Love Step

Step7 キスの代償 嫉妬の矛先 2




高校受験も終わり、俺がバイトで受け持っていた受験生は全員第一志望の高校に入学した。
ようやく勉強から解放され春休みくらいはゆっくりしたいだろうと、家庭教師のバイトは春休みが終了するまで約1ヶ月休みとなった。

これから約1ヶ月、俺にとっては久しぶりにバイトの時間に追われることなくゆっくりと聖良と過ごす事の出来る貴重な時間だ。

生徒会は来週の卒業式の準備で色々と雑務が残っている。週明けからまた忙しくなる俺は、とりあえずこの週末は聖良と二人きりでゆっくり過ごそうと決めていた。

近所の公園の桜が咲くには少し早いが、風は随分温かくなって全国で早咲きの桜がちらほら咲いているとニュースで映像が流れている。


「桜、綺麗ですね。公園の桜が咲いたらお花見に行きましょうね。龍也先輩。」

聖良が両手にコーヒーカップを持ってソファーに座る俺のもとへとやってきた。俺のカップをスッと差し出しながらテレビの映像に視線を奪われている。
俺はカップを受け取ると、口もつけずにテーブルに置き、そのまま聖良の腰を引き寄せて膝の上に座らせた。

「きゃっ、コーヒーこぼれちゃうじゃないですか。危ないですよ。」

俺は聖良の言葉を無視して、彼女の手にしたコーヒーを取り上げると当たり前のようにサラリと一言。

「俺は桜なんかより聖良のほうがずっと綺麗だと思うよ。」

ニッコリ♪と聖良の弱いとわかっている顔で微笑んでみせる。
案の定頬を桜色に染めて視線を逸らす聖良を「カワイイ♪」と機嫌よく抱きしめた。
桜なんかよりずっと綺麗でもっともっと見ていたくなる。

「桜の花を愛でるより聖良を愛でている方が俺には何倍も心が安らぐんだけど…花見をしたいなら俺がいつだって聖良の肌に華を咲かせてやるよ。」

「いや…そういう花見じゃなくってですね。」

聖良の頬は桜色から紅葉するが如く朱に変化していく。
俺はそれを楽しむように耳元に唇を寄せた。チロ…と耳朶を舐めてから甘噛みして誘うように声をかける。

「聖良を桜色に染めるって言うのはどう?桜の花なんかよりずっと綺麗だよ。」

「だからっ…そういう花見じゃ…っ…ないで…しょ?…んっ…。」

言葉を奪うように唇を重ねる。こうなると聖良に勝ち目は無い。
相変わらずの溺れっぷりだって言うのは自分でも自覚している。
だけど…止められないんだよなぁ。

雪のように白い聖良の肌がほんのりと桜色に染まっていくこの感覚はたまらないものがある。
惚れた女が自分の腕の中で色付くのを見て、そそられない男はいないだろう?
貪るように唇を求めると、息を継ぐ一瞬に喘いで甘い声を漏らす聖良。

その瞳は潤んで俺を見上げてくる。

「早咲きの花見といこうか。なあ、聖良。……どこからつけようか?」

聖良に対してだけはどうしてこんなに優しい声が出せるのか自分のことながら不思議だ。艶を含んだ誘う声で聖良の耳元に振動が伝わるように囁くと、それだけで聖良が身体を震わせて溜息を漏らすのを俺は知っている。

「…んっ…ぁ…」

ほら…声まで桜色に染まっているよ。色っぽいなあ。ゾクゾクしてくるよ。

「…ぁっしゅ…」

……へ?

「アッシュ…見てる。」

聖良の声に振り返ると、俺の飼い猫アッシュがじっと俺達を見ている。
こいつ…俺だけのときはしょっちゅう出かけて家にいないくせに聖良がいると決まって何処からか現れる。
とっとと何処か散歩にでも行けよ。

俺はスッと聖良を離すと、いつものようにアッシュの為に窓を少し開けてやった。
ここはマンションの3階だ。猫には猫の通り道があるらしく、アッシュいつもこの窓から出入りをしている。
窓の傍まで行くとニャアと一声鳴き、俺を振り返る。何処か不満気なその表情に引っ掛かるものを感じた。

散歩じゃなきゃなんだよ?さっき餌ならやっただろう?

「アッシュ、おいで」

背後でアッシュを呼ぶ聖良の声、それを待っていましたと言わんばかりに聖良の膝に飛び乗るアッシュ。

むっか〜〜〜!
こいつも聖良狙いか?

せっかく二人でのんびり過ごそうと思ったのに…このクソ猫、何でこうタイミングよく邪魔をするんだろう。
俺のそんな気持ちも気付かず、聖良はアッシュを撫でている。気持ち良さそうに喉を鳴らすアッシュが、聖良の膝の上で伸び上がったかと思うと前足を聖良の胸の上において、唇を舐め始めた。
聖良の胸にアッシュの前足がめり込むような形になり、その柔らかさを主張している。
笑いながらくすぐったそうにしている聖良の唇が艶を増し光っているのが目に飛び込んできて体の芯がカッと熱くなり、苛立ちが込み上げてきた。

アッシュの奴、猫は猫らしくメス猫に欲情していろよ。聖良にさわんなって!

「クスクス…いやぁんアッシュくすぐったいよ。」

聖良のその声にピクッと反応する。
何でアッシュに舐められてそんな声出すかなぁ。
アッシュの奴、いい加減にしておかないと今晩飯抜きにしてやる。いや、家から締め出してやったほうが良いかも知れない。

「アッシュ。そこどけ。」

俺はアッシュの首根っこをひょいと持つとポイと投げ捨てるように聖良から引離した。
同時にアッシュの乗っていた膝にごろんと横になり膝枕を強奪する。
一瞬驚いたように目を見開く聖良。

「きゃっ!…先輩?」

「俺以外の男を膝に乗せるなんていい度胸だな聖良。」

「は?」

「アッシュだってオスなんだぞ?何処触られるかわかんねぇだろ?」

「何処触られるかって…アッシュは猫ですよ?」

「猫だってオスだ。」

「オスって…だってそんなの…」

「ウルサイ、イヤなもんはイヤなんだ。」

「……それって、ヤキモチですか?」

確かにそうだが素直にうんとは言いたくないのは当然で…俺はその言葉を無視する事にした。

「……聖良が無防備すぎるんだよ。さっきもアッシュに胸触られてキスされても笑っているしさ、俺がキスしても胸触ってもあんな風に笑っていた事無いぞ?」

猫に嫉妬なんて自分でも見境が無いとは思うよ。だけどさ…。

「それは…アッシュと先輩じゃ触れた感覚が全然違うんですもの。」

「じゃあ俺もアッシュみたいにあんな風にしたら、キスしても胸触っても抵抗せずに笑ってくれる?」

「ええ!なっ…何を言ってるんですか?そんなこと恥ずかしくて出来ませんよ。」

「何で猫が良くて彼氏はダメなんだよ?」

「だって、アッシュは猫じゃないですか。人間とは違うし、キスって言ったって舐められただけでしょ?」

それすらも腹が立つってどうしてわからないんだよ?

「舐めて欲しかったら舐めてやるよ。…仰せのままにな。ドコがいい?」

この言い方ってエロイかも…聖良はどんな反応をするんだろうか。

「ドコがって…舐めなくてイイです。先輩は猫じゃないんだからっ!」

思ったとおり真っ赤になって俺から視線を逸らす。頬を膨らませて拗ねている姿がなんとも俺を煽ってくれるんだけどな。

「冷てぇ。アッシュには平気で胸を触らせて膝枕までさせて笑ってるんだから、聖良もひでぇよな。俺の気持ちも知らないで。」

「そんなぁ…。アッシュは猫だし、あんなの膝枕でも何でもないでしょ?胸だって…触ってるなんて言うほどのものじゃないですよ。」

困ったような聖良の顔に、拗ねていた俺もだんだんと嫉妬より苛めたい衝動のほうが強くなってきて、手を伸ばすとそのまま聖良の胸に触れた。
ポワンと柔らかくて弾力のある胸の感触が心地いい。

「きゃ…んもう、ダメですよ。」

冷たくパチンと手を叩かれ払い落とされる。

俺が触れるのはダメで何でアッシュは平気なんだ?

チロリとアッシュを見ると、聖良を見上げかまって欲しそうにしている。

絶対に触らせてやらねぇからな。

「大体あたしは先輩以外の人に膝枕なんてしたことないですよ。」

「あいつは猫だけど、絶対に聖良に好意を持ってる。ぜって〜どっか触ろうとしてた。」

俺の言葉についに聖良がたまりかねたように噴き出した。

「あはははっもう、先輩ったら、アッシュになんか妬かないで下さいよ。そんなこと言ったらこの間のチョコレートもらった彼女の事、あたしだって嫉妬しちゃいますよ。」

少し膨れながら膝に乗った俺の頬を人差し指でつつく。
こんな仕草一つをとっても可愛らしいと思ってしまう。

「チョコレート?…ああ、そう言えば忘れていた。」

すっかり忘れていた現実を突きつけられてドキッとする。そう言えばそんなことあったっけ。

…なんだか納得いかない所もあるけど…聖良がチョコレートの事を気にしているのならこれ以上アッシュの事を突っ込むより機嫌をとったほうが良いかも知れない。



でも、少しは俺の気持ちもわかって欲しい。



立場弱いなあ俺。










Next / NovelTop

拍手にリクエストを頂いた『「聖良の膝枕〜龍也理性との葛藤」をリクさせて頂けますか?』にお応えした話です。葛藤…になっていない気もしますが( ̄▽ ̄;)スミマセン
すでに結ばれて理性が玉砕してしまった龍也が葛藤するには…かなり無理がありました。(笑)どう頑張っても今更欠片も残らなかった理性が戻る様子は無くて…。で、しょうがないので龍也にはお得意の嫉妬をして頂きました。壊れていますね。猫に嫉妬です(爆)多少は葛藤になったでしょうか?
リクエストを頂いた方のお名前を頂いておりません。ご連絡いただけると嬉しいです。
2006/03/02≪オリジナルバージョン作成≫
2006/09/19≪森バージョンに改訂≫

朝美音柊花