Little Kiss Magic 3 第2話



夏休み直前、廉君があたしを別荘へ招待したいと言い出した。

しかも、廉君がお父さんと一緒に手掛けたホテルにゲストとして宿泊して、おまけにパーティまで一緒に出て欲しいって…。
余りにも思いがけない申し出に、驚きを隠せなかったけれど、廉君がお父さんのお仕事を手伝っている事を聞いてからずっと頑張っている姿を見てきたから、彼の申し出を喜んで受けたいと思った。

廉君がこのプロジェクトに関わって3年にもなると聞いたのは今年の4月のこと。
彼のお父さんがこの学校の理事長先生だと知ってからだった。

ボサボサ頭で瓶底眼鏡。学校では全然目立たない彼。
スポーツは結構できるし、頭だって凄くいいのに、容姿にこだわらなくて、チョット人見知りの性格が彼を目立たない存在にしている。
でも、そんな彼が浅井グループの後継者で、普通の高校生では考えられないくらい大変な生活をしてるなんて、誰が思うだろう。

浅井グループといえば、病院や学校、ホテルなどを全国規模で展開している誰もが知っている大企業だ。
廉君のお父さんが、学校の理事長と言う事は必然的に浅井グループの社長さんだと言う事くらいあたしでもわかる。
つまり廉君はこの学校だけでなく、浅井グループをいずれ継ぐ立場にある人だって言う事なのよね?
余り詳しいことを話してくれないから、普段の廉君の姿からそんなに現実味を感じなかったけれど、それって凄く大変なことだ。

私たちの高校は浅井グループの運営する学校の中でも最も古く、旧館は歴史的価値のある建物といわれるほどだ。
エスカレーター式の大学の卒業生からは各界に名を残す人物が多く生み出されている、国内でも有数の名門校でもある。
そんな学校を継ぐっていうだけでも眩暈がしそうなのに、グループ全体…なんて、一般庶民で高校生のあたしには、思考能力の許容量を超えていて、想像もつかない。
大体、廉君はいつもボサボサの寝癖に瓶底眼鏡でどちらかと言うとボーッとした雰囲気で、家業に携わってると聞いたときも、最初は想像も出来なかったもの。

だけど、彼が頑張っていることは良く分かっている。

毎晩寝る前に廉君が送ってくるメールの送信時間は、2時とか3時とかとんでもない時間で、それでも翌朝はちゃんといつもの通り笑ってあたしに声をかける。
巨大企業の跡継ぎだなんて知らなかったときは、随分遅くまで勉強しているんだなあって、尊敬していたけれど、実際には 高校生としての学業以外に、会社経営に必要な知識を学んでいるのだと知ったときは本当に驚いた。

付き合いだした当初、休日はバイトで会えないと聞いていたけれど、本当はバイトなんかじゃなく、ホテルプロジェクトの仕事で飛び回っていたらしい。
外見だけで自分を判断されるのがイヤだから、寝癖も眼鏡もスタイルを変えないと廉君は以前言っていたけれど、もしかして、朝起きるのが大変で、寝癖を直す暇なんて無いのかもしれないと、時々思ったりもする。

それでも、あたしと一緒にいるときの廉君は、普通の高校生で、そんな顔は微塵にも見せないから、あたしは何処かで安心していた。
あたしにとって廉君は廉君で、どんな立場の人でも何も変わらないとずっと思っていた。

だけど…実際に『僕のホテルの一番最初のゲストになって欲しい』と言われて初めて、彼が創り上げたものの大きさを実感した。

とても真剣に、 『ご両親には僕からちゃんと話すから』と微笑んだ彼がすごく大人に見えた。

あたしの事をいつだって気遣ってくれる廉君。
とても優しくて、頭が良くて、大好きなあなたが、なんだか少し遠くへ行ってしまった気がして、とても寂しい気持ちになった。
それは、あたしには考えられないくらい大きなものを廉君が背負っている事を、初めて本当の意味で理解した瞬間だったのだと思う。

あなたにはまだ、あたしの知らない顔がある

もっとあなたの事を知りたい

あたしの知らない浅井 廉を…

だけど…

知るのが怖いと思っている自分が何処かにいる

廉君は廉君なのに、目の前の彼が、何だかいつもと違う気がして…

廉君がひとりで大人になってしまう気がして…

夏休みが始まるのがなんだか怖かった

あたし達何も変わらないよね?

廉君はあたしをおいて遠い人になったりしないよね?

あたしの中で言いようの無い不安と寂しさが募っていく

ねぇ…廉君。

たとえあなたが誰であっても、あたしはあなたが大好きなの





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第2話は香織Sideでした。
香織の中で廉の存在がどんどん大きくなると共に、少しずつ彼のもう一つの姿が浮き彫りとなってゆきます。
これまで漠然と理解してしていただけの廉の世界。
それを目の当たりにし、深く関わってゆく彼女はどう変わっていくのでしょうか?
不安が見え隠れし始めていますが、まだまだ気持ちは純粋です。ずっとこのままでいて欲しいですね。

2007/07/03