Love Step

〜☆〜Christmas Special Step 11〜☆〜





龍也先輩と連絡が途絶えて2週間。相変わらずあたしはイジイジと考えながら毎日を過ごしている。
そんなに悩むなら思い切って電話でも、メールでもしてみればいいのにって自分でも思う。

…できないんだよね。


先輩とは相変わらずで、どちらからも連絡を取っていない。
周囲もあたしと先輩が何かあったって気付き始めているみたいで、色々聞いてくるけれど、あたしは何も答えられないでいる。

このままじゃいけない事はわかっている。

だけど、行動を起こすだけの勇気はまだ湧いてこない。

こんな事をしている間にも、龍也先輩の心はどんどん離れていくような気がする。



「聖良。顔色悪いわよ。さっきもお弁当ほとんど食べてなかったでしょう?大丈夫なの。」

クラスメイトで親友の霜山亜希があたしを心配して声をかけてくれる。

出来るだけ心配をかけないように大丈夫と笑って何とか言葉を引っ張り出す。
来週ウィーンへ留学する亜希に出発間際まで心配をかける訳にはいかないもの。

「聖良、何も言いたくないみたいだから何も聞かないけど、あたしは聖良の味方だからね。 何があっても親友だからね。一人で悩まないで。」

「あたしなら大丈夫よ。それより亜希、留学の準備はもう出来たの?」

「うん、後は身一つで行くだけよ。」

「そっか、がんばってね。応援しているから必ずピアニストになって帰ってきてね。」

夢を追いかけて飛び立とうとしている親友にこれ以上心配をかけるわけにはいかない。

亜希の前では出来るだけ笑っていてあげたいと思う。


あたしはニッコリと今出来る最高の笑顔を亜希の為に作ってみせた。

でも、亜希にはあたしの心が全部わかっていたみたい。

「バカね、無理しちゃって。」

そう言って悲しげな瞳であたしを抱きしめた。

「…ゴメン、聖良。こんな時に何もしてあげられなくて…。」

どうして亜希が謝るの?謝らないといけないのはあたしの方なのに。

「亜希…そんなことないよ。あたしこそゴメン。大切な親友が夢に向かって旅立とうとしているのに笑顔で元気に送り出してあげる事すら出来ないなんて…。」

「あたしは、聖良が幸せに笑ってくれていたらそれでいいのよ。早く龍也先輩と仲直りしてね。」

「……うん。ちゃんと話してみるよ。心配させてゴメンね。ありがとう亜希。」


そうだね、先輩に会わなくちゃいけないね。

逃げてばかりいる訳にもいかないんだよね。

頑張ってみるよ…

仲直りは…もう出来ないかもしれないけどね。





「蓮見聖良ちゃんっているかしら?」

突然思考の静寂を破る聞き覚えのある鈴を転がすような声が教室に響き、ハッとする。



「あ、いたっ!聖良ちゃ〜〜〜ん。」

聞き覚えのある声とイントネーションに思わず振り返る。

綺麗な巻き毛に長い睫毛をパサパサさせた美奈子先輩がそこにいた。
大きな瞳を更に大きく見開くようにしていきなりあたしに駆け寄ってくると、亜希を撥ね退ける勢いで抱きついてくる。

余りの勢いに一瞬よろけそうになり必死に持ちこたえていると、美奈子先輩はギュウギュウあたしを締め上げるように抱きしめる。
余りの出来事に亜希が唖然としてあたし達を見つめている。



くっ…くるしい…っ



「みっ…美奈子先輩?」

「聖良ちゃんが全然遊んでくれないから寂しかったのよぉ。最近生徒会にも顔を出さないし、引継ぎの約束もいつにするか連絡するって言っておいて、なかなか連絡くれないしぃ…。」

「あ…すっ、すみません。」

そうだった、美奈子先輩に…会計の引継ぎの残った仕事を教えてもらうとかってお願いしてたんだっけ。

「聖良ちゃん、一体何があったの?佐々木君に聞いても『忙しいらしいよ』としか言わないけど、本人もなんだか落ち込んでるみたいで、上の空だし…ついでに言うなら高端君ともなんだかギクシャクしているみたいなんだよねえ。」


龍也先輩と暁先輩が?
あのふたりがケンカ?一体何があったんだろう。


「ギクシャクって…二人はケンカでもしたんですか。」

「ん〜〜よくわからないんだけどね。二人とも何も言わないし…。でも、佐々木君の不機嫌には聖良ちゃんが関係している事くらいはあたしにもわかるわよ。聖良ちゃんの名前を出すとすごくイライラして動揺するんだもの。」

「…龍也先輩…イライラしているんですか?」

「うん、かなりね。聖良ちゃんとけんかでもしたのって聞いたら、うるせぇよ。ってその辺の物投げつけてくるのよ。こわいったら。」

「そうですか…。怒ってるんだ、ヤッパリ…あたしが悪いんだよね。」

小さく溜息を付くあたしに美奈子先輩は抱きついたまま、すりすりしながら話してくる。
そんなあたしたちをクラスのみんなが不思議そうな視線でじろじろ見ているんだけど、そんなことにはお構いナシに美奈子先輩は益々頬擦りするようにして抱きついてくる。

「…ったく、こ〜んなカワイイ聖良ちゃんを誰かに盗られちゃっても良いのかしらねぇ。もう2週間もほったらかしなんでしょう?」

そう言いながらあたしの髪を少しずらし首筋に顔を寄せるようにして耳元で小声で話す。
周囲から見たら先輩とあたしヤバクない?あたし、ノーマルなんですけど。

「あっ…あの、美奈子先輩?」

美奈子先輩が首筋を覗き込むようにしてワザと息を吹きかける。
ゾクッと龍也先輩の唇が首筋を這うときの感覚を思い出して胸が痛くなった。

「原因はコレかしらね?」

不意に耳元で小さな声で美奈子先輩が呟いた。何を言っているんだろう。

「聖良ちゃん、キスマークついてる。」

「ええっ?まさか、もう2週間も前ですヨッ?残っているはず無いですっ。」

「ふふっ、やっぱりそうだったのね?佐々木君の荒れ具合から、もしかしたらとは思ったんだけど…。」

「え…?あ…ああぁっ!?」




……カマを掛けられた。…って、なんでそうカンがいいんですか?




あたしの隣りでニッコリと笑って誇らしげにピースをしてみせる美奈子先輩。


「もぉ…美奈子先輩…信じられない…。」


あたしには溜息を付いて上目づかいで恨めしげに見ることしか出来なかった。





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あっさりと美奈子先輩にはめられてしまった聖良。ホント単純です(笑)。
『Sweet Dentist』の亜希が出てきました。この話は番外編『Sweet Memories』の時期と重なっています。
『Sweet Dentist』って何?気になるじゃないと仰るあなた。歯医者さんと高校生パティシェ年の差カップル『Sweet Dentist』へもお出かけしてみてくださいね。