Love Step

〜☆〜Christmas Special Step 16〜☆〜



重い足取りで生徒会室へと続く別館の長い廊下を歩く。

先週は美奈子先輩があたしを支えてくれたから何とか震えながらも歩く事が出来た。
でも、今日は一人で歩かなくちゃいけない。
受験生の美奈子先輩をこんなに振り回して、あたし何をしているんだろう。
何でもないように優しく微笑んで気遣ってくれる美奈子先輩には本当にいくら感謝しても足りないと思う。
これ以上心配をかけるわけにはいかない。
どんなに怖くても、震えても一人で生徒会室へ行かなくちゃいけない。

早く忘れたいのに、あれから半月以上経ってもこの場所はあたしの心を波立たせる。

言いようのない恐怖と不安が押し寄せてきて気持ちとは裏腹に身体はどんどん硬直して震え始めている。


「聖良。今から生徒会へ行くの?」




―――――!!



そこに立っている人を見て身体が凍りついたように動けなくなってしまった。

突き上げるような恐怖…。

強く締め上げるように抱きしめられ、唇を奪われたあの日の記憶が目の前に鮮やかに蘇り歪んで消えていく。



足が震えて動けない…。


胸の奥から胃を押し上げるような吐き気と悪寒がせり上がってくる。


今度は誰も助けてくれる人はいない。


龍也先輩も…あたしを助けには来ないだろう。


龍也先輩…


そうよ。浦崎先輩はあたしを傷つけたけれど、同時に龍也先輩をも傷つけたんだ。






胸の奥からせり上がってくる吐き気や悪寒が、熱いものに変わる。


怒りと…憎悪と呼ばれるものがそれなのかもしれない。



「聖良。この間の事怒っているの?ゴメンよ。聖良を傷つけるつもりは無かったんだけどね、どうしても僕の彼女になって欲しくて佐々木との仲を終わりにするきっかけが欲しかったんだよ。」


そのために龍也先輩を傷つけるような真似をしたの?


「聖良には辛い思いをさせたかもしれないけど…佐々木はあの後何も言ってこない?
あいつは意外とヘタレだったな。すぐに身を引いてくれたよ。聖良を僕に譲るってサ。」


――――― 龍也先輩があたしを浦崎先輩に譲った?


嘘、そんなの絶対に嘘だ。龍也先輩があたしに何も言わず勝手にそんな事を言うはずが無いじゃない。




絶対に嘘よ…だって、龍也先輩はあたしとは絶対に別れないって言ったのに。



『俺は諦めない。絶対におまえを手放さない。別れるなんて認めないからな。』



あの日の龍也先輩の言葉が胸に響く。

今更だけど…

自分勝手かもしれないけれど…

でも、あの言葉を信じたい。

直接龍也先輩の口から、その言葉を聞くまでは絶対に信じない。

そうよ。浦崎先輩の言葉なんて信じない。




「信じません、あなたの言葉なんて。あたしは龍也先輩の口から別れて欲しいってはっきり聞くまでは別れませんし、あなたとお付き合いするつもりは微塵もありません。」

自分でも驚くほどのハッキリした凛とした声だった。

「龍也先輩を傷つけないで下さい。あたしの事であなたが龍也先輩を傷つけるのだったら、あたしはあなたを絶対に許さない。」

強い意志をこめた瞳で浦崎先輩を睨みつける。
自分の中にこんなにも強い怒りの感情があるとは思わなかった。

龍也先輩を傷つける人は許さない。それがあたしのせいならば尚更の事だ。

絶対に傷つけさせない。護ってみせる。



―――あぁ、わかった気がする。

あたしが呼び出しを受けた時に龍也先輩が飛んできてくれたときの気持ちが。



あなたを護りたい。



龍也先輩の優しい笑顔が瞼の裏に浮かび上がる。
そっと瞳を閉じて、その幻影に心で語りかける


龍也先輩、あたしをいつも護ってくれていて、ありがとう。


…やっぱり、あなたが大好きです。





「そこまで嫌われているとは思わなかったな。ちょっとショックだけど、でも…。」

声のトーンが一段低くなった事にハッとする。

「聖良が僕を好きじゃないなら、好きにさせるまでだよ。」

浦崎先輩は綺麗に微笑みながら一歩ずつゆっくりとあたしに近付いてきている。

この間の恐怖を思い出し、間を取るように数歩下がると一気に走り出した。

何だかわからなかったけれど、怖かった。浦崎先輩から出るオーラに圧倒されて飲み込まれそうだった。

『ここにいてはいけない。逃げなくては。』本能がそう教えてくれていた。

必死に生徒会室までの距離を走る。



だけど…



男と女の脚力の差に加えバスケット部のキャプテンでもある浦崎先輩に叶うはずなんて無かった。

あっという間に追いつかれ、壁に押付けられた。強く抱きしめられて動きを封じられる。



この間と同じだ…。

触れられた場所から嫌悪が走り鳥肌が立った。


絶対にいや。こんな人に二度とキスなんてされたくない。

触れられたくない

あたしに触れていいのは龍也先輩だけなんだから―――



「いやあぁぁぁぁぁぁぁっ!」












ガシャ――ン!










思い切り抵抗して振り回した腕が窓ガラスを突き抜た。

ガラスが割れて飛び散る音が校舎に響き渡る。

ものすごい衝撃と痛みが走る


「…っ、聖良!」

浦崎先輩はあたしの右腕から滴り落ちる出血に動揺して、ようやくその腕を緩めてあたしを解放した。

よろよろとその場にうずくまり、怪我をしていない左手で大き目のガラスの破片を一つ取り上げると浦崎先輩を睨み付けた。


「あたしに触れないで。あたしに触れてもいいのは龍也先輩だけ。あなたには触れて欲しくない!」

ガラスの破片を自分の喉元にぐっと押し当てる。チクリと痛みが走って、喉元を温かいものが一筋流れていくのを感じた。
蒼白になり固まっている浦崎先輩を睨みつけ怒りを込めて拒絶した。



「あなたに触れられるくらいなら、こんな身体いらない!」









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身を護る為に気丈に振る舞った聖良。怒りに満ちた瞳で激しく浦崎を拒絶しました。
かなり痛々しいシーンでしたが大丈夫でしたでしょうか?龍也〜。早く助けに来てやってっ!!
…とお声が聞こえてきそうです(笑) お待たせしました。次回ヒーロー登場?次のStepへどうぞ。