番外の番外・そういえば。
騎士団に混じり、馬車に追走するような形で軍行していたエミルは、ふと思い出した事があり、隣にいたリルベに話しかけた。
「ねえリル。そういえばさっき、小さいころの夢見たんだけどさ」
「それが?」
「リスモンド隊長、今元気かなって」
どこか懐かしそうに呟いた彼の言葉に、リルベは少し驚いたように目を丸くした。
「リスモンド、隊長か。懐かしいな」
「でしょ。僕らがあの森で大変な事になってるときには、隊長すでに行方不明だったんだもんね」
「――今にして思えば、方向音痴なんだと言ってたんだから、城にたどり付けて居るはずが無いんだよな」
呆れたように肩を落とした彼女に、エミルは苦笑した。
あの後、二人が何とか城に戻ると、リスモンドが居ないと大騒ぎになっていた。
まさかあのまま森で別れたっきり、彼が行方不明になるとは思っても居なかった二人は、真っ青になりながらも、当時副隊長だったグリンドに詳細を報告した。
彼は眉間に皺をよせ、大きく溜息をついた後、自らが隊長となり、リスモンドの居ない近衛隊をまとめると宣言したのだ。おかげで、今ではかなり個性的な部隊として、国民に知れ渡っている。
エミルは、灰色の空を見上げて呟いた。
「隊長、生きてるかな」
それに釣られる様に、リルベも空を見上げた。
「生きてるんじゃない? 多分」
「あの、派手な赤い服。まだ着てるかな」
「それはどうだろうね。っていうかアレ、迷子になっても見つけやすいようにっていうの、知ってた?」
「初耳。まあ、あんな派手な服装で見つけられないほうがおかしいけどね」
二人は共に笑いあいながら、国境を越えた。
後日、彼らはリスモンドと再会する事が出来るのだが――何も変わっていない彼に、彼らは複雑な気持ちになったとか、ならなかったとか。