Love Step

〜☆〜Christmas Special Step 12〜☆〜



結局、あたしは美奈子先輩を引っ張って教室を出ることにした。

興味深々であたしと龍也先輩の話を聞こうと耳をダンボみたいに大きくしながらウルウルとあたしたちを見つめるクラスメイトたちの前で話をするわけにいかなかったから。

「やっぱりゆっくり話すなら生徒会室のほうがいいわよね。」

そう言って美奈子先輩に引きずられるようにして、ふたりで生徒会室へと向かう。

あの日浦崎先輩に呼び出され連れてこられた長い廊下に差し掛かったとき、ぞわり…と体中の血液が逆流するような不快感が走った。

無意識に歩みが遅くなる。
足が僅かに震え出して、左右交互に足を出すという短調な作業が上手く出来ない。
必死に足に力を入れて美奈子先輩の腕にギュッと縋りつく形で歩いてしまう。

「聖良ちゃん?大丈夫なの。顔色が悪いわよ?」

「……大丈夫…です。」

「本当に?保健室へ連れて行ってあげようか?」

美奈子先輩の心遣いがありがたくて、微笑んで元気に振る舞ってみせる。

「大丈夫です。ちょっと嫌な事を思い出し……。」

言い終わる前に言葉が詰まった。

あの日の事はもう忘れると決めた。
それでもその人を見るとあのときの悪夢が甦ってきて身体が震えて止まらなかった。
ドキドキと鼓動が早くなっていくのがわかる。
唇に蘇る不快感。触れられた先から悪寒が立つような嫌悪感。



―――浦崎先輩



あたしはその場に立ち尽くして動く事が出来なくなってしまった。



「ねぇ、結局あのふたり別れないじゃない。そりゃ最近は前みたいにべたべたはしていないし、このまま行けば自然消滅かもだけどさ。
私はあのふたりが別れたっていう確かのものが欲しいのよ。大体、最初に淳也が言ったんじゃない…。」



―――金森先輩と浦崎先輩が…



「…龍也と付き合いたかったらふたりを別れさせるのに協力しろって。」



―――どういうこと?



「聖良はすぐに落とすよ。もう少し待て。今、聖良は不安定になっているからその隙を突く。 一度抱いてしまえばこっちのもんだ。聖良なんて純情な分だけすぐに僕の言いなりになるさ。」



―――あたしたちを別れさせる為にあんな事をしたの?



「その言葉信じてるわよ?伊達にプレイボーイを気取っているわけじゃないんでしょう?」

「フン、プレイボーイね。勝手に女が寄って来るだけだよ。僕の事何も知らないくせに何を好きだって言うんだ。バカな奴らだよ。」




そのセリフ…聞き覚えがある。

金森先輩があたしを呼び出した日に龍也先輩が言った言葉と同じだ…。
あの時龍也先輩も怒りを滲ませたとても冷たい声で同じ事を言っていた。



このふたりは根底で何かが似ているのかも知れない…。



だからと言って浦崎先輩を許す気持ちにはなれないけれど



二人の会話を何度も反芻しながら考えていると、美奈子先輩が心配そうにあたしを見ていることに気付いた。

ふっと微笑んでみせて「大丈夫です。」と声をかける。

多分こんな嘘はとっくにお見通しなんだろうケド、でも、あたしの気持ちを察してか美奈子先輩は何も言わずにただ、あたしの肩を抱く様に生徒会室まで連れてきてくれた。

美奈子先輩はさっきの会話であたしたちに何があったのかすべてわかったらしい。

「とにかく生徒会室で落ち着いてから話そうね」

そう言って鍵を取り出した。

これから中に入ると思うと何故かドキドキしてくる。

今の時間ここには先輩はいないんだから、緊張する事なんてないのに…。

「美奈子先輩、鍵を持っているんですか?」

「ああ、これ?さっき樋口くんに借りてきたの。基本的に鍵を持てるのは生徒会長と副会長だけだもの。」

副会長…龍也先輩の事を考えて胸が切なくなって涙が出そうになるのは、この場所のせいだろうか。

美奈子先輩が鍵をあける気配がする。カチン☆と音がして鍵が外れると、生徒会室の独特の匂いがした。

沢山の紙や資料のかさつくような匂い、ほのかに香るコーヒーの粉の香り。響先輩専用の紅茶の葉の香り。それから…


僅かに残る龍也先輩のコロンの残り香…




それはあたしにしかわからない香りかもしれない。


でも、その香りは確かにそこに残っていて…

龍也先輩がさっきまでその場所にいた事を示していた。



胸が締め付けられるほどに苦しくて、切なくて、どうしようもない位の想いが押し寄せてくる。


あたし…こんなにも、先輩が好きだ…。



先輩があたしを嫌いになってしまっていても、あたしは先輩のこと好きだ。

龍也先輩に…会いたい






「聖良ちゃん。泣いてるの?」

「え…あ、あれ?本当だ。おかしいな。アハハッあたしったら、どうしちゃったんだろう。」


先ほどから耐えていた胸の詰まるような泣きたくなる切なさはいつの間にか頬を伝う涙に変わっていた。
無理やり笑顔を作って見せるけれど涙はどんどん流れ出して、止めようとすればするほどポロポロと流れ出してくる。

美奈子先輩は優しく笑うとあたしを抱きしめてくれた。

「聖良ちゃん、佐々木君のこと本当に好きなのね。」

美奈子先輩の言葉にただコクンと頷く事しか出来ない。言葉を発したら嗚咽してしまいそうで声を出す事も出来ない。
自分の中でこんなにも先輩への想いが大きくなっていたなんて思っていなかった。

先輩に告白されて、勢いで付き合ったような形だった。
それでも先輩にどんどん惹かれていって、一日一日その想いは大きくなって少しずつ胸の中の先輩の占めるスペースを一杯にしていく。

気が付いたら、先輩のいない世界なんて考えられなくなっている。



こんなにもこんなにも、龍也先輩が好き・・・。



「あたし…龍也先輩が好き…。どうしていいか分からないの。美奈子先輩…あたしっ、どうしたらいいのかわからないの。」

それだけを言うのがやっとだった。



涙が後から後から流れ出てどうする事も出来なかった。



生徒会室に残る龍也先輩の残り香があたしを包んで切なくさせる。



この部屋に溢れる思い出が、あたしの心を乱す。

あたしの名前を呼ぶときのやさしく笑った顔

無邪気にキスをねだる時の子どもみたいな笑顔

眼鏡を外して悪戯っぽく笑う顔

龍也先輩のいろんな顔が浮んでは消えていく。

どれもあたしの中の宝物の笑顔



お願い龍也先輩…



もう一度その笑顔をあたしに向けて…









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偶然、浦崎と金森の話を聞いてしまってショックを受ける聖良。龍也への想いは募るばかりです。
切ないですね。ようやく自分の気持ちを素直に見つめ、向き合う事が出来ました。
想いは再び重なるのでしょうか?
まだ、続きを読んであげるよとおっしゃる方は次のStepへどうぞ。