〜☆〜Christmas Special Step 17〜☆〜
今日は聖良が生徒会に来るはずだ。
あの後美奈子が聖良と最後の引継ぎをする為に今日生徒会室に来ると俺に連絡をくれた。
この週末ずっと考えていた。
聖良に何て言って謝ろう。
言いたい事は山ほどあって言葉にするのが難しい。
どんなに考えても、聖良の顔を見たらそれだけで考えた言葉も何処かにぶっ飛んで行ってしまうような気もする。
聖良…早く会いたい。
朝から心臓がバクバクと鳴り続けて落ち着かない。
こんなに落ち着きのないソワソワした俺を見たことが無いと暁と響は、朝から俺をからかいっぱなしだ。
いつもなら毒舌でやり返してやるところだが、今日に至ってはそれすらどうでも良いように思えるから不思議だ。
そう、些細な事なんだ。どんな事だって聖良を失う事に比べたら。
聖良の事ばかり考えているせいか、声さえもしょっちゅう聞こえてくる気がする。
「―――…。」
ほら…まただ。一瞬聖良の声が聞こえた気がした。
聖良と会えなくなってからやたらと空耳が多くなってしょっちゅう聖良の声が聞こえる気がするんだよな。
その度にドキッとしてる俺って…ヘタレだなぁ。
ヤッパリ心の不安が幻聴を生んでいるのかもしれない。
…そう思ったとき一抹の不安が確信に変わる声が聞こえた。
今度は幻聴なんかじゃなかった。はっきりと聞こえた。聖良の悲鳴だ。
胸にどす黒い不安が溢れてくる。
いても立ってもいられない衝動に駆られ生徒会室のドアを壊しそうな勢いで開けて廊下へ一歩出たときだった。
ガラスの割れるものすごい音がした。
何故かそれが聖良の出したSOSだと直感する。
考えるよりも先に身体が駆け出していた。俺の後から響と暁も走ってくる。
あいつらも俺の血相を変えた様子で何かを感じたのだろう。
「あたしに触れないで。あたしに触れてもいいのは龍也先輩だけ。あなたには触れて欲しくない!」
聖良の声だ。やっぱり聖良に何かあったんだ。
声のする方へと角を曲がり数メートル走った所に人影が見えた。
長い廊下の先に誰かが座り込んでいる。
廊下には血が飛び散って、だらりと下がった右手からはどくどくと血が流れ床に滴り落ちている。
左手には割れた破片を握り締め自らの喉元を裂かんとばかりに付きつけ、その白い喉には一筋の鮮血が伝っていた。
血が凍る思いだった
怒りに震えるように燃えるような瞳で浦崎を見ている聖良。
「あなたに触れられるくらいなら、こんな身体いらない!」
聖良の怒りに縁取られた冷たい、凛とした声が廊下に響き渡った。
俺の後ろで響と暁が余りの壮絶な光景に驚いて息を飲むのがわかった。
これ以上の拒絶は無いというほどに、聖良の気持ちがはっきりと伝わってくる。
…あたしに触れてもいいのは龍也先輩だけ…
聖良の声が乾いた砂に染みていく水の様に俺の心を潤していく。
聖良…おまえってヤツは…なんでそんなに真っ直ぐなんだよ。
ヤッパリおまえだけはどんな事があっても絶対に手放せねぇよ。
浦崎が放心したようにヨロヨロと聖良に一歩近付いたのを見て、全身の毛が逆立つのを感じる。聖良に一歩でも近付いたら、あのガラスが喉を裂くかもしれない。
案の定、聖良がガラスの破片を力を入れて握り直したのがわかった。
左手が破片で傷つき血が伝い始めている。
聖良が更に傷ついているという事実が浦崎への憎悪を募らせる。
「浦崎!聖良に触れるなっ。指一本でも触れたらおまえを許さねぇっ。」
聖良、おまえだけは絶対に誰にも譲らないから―――。
浦崎が俺の声に驚いて振り返るのと俺が右ストレートを繰り出すのとはほぼ同時だったかもしれない。
全体重を右手にかけて浦崎へと倒れこむ様に殴りつける。
床に打ち付けられそのまま数メートル滑り壁に激突する浦崎を一瞥すると慌てて聖良へと駆け寄る。
聖良は放心したように俺を見つめていた。
なにが起きたのかわかっていないらしい。
「聖良、そのガラスもういらないからな。ゆっくり指を開いて…。」
俺はそう言うとそっと聖良の指を一本ずつ伸ばしてやる。喉元をこれ以上傷つけないように気を配りながら、突きつけたガラスをそっと血に染まった手から取り上げる。
赤く染まったガラスを投げ捨てると細かく砕けて血しぶきのように辺りに飛び散った。余りの痛々しい姿に狂おしいほどの愛しさで聖良を抱きしめる。
「聖良…あんまり無茶するな。心臓が幾つあっても足りないじゃないか。」
「龍也…センパ…イ?ど…して…ここに?」
「聖良の声が聞こえた。助けてって言ってるのがわかった。」
暁が駆け寄ってきて聖良の腕を止血し始める。こういう所は医者の息子だけあって、手際がいい。
響が浦崎の様子を見て、「うえ〜こりゃ、当分再起不能だろうな。女も寄ってこないぜ。」と言っているのが聞こえてくる。
「聖良を保健室へ連れて行く。響、浦崎を頼む。暁も…ここ、頼んでいいか?」
「ああ、いって来い。こいつは任せておけ。」
「ありがとう。頼むな。」
「早く行け、とりあえず応急処置はしたけれど、大きい病院へ連れて行かないとダメだろうから…。多分傷は残るぞ。」
暁が眉を潜め痛々しげに言った。
俺は聖良を横抱きに抱き上げると、保健室へと急いで走り出す。
血の気の失った身体を強く抱きしめると、小さくうめいて俺に微笑もうとする。
聖良、護り切れなくてごめん。
二度とその白い肌に傷をつけるようなことはさせないから。
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龍也〜(T_T)!かっこいいよぉ。ちゃんと聖良を護ってあげてね。傷ついた聖良を癒せるのは達也だけなんだからねぇ。
まだ、続きを読んであげるよとおっしゃる方は次のStepへどうぞ。