Little Kiss Magic 3 第6話



―― 君の全てが欲しいんだ ――


感情のコントロールを失った僕の声は上ずっていて、声というより空気が擦れるような音が喉の奥から出てきただけだった。

「え?なぁに?」

彼女には聞き取れなかったらしい。
不思議そうに見上げる疑いの無い眼にハッとして、自分の暴走に歯止めを掛けた。

まだ、ホテルはオープンしていない。
自分に自信が持てたなら…そう決めたはずだ。
今はまだ、それを告げる時じゃない。

香織の不安を拭い去るように笑って、一応の謝罪と共に腕を僅かに緩めた。

「ゴメン。苦しかった?久しぶりに見た香織があんまりカワイイからつい…ね」

「カワイイ?ヤダ廉君眼鏡の度があっていないんじゃないの?」

「ちゃんとあっているよ。久しぶりに見る香織はいつも以上に綺麗で眩しくて…苦しいくらいだ」

「苦しいって…廉君仕事が忙しすぎて疲れているんじゃないの?」

香織の返答に思わず吹き出してしまった僕。
彼女の純粋さに、思わず自分の邪な気持ちが恥ずかしくなる。
僕の一方的な独占欲や嫉妬で、彼女を傷つけることだけはしてはいけないと、改めて自分に戒めた。

「待つのは平気だから無理はしないでね?あたしの為に無理をして倒れたり、急いで事故にでもあったらって考えると、凄く心配だもの」

「可愛い事を言ってくれるね。僕がその言葉に甘えて何時間も香織を待たせちゃってもいいの?」

「うん、ずっと待っているから。廉君がお仕事を頑張っているのにあたしだけ甘える訳にいかないでしょう?」

あまりに可愛らしい返答に、思わず決意が揺らいでしまいそうになる意志の弱い自分がいた。
香織は本当に殺人的に、破壊的に、悪魔的に可愛い。
こんな愛らしい発言も、ハッキリ言って今の僕には、必死で押さえ込む本能を煽る火種でしかない。
無防備すぎる彼女から片時も目を離せないと感じた僕は、すぐに明日からのスケジュールを頭の中に広げた。

「クス…凄く嬉しいけど心配だよ。僕がどうしても外せない仕事の時は香織に待っててもらわないといけないしね。その間にも誰かに声を掛けられやしないかと不安なのに」

「誰かに…って。そう言えば廉君が帰って来る前に、この間の従兄さんが来たわ」

「え?紀之さんが?」

あれだけ気を配っていたのに、香織が到着するのを待っていたかのように接触されたことにショックを受けた。
時間通りに戻ってきていれば…。と、思わず舌打ちをしてしまう。
明日の会議は僕なしでも大丈夫だろうか?などと、仕事のスケジュールから彼女が独りになる時間を弾き出し、どう護るか策を練る。
やはり安田さんにボディガードを頼んだほうが良いだろうか。と、真剣に考え始めていた。

「ああ、クソッ…ったく、行動早すぎ。また何かされたり言われたりしなかった?」

「ううん、廉君のお母さんがあたしを紹介すると、初対面のように挨拶をしたわよ?この間のこと忘れちゃったのかしら?」

「…それはないよ。何か理由があるんだろう」

何となく解る。僕がこの間の出来事を両親に話したかを確かめに来たのだろう。
僕が母に話していないことを確認したから、初対面のフリをしたんだ。
クソッ…何をどう仕掛けてくるつもりなんだろう。
母を心配させるのは忍びないが、やはり両親には予め話しておくべきだろうか…。

「あの人はヤバイんだ。天性の女好きでプレイボーイなんだよ。香織を狙っているから…あの人には気をつけて?話しかけられても無視して良いよ」

「そんな…あたしを狙うなんて考えすぎよ。あ、でも…今度のパーティで踊って欲しいって言われて…」

「マジで?ダメだよ。香織が踊るのは僕だけで良い。誰に誘われても断って良いからね」

「うん。ダンスなんてした事ありませんからって、はっきりとお断りしたわ」

「よかった…。紀之さんは強引だから気をつけて。香織があの人に触れられると想像しただけで吐き気がしそうだよ」

「クス…心配性ね」

「心配だよ。僕の大切な彼女だって知ってて、あんな事をしてくる人だからね。あの人に限らず話しかけてくる男には警戒するんだよ?」

笑いながら頷く彼女に、僕はもう一度念を押す。

「香織は無防備すぎるんだから。いい?誰であってもだよ?」

―― それが、僕の父さんでも…ね ――

内緒話のように耳打ちすると、香織は一瞬ポカンとして

次の瞬間、思いっきり笑い出した

彼女は冗談だと思ったらしいけれど…

僕としては、かなり切実な気持ちで本音を言ったんだけどなぁ。


やっぱり彼女は自分の魅力を全然解っていない。

彼女を紀之さんの魔の手から護る為に、鉄壁のガードをつけなくては…と、思った。

今年の夏休みは、半端じゃなく忙しくなりそうだな。

明日に向けてもう少し気力が必要だと判断した僕が取った行動は…


モチロン彼女のキスで栄養補給する事だった。






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んー。お父さんにまで嫉妬しますか?廉もやっぱり嫉妬全開の柊花ワールドの男でした…(^^;)あはははは…
育ちが良いだけに、理性的で紳士な彼ですが、中身はやっぱり普通のオトコノコです。
この夏休みに彼らはどこまで…?( ̄ー+ ̄)ニヤリッ
あっ、でも本館扱いのお話ですからモチロン全年齢です。………たぶん…(おぃ?)

2007/07/10