫でた。そして、上下する頭を撫で、その髪を指に絡めた。すると、彼は頬の内側をすぼめるように吸ってくる。思わず奥歯を噛んだ。……強情だな。荒れた息の中でそう言って寄越し、今度は右手で嚢に触れてくる。その、てのひらがぬるぬると濡れているのでやはりそうだったのだと真田は思う。熱い息が下腹に吹きかけられる。高く上がった彼の腰のあたりが、ゆるゆると揺れる。は、は、と大きく息を吐きながら、掠れ声で真田は懇願した。どうか、お許しくだされ。……なにをだ? 先日のご無礼を。
 鼻を鳴らせ、伊達はしかし首を小さく振った。巧い芝居だったぜ。言って、もう一度真田のものを口に含んでくる。はっきりとした目的を持って動き始めた伊達の末端のなにもかもが、真田の情動を壁際に追い詰めた。踵が畳を擦って、皮が熱く焼ける。粘膜にすっぽりと包まれた陰茎は真田の辛抱もむなしくびくびくと震えて精を吐き出した。そうして、己の犯した罪状に腰が引けてしまう。くたりと力を失った陰茎にいまだ軽く吸いつきながら、伊達は喉をゆっくりと動かした。そうして、目を丸くしている真田を上目で見つめてくちびるを引き伸ばす。
 慌ててその口元に手をやって、体液でべたべたに汚れたそこを乱暴にぬぐった。伊達はその手つきに眉をひそめて逃れようとする。その背中を捕まえて、なんということをと真田は繰り返した。……あんたも、この間俺にしたろうが。それとこれとは別にござる。一緒だ。真田の膝に乗り上げるようなかっこうで、伊達はふんと鼻を鳴らした。
 ……その、長曾我部殿は……。そのぎらぎらした目を呆然と眺めながら、ふと真田は呟いた。強い光はその言葉にゆっくりと柔らかくなる。真田の額に落ちた髪を梳きながら、あいつは全部知ってる、こっちの思惑を知ってる人間がいないと、万一こじれたときに骨が折れるからな、と、そう言って寄越してくる。……そうまでして某をからかいたかったので?
 ふっと伊達は息を吐いた。笑んだ口元が、そうだ、と形作る。全部あんたをからかうためだ。熱い指が真田の前髪をさらう。……お前が、強情を張るからいけない。そうぼそりと呟かれた言葉に真田は少しだけ眉をひそめた。強情なのは、政宗殿にござろう。その手首を捕まえて、てのひらに舌を這わせる。びくりと肩を動かしただけで無表情の伊達を見上げて、真田は中指の付け根に吸いついた。なんど某が申し入れても聞き入れてはくださらなかったではござらぬか。ちゅ、ちゅ、と音をたてててのひらに触れていると、とうとう強い力でその右手はしりぞいていってしまう。真田の膝の上にすっかり腰を落としたかっこうで、伊達は険しい顔で真田を睨みつけた。それが、気にくわねえ。そう一言告げて、ふいと顔を逸らしてくる。……その理由は、教えてはくださらないので? お楽しみは、後にとっておけよ。言って、伊達は真田の膝から降りた。少し乱れた裾を直そうと身動きするのを捕まえた。
 ならばそれが核心なのだと真田は思う。暖かな背中に頬を押しつけた。ならば、違うことを教えてくだされ。ごそごそと身動きして、畳に伊達の体を縫い止める。抵抗を封じようと互いにてのひらを結んだ。そのうなじに問いかける。あの最初の日……、なぜ某に声をかけてくださらなかったのか。最初? 御上洛の挨拶のときにござる、会ったこともない者を見るような目でござった。ああ、と頷いて伊達は喉で笑う。あれは、ああするしかなかったろうが。真田の腕の囲いの中でゆっくりと身動きして互いに向かい合う。気づいてなかったんだろうが、お前の殺気で周りに火花が散ってたぜ、危ないったらありゃしねえ。蛇が伸びる。真田の後ろ髪をぐいと引っ張って、伊達の胸に押しつけていた額がはがされた。そのようなこと……。呆然と呟くと、そうだったんだよと伊達がにやにやと口元を緩めた。俺がお前を煽って睨みつけようものなら、あたり一面火の海になるところだった。
 熱いてのひらがうなじから首の肌をたどってゆく。耳の後ろの髪を梳きながら、歌うように伊達は呟いた。そうか、だからあれが最初だったんだな。最初? この間言ったとおりさ、あの赤鬼殿が槍を捨てて牙もすっかりなまってしまったと聞いていたからな、あの火花の一件でそうでもないと思っていたところで。頬を撫でていたその指がきつく真田の鼻をつまむ。痛みに思わず眉をしかめると、くくっと伊達は笑った。今度は嘘みたいに、あの噂どおり鬼の牙は引っ込んじまった。
 力の限りにつままれた鼻を押さえる。単純なのか繊細なのか……、ぼうと真田の向こう、天井を見上げながら伊達は呟く。真田はいまだ頭の整理ができていない。しかし伊達の言うことが本当であるならば、つまるところ原因はすべて己の悪癖にあるということになる。大きく瞬きをして、真田の腕の中で天井の見上げる伊達にため息を落とした。……しかし、そのような。いい加減しつこいなお前、ため息つくぐらいだったらその興奮したりブチ切れたりする度に火花散らす癖をどうにかしろよ、いちいち熱いんだよ。そうして、まだ胡乱げな顔をしている真田に気づいて伊達は目を見開いた。まさかお前、自分で気づいてないとか言うなよ……。
 びくりと肩を揺らせたのがいけなかった。伊達は見る見るうちに眉根を寄せて、口をへの字に曲げてくる。……いや、その。ところかまわず火花を散らす癖は確かにあった。しかしそれは上田にいた頃、まだ信玄公の元につく前までの幼い頃の悪癖で、躑躅が館に仕えるようになってからはイの一番に矯正されたはずだったのだ。……それがどうしてか、またぶり返してしまったものらしい。
 そう真田が弁解すると、伊達は仕方なさそうに視線をそらせた。重たいため息をつく。……まあ、これから気をつけろよ。はあ、面目次第もござらん。
 その言葉を最後に、座敷はしんと静まってしまう。すでに夜も深い。伊達の胸に耳をおいて、しばらくじっとしていた。最初の言葉を探している。なんとなく気まずくなってしまった空気は、これ以上のふれあいを拒んでいるようであった。……寝所に参りましょうか。ようやくそう一言呟いて真田は体を起こした。とたんに分離する肌が少し惜しいような気がして、伊達の頬を撫でる。彼はくすぐったそうに目を細めていたが、大人しく真田の腕に引かれた。奥の襖を一つ二つ開ける。敷かれたかいまきを捲りあげると、襖にもたれかかっていた伊達がおい、と真田を呼びとめた。……今日は、もう、しないのか。
 勢いよく振り返って、思わず顔を赤くする。そういう真田の顔を見て、伊達もまた狼狽したふうな様子を見せる。今更……などと小声で呟いて、口をへの字に曲げた。固まっている真田を置いて、さっさとかいまきの中に潜り込んでしまう。背を向けて丸くなる、そんな彼を見て慌てて真田はその盛りあがったのを手でさすった。ま、政宗殿。……なんだよ、寝るんだろ。いや、あの。はっきりしろ。うんざりしたような顔で真田を睨み、かいまきを捲りあげる。すごすごとその隣にからだを滑り込ませて、発熱している彼の腕を引き寄せた。額を突き合わせる。彼の細めた目からやわい光がもれる。そのまぶたと、潰れたまぶたに一つずつくちづけた。……触れても? 背中に回された腕で以って是と知る。
 脇腹から下肢へとてのひらを滑らせ、小袖に包まれた尻を掴む。ゆるゆると硬い肉を揉んでいると、間近にあるくちびるから熱い息がひっきりなしに漏れた。割れ目に沿って指を滑らせ、もう片方の手で裾をからげる。下帯をつけていない足の間は熱く肌を火照らせた。ぐっとそこを割るようにすると、あらわになった粘膜が空気にさらされる。唾液で湿らせた指をそこにあてがった。円を描くようにくるくるとなぞると、じきにいやらしい声が伊達のくちびるから吐き出されてくる。
 なんどか彼と肌を合わせて、そのたびにこうして後ろを慣らしている。伊達はひと思いにやってしまえばいいと言うが、この小さな穴にいきなり男のものが入るとはどうしても思えなかった。しかしこうして慣らしてゆくうち、だんだんと伊達のここは真田の指に吸いつくように柔らかくなってゆくのが判る。最初は苦痛に歪む伊達の顔も、快感を拾い始めて甘くとけた。くぷくぷと体液を漏らす彼の陰茎を慰撫してやりながら、中の道を広げてゆく。そうしているうち、己もまた興奮していくのが判る。この熱く絡みつくような粘膜に早く包まれたい、ぎゅうと狭まるこの穴に己の膨れたものを突き刺してしまいたい、そういう凶暴な思いが胸にじわじわと降り積もる。それは真田の腹に住む忌むべき蛇の感覚なのだろう。ぬぷぬぷと指を抜き差ししながら、膨れた陰茎を伊達のそれに擦り合わせた。そうしなければ、今にもその蛇が真田の意識をのっとってしまいそうである。
 真田の肩に顔を押し付け、声を殺していた伊達は、やがて真田の膨れるものに気づいて手を伸ばした。二本をまとめて握り合わせ、ゆるゆると腰を揺らす。そのじれったいような感触が背筋を駆け上がって、頭が煮えた。いったん伊達のそこから指を抜き出し、ぴったりとからだを寄せてくる伊達との間に距離を置く。とけそうな左目をさらして、小さく伊達はなんだよ、と漏らした。……その、体勢を。
 言ってかいまきを足元に寄せた。起き上がらせた上半身を、そのまま伊達の腰のあたりに横たわらせる。小さく鼻を鳴らせて、伊達は満足そうに真田の下肢に顔を寄せた。張った先端から、幹、その根元。後ろの嚢に伊達の舌が這う。甘くだるい感触が腰をじりじりと包む。
 上になったほうの足を折り曲げさせて脇の下を通した。目の前に迫った皮膚に音のするほどに吸いつく。嚢と穴の、間のあたりである。足元で伊達が小さく声を漏らした。そのままくちびるを滑らせて皺の寄ったそこを舌で突いた。顔の下に敷いた太腿がぶるぶると震えて、快感を伝えてくる。やがて開き始めたそこにすぼめた舌を滑り込ませ、抜き刺しを繰り返した。あ、ああ、あ。堪えるような声である。噛んでしまうのを恐れてか、伊達はもう真田のそれを含んではいない。ちゅ、ちゅ、と先端や根元に吸いつきを繰り返しては、熱い息を吹きかけてくる。そのもどかしい感触に、思わず腰を揺らせた。
 もう、入れてくれ、入れて。極まってしまったのか、うわごとのように伊達は繰り返している。じゅうと横から幹に吸いついて、早くとねだってはいやらしく喉を鳴らせた。
 だが穴はまだ狭い。入るとは思えない。そこから舌を抜き出して、ぽろぽろと体液を垂らしている伊達の陰茎に触れてやる。その腰が跳ねる。己の下肢のものもまた膨れ上がって、もうそれほどもちそうになかった。
 重たいからだを起き上がらせる。褥に伏せている伊達の腰を持ちあげて、その肉を力任せに割った。痛いほど勃起した陰茎を、その割れ目に挟んだ。裏筋でその皺の集まった粘膜を擦りあげる。伊達は噛んだ布で声を漏らさぬように耐えている。腹の底の蛇が頭をもたげた。びたびたと音のするほどに腰を押し付け彼のいいところを擦る。そうして、尻の割れ目からその下に陰茎を滑らせた。足をきつく閉じさせて、その合間に差し込む。真田のや、伊達の陰茎から漏れた体液でもう足の間はべとべとに濡れている。それがさらに興奮をあおる。荒く息を継ぎながら、抜き刺しを繰り返した。気持ちがいいと思う。うっかりしたら、すぐにでも果ててしまいそうだ。伊達の外側に触れているだけでもこんなにも気持ちがいいというのに、内側に触れてしまったら、もう戻ってこられないのではないだろうか。そう思う。
 けもののように腰を振って、ひたすらに快感を追った。布を鷲掴んでいたはずの伊達の右手はいつのまにかからだの下に回されている。腰を掴んでいた手を前に回すと、彼の指はひたすらに自らの先端をいじっていた。そのてのひらごと彼の陰茎に触れて、少し乱暴にそこを擦りたててやる。赤く照っていたはずのまぶたの裏が白く爆ぜる。びくびくと全身を震わせて達している伊達のからだを見下ろしながら、真田もまたその尻に体液を吐き出した。んん、と喉を鳴らしながら、満足そうに伊達が喉をそらす。その皮膚に吸いつきながら、彼のぬめる太腿を撫でまわした。恐ろしい。恐ろしいが、もう片足を踏みこんでしまっている。早く彼のなにもかもを知ってしまいたい。彼の中の蛇を知ってしまいたい。彼をかきたてているどろどろとした大蛇。真田の蛇と睨みあって、互いに舌をちらつかせている。互いに互いを呑んでしまおうと、凶暴な頭をもたげている。

その声ひとひら 八葉(121111)  <<七葉 九葉>>