Love Step

Step6 Un? Happy New Year〜1月3日21:00〜




じかに触れる肌のぬくもりに心が安らいでいく。
縋りつくように俺を抱きしめていた彼女の腕を緩めて腕枕をするように柔らかい身体を抱きしめた。

俺を闇の中から救い上げてくれた聖良の温もりを思い返しバラ色の頬に感謝のキスをする。


目覚めた時俺の目に飛び込んできた聖良のあまりの美しさには息を飲んだ。

俺を抱きしめる真っ白な一糸纏わぬ美しい裸体。その細い身体で俺を温めようと必死で抱きしめていた姿が忘れられない。


聖良…。おまえはどうしていつも俺を当たり前のように救ってくれるんだろう。

どうしてここまでして自然に俺を受け入れてくれるんだろう。


真っ白な肌がまぶしくて…でもどうしても触れてみたくてそっと白い肌に触れてみた。

「う…ん…」

ほんの一瞬ピクッと反応を見せてすぐに静かな寝息を立てる聖良。

起こしてみたくて、でも起こすのもかわいそうで…。

やわらかな髪を剥きながらそのまま聖良に愛情を込めて頬に額にキスの雨を降らせていく。

そんな俺に反応して眠っているのに無意識に抱きしめようとする聖良が可愛くて思わずクスクスと笑ってしまう。

その時…眠ったままの聖良が夢にまどろみながら不意に俺の胸を掻き乱す言葉を呟いた。

僅かに開いた艶やかな唇から零れ落ちたその甘美な囁きは、それまで張り詰めていた俺の理性を一瞬で粉々に玉砕してくれた。




「もっと…キス…して…。」





温かくまどろむ幸せな夢の中龍也先輩が優しくあたしの名前を呼ぶ。

優しく髪を剥く温かい大きな手。
いつもあたしを包み込んでくれる優しい龍也先輩の手があたしに触れるこの感覚が大好き。

温かい腕に抱かれて髪に頬に額にキスをするあなたの柔らかな唇を感じると体の奥底からあなたをもっと感じたいと思う気持ちが溢れてくる。

あなたが好き…。

ギュッとあなたを抱きしめて想いを伝えるとクスクスと笑いながら抱きしめ返してくれるこの瞬間がとても幸せで…。

もっともっとあなたを近くに感じたくなる。

「もっと…キス…して…。」

心の求めるままに想いを言葉に乗せると応える様に唇に優しいキスが落とされる。


「聖良…好きだよ。」


耳元で響く優しい先輩の声に体の力がどんどん抜けて、熱い息が耳から首筋へと移動していくたびに肌が粟立っていくのを感じる。

夢なのに何故かとてもリアルで本当に先輩があたしに触れているみたいに感じてしまって恥ずかしくなる。
早く目覚めなくちゃ…。

こんな夢を見ているなんて龍也先輩に思われたくないよ


そう…夢…だよね…?


ようやくまどろむような感覚が薄れていき意識がハッキリしてくると同時に温かい唇があたしの首筋を移動していくのが分かった。

―――!夢じゃないの?

そう思った瞬間胸から全身に雷でも駆け抜けたみたいな甘い電流が流れていった。

ビリビリと身体を駆け抜けていく痺れるような甘い感覚に体から力という力が完全に抜けてまるで人形のようにぐったりとしてしまうのを自分ではどうすることもできなくて…。
力なく投げ出された肢体を龍也先輩に激しく抱きしめられ紅い痕を残しながらキスを落とされるのをされるがままに受け入れる。

まだ夢の中にいるようで、これが現実だという意識が湧いてこない。

でも先輩が強く吸い上げ紅い華咲かせるチクリとした痛みがこれを現実だと物語っていた。

「…ゆめ…じゃないの?」

「これが夢だったら俺、泣くだろうな。」

先輩のその声にこれが現実だとぼんやりしていた頭がようやく認めると途端に顔が熱くなった。

「うそっ!あっ…やあっ。やめて先輩。」

「それはないだろう聖良。ひでぇ拷問だな。こんな格好で俺と寝ていて更に『もっと』なんて誘っておいて今度は『やめて』かよ。俺だって聖人君子じゃないんだよ。わかっているんだろう。」

反射的に身体を隠そうとしたあたしの両手を押さえつけた龍也先輩はあたしを見下ろすと少し怒ったように言った。

「あ…。」

「目が覚めて惚れた女が裸で自分を抱きしめて寝ていたら襲わない男がいると思う?俺だってもう限界だ」

「龍也先輩…あのっ…これには訳があって…。」

「それは後でゆっくり聞くよ。今は聖良が欲しくてたまらない。もうダメだよ、俺の理性玉砕しちまったから…。覚悟決めてくれよ聖良。」

「だって…熱が…。」

「聖良を抱けば治る。…こんな生殺しのままで身体に良いわけないだろう。聖良を抱かなきゃ俺の熱は下がらないよ。」

龍也先輩が擦れた色っぽい声であたしを誘うように耳元でそう告げた。



あたしは心も身体もあなたに捧げると誓った。



あたしの全てであなたを受け入れると心に決めたの



あたしは心の決めると真っ直ぐに彼を見詰めて想いを言葉にした。





「ずっと待たせてごめんなさい龍也先輩。」





擦れた小さな声は先輩にちゃんと聞こえたかしら。











俺の声にビクッと反応した聖良は身体を硬くしてギュッと俺の腕を掴んだが小さく頷いて俺の胸に顔を埋めてきた。

細い体で必死に俺を抱きしめて俺の想いを全身で受け止めてくれた。


体を結ぶと心まで今まで以上に近くなったような気がする。


それなのにもっともっと傍にいたいとそれまで以上に思うのは何故だろう。


聖良と結ばれて人間の欲望ってのは際限が無いって言う事を俺は身をもって知ることとなった。


今までのあの強靭な理性は一体何処へ行ってしまったんだろう。

ほんの1秒でも俺は片時も聖良を離したくなくなった。

箍が外れるってこう言うことを表すんだろうか。

聖良を抱きしめて僅かの間も離したくない。
夢の中にさえ聖良を連れて行きたくて抱きしめて肌を合わせてぬくもりを感じて眠った。

目覚めた時にこれが夢で聖良が俺の傍にいなかったらと思うと怖くて何度も目を覚ました。眠りの中から何度も聖良を呼び覚ましてはキスを交わす。


俺が一人の女をここまで必要とするなんて思ってもみなかった。

ここまで女に溺れてしまうなんて…


まるで麻薬だ。


その白い肌

その甘い声

その切なげな表情



何度となく求めてもこれ以上ないほどに奪ってもまだ欲しいと心と体が求めて止まない。


聖良…


おまえは何処まで俺を変えるんだろう




おかしくなりそうなくらいおまえが好きだよ









〜〜*〜〜*〜〜*〜〜*〜〜*〜〜*〜〜*〜〜*〜〜*〜〜





3日の昼頃聖さんが俺のマンションを訪ねてきた。
見舞いと言っているが実際は俺達の関係が進展したか探りに来たって所だろう。

「龍也、熱はもう大丈夫なのか。」

聖良が出したコーヒーに口をつけながら話す聖さんはどこかうれしそうだ。
多分俺達の雰囲気でもう気が付いているのかも知れない。

「はい。聖良の看病のおかげですっかり良くなりましたよ。」

「ふうん…看病のおかげ…ねぇ?随分イイ看病だったみたいだな。おまえの強靭な理性も完全崩壊って所か。」

ニヤニヤと意味ありげに俺を見る聖さんに、いつものポーカーフェイスを決め込んで深く突っ込まれないように話を逸らそうとするが、相手も一筋縄ではいかなかった。

「聖良。おまえここ数日の間に妙に色っぽくならなかったか?龍也に何かイイコト教えてもらったんだろ。」

俺の口を割らせるのは無理と判断したんだろう。突然聖良に矛先を向けてきた。
ある程度想定内だったが聖良は案の定、口で何も語らずとも思いっきり顔に書いてありますといった反応をする。

耳まで真っ赤になってパタパタとキッチンに逃げ込む聖良を見て、聖さんはケタケタと笑い出した。俺も思わずつられて苦笑する。

本当にウソのつけないお嬢さんだよ。

「あははっ。そうかよかったな龍也」

よかったなって…兄貴が妹の恋人に言うべき台詞なんだろうか。そうは思いつつも聖さんが俺を認めてくれている事がうれしかった。


「龍也…聖良を頼むぞ。あいつの事はおまえに任せたから。」

聖良がキッチンにいる事を確認するようにちらりと見てからそっと耳打ちするようにそう言った聖さんに俺は深く頷くと笑顔で答えた。

「任せて下さい。必ず護ります。俺の全てをかけて幸せにしますから。」

「何だかもう結婚するって言ってるみたいな台詞だな。」

聖さんは俺の言葉を聞いて満足気にそういって笑った。

「結婚しますよ。子どもができてもちゃんと養っていける年になったらプロポーズします。その時は反対しないでくださいね。」

「バカ!俺は寛大だって言っただろう?クリスマスの時点でおまえは俺の弟として認めたんだし、抱くなり結婚するなり好きにしろって言った筈だ。今更反対なんてしねぇよ。」

「ありがとうございます。」

「絶対に幸せになるんだぞ。」

「ハイ、絶対に聖良を幸せにしますよ。」

「そうじゃなくて、おまえも幸せになるんた。聖良だけじゃなくおまえは誰よりも幸せになるべきなんだ。」

「聖さん…?」

「おまえが何を苦しんでいるのか俺は知らないが、おまえが家族を求めている事くらい俺だってわかる。本当ならすぐにでも結婚させてやりたいくらいだよ。おまえなら聖良を幸せにしてくれるだろうし聖良だってそれを望むだろうからな。」

「聖さん…。」

「でも、まだ未成年だもんなぁ。龍也さ、おまえ本当は年誤魔化してねぇか?17才には思えねぇ位しっかりしてるしさ。」

「あははっ。年齢詐称ですか?俺だって早く成人したいですよ。早く子どもだって欲しいですし。」

「子どもって…俺をあんまり早くおじさんにしないで欲しいんだけどな。」

「聖さんこそ本当は父親になっていてもおかしくない年じゃないですか。聖良の事はもういいんですからこれからは自分のことだけ考えて下さいよ。」

「おっ?言ってくれるじゃないか。俺だってもてないわけじゃないんだぞ。ただピンと来る相手がいないだけだ。」

「じゃあ次に帰って来る時はそのピンと来る相手を連れてきて下さいよ。」

「そうだな。それまでにいい女を捜しておくさ。おまえ達よりは先に結婚したいからなあ。」

そう言って笑う聖さんは何だかとても爽やかでいつもより若く見えた。
これまで聖さんは家族や妹を支える立場で思うように自分の恋愛さえもできなかったんじゃないだろうか。ようやく自分の為だけに幸せを考える事ができるのかもしれない。

…まるで肩の荷を降ろして自由になったように明るく笑う聖さんを見ていると何となくそう思った。




でも…


このときは思いもしなかった。


この数年後、俺達が聖さんの恋に深く関わる事になるなんて…


本当に世の中って何処でどう繋がっているかなんてわかんねぇよな。









聖さんは明日の朝の飛行機で赴任先に帰るとの事だった。

今夜は家族で食事に行きたいからと俺に申し訳無さそうに言う聖さんに何でもないように笑って聖良に一緒に帰るように言ったが本当は体が引き裂かれそうなくらいの痛みを感じていた。

聖良を家に帰さなければいけない。
当たり前の事だがまるで自分の半身を失う事のように感じる。
誰かが常に傍にいてくれるという温かい部屋の感覚を一度覚えてしまった為にそれまでの部屋が余りにも寒く思えて胸の奥に空間ができたような孤独感が拭いきれなかった。

たった3日聖良が傍にいただけで今までの生活がどんなに虚しいものだったのか痛感させられる。

聖良をこのまま家に帰さずに留めてしまいたいと思うのは俺の我が侭だ。

わかっているけれど、どうしても離したくないと思っている自分を否定する事は出来なかった。



身体を結んで聖良をより強く求めるようになってから、今まで自分の中の認めたくなかった弱い部分を認めざるを得なくなった。



俺はずっと一人が淋しかったんだって事。



天涯孤独の身であることがむしろ気楽だと思い込もうとしていた。

俺を捨てるような母親なら最初から存在しなかった事にしておけばいいと思っていた。

誰にも干渉されず誰のことも気に止める事無く自分のことだけを考えて生きていけばいいと思っていた。


だけど…。



本当はそれこそが強がりだったという事を聖良と出会ってから感じ始めていた。

認めたくは無かったけれど聖良を抱いて愛する存在を手に入れた時、初めてそれまで心が受け入れられなかった感情が、自然と胸に染み込んできた。


俺は誰かと共に歩きたかったんだ。


部屋を温めて『お帰りなさい』と笑顔で答えてくれる存在がずっと欲しかったんだ。


母さんがいた頃の温かい家庭をもう一度取り戻したいとずっと願っていたんだ。





荷物をまとめる聖良をソファーに座ってぼんやりと見つめる。

俺がもっと大人でいつでも結婚できる年令だったらと虚しい事を考えてしまう自分の考えを振り切るように頭を振る。

「聖良、手伝う事はある?」

わざと明るく言って俯く聖良を覗き込む。



「―――っ!聖良?」



聖良は目に大粒の涙を溜めて声を出さずに涙が流れないように耐えていた。

「どうした?」

「ごめんなさっ…い。龍也先輩を一人にしてしまう。ずっと傍にいたいのに…傍にいるって約束したのに…一緒に暮らせなくてごめん…なさい。」

耐え切れなくなった涙が頬を伝って泣きじゃくりながら俺に縋り付いてくる聖良にそれまで耐えていた自分の気持ちが苦しいほどに溢れてきて聖良を引き寄せて強く抱きしめた。

「俺だっておまえを離したくないよ聖良。ずっとここにいて欲しいさ。何処にも行けないように閉じ込めておきたいくらいだ」

聖良の涙を指で拭いこの苦しいほどの想いが聖良に伝わるように激しくキスをする。

「早く大人になるから。待っていろ」

「龍也先輩…?」

「少しでも早く聖良と結婚できるように、俺がんばるからさ。それまで待ってろ。」

それは聖良に告げるのと同時に自分に言い聞かせていたんだと思う。

「はい…。待っています」

潤んだ瞳を閉じると涙が頬を滑り落ちる。それをすくい取るように唇で追いかけて涙を拭っていくと聖良が小さく『愛しています』と呟いた。

誓いの口づけを交わすようにそっと触れるだけのキスをして想いを伝えるように瞳を絡ませる。



いつかきっと、おまえを貰い受けに行くから



その時はおまえを傍において片時も放さずに温かい陽だまりの中で抱きしめていよう。



初夢の幸せな風景を思い出す



きっとあの幸せな時間をおまえと共に築いてみせるよ












聖良の帰った部屋は今まで以上に静かでなんだかそれまで俺が住んでいた部屋とは思えないくらいだった。


ソファーに沈み込むように座ってこの3日間を振り返る。


いきなりツイていない事ばかりでUnhappyだと思っていたけれど、聖良と結ばれてずっと望んでいた最高のものを手に入れた。

俺にとってはやっぱりHappyな年明けだったのかもしれない。

コーヒーを淹れようとキッチンに立った時、今までには無かった筈のものが目に飛び込んできた。


ペアのコーヒーカップと聖良用のハブラシ。


俺が眠っている間に用意したんだろうか。
聖良がこれを使っている様子を想像して頬が綻んだ。



―――いつだって傍にいるから…。



聖良がそう言うのが聞こえた気がした。



目を瞑ればその細部まで思い出すことができるよ。


細い指


甘い声


柔らかな髪


何よりもその鮮やかな笑顔


一緒に住むのはまだ先の話だけど、それでも聖良の心は確かに俺と共に在るんだ。


ペアのコーヒーカップにコーヒーを注ぐと、聖良のカップに砂糖を一つと聖良用に用意したミルクを入れる。

それだけで心が温かくなるようだった。


聖良の想いが俺を抱きしめるように心が満たされていく。


俺はもう一人じゃないんだ






〜〜♪

聖良からのメールだ。

どうしたんだろう。今ごろは家族で食事をしているんじゃないのか? 不思議に思いつつ携帯を開く。




メールを見て胸が震えた。



―― 今からそちらに帰ってもいいですか? ――





帰ってもいいですか?


その言葉に涙が溢れてきた。


この部屋に俺以外の誰かが帰ってくる。

『ただいま』

その言葉をこの部屋でもう一度聞く事ができるんだ。

メールの返事を返そうとして指が震えていることに気付く。早く返事をしたいと思うのに指が上手く動かない。
それでも何とか打った短い文章には俺の想いの全てが込められているのを聖良はきっと感じ取ってくれるだろう。


―― コーヒーを淹れて待っているから ――




あぁ、聖良のためにもう一度温かいコーヒーを淹れ直してやらないとな。








もうすぐインターフォンが鳴る。


逸る気持ちを抑えてドアを開けると、瞳に飛び込んでくるのはきっと、弾む息に頬を染めた聖良の笑顔だ。

その照れたような微笑も、うれしそう俺に抱きついてくる姿も、全部想像できるよ。


きっと俺は『ただいま』と言うおまえの声を聞くことも無く、唇を塞いでしまうんだろうな。





――― おかえり聖良 ―――










+++ Fin +++

★この続きを番外編でご用意しました。どうぞお楽しみ下さい♪ 

番外編 龍也君のお年玉へ / Novel Top



月夜のホタルで12月31日から1月7日まで毎日更新してきました『Love Step』お年賀小説ですがようやく森バージョンに編集が出来上がりました。きわどい所だけカット・・・なのですが文章を付け加えたり何かと時間がかかってしまいました。
本当にお待たせしてしまって申し訳ありません。
ええっと、ついにふたりは結ばれましたね。龍也にしたら山あり谷ありでしたが最後は素晴らしいお正月だったのではないでしょうか?
誤字報告を皆様に頼りきっているこんな管理人ですが本年もホタルの住む森をよろしくお願いいたします。

今回の作品には拍手で頂いたリクエストを組み込ませて頂きました。
★第三話『聖良ちゃんにお正月は巫女さんになってもらいたいです。』しょこら様
★第五話『聖良と結婚して幸せな休日を過してるという夢を見て目覚めるとそこに聖良がいた龍也のあわてぶり』tama様
リクエストくださったしょこら様tama様どうもありがとうございました。

2006/01/13
朝美音柊花



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