Little Kiss Magic 3 第35話

※ちょっぴりだけ色っぽいシーンを含みます。小学生はご両親に確認してからにしてね。

力尽きたように沈んでいく香織の姿に血の引く思いで、僕は必死に泳いだ。
ようやく追いつき意識を確認するが反応は鈍い。
口移して酸素を送り込みながら浮上すると、水面に出たとたん激しく咳き込んだ。

「バカッ!何をやってるんだ!死ぬ気か?」

これまでにも喧嘩をしたことはあったけれど、香織に対してこんなに声を荒げたことなどなかった。
だが、今回ばかりは僕も本気で怒っていた。
ショックが重なったのは分かる。
だが、一歩間違えば死に至る泳ぎ方をしていることは、彼女だって分かっていたはずだ。

「…れ…ん…?」

「良かった…香織が自殺しようとしたのかと思った」

病院で目覚めてから初めて声を発した香織にホッとして、抱きしめる腕に力を込めた。

「死んだほうが良かったのかもしれない」

「香織っ!なんて事を言うんだっ」

「……あたし…思い出したの。あたしは…生まれてきちゃいけなかった…」

「…え?」

「あたしは…捨てられたから…だから誰にも迷惑をかけちゃいけないの」

「…何を言ってるんだ?」

「あたしは…父のようには…生きたくない…だから…消えるの」

この時になってようやく気がついた。
香織は現実を見ていない。
ショックから混乱しているのだ。
だが夏休み前に彼女の父親に会った印象からは、香織の言っている意味が理解できなかった。

「…君が消えたら、僕も後を追うよ。君を護りきれなかったばかりか、こんな風に追い詰めて、もしもの事があったら…僕は生きていられない」

「…廉君のせいじゃない。あたしが…みんなを不幸にしているの」

「君は誰も不幸になんてしていないよ。色んなことがあって混乱しているだけだ。とにかくその冷えた身体を温めてから落ち着いて話そう。いいね?」

まだ何か言いたそうな香織を、強引に抱き上げ水から引き上げると、急いで部屋へと戻り、そのままシャワーブースに飛び込んだ。
ネグリジェのままの香織の上から熱いシャワーを流して、 プールの水と夏の夜風に曝され冷え切った身体を温める。

おかしな言動に、いつもと違う雰囲気。
医師の言うとおりに入院させなかったことがまずかったのかと、一瞬後悔が胸を過ぎる。
とにかく少しでも休ませなければと思ったとき…
突然首に細い腕が絡んだ。

「かお…り?」

「…あたし、廉君の傍にいてもいいの?」

まるで小動物のように震えているのは、決して寒さからなどではない。
何かに脅え、大きな不安に押しつぶされそうな彼女は、いつもより更に小さく感じた。
震えの止まらない背中を宥めるように擦りながら、少しでも不安を取り除けるよう穏やかに耳元で囁く。

「好きだよ香織。ずっと僕の傍にいて欲しいんだ。もう決して離さないから」

「……本当に?」

「うん…。君がいないと僕はダメになる」

「あたしの事ずっと好きでいてくれる?」

「香織こそ、君を辛い目にばかり遭わせているこんな僕を、まだ好きでいてくれるの?」

「大好きなの。廉君でなくちゃダメなの…。お願い、あたしを捨てないで」

「捨てる? どうしてそんな事言うんだ? 僕が香織を捨てるなんて絶対にありえないよ」

「あたしが…どんな人間でも?」

「僕がどんな人間でも、香織は真っ直ぐに僕の本質を好きだと言ってくれたよね? 僕だって同じ気持ちだよ。君がたとえ悪魔だって構わない。地獄に堕ちると言われても、君を捨てるなんて出来ないよ」

「…だったら…証明して?」

切なげに伏せられる涙に潤んだ瞳。
ゆっくりと重なる唇。
冷たい身体とは対照的な熱い唇が、ネットリと誘うように纏わり付き、理性が飛びそうになる。
何度も唇を重ねたけれど、こんなに艶かしいキスは初めてだった。
僕の中の男を揺り起こすには十分すぎる刺激。
濡れたネグリジェが身体のラインに張り付き、まるでギリシャ彫刻のような美しさで僕を誘う。

角度を変えるたびに漏れる甘い溜息。
シャワーの音でさえも掻き消すことが出来ないほどに、二人の鼓動は大きく響いている。

いつもの香織とは違う。
何処か頼りなくて、誰かの支えがないと今にも消えそうに儚い。
それなのに僕の名を呼ぶその声は、艶かしいほどの色香を放ち理性を揺さ振ってくる。
脳内が痺れて、まるで催眠術をかけられた様に惹きつけられてしまう。
気がつけば、無防備にさらけ出された白い首筋まで、ほんの数ミリのところまで、唇を寄せていた。

理性を総動員してシャワーを止め、呼吸を整える。

それまで響いていた水音が止まると、ブース内には突然静寂が訪れた。

激しく鳴る鼓動だけが、やたらと五月蝿く聞こえる。

規則的に落ちる水滴の音が、まるでメトロノームのように耳に届いた。

妙な沈黙と絡み合う視線。

香織の前髪から滴る水滴が、鼻筋を通り、唇を伝っていく。
それが胸元へと吸い込まれていく様が、なんともエロティックで…
思わず視線を逸らすと、最後の理性で香織をバスタオルで包んだ。

「そんなに挑発しないでくれ。僕だって男だよ? この状態でそんな風に言われたら襲いたくなるだろう?」

昨日までならこんな台詞は軽い冗談でも言えなかったのに、今日は違った。
僕の中の何かが変わったのか…
それともいつもと違う雰囲気の香織に触発され大胆になっているのか…

だけど今日の香織は、僕以上に大胆で、どこかおかしかった。

「あたしを…欲しい?」

「え?」

いつもなら絶対にありえない台詞。
涙に潤む切なげな瞳で僕を見上げる色っぽさに眩暈すら覚える。

これが夢なら覚めて欲しい。
いや、覚めないほうがいいのか?
理性と本能で混乱した思考がパニックを起こしていると、香織の声が蜜のように甘く囁いた。

「…だったら…抱いて?」

バクバクとヒートアップする心臓の音は、きっと香織にも聞こえていると思う。
抱きたくないはずがない。
だけど、香織はどう見てもいつもの彼女じゃない。
不安定になっているから温もりが恋しいだけだ。
こんな状態で抱かれたら、後できっと後悔する。
理性はそう叫んでいるのに、彼女を大切にしたい気持ちをねじ伏せても手に入れたい気持ちはどんどん膨らんでいく。

「…ダメだよ…僕はまだ君を抱くわけには…」
「お願い…廉君。信じさせて」

情けないほど上ずった声で搾り出した台詞を奪い、ギュッと抱きついてくる。
彼女を抱きしめたら最後、僕の理性は完全に制御を失ってしまう。

そんな事、解っていたはずなのに…

「廉君は絶対にあたしを捨てないって…信じさせて欲しいの」

切羽詰った香織が狂おしいほどに愛しくて…


細い腰を引き寄せ、深く口づけた。




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あっ、あのですね。全年齢を忘れているわけじゃないですよ?( ̄▽ ̄;)
多分ギリギリOK?(誰に聞いている?)
廉君もついにプチッと理性が切れちゃいましたね。
あはははは…さて、二人の恋の進展はいかに…?

2008/01/17