第四回
「下弦の月」in 199×


by 戸田采女

 GWを来週に控えた土曜の夜、引っ越しの片付けもほぼ完了し、誠司はナイター中継を見た後、入浴。バスタオルで髪をふきふき、上半身裸のままリビングで風呂上がりのビールを楽しんでいた。(お、おっさんや…)

 誠司は東京生まれのくせに何故か阪神ファン。判官びいきの誠司は巨人が嫌いなのだ。特にどこのファンでもなかった信明は、誠司につきあって阪神を応援している。今夜は巨人相手に薮が好投し、何とか三連敗を食い止めた。三連敗を免れたくらいで「勝利の美酒」でもなかろうが、巨人に一泡吹かせた今夜のビールはひときわうまかった。ともかく、打たれ強くなくては阪神ファンなどやっていられない。こてんぱんにやられた後、やっともぎとった一勝に正しい阪神ファンは狂喜するのであった。

 上機嫌でニュースを見ていると、後から風呂に入った信明がリビングへやってきた。誠司のパジャマの上だけを羽織っている。長過ぎる袖やずり下がった肩が、何ともいえず愛らしい。パジャマの上は信明、ズボンは誠司と、一着のパジャマを分けて着るのが、同居を始めてから二人の間で習慣になっていた。

 土曜の夜でもあり、パジャマの裾から伸びたすんなりした脚に、誠司は早々に煽られていたのだが、信明はラブソファの誠司の隣に座ると、何やら言いにくそうに切り出した。

 「実はさ、今度の連休…、部の合宿にいかなきゃならないんだ…」
「え…何だよ、それ? 先月に聞いたときは連休はあいてるって言ってたじゃないか?」

 誠司は旅行社に勤める友人に頼み込んで、内緒で温泉旅行を計画していたのだ。一度行ってみたかった隠れ家っぽい温泉宿。内風呂つき離れをコネの力で何とかゲットし、信明を驚かせてやろうと楽しみにしていたのに…。誠司はすっかり気が抜けてしまった。ビールがいっぺんにまずくなる。

 「合宿なんて前々から決まってたんじゃないのか?…それならそうと言ってくれればよかったのに」
膨らみそこねたパンのようにがっかりはしたが、六つも年下の信明相手に拗ねるわけにもいかない。一応年上の沽券というものがある。温泉を予約していたことは告げずに、誠司はできるだけ優しく尋ねた。
「…ごめん。俺、ほんとは参加しないつもりだったんだ」
「なんで?」
「…だって、ここへ越してきて初めての連休だし…先生と一緒にいたかったんだ」
黒目がちの瞳を潤ませ、信明は俯いたまま呟いた。
「なら、どうしてまた急に参加することにしたんだ?」
「…合宿出ないと、トップを降ろすって…昨日部長に言われた」
言い終わると信明は、唇を引き結んで黙り込んだ。

 信明は今年三年。オーケストラ部に所属する信明は、二年の秋からトランペットのトップ奏者を努めていた。管楽器パートのトップは、単なるパートリーダーというだけでなく、楽曲中でソロが出てきたときはソリストを勤める。信明も今までそれなりのプライドを持って頑張っていたのだ。連休明けのコンクール目指して半年間練習してきた曲だ。合宿不参加を理由に降ろされてはかなわないだろう。

(相変わらず…、負けず嫌いだな、おまえは)

 誠司はふっと目元を和ませて微笑んだ。
言葉にせずとも伝わったのか、信明が顔を上げて微かに頬を赤らめた。
「だって…せっかくソロ、練習してきたのに…くやしいだろ、そんなの」
「ああ、もちろんだ」
パートリーダーの責任感よりも、ソリストとしての意地が勝っているのがわかった。
誠司の前だからこそ出る、ストレートな本音。ここで「後輩の面倒をみなくちゃならないし」と来られたら、かえってうさん臭く思う誠司だった。

 家老として善政をしいたご先祖様の溝口誠之進より、誠司はいささか「我が道をゆく」タイプのようだった。

 誠司は大きな掌をぽんと信明の頭に載せ、ゆさゆさと揺さぶった。
「いいから行っておいで、俺のことは心配するな」
「…ごめんね、せっかく…」
信明はほとんど涙声だった。言い終わらぬうちに、誠司は滑らかな頬に唇を寄せた。
「…これからずっと一緒にいられるんだ。夏休みだってあるし、冬の温泉も悪くないぞ…」
「せんせ…」
開きかけた桜色の唇。
軽くついばむように触れれば、信明もおずおずと応える。さらさらの前髪を梳いてやりながら、ゆっくりと信明の柔らかい唇を味わった。誠司は一旦身を離すと、信明の頬を両手で優しく挟んだ。

 身も心も預けるように、信明の黒目がちの瞳が一心に見つめてくる。

(ああ、この目にやられたんだよなあ…。最初は何で男なんか行っちまったかなあと思ったけど…)

 信明との初めてを思いだし、誠司は胸の中でくすりと笑みを洩らした。




 三回生の秋、知人から中三だった信明の家庭教師を頼まれた。既に中高一貫教育の名門私立に入っていた信明だったが、何が気に入らないのか、別の高校を受験し直すつもりだという。せっかく入れたのにもったいない話だとは思ったが、バイト料がもらえるのなら、とやかく言う筋合いでもないし…。誠司は二つ返事でひきうけた。

 中三というから、どんな生意気ざかりのクソガキかと思えば、今どき珍しいくらい素直な子だった。西国分寺のマンションにエンジニアの父親と二人暮し。母親は中一のときに病気で亡くなったという。経済的余裕はあったので家政婦を雇うこともできたが、他人を家に入れる事を信明が嫌がり、以来、家事はすべて信明がこなしてきた。

 中学生の信明は今よりもっと小柄で幼い容貌だったが、同年代の少年にくらべると、言動は格段に大人びたところがあった。それでもやはりまだ十五歳。多忙な父親は毎晩帰りが遅く、寂しい思いをしていたのだろう。週三回、家庭教師の誠司が信明の家を訪れ一緒に食事を取るのを、それはそれは楽しみにしていた。親しくなるにつれ、週末も勉強を見てやったり、自然と一緒に過ごす時間が増えていった。

 姉がひとりいる誠司は末っ子長男。年下少年から無心に甘えられるというのは、ひどく新鮮な気がした。




 「せんせい‥」
かすれた声で呼ばれ、誠司はふたたび信明の目を見つめた。
「ほんとに、ずっと一緒にいてくれるの?」
「ああ…」
確かにそのつもりだった。少なくとも今、この瞬間は。だが、人間先のことなどわからない…。 100%の保証などやれなかったが、信明を愛する今の気持に嘘はない。誠司は信明のこめかみにそっと口づけた。
「父さんが帰国しても…このまま二人で暮らせるかな…」
うっとりとまばたきをしながら信明が呟いた。

 こんなに可愛い奴はほかにはいない。信明と関係ができてからも、大学や会社の女たちから何度もアプローチされた。だが自慢じゃないが、乗り換えようなどという気は一度もおきなかった。信明の何がこんなに自分を捉えて離さないのだろう? 正直、身体の相性がよかったこともあるが、中学生の信明が、無垢な瞳で誠司が好きだと打ち明けたとき、心臓を鷲掴みにされたようなインパクトがあった。

 男なんか眼中になかった自分が、今ではすっかり信明の虜になっている。先生、先生と懐かれ、一見誠司が主導権を握っているようだが、実はその逆なのかもしれない。

 信明の項へと唇を這わせながら、誠司は耳元に囁いた。
「いつかは…お父さんにも話さないといけないね…」
「う…んっ」
首筋の柔らかい肌をきつく吸うと、信明が鼻にかかったような声を洩らした。そのままラブソファに押し倒し、信明の身体の上に乗り上げた。
「あ…」
既に固くなりかけていたお互いのものが触れあい、信明は小さな声をあげた。誠司はわざと腰を擦り付けて信明を煽った。信明はきゅっと目をつぶり、誠司の首に両腕を回してしがみつく。
「先生…っ」
「かわいいな…おまえ…」
誠司は信明の耳朶に唇を寄せて囁いた。
「ちょっとキスしただけで、ほら、もうこんなだ…」
トランクスの上からさらりと撫でるように触れると、誠司の身体とソファに挟まれたまま、信明はもどかしそうに身を捩った。
「そ、そういうこと言うなよっ…自分だって…」
誠司はくすりと笑みを洩らすと、今度トランクスの下から手を入れた。掌の中に袋を包みこむようにして、やんわりと揉みしだく。
「う…んっ…」
ラブソファのひじ掛けに頭をもたせかけ、信明の背が大きくしなった。
大きな黒目がちの瞳は膜がはったように潤み、薄く開いた唇の間からかすかな吐息がもれる。一度きつめに握り込むと、
「せんせっ…」
耐えがたげな声をあげて、信明は誠司に二の腕にすがった。
「…ここでする?それともベッドにいく?」
戯れるように舌先で耳朶をなぶる。信明は耳への愛撫に弱い。こうされると抵抗できなくなるのを誠司はよく知っていた。
「…ここで…いい」
かたく目を閉じたまま、信明が消え入るような声で呟いた。




  数日後…。

 「先生…ねえ、先生ったら、聞いてるの?!」

 信明のかん高い声に、誠司は夢から覚めたようにはっと両目を見開いた。
 朝食後、誠司はダイニングテーブルに頬杖をつき、ぼんやりと考えごとをしていた。考え事というよりは、白日夢を見たといったほうが正確かもしれない。誠司の頭の中には摩訶不思議な映像が浮んでいた。

 まったく見覚えのない川べりを誰かと歩く自分がいた。季節は春。野辺に菜の花が咲き乱れ、川には豊かな水が滔々と流れている。着物に袴、前髪立の少年武士の格好には驚いたが、なぜかそれが自分だという確信があった。一緒にいる友人らしき少年は誰だろう? うつむき加減で顔がよく見えないが、鼻筋がすっきりと高く、何やら睫がとても長いような…。それにこの声…、どこかで聞いたことが……?

 霞みがかかったような映像は、信明の声を合図にふっつりと消え去った。

(今のは何だ…?)

 目の前にあるのはいつもの朝の食卓の風景。信明が冷凍庫からタッパーを取り出して、テーブルの上に並べている。訝りながらも、誠司は今度こそ信明の説明にきちんと耳を傾けた。 
「こっちがカレー、それはロールキャベツ、この丸い容器はビーフシチューだよ。とりあえず三日分はあるからね」
「うん…ありがとな」
「御飯は自分で炊けるね?」
「…多分」
怪しげな答えに信明は脱力したように溜息を洩らした。
「先生…、いくらなんでもそれくらい覚えてよね」
「ああ…」
誠司はにこにこと生返事をしながら、いざとなれば飯は「ほか弁」かコンビニで買えるさ、と考えていた。

 今日はみどりの日。サラリーマンが待ちに待ったGWの始りだが、信明は今日からオーケストラ部の合宿だ。五月三日まで帰ってこない。内緒で予定していた温泉旅行もふいになり、実はかなりがっかりしている誠司だったが、信明はこの合宿にはやはり参加すべきなのだ。笑って送りだしてやろうと思う。

 「じゃあ行ってくるね」
楽器ケースと荷物を抱えて玄関へ向かう信明に、
「駅まで車で送ってやるよ」
誠司は車のキーをつかむと、後に続いた。
「いいよ、近いんだし…」
「…遠慮すんな」
誠司は有無を言わせず信明の手から荷物をもぎとると、
「ほら、はやく来い」
にっこり笑って先に玄関を出ていった。

 がちゃり。
誠司が廊下に出ると、間をおかずに隣のドアが開いた。

 カジュアルな装いをしながらも、小ぶりなスーツケースとドレスバッグを下げ、結城惣一郎がドアから出てきた。
「あ、おはようございます」
誠司が頭を下げると、
「やあ誠司君、おはよう」

 隣の住人がマスコミでも顔の売れた国際政治学者と知り、誠司は最初たまげたが、惣一郎は有名人の割りには随分と気さくですぐに好感が持てた。時々帰宅時間が重なるせいもあり、駅から一緒に帰ってくることも多い。

 「あれ、結城先生、まさか連休に出張かなんかですか?」
「…名古屋で講演のあと、京都で学会があるんだよ…。世間はGWなのにねえ…」
大袈裟に肩をすくめる惣一郎に、誠司は苦笑した。
(え、じゃあ奥さんは…)
と、言いかけたところへ、
「タクシー、もう下に来てるよ…」
ゆったりしたシャツに細身のコットンパンツをはいた右近が、ドアから出てきた。外に誠司がいるのに気付くと、
「あっ、おはようございます…」
清清しい笑みを浮かべて挨拶した。
「おはようございます…」
誠司も会釈しながら、今朝も美しい隣の奥さんに見蕩れた。
(この格好だと留守番なのかな…)
普段着のままの右近の姿を見て、誠司はひとりごちた。
名残り惜しそうに妻を見つめる惣一郎に対し、
「じゃ、気をつけていっといで。ホテルについたら電話して」
右近は京漬物のようにあっさりと惣一郎を見送ろうとした。

 スーツケースとドレスバッグを下げた惣一郎が、ちらりと横目で誠司を睨んだ。一瞬ではあったが、レーザー光線級の強力なメッセージが込められていた。

(これって…、邪魔って言われてるんだよな。『行ってきますのキス』とかしたいんだ…)

 攻め同士、妙に波長があって、お互いの考えが手にとるようにわかる瞬間がある。
察した誠司は右近に軽く会釈すると、
「信明、はやくしろ」
ドアを開けて玄関でスニーカーをはいていた信明を急がせた。
「ごめん、今いく」
靴紐を結び終え、楽器ケース片手に信明が出てきた。
誠司は急いで鍵をかけると、
「じゃ、お先に!」
明るく結城夫妻に挨拶すると、信明の手をひいて、ずんずんとエレベーターホールへ向かっていった。




 「惣一郎、お隣と一緒にエレベーターのっていけよ」
ほら、早くと右近は顎をしゃくったが、惣一郎は荷物を両手に突っ立ったまま、じっと右近を見つめている。主人を辛抱強く待つ犬のような目だ。
「…どうしておまえはそう冷たいかなあ…」
「は…?」
「もういい…」
惣一郎はがっくり肩を落して俯くと、スーツケースを引きずって歩み去ろうとした。
右近は小さな溜息をついた。
「…子供みたいなこと、言うなよ…」
惣一郎がキスしたがっているのは先程からわかっていた。別にキス自体はちっとも嫌ではないのだが…。右近は誠司の前でするのに抵抗があった。

(むこうは何とも思いやしないのに…)

 どうせ誠司は、ああ、お隣って熱々なんだ…と呑気に笑うだけだろう。気にする自分がバカみたいだ。惣一郎はひとりスーツケースを引きずって、エレベーターホールへ向かっていた。

「惣一郎…」

(大きな背中を丸めて歩くなよ、みっともない…)

 キャスターの音が、やけに物悲しく廊下に響いている。クールなようで実は浪花節が入っている右近。哀愁漂う背中にはついほだされてしまう。右近は後ろから大股で追い付くと、惣一郎の肩をつかんで振り向かせた。
「ほら、忘れ物」
右近は目元を和ませると、首をわずかに傾けてしっとりと唇を押し当てた。惣一郎の手からドレスバッグが音をたてて落ちた。

(あ!)

 唇を合わせたまま下を見る。平らに落ちればよいものを、ドレスバッグは上からくしゃりと潰したような状態になっている。最悪だ。

(ううっ、せっかく丁寧にアイロンかけたのに─!)

 右近が拾おうとアクションを起こすより、惣一郎の手のほうが早かった。右近からのキスに舞い上がった惣一郎は、両腕で羽交い締めにするがごとく抱きしめてきた。

 (ああ、スーツが皺になるう…!)

 マンションの廊下ということも忘れ、惣一郎は深く唇を重ねてきた。右近の声にならない叫びも、惣一郎の口中に吸い込まれていく。
(どうせ着るのはあんただよ。私は…知らないからな)
ほとんどやけくそで、右近も舌を絡めて応えた。

 朝からようやるわ、という掃除のおばさんも呆れるディープキスをかました後、ようやく唇を離した惣一郎が、右近を胸に抱いたまま囁いた。

 「…アメリカへいったら、何処へいくにも夫婦同伴だ。こんな寂しい思いはさせないからね…」
「う、うん…」
とりあえず頷きながらも、ドレスバッグの中のスーツの皺が気になってしかたない。

 絶妙のタイミングで下からエレベーターが上がってきた。誰も乗っていないところをみると、誠司が気をきかして10階のボタンを押してくれたのだろう。

 いってらっしゃいのキスに満足したのか、惣一郎は大人しくエレベーターに乗り込むと、
「じゃあいってくるよ」
「いってらっしゃい…」
ようやく観念した惣一郎は、エレベーターの「閉」を押し、下へと降りていった。

 「ふう…」
右近は肩で息をつくとひとりごちた。
「出張の度にこの騒ぎだからな…。新婚とはいえ、毎回よくやるよ…」
しっかり巻き込まれている自分のことは棚にあげ、惣一郎の子供っぽさに苦笑する右近だった。

 部屋に戻ってリビングでお茶でも飲もうかと思う。
やはり惣一郎が出かけると、マンションの中はがらんとして味気なかった。いわゆる「かさ高い」男ではないのだが、存在感の大きさは認めざるをえない。

 やかんを火にかけ、好きな紅茶の葉をポットに入れながら、ふと隣の事を思う。

 (今日は一緒に出かけたんだな…。どこへ行ったのかな。子供相手だから遊園地かなんかだろうか? 何処いっても混んでいるだろうに…御苦労なこった)

 くすくす笑いながら、右近はお湯をポットに注いだ。

 (…誠之進は結局、年下が好きなのだな…。三郎の生まれ変わりだから信明を愛したんだろうが…。もし生まれ変わった時、私がずっと年下だったら…)

 自分を選んでくれただろうか? 一回そういうのもやってみたかった気がする。

 そろそろ三分たった。お茶の葉も程よく蒸れたころだ。右近はお気に入りのカップに紅茶を注ぐと、リビングに運んでソファに腰かけた。

 今日は絵に描いたような行楽日和。南向きのリビングには春の陽光がさんさんと降り注ぐ。吹き込むそよ風にレースのカーテンも楽しげに揺れた。後で花屋をのぞいてみよう…。夏向きのハンギングバスケットでも作ってみるか…。
 
 暖かい紅茶をすすりながら、右近はぼんやりと物思いに耽る。

 三郎がうらやましかった。振り返ってみれば、三郎は容姿も美しく、人間としての美点が多々あった。惚れる理由はいろいろある。だが、誠之進の三郎への傾倒は、理由も理屈もない、ただ相手の存在が愛しくてたまらないという気持だった。誠之進に守られ無償の愛を注がれて、三郎は大きく成長していったのだ。そんな関係は、やはりある程度の年齢差があってこそ可能なものだったのだろう。

 あれだけ年が離れていれば、いかにプライドの高い自分でも、もっと素直に甘えられたかもしれない…。

 素直に甘える自分って、どんなだろう…? 誠之進!とか叫んで背中からきゅっと抱きついたりするんだろうか?

 「う…さぶっ」

 想像した右近は真剣に身を震わせた。

 「私のキャラでそれをやっちゃあ…お終いだ」

 右近はうっとおしそうに前髪をかきあげ、深い溜息をついた。


第四回おわり




イラストは『薫風館』さんからお借りしています。



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