〜近衛隊員のため息〜
アルスバルト王国には、自国防衛の為に設けた組織が、主に三つ存在する。
国内の魔術師が全て登録されており、多大な制約はあるが、王国守護の要である、魔法使用者協会。
普段は国内や国境、地方警備等を行っているが、有事の際は、その身をもって国を護る盾となる、王国騎士団。
そして、国王に絶対の忠誠を誓い、国王の、ひいては王族を護る剣、そして盾である事を誇る、王室近衛隊。
その全ての組織の新人隊員に、初めて与えられる任務は、アルスバルト城の背後に広がる、『加護の森』についてのものだ。
というのもこの森、古生生物研究所と、移動植物研究要塞の大々的な実験場になっているのだ。
中には、様々な種類の獣や植物が群生しており、いわば、植物園と動物園を足して二で割った様な所となっている。
もちろん、通り抜けるのに安全な道も存在するが、一応、街に獣達が逃げ出さないよう、森全体に結界を張ってある。
おかげで、街や城の人々は獣から身を守る事が出来、大きな戦があっても、この城は背後からの敵襲に襲われる事は無かった。
それゆえに、なぜ新人の隊員を、こんな場所へ放り込むのかと言えば、実戦経験を作る為だ。
リアリース地方は、比較的周辺国との衝突の少ない国なので、全兵を挙げるような戦がほとんど起こる事はない。
だが、平穏すぎる日々は、いざという時に対処できなくなる恐れがある。それを無くすためにも行っている、いわば通過儀礼だ。
今回、白羽の矢が立ったのは、エミルと、リルベという二人の新人近衛隊員だった。
エミルは、母方の祖母が亜人と言う事も有り、猫のような獣の耳と、尾を持っており、大きなへーゼルの瞳と、ふわふわした肩までの長さの髪の毛が、少女のように愛らしかった。
一方のリルベは、暗い黄褐色の瞳を忍ばせる三白眼と、固く短い黒髪、健康的に焼けた肌と長い手足、痩せ気味だが、まるで背中に板切れでも差し込まれているかのように、無駄に姿勢のいい姿が、生意気と取られそうな子供。と、二人は全くといっていいほど正反対の容姿をしていた。
彼らは、近衛隊隊長のリスモンドに連れられ、森の中ほどにある、少し寂れた、だがそれでも十分立派な屋敷へと案内された。
そこだけぽっかりと口を開けたように木々がないので、太陽がその白い壁を照らしている。
リスモンドは、腰に下げていた袋から鍵束を取り出し、扉を開ける。すると、薄暗く、少し埃っぽい匂いの中、簡単な野営用の物資が、無造作に置かれていた。
彼は中身を確認し、燃料や薪が湿っていないかを確認すると、扉の外から、恐る恐る中を覗いていた二人に声を掛けた。
「ここに、最低限の物資を用意しておいた。明朝には、交代の者が来る。だが、異変が起きた場合は、すぐにこの『口』で報告するように」
「はい」
エミルたちが、緊張した面持ちで頷いたのを見ると、リスモンドは二人に、丸く、中央に穴のあいた石を手渡す。彼らがしっかりとそれを受け取った事を確認すると、これから行うべきことを説明した。
「主な内容は、この森の見回りだ。封印の宝珠が、所定の場所に埋まっているか確認して、ここに戻ってくる。宝珠は全部で五つある。これを、日が昇るまでに二回は行う事」
「あの、地図とかないんですか？」
エミルの問いに、彼は少し考えた後、懐からすっかり紙の変色している地図を取り出した。それは、森にある宝珠の位置を記してあり、所々に様々な記述がされていた。大体が、獣の特性や、通り抜ける際のアドバイス的なものが書き添えられている。
だが、何度も追記や修正の跡があるため、思わずリルベは首をかしげながら尋ねた。
「隊長、この書き込み何？」
「それはな、私が見回った際に書き添えたものだ。参考になるかは分からないが――まあ、気にしないでくれ」
「はぁ」
気は抜けていたが、返事は返事、と受け取ったリスモンドは、二人の顔を見比べ、『質問はもうないか。』と問いかけた。彼らは同時に首を横に振り、ありませんと意思表示をする。
「よし、ではまず、明るいうちに一つ目の宝珠の場所まで案内する。着いてきなさい」
言うなり、彼はきれいに舗装された石畳を歩き始めた。エミルとリルベは、慌ててその後ろを追いかけ始めた。
「待ってください隊長！」
「隊長、そっちに石畳ないよ！」
＊ ＊ ＊
鬱蒼とした森の中はとても静かで、本当にここに、凶暴で、獰猛な獣達が住んでいるのかと思うほどだった。だが、草むらのざわめきや、鳥の鳴き声や羽ばたきに、エミルは始終脅えていた。
正直な所、エミルはかなり臆病な性格で、普段も、ちょっとした事に脅え、すぐに物陰に隠れていた。今も、リスモンドの隊服の裾を強く握り締め、目に涙を溜めながら進んでいた。だから、知らなかったのだ。自分たちが、大きく道を外れている事に。
最初に気が付いたのは、リルベだった。
順調に石畳のある道を歩いていたのが、どんどん獣道に入り込み、最終的には、生え揃っている下生えを踏みしめながら歩いている。
何度も声をかけようとしたのだが、仮にも隊長であるリスモンドが道を間違えるわけが無い、とか。きっと近道を教えてくれているんだ、とか。何とかいい方に考えてみた。だが、ついに小型竜の巣が群生している所に出た瞬間、ようやくリルベは、先頭の二人に声を掛けた。
「なあ、本当に道……こっち、なのか？」
その言葉に、ようやくエミルも周囲の光景に気付き、顔面蒼白になりながら、すがるようにリスモンドを見つめた。彼は、初めて気がついたように辺りを見回し、地図を確認しながらポツリと告げた。
「うむ、迷った」
それは、新人の二人を氷付かせるのに十分の威力を持っていた。
「ちょ、ちょっとまてよ。じゃあなんであんなに自信たっぷりと先頭歩いてたんだよ！」
「一応、宝珠の場所を知っているのは私だからな。だが、忘れていたよ。私は方向音痴なんだ」
真っ先に我に返ったリルベが、リスモンドを問い詰めると、至極真面目な表情で答えられてしまった。ふと横を見れば、エミルが、完全に絶望したような顔で放心していた。
「そういう大事な事は最初に言えよ！ みろ、コイツ立ったまま気絶しちまったじゃねーか！」
「では予定を変更し、ここから無事に森を脱出して城に帰ることを任務にしよう」
「ちょっ、朝来る交代の奴はどうすんだよ！」
「大丈夫だ。私が先に城に戻り、皆に予定の変更を伝えておく。では、二人で協力して城まで戻るんだぞ。城で待ってる」
リスモンドは、素早く踵を返すと、あっという間に何処かへと行ってしまった。残されたのは、放心状態のエミルと、余りの唐突な展開に呆然としているリルベだった。
正直、簡単な内容だと思っていた。ただ、安全な道をぐるぐる巡回して、最終的にはあの屋敷に戻ればいいだけの、本当に簡単なものだと思っていた。このくらいなら、自分一人でも大丈夫なんじゃないかと、リルベは考えていた。
ところが、いざ始まってみれば、リスモンドは方向音痴だし、良く分からないところに置き去り状態。さらには、今日、始めて顔を合わせたエミルが、かなりの臆病者という事が、リルベの苛立ちと焦りを助長させていた。
今、二人の前にある竜の巣は空だが、他の巣には、所々玉子らしき球体が見え隠れしている。早い所、ココを離れなければ、親竜に何をされるか分からない。
「おい……おい、返事しろ」
強く体をゆすぶると、ようやくエミルは我に返ったのか、キョロキョロと辺りを見回した。
「え、あ、あれ、隊長は？」
「先に城に戻った。とりあえず、もと来た道戻るぞ」
そう言って、リルベが踵を返すと、背中のサスペンダーが強く引っ張られた。
苛々しながら振り向くと、案の定、エミルが涙目になりながらそれを掴んでいた。
「……なんだよ、言いたい事があるなら早くしろ」
「ま、待って。足が、震えて、上手く……歩けない」
その言葉に、チラリと足元を見やると、確かにエミルの膝は笑っているようで、まるで生まれたての仔鹿のようだった。リルベは舌打ちをすると、エミルの腕を引っ掴み、強引に歩き出した。ザクザクと、大きく葉擦れの音を立てて草薮を抜け、下生えを踏みしめる様は、おおよそ警戒に欠ける行為ではあったが、ただ、この森を抜けるという目的を遂げる事に囚われていたリルベは、まだ考えるにいたらなかった。
そして、ようやく獣道らしき細い道を見つけたところで、リルベはエミルの腕を放した。
エミルは、支えを無くした事と、半ば引きずられた形でココまで来たため、その場にへたり込んでしまった。
「り、リル、足、速い……」
「お前がもたもたしてるからだろ、それより、もう歩けるだろ。とっとと立てよ」
「む、無理……少し、休ませて……」
すっかり息が切れているエミルに、リルベは溜息をついて空を見上げた。まだ木々の間から光りが零れてくるが、最初にきたときに比べて、少し暗くなってきたような気がする。
森に入ったのは、十の刻。屋敷に着いたのが、大体十一の刻あたり。それから、封印の宝珠のところへ行こうとして迷い歩いた為、おおよそ十四か十五の刻辺りだろう。ただ、歩くのに夢中で、鐘の音が全く聞こえはしなかった。
急に、リルベの心に不安が襲った。
今の手持ちは、護身用のナイフと、大昔に、ある伝手で手に入れた鋼でできた糸のみ。一応、植物はそこかしこに生えてはいるので、こだわらなければ、食べ物には困らない。
だが、加護の森は別名、『籠の森』とも呼ばれている。まだ十二を迎えたばかりの己と、同い年か、それよりも幼いであろうエミルのことを考えれば、悪い考えしか浮かばない。
そのとき、おずおずとエミルがリルベの服の袖を引いた。
「あ、あのね、地図ならここにあるから、大丈夫だよ！」
そう言って、どこか固い笑みを浮かべながら、エミルは肩に下げている小さなカバンを探り出した。それは、蓋の所に、可愛らしくデフォルメされたライオン、らしき動物がついており、正直少し子供臭い。それでも、エミルの容姿でそれを持っていた所で、余り違和感は無い。しばらくして、地図を取り出したエミルに対し、リルベは少しぶっきらぼうに問いかけた。
「方向は、わかるのか？」
「え、えっとね、多分……あっち、かな」
地図をぐるぐる回しながら、エミルは真っ直ぐリルベの背後を指差す。少しぼんやりした表情で指の先に視線を移すと、確かにまだ獣道が続いている。リルベはゆっくりと、その方向へと歩き始めた。その後ろを、エミルがついて歩く。
二人はしばらくの間、無言のまま進んでいった。途中、道が途切れるとリルベが振り返り、エミルと地図を確認する。という形で歩いていると、ツタ草の絡まった、大きな石版の前に出た。所々ひび割れや欠けた部分があったりしたが、磨き上げられた漆黒の石は、鏡のように二人の姿を映していた。良く見ると、石版には彼らの見た事の無い文字でなにやら書かれており、中央部分には赤い石が埋め込まれていた。
「これ、もしかして封印の宝珠、かな……」
「おい、早く地図出せ！」
呆然と、それを見上げていたエミルの脇を、リルベが肘で突付いた。我に返ったエミルは、慌てて地図を取り出すと、確かに、封印の宝珠の一つが、正規の道から少し離れた場所に書かれていた。
「たぶん、ここのことだよ。よかった。もう少し歩いたら、石畳の道に出られるよ！」
嬉しそうに笑うエミルにつられ、リルベもホッとしたように表情を緩めたが、ふと、その石版付近の箇所に、リスモンドのメモ書きが固まっているのを見つけた。
【玉子はどかすな】
【絶対に音を立てるな】
【贈り物を忘れるな】……等。
ざっと見ただけで、十数個はあった。しかも、そのどれもが訂正されたわけではなく、純粋に追加されていったようだ。
尋常じゃないメモ書きの多さに、リルベの背中に、悪寒が走った。
「――おい、早くここ、抜けるぞ」
「え、でも大きい道にでたら、ゆっくりでも……」
「何言ってんだよ、まだでかい道には出てないだろ」
エミルは顔を青ざめさせた。確かに、安心するにはまだ早い。それに、気がつけばすっかりあたりは薄暗くなってきている。早く道に出なければ、獣達の餌にされてしまう。
「あ、あの、じゃあこっち！ この封印の石版の向こう側に行って、真っ直ぐ行けば道に出れるよ！」
今度は、エミルがリルベの左手を取り、先頭を歩き始めた。少し驚きながらも、己より体温が高く、柔らかい手に安心しながら、リルベはされるがままに歩き始めた。
＊ ＊ ＊
しばらく歩いていると、ようやく木々の壁が薄くなってきた。
あと少し、そうすれば道に出る。
どこかホッとしたように、二人はため息を付き、足早に歩を進めた。
だが、彼らは先ほどから、見張られているような気配を感じていた。実は、気配自体は、宝珠のあった石版を離れてすぐに感じていた。だが、それが徐々に近づいてきているのだ。不思議に思ったエミルが、少し離れた位置にあった茂みへ視線をやると、何かが藪の中から、こちらを覗いていた。その、爛々と光っているものが、肉食獣の目だと気付いた途端、エミルは悲鳴を上げそうになった。
だが、寸でのところでリルベの手が背後から現れ、それを抑える。そして恐怖で伏せられているエミルの猫の耳へ、ゆっくりと囁いた。
「大声を出すな。目をそらさないで、道に出るぞ」
エミルが首を縦に振ると、二人はゆっくりと、視線を外さないように先を進む。そして、あと少しで道に出る、というところで、その獣が猛然と襲い掛かってきた。
それは、黒い毛並みを持った大きな豹。
二人が図鑑で見たものよりも、遥かに大きなそれは、驚きと恐怖で硬直しているエミルに的を絞った。
死を覚悟したエミルは、思わず目を瞑る。
だが、いつまでたっても痛みも衝撃も襲ってこない。
恐る恐る目を開けると、豹の口にナイフを噛ませたリルベがいた。それは丁度牙と牙の隙間に上手く入り込んだようで、異物が歯に挟まってしまった豹は酷く暴れた。その様子を、エミルが呆然と見ていると、リルベが怒鳴った。
「何、ボサッとしてんだ。早く、逃げろ！」
まだ子供で、力もあまり無いリルベでは、長時間この大きな獣を押さえ込む事は出来ない。現に、左頬の下に少し抉れたような爪跡、両腕には、豹の鋭い爪が食い込んで血まみれになっていた。それを見た途端、エミルは我に返り、何か武器になりそうなものを探した。だが、足元には石ころはおろか、木の枝も落ちていない。困ったエミルは、ふと、己が肩から掛けているカバンの事を思い出した。同時に、素早くそれを振り回し、勢いを付けて黒豹の目元に向け、投げつけた。それは見事に当たり、僅かにそれが怯んだ隙に、エミルはリルベの腕を引き、無我夢中でその場を走りさった。
その後、二人は何とか、石畳の敷かれた、きれいな道に出ることが出来た。そのすぐ鼻先では、結界から出られない黒豹が、悔しそうに唸り声を上げていた。それを見ながら、二人は荒く呼吸を繰り返し、空を見上げる。もうすっかり、日が暮れていた。
＊ ＊ ＊
二人が屋敷に戻ってきた時には、夜になっていた。
半泣き状態のエミルに手当てをされた後、リルベは、安全のためにここで一夜明かして城に戻ろうと伝えた。エミルの同意を得た後、支給された物資を探っていると、その中に毛布が無い事に気付いた。
春先とはいえ、まだ肌寒い。一応エミルに声をかけ、リルベは一人、適当な部屋を漁りに行った。
静かな屋敷を歩いている間、リルベは近衛隊に入る前のことを思い出していた。
孤児の己を拾った養い親が、こういった金持ちの家に侵入する泥棒だった。幼いリルベに、面白がっていろいろな事を教え、気がつけば様々な仕事を手伝ってきた。だが、養い親が喧嘩の巻き添えで死に、食い扶持を自分で稼ごうと思った矢先に、リルベは捕まってしまった。しかもその相手が、リスモンドだった。
彼は少し眉をひそめた後、ねじりあげた手はそのままに、リルベにこう問いかけたのだ。
『こんなせこい真似をするくらいなら、人の役に立つ事をしないか？』
リスモンドの言葉を思い出すと同時に、リルベは少し埃の積もったリネン室を見つけた。そこから毛布を二つ掴み取ると、エミルの居る応接間に戻っていった。
そして、リルベが見たのは、疲れたのか、背中を丸めて眠っているエミルだった。
近くには、布が掛けてはあるが、肘掛のついたソファーもあるのだが、エミルはなぜか、少し埃の積もった虎の毛皮の上で寝ているのだ。
それを、寒かったのかもしれないと捕らえたリルベは、持っていた毛布を一つ、その小さな体に掛けてやる。自分も残った毛布を羽織り、その近くに座った。
顔をあげると、とても大きな丸い月が、窓から覗いていた。
今日一日の事を思い返しながら、月を見つめているうちに、リルベは座った状態で眠ってしまっていた。
エミルが目を覚ましたのは、少しだけ空が白み始めた時だった。
鐘の音が聞こえない事から、まだ五の刻も向かえてないのだろう。薄暗がりの中、エミルは近くで眠っていたリルベの顔を覗きこんだ。
初対面の時は、視線の鋭さや、どこか突き放すような態度が怖かったのだが、己の身を挺して庇ってくれた事で、思ったよりも悪い人ではないと分かった。
それでもまだ、完全にリルベを信頼する事が出来ないでいた。
原因は、エミルの過去にある。
近衛隊に入る前、曲芸団の中で軽業師として働いてきた。元々身軽ではあったので、軽業自体に抵抗は無かった。だが、曲芸団の団長の特殊な趣味に付きあわされて行くうちに、身の危険を感じたエミルは、誰にも言わずに逃げ出してきたのだ。その先々で、亜人のクォーターという事で、耳と尾が他人と違うと言うだけで、奇異の目で見られる事が多く、物珍しさから何度も人買い達に追われてきたのだ。
あの曲芸団の所に戻るのは嫌だったが、かといって物のように扱われ、売り払われるのも嫌だった。
大体は寸での所で逃げ出せたのだが、一度だけ袋小路に追い詰められた事があった。せめて、獣の姿に変われれば別だったのかもしれないが、生憎エミルには変身能力は無い。
そして、人買いに腕を捕まれ、袋に押し込められそうになった所に――リスモンドが現れたのだ。難なく彼らを伸したリスモンドは、エミルのこれまでの話を聞いて、近衛隊への入隊を勧めた。
それからは、同じ隊員の女性達に可愛がられながらも、ゆっくりだが周りの人たちを信じられるようになってきていた。
もっとリルベのことを知れれば、信じられるだろうか。そうしたら、可愛がってくれている人達のように仲良くなれるだろうか。
そんな事を考えているうちに、助けてくれた事へのお礼を、まだリルベへ伝えていない事に気が付いた。
エミルは、起きてから言うべきか考えたが、あの目で睨まれてしまったら、折角の言葉が出てこなくなってしまう。だったら、と選んだのは。
「ありがとう」
リルベの寝顔に向かって呟き、その頬に軽く唇を付けた。
そうこうしていると、遠くから鐘の音が聞こえてきた。それが聞こえたのか、リルベが身じろぎをすると、なぜか照れくさくなったエミルは、そのまま毛布を頭から被って寝たふりをした。