Love Step

☆ホタルの住む森30000Hits REQUEST SPECIAL STORY☆〜Request from 部長さま〜
Step5 クリスマスの誓い 4




時計の時間はもうすぐ7時。


あいつ約束の時間に遅れないだろうな。


俺はソファーに座り込んで昨日からの出来事を反芻するように思い出していた。

1年ぶりに帰ってきて久しぶりに見た聖良は俺でさえ見惚れるほど綺麗になっていてすっげぇビックリした。原因が彼氏が出来た為だと分かって思わずムカついて彼氏を家に呼ぶように言ったのは自分でも大人気が無かったかもしれないとは思う。

だけどさ俺は聖良が5才の頃から必死に父親代わりを努めてきたんだ。たった14才で母親と聖良を護ると決意して、父の墓前に誓った日の事を俺は絶対に忘れない。

優しくて純粋で危なっかしい聖良。俺が大切に護りすぎたせいもあってあいつはどうも世間に対して寛大な考え方を持っている。
一番悪徳商法とかに引っ掛かりやすいタイプかもしれない。

俺のかわりにしっかりと聖良を護ってくれるような男で無いと聖良と付き合うなんて認められない。

ただ好きだからとかそんな中途半端な気持ちの奴となんか聖良を付き合わせる訳にいかないんだ。

高校生にそこまでを望むのは難しいって分かってる。だからこそいい加減な気持ちで付き合っているんだったら早めに諦めてもらったほうが良いんだ。

大体高校生の恋愛なんておままごとみたいなもんだ。
一時本気で好きだと熱くなっているが現実にぶつかるとすぐに対処できなくなって逃げるのがオチなんだ。

だから、海外から帰国した妹を溺愛している兄が恋人を見定める為に家に連れて来いと言ったとなると、高校生くらいの男なんてビビるか、逃げるだろうと思ったんだ。
妹を溺愛している兄のいる家に足を踏み入れたい男なんて先ずいないだろうと思っていたから。

もし、家に来ても睨みを効かせて聖良に相応しくないような男なら今後聖良に近づけないように釘を刺すつもりでいたんだ。




だけど…。




あいつの…龍也の目は違っていた。


昨日聖良を武道館の近くまで送った後気になってそっと後をつけてみたんだ。
聖良が嬉しそうに瞳を輝かせて走っていく先に、スラリと背の高いイケメンの男がいた。

一目で聖良の言ってたビケトリの一人だとわかる。
確かに顔は良い。身長もあってかっこいいだろう。だが、性格が問題だ。あの男は聖良のあの『目を離すと何をしでかすかわからない危なっかしい性格』をどこまで把握できているんだろうか?
半年も付き合っていてわかっていない事はないと思うが聖良と付き合うにはあの性格を上回る器のでかさが必要だ。

聖良の危うさを受け止め、護りながらもちゃんと諌めていける人間の出来た奴なんて高校生でいるとは思えないんだよな。

しかも、聖良のあの口ぶりではまだそいつとどうにかなっている訳でも無さそうだ。
半年経っても手を出さないって言うのは男としてはかなり忍耐強いほうではないのか?
まあ、基準が俺だから、世間一般だとどうなのかわかんねぇけど。

惚れた女が傍にいて半年も手を出さずにいるって事は、結構聖良の事大事にしてくれているんだろうか?

いや、あんだけイケメンなんだ。聖良のこと遊びなのかもしれない。
他に女がいて聖良に手を出すほどじゃないってことじゃないだろうか。

聖良純情だしなぁ。本気で好きになってポイなんてされたらショックで立ち直れないだろうからな。
今更ながらに聖良を純粋培養をしすぎた自分を呪いたくなる。もう少し世間の風に当てて痛い思いをさせておくべきだったのかもしれない。


俺は物陰からふたりを見ながらそんなことをブツブツと考えていた。距離があるため会話が聞き取れないが、聖良がとても幸せそうに笑っている姿に何とも胸が痛くなる。

この男…遊びだったら殺してやるからな。

その時だった…。

ぷうっと膨れた聖良の頬を軽くつついて微笑んだそいつの顔を見て雷に打たれたような衝撃を受けた。


こいつ…本気なのか。



真っ直ぐに聖良に向けられた瞳。その微笑の中に強く宿る意思を俺は感じた。

かつて父親が死んで聖良を護らなくてはと決意した時の俺の瞳に似ている。

愛しいものを慈しむように包み込むその視線で聖良を抱きしめるように見つめるそいつは、聖良の純粋な心を本当に大切に思っていると感じた。



この男と共通するだろう唯一の思い



聖良の笑顔を護りたい…。



ふたりが手を繋ぎ歩き出すのを見送り、やがて姿が見えなくなるのを確認すると俺は反対方向に止めてある車へと歩き出した。

あいつなら…いいのかもしれない。だが、やはりすんなりとは譲ってやるつもりはない。

俺は聖良の兄であり父親なんだから。

聖良を誰よりも幸せにしてくれる奴でないと渡す訳にはいかないんだ。



明日あの男が俺の前でどれだけ聖良を想っているか見せてもらおう。



場合によっちゃ二度と聖良には会えなくなることも覚悟してもらわないとな。






……そう思っていた。





あの…策士め。まんまと聖良を連れ出しやがって。



聖良とのデートを反対するつもりがまんまと俺の気持ちを逆手にとり、聖良を連れ出す事に成功したあいつには舌を巻く思いだった。


あいつ本当に高校生なのか?


妙に冷めた冷静な所が気になるが、あいつの聖良への想いだけははっきりとわかった。

おまえを認めてやるよ龍也。

悔しいけどおまえの聖良を想う気持ちは本物だって認めないわけにいかない。

おまえなら聖良を真剣に愛して護ってくれるだろうし、聖良も幸せになれるかもしれない。


だけど、すんなりといくとは思うなよ。

今夜おまえには死ぬほどの苦しみを味わってもらうぞ。それを乗り越えられたら本当におまえを俺の弟として認めてやってもいいぜ。


おまえには地獄の夜になるだろうけどな。












「ただいまぁ。」

語尾にハートが付きそうな位機嫌のいい聖良の声。しっかりと手をつないて龍也と部屋に入ってくる。
手ぇくらい離せよ。お兄様の前だろう?

眉間に皺を寄せ機嫌の悪い顔でふたりをチラッと見ると『仲の良い事で。』と嫌味ったらしく言って手にしたウィスキーのグラスを煽る。素直に楽しかったか?なんて聞いてやらねぇし。

「お兄ちゃんもう飲んでるの?いやだぁ。絡まないでよ?」

「一杯しか飲んでねぇし…コンくらいじゃ酔わないって。」

「そうかな。まあいいわ。今夜はイヴだし。」

ご機嫌な聖良は俺の機嫌の悪さなど気にしてもいない様子でアイスショーの様子を身振り手振りで聞かせてくれる。夢中で目をキラキラさせて話す聖良。こういう所は子どもの時から変わっていない。

「スッゴイ楽しかったよぉ。行かせてくれてありがとうね、お兄ちゃん。」

幸せそうな満面の笑み。悔しいけど聖良にこの笑顔をくれたのは俺じゃなくて龍也なんだよな。

「これ、お兄ちゃんにクリスマスプレゼントよ。」

聖良が俺に差し出したのは小さな赤い箱だった。

「俺に?聖良が選んだのか?」

「うん、龍也先輩と一緒にね。男の人の好みって分からないから一緒に選んでもらったの。」
龍也が一緒に選んだと言う所が引っ掛かったがとりあえずリボンを解き中身を見てみることにした。

「へぇ…名刺入れか。イタリアのブランド物じゃないか。高かったんだろう?」

「お兄ちゃんが持っていても恥ずかしくないものをあげたかったから…。それにそれならいつも持ち歩くでしょう?お兄ちゃんが一人で海外に行っても淋しくないように身につけていられるものにしたかったの。気に入ってくれた?」

「ああ、ありがとう。すげぇ気に入った。いい色だな。ネイビ―ブルーって奴だな。」

「良かった。龍也先輩がお兄ちゃんにはこっちの色が絶対良いって選んでくれたの。あたしは普通の黒いのを見てたんだけど。」

「へぇ…。」

チラッと龍也を見ると少し困ったような表情をしていた。きっと俺が気分を悪くすると思ったんだろう。

こいつにいじけていると思われたくはないな。

「おう龍也、ありがとうな。いいセンスしてるじゃねぇか。」

俺は視線を合わせないようにしながらそれでも精一杯の言葉を龍也にくれてやった。

あいつが驚いて息を飲んでいるのがわかる。

俺だってガキじゃねぇんだから大人の対応っつうのは一応出来るんだよ。


「聖良、キッチンへ行って母さんを手伝ってやってくれ。飯にするぞ。俺腹減ったし。」

「え…うん。じゃあ、準備してきますから龍也先輩くつろいでいて下さいね。」

そう言うと繋いだ手を躊躇うような仕草をしてからゆっくりと離す。

「お兄ちゃん。龍也先輩に変なこと言わないでよ?苛めたら承知しないんだから。」

「何だよその苛めるって、人聞きの悪い。俺はただ単にお前の事を心配してるんだよ。」

「あたしのことなら心配してもらわなくても結構です。もう16才なのよ。立派な大人です。」

そういい残して部屋から出て行く聖良を見ながら俺は小さく溜息を付く。娘が反抗期の親ってこんな気分なのかな?

「俺、結婚しても娘はいらねぇや。娘は聖良だけで充分だ。」

かなりマジでそう言う俺に不思議そうな顔をする龍也。

ポーカーフェイスで冷静を保っているけど、こいつもきっと俺に何を言われるかと思って緊張しているんだろうな。


テーブルの上のグラスにウィスキーを注ぎ一つを龍也に手渡す。

「飲めるか?」

「はい。いただきます。」

ストレートでウィスキーを飲める高校生…やっぱりこいつ年齢をごまかしてんじゃねぇか?

苦も無く飲み干していく龍也を見つめながらもっとこいつの心を知りたいと思うようになってきた。


「龍也さ、聖良のどんな所が好きなんだよ。あいつ危なっかしいだろ?付き合っていて疲れないか?」

「いや、全然。むしろ癒される。」

…聖良に癒されるって…こいつ結構懐が深いかもだな。

「そうか?あいつは大変だぞ?俺が純粋培養しちまったせいもあるが、世の中に悪い奴はいないと思っているところがある。簡単に悪徳商法とか引っ掛かるタイプだし、自分から厄介ごとを拾ってきかねないぞ。」

「承知済みですよ。」

まるで今日の天気でも聞かれたかのようにサラリとそう言ってグラスに口をつける龍也。

こいつは結構大物かも知れないと思ってしまうのは俺が酔っているんだろうか?



「おまえさ聖良にまだ手を出していないんだろう?」

龍也が口をつけていたグラスをいきなり噴出してむせ出した。

あ〜あ、気管に入ったらしい。涙目になってやがる。
そんなに動揺するなんて思わなかったよ。さっきまでのポーカーフェイスは一体何処へ行ったんだろうな。

「龍也。おまえ聖良をかわいいと思うだろ?」

「ケホッ…ケホ……思います。…コホッ…」

「本気で惚れてんのか?」

「はい。本気です。…聖良は俺に忘れていたものを教えてくれた。俺にとって聖良はなくてはならない存在だと思っています。」

「…じゃあ、なんで手ぇださないんだ?」

「…出して欲しいんですか?」

「ぁあ?んな訳ないだろう。ただ、俺だったら半年も我慢できねぇだろうなって思ったからさ。」

「あははっ。聖さんすげぇストレート。」

屈託のない笑い声を聞き、初めてまだ少年だと感じる。

こいつは胸に重いものを抱えて一人で耐えているのかもしれない。だったら合点が行く。
こいつのやたらと大人ぶった冷静な視点も妙に相手の出方を見て落ち着いて話す事も何より自分を見せまいと心をしっかりガードしている事も。
聖良がその心の重圧を少しでも和らげて安らぎを与えているんだろう。


「キスくらいはあるんだろう?」

「あ、それはもう、しょっちゅう」

すげぇ嬉しそうに後光が差しているんじゃないかと錯覚する程の眩しい笑顔を飛ばす龍也。
それはもう、にっこり♪と効果音がつくくらいのビューティスマイルで。

…ジャニーズも真っ青だな。
おまえ、意外と素直な所もあるんじゃないか…。キスをしょっちゅうなんて微笑まれちゃ俺的にはすげぇ複雑なんだけど…。

「でも先には進まないってなんでだ?まさか聖良には感じないってことじゃねぇよな?」

「違いますよ。聖良はすげぇかわいいし理性が持たない時だってありますよ。俺だって男だしチャンスがあればそうなりたい気持ちはありますけど…。」

「まさか他にも女がいるなんてこと無いだろうな。」

「ありえません。」

ぴしゃり!!そう効果音が付きそうな位、間一髪を入れず冷たく言い返してくる。
やっぱりな。こいつの聖良への想いを知って他に女がいるとは思えないが、じゃあ何を躊躇しているんだろう。
…って、俺、いつの間にか龍也を応援していねぇか?そうじゃないだろう。



「俺だって男ですから。我慢が効かなくなりそうなこともありますよ。でも聖良はあんまりにも純粋で…傷つけたくないから慌てたくないんだ。」

言葉を選ぶように龍也は何かを考えながら語りだした。

「聖さん知ってます?聖良本当に真っ白なんですよ。その手の事何も知らないんだ。えっちって言葉は知っていてもどうしたらいいのかさえ知らない。知識は多分小学生並みですよ。」


……なんだって?


初めて聞く事実に唖然とする。高校生にもなって何も知らないなんて…ありえるのか?

それって俺の純粋培養のせいなんだろうか?


「おかげで大変ですよ。変な知識を教えたがる周りの奴らから聖良を護るのは。」



苦笑しながら、でもその言葉には愛しさが込められていて…。



「聖良には真っ白でいて欲しいんですよ。ずっと綺麗な心のままでいて欲しい。」



龍也はこんなにも聖良を理解して大切にしてくれているんだと安堵せずにいられない。



「…まあ、俺の理性もあの殺人的天然スマイルの前には砕けっぱなしで、そろそろやばいんですけどね。でも、やっぱり聖良の心の準備が出来るまでは待たないとダメでしょうからね。」



おまえに聖良を任せるよ龍也。おまえなら信頼できそうだ。聖良を大切にしてくれるだろうし決して裏切ったりしないだろうと思う。



「でも、感謝していますよ聖さんには。聖良を大切に護ってあんなに純粋に綺麗な心のままに大人になってくれるなんて奇跡です。聖良に出会えたから俺は人間に戻れたんだ。
無くしていた笑顔とか、心に閉じ込めていた感情とかを素直に表現できる人間にようやくなりつつある。
聖良がいなかったら俺は一生頭のいい多少綺麗に出来た人形みたいなものでしたよ。
俺が今の聖良に出会えたのは聖さんのおかげです。本当にありがとうございました。」



胸が熱くなる。龍也なら、聖良の全てを任せても大丈夫だと俺の中に確信めいたものが生まれて背中を押してくれた。


「おまえに最後の試練をやる。」

「え?」


「今夜は泊まっていけ、聖良の部屋で寝るんだぞ。」

「ええ?それってキツイですよ。」

「だから、試練だって言っただろ?明日の朝まで我慢してみろ。聖良の寝顔を見て襲うんじゃねぇぞ。耐えれたらおまえを俺の弟として認めてやってもいい。」

「そんな無茶苦茶な…って、え…。弟?」

「これをクリアできたら聖良をおまえにくれてやる。付き合うなり抱くなり結婚するなり俺はもう何も言わん。」

「聖さん。」

「俺はおまえが結構気に入ったよ。だから一回だけチャンスをやる。がんばってみろよ。」

「……はい。分かりました。やります。」





「ああ、言っとくけど、聖良は寝相が悪いからな。胸がはだけたりってのは覚悟しておけよ。 かなりキツイ夜になるだろうから、先にご愁傷様って言っておいてやる。
せいぜい強靭な理性っつうのをみせてくれよ。明日の朝を楽しみにしているぜ。」



龍也が上手く我慢できる事を祈ってやろうと思うなんて俺も人が良いよな。


でも、こいつの事、なんだか気に入っちまったんだ。


だって聖良をあれだけ大切に思って宝物みたいに大事にしてくれているんだぜ。


こいつになら聖良を任せたいって思うよ。


だけど俺は素直じゃないんだ。


やっぱり聖良を見守ってきた10数年分の俺の気持ち分、龍也には苦しんでもらいたいんだよな。



ああ、なんだか俺、少し酔ってきたみたいだ。



すきっ腹にストレートで気がついたら4杯目…聖良に殴られそうだな。







※未成年者の飲酒は禁止されています。龍也の真似しちゃダメですよ( ̄▽ ̄;)


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