※ちょっぴりだけ色っぽいシーンを含みます。小学生はご両親に確認してからにしてね。
彼女を抱くのは僕が自分に自信を持てたらと決めていた。
だからこそ、別れを決めた夜も、僕らは抱き合うだけで肌を重ねることはしなかった。
たとえ最後だと解っていても…
それでも香織に自分を刻むことよりも、彼女を大切にしたい気持ちが強かった。
それなのに、今はどうだ?
情緒不安定な香織を、感情のままに抱こうとしている。
いけないとは解っている。
なのに箍が外れたように彼女を求める気持ちを止める事ができない。
キスを繰り返しながら、濡れて硬くなったネグリジェの紐をもどかしげに解き足元に落とすと、湯気の中に眩しいほどに白い肌が浮かび上がった。
心拍数は限界値を振り切って、冷静などという言葉は僕の中から消滅寸前だった。
紳士的に振舞いたいところだが、互いに初めての行為に感情ばかりが先走ってしまう。
何とか暴走しそうな自分を抑えようと、バスローブで彼女を包み抱き上げた。
ブースを出ると、涼しい夏の夜風が心地良く火照った身体の熱を奪っていく。
同時に暴走ゾーンに突入していた感情も、ほんの少し理性を取り戻してくれた。
『僕のベッドでいいか?』と視線で問うと、彼女は一度目を伏せ瞬きで応えた。
何も言わなくても解る…
この感覚がもう一度この手に還ってきたのだと思うと嬉しくて、込み上げてくる愛しさを止めることなどできそうに無い。
彼女を怖がらせないようしたいが、緊張しているのは彼女だけじゃない。
僕だって経験など無く、不安がないわけじゃないのだから。
「香織…本当にいいの? 後悔しない?」
「…うん。廉君だから…」
「…ありがとう」
長く柔らかな髪を一房取り、誓いを告げるように口づける。
「たった今から君の全ては僕のものだ。その心も身体も髪の一房までも…絶対に誰にも渡さない。もうイヤだといっても僕から離れられないよ? いいんだね?」
僕から視線を外す事無くコクリと頷く。
それを合図に、バスローブの紐をスルリと解いた。
どれほど愛しく思っているかを伝えたくて、何度も髪に指を滑らせる。
静かに瞳を閉じた香織に、ゆっくりと唇を寄せる…
ベッドがギシリと軋んだー…
プルプル…プルプル…
唇が触れそうになった、まさにその時
タイミングを見計らったように部屋の内線が鳴った。
思わず無視しようかとも思ったが、取らなければ香織を心配した両親が部屋まで様子を見に来ないとも限らない。
この状態を見られるのは流石に拙いと思いなおし、渋々受話器を取ると、父さんの声が受話器を壊さんばかりの音量で聞こえてきた。
『おい、遅いぞ廉! まさか香織ちゃんを襲っていたんじゃないだろうなっ?』
本当は知ってて邪魔したんじゃないか?と疑いつつ、何の用だとぶっきらぼうに訪ねると、今すぐに二人で応接室に来いという。
香織の体調を理由に断ろうと思ったが、事故の連絡を受け、心配したおばあさんと両親が駆けつけたとの事だった。
流石に香織の顔を見せて安心させない訳にいかない。
10分で支度をすると言い捨て、まだ何か言っている父を無視してブツッと切った。
「…ったく、この部屋に隠しカメラでも置いてるんじゃないだろうな? タイミングよすぎ」
ボヤキながら振り返ると、大音量のおかげで全て聞こえたらしく、既に香織はバスローブを羽織り立ち上がろうとしていた。
頬を染めて僕から視線を逸らしているところを見ると、彼女も僕と同じで、素に戻ったことで先ほどまでの感情の暴走に照れを感じているのだろう。
その様子に、まだ多少不安定ではあるが、いつもの香織に戻りつつある事を感じた。
邪魔が入ったことに残念な気持ちが残らないではない。
だが、やはりあのまま抱かなくて良かったのだと、ホッとしている自分がいる。
あのまま結ばれていたら、
香織は不安定な感情のままに、大切なものを失ない、僕は彼女のハジメテを綺麗な思い出にしてあげる事も出来なくなるところだった。
きっと二人とも後悔したと思う。
どうかしていた。
僕達はいつだって一つ一つの思い出をとても大切にしてきたのに、
二人にとってこんなに大切なことを感情のままに暴走して進めてしまうなんて…
そんなのは僕達らしくない。
もしかしたら、香織も同じ気持ちだったのではないだろうか?
着替えの為に自分の寝室へと戻る香織を目で追いながら、なんとなくそう思った。
応接室の前で、一旦立ち止まると香織に向き直る。
香織は先ほどよりはずっと顔色が良く、プールに飛び込む前ほど、思いつめている様子もなかった。
家族に会わせる前に、少し落ち着いてくれたことにホッとする。
あの状態の彼女を見たら、ご両親はきっと無理やりにでも連れ帰ると言うだろう。
いや、こんな事故の後だ。
ご両親が香織を連れて帰りたいと思うのは当然だと思う。
僕にそれを止める権限はない。
だけどこんな形で離れるなんて絶対にしたくない。
ドアを開けたら引き裂かれてしまうような不安を前に、ノブに手をかけたまま、なかなか動くことが出来ない。
固まったままの僕を見て、香織はスッと手を伸ばした。
ノブを握ったまま硬直している僕の手に、優しく自分の手を添える。
それだけで、不安が嘘のように薄れていった。
香織も不安は同じなのだ。
いや、この二日間であれだけの恐怖を味わって、本来なら逃げ帰りたいと思ってもおかしくない筈。
それでも香織は僕と同じ気持ちでここにいてくれる。
そう思ったら、何も恐れるものは無くなった。
たとえ反対されたって、きっと説得してみせるよ。
君の安全が保障されるまでは、何があっても目を離すわけにはいかない。
どんなことをしても、きっと護ると決めたのだから…。
「…帰すつもりはないよ。さっき言っただろう?もうイヤだといっても僕から離れられないって、ね?」
コクンと頷く香織の手をギュッと握り締めた。
触れた部分から伝わる熱に、二人の鼓動が同じリズムを刻んでいるのを感じる…
瞳を交わし一つ深呼吸するー…
二人で同時にドアを開いた。
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うーん、あと一歩っ!(何がだっ?)
世の中そんなに甘くありません。廉君もう少し我慢です(笑)
しかし、廉のパパは鋭いですね(笑)
さて、香織の家族が駆けつけ、次回はまた新たな展開が…
2008/01/18