※ラブシーンが含まれます。小学生の方はご両親に相談してください。
響先生は開けっ放しの玄関のドアを閉めると錠を落とした。
何も言わずにあたしを抱き上げるとリビングのソファーまで運んでそっと降ろしてくれる。
「紅茶でいいか?」
質問に答える声すら失ったままコクンと頷いて、先生がキッチンに消えていくのを見つめていた。
対面式のキッチンから紅茶の香りが漂ってくる。
紅茶を淹れている先生の瞳は、やはりあの日の記憶の中の彼のものだ。
嬉しさと切なさが同時に込み上げてくる。
響先生が…あたしの初恋の人だったんだ。
幼いあの日、蜂蜜色した夕日の中、悲しげな瞳で涙を流して振り返った金の髪。
ずっと忘れられなかった思い出の中の綺麗な瞳が、現実に目の前に微笑んでいる。
彼は…いつの間にかあたしの心をいっぱいに占めていて…。
愛しさは後戻りできないくらいに、たった一人の男性に向かっていて…。
こんなにも愛しいと思う気持ちを教えてくれたのが最初からあの人だったなんて…。
こんな偶然ってあるんだろうか。
叶わない想いならどうして神様はこんな悪戯をするんだろう。
響先生はトレイに乗せた紅茶を持って戻ってきた。
部屋の中は紅茶のいい香りが広がりこの空間だけまるで別の世界になったように感じる。
目の前にはオッドアイを優しく細めてあたしを見つめている響先生。
言葉もなく差し出された紅茶を受け取り口をつけた。
甘い香りが喉を通り体の中から癒され、鼻腔をくすぐる紅茶の香りが痺れて停止していた思考を揺さぶるのを感じる。
目を瞑りゆっくりと紅茶を飲みながら、身体と心が回復していくのを感じ取っていく。
静かな時間が流れた。
互いに言葉を発する事も無く、音楽が流れるわけでもない部屋は、まるで夢の中のように時間がゆっくりと流れていく。
時計が時を刻む音だけが、これが夢ではなく現実だと教えてくれていた。
先に静寂を破ったのは響先生だった。
「俺の母親がイギリス人だって言っただろう。この瞳は母親譲りらしいんだ。だからこの髪も瞳も本物だ。染めているわけじゃない。」
「そうだったの。でもコンタクトって…。」
「片目だけカラーコンタクトだ。子どもの頃は好奇の目で見られてこの瞳の色がすごく嫌だった。ずっと前髪を伸ばして隠していたよ。中学に入った頃から黒のコンタクトでグレーの瞳を隠すようになっていたんだ。
だけど高校に入ってからはグレーの瞳に合わせてコンタクトをするようになった。このほうが黒の瞳より表情が冷たく見えるから近寄り難くなるって気付いたんだ。
誰も俺の領域に近寄らないように防御壁を作っていた。おかげでよく不良グループに喧嘩を吹っかけられたよ。」
そう言って笑う響先生はどこか寂しそうだった。
どこか孤独に耐えているように感じて…胸が苦しくなった。
「あたしは凄く綺麗だと思うよ先生の瞳。…大好きだと思う。その瞳の色をずっと忘れられなかったもの。」
先生はクスッと笑ってあたしの頭を撫で、髪を何度も梳くように手を滑らせた。
その手の優しさに先生を抱きしめたい衝動に駆られる。
まるであたしの気持ちが伝わったかのように、先生は髪に触れていた手をそのまま肩に滑らせると自然に引寄せてあたしを抱きしめてくれた。
先生の背中に手を回すとギュッと想いを込めて抱きしめ返す。
大好き…この気持ちが伝わる事を祈って。
「俺がオッドアイだと知っているのは親友の暁と龍也くらいだ。亜希も知らない。」
抱きしめられて触れた場所から先生のテノールが直接伝わってくる。その振動が心を落ち着かせてくれる。
抱きしめられているのにいつものようにドキドキするのではなく、何だかとても穏やかで落ち着いた気持ちになっていく。
「おまえが俺を覚えているなんて思いもしなかったよ。
あの時おまえの無邪気で純粋な心は俺を救ってくれた。おまえが天使に見えたよ。
だから千茉莉の初恋の人が俺かもしれないと思ったときは驚いた。運命ってあるんだって思ったよ。」
「運命…先生はそう思う?」
「ああ、思うね。千茉莉と出逢う事は運命だったと思う。」
「本当に?信じられない。」
「本当だ…千茉莉はどう思う?」
「あたしは…これが運命なら嬉しい。」
あたしの言葉を聞いて微笑んだ響先生の顔を、あたしは一生忘れられないと思う。
右には闇夜に瞬く星
左には細く輝く銀の月
彼の瞳はまるで秋の美しい夜空を映したように綺麗だった。
余りの美しさに惹きつけられて動けなくなる。
一瞬だって意識を逸らす事も出来なくて…
あたしは完全に彼に囚われてしまった。
優しい指が頬の撫で唇に触れる。
触れた先から温もりと優しさが伝わって、心があなたを求め出す。
この想いを伝えたい。
「響先生…」
「千茉莉が好きだよ。」
言葉が重なった。
「せ…んせい?」
「少し年が離れているけど、こう見えても俺は若いんだ。おまえとうまくやっていけると思うぞ」
これはやっぱり夢なのかもしれない。
初恋の人に再会できて、その人が響先生で、その上あたしに告白してくれるなんて…。
これが現実である筈が無いよね。
「千茉莉…好きだよ。悔しいけど俺はおまえにいかれちまったらしい。千茉莉は俺の事好きだよな?
初恋を実らせてみないか?おまえの初恋は俺なんだろう?」
先生の指が唇の形をなぞり、あたしに答えを求めるようにキスをする。
触れた唇は熱くて…甘い紅茶の香りがした。
「あたしも…大好き。あたし先生の傍にいてもいいの?」
「傍にいてくれ。俺にはおまえが必要だ。おまえの傍では俺は自分らしくいられるんだ。」
「あたしなんて全然お子様で…先生に相応しくなんてないからって思っていたの。恋愛対象になれる筈無いって…」
「相応しく無いなんて…お前で無いとダメなんだよ。俺はおまえに傍にいて欲しい。
おまえが必要だって心が求めている。こんなにも誰かを求めたのは初めてだ。
初めて逢った時からおまえはずっと心の奥底に住んでいたのかもしれないな。
俺の心を癒せるのは、あの日からずっと千茉莉だけなんだ」
何度も啄むように繰り返されるキスが徐々に深いものになり、強く抱きしめられる。
これ以上無いくらい触れ合っているのに、もっと傍にいて近くなりたいと思う。
「うん…いる。ずっと傍にいる。あたしが先生の心の傷を癒してあげる」
あなたが好き…
ずっと閉じ込めていた想いが、堰を切ったように溢れ出して止まらなかった。
長い長いキスから解放された時、響先生は少し照れくさそうにあたしを見た。
何か言いたそうに唇を動かしては戸惑って言うのを止めてしまう。
どうしたのかと追求すると、暫く躊躇った後、バツの悪そうな顔で話し始めた。
「懺悔してもいいか?」
予想もしない言葉で訳が分からない。
今日は予想外の事ばかりで、思考がマニュアル通りではついていけない日らしい。
「何?」
「おまえのファーストキスさ、宙じゃないんだ。本当はおまえが真由美に殴られた日に…寝ている間に俺が貰っちまった」
「え…っ! うっ…ウソ?」
宙じゃない?あたしのファーストキスの相手は先生なの?
ちゃんと好きな人がファーストキスの相手だったって言うの?
「本当だ。悪いとは思ったんだけど、気づいたらもう触れていてさ。…あ、でっ、でも一瞬だけだったんだぞ。ほんの2〜3秒。あ、いや1秒かも…」
言い訳しながら動揺する響先生に思わず噴き出してしまった。
凄く大人だったり、子どもみたいだったり…いろんな顔を見せてくれる響先生がとても好きだと思う。
「ファーストキスが先生なのは嬉しいけど、大切なファーストキスが記憶に無いのはショックだわ。初めての事はちゃんと記憶のあるときにしてね?センセ」
少し怒ったようにわざと膨れて睨んで見せると、先生はホッとした顔をした。
男の人をカワイイと思ったら失礼かもしれないけど、こんな所は子どもみたいで母性本能を擽られてしまうかもしれない。
「ああ、そうだな。おまえの初めては全部俺だ。初めての恋も、初めてのキスも…初めて朝まで一緒に過ごす男も…な?」
初めて朝まで一緒に過ごすって…?
えっと、それって、その…そういう事だよね?
うわっ、恥ずかしくて凄く頬が熱い。
きっとあたし今、真っ赤になっているんだと思う。
そんなあたしをニヤニヤと悪戯っ子みたいな顔で楽しそうに見ている先生。
さっきまで動揺していた人とはまるで別人みたいよ?
からかわれているのは分かるけど、何だか悔しい。
「もう、何言ってんのよこのヘンタイ!」
「だから、ヘンタイはやめろって。それに先生もヤメロ。今から響って呼べ」
「…響?やだ、無理だよ呼び捨てなんて」
「するの。いつまでも先生は止めてくれよ。出来なかったらバツゲームだぞ。何をしてもらうかなぁ? 今度は子供の診療の付き合いなんてのはないぞ? もっと千茉莉が困るようなことを考えてやる」
ニヤリと妖艶な笑みで笑う先生に背筋が寒くなったのは何故でしょうか。
「その笑顔こわいよ…先生」
「ほらまただ。バツゲームは何が良いかなぁ」
「ええ?ずるい!もう始まっているの。響…さん…うわ、恥ずかし…」
「あんまり照れるな。俺まで恥ずかしくなる」
「だったら先生のままでいいじゃない」
「ヤダ」
「わがまま」
「千茉莉ほどじゃない」
「あたしに無理矢理先生って呼べって言ったのはあなたでしょう」
「あの時はあの時。今度は響って呼べるようになろうな」
「……言えない」
「いいから」
「…恥ずかしいよ。…響…サン?」
「さん付けか?」
「だってさぁ。やっぱり12も年が離れていると…呼び捨ては出来ないでしょう?」
「若いんだけどなぁ。俺」
「30才でしょう?あたしはピチピチの10代だもん」
「うるせぇよ。それは言うな。そうだな、身体は若いぞ。試してみるか?」
ニヤッと笑ってあたしを抱き寄せる響さん。
いや、それはちょっと怖いかも…。
「…それは…遠慮しておく。ほら、ご老体にムリをさせるのはどうかと…」
あたしのその言葉にピクリと響さんの右の眉が上がった。
あぁ、気に入らない事を言われた時のこの人の癖だ。
…あたし、ひょっとしてスゴクまずい事を言ってしまったのかもしれない。
身の危険を感じて身体を離そうとするけれど、ニッコリと綺麗な微笑を称えた彼は、ガッシリとあたしの腰を掴んで離さない。
マジでっ…スッゴイこわいんですけどっ?
その鮮やか過ぎる綺麗な微笑みは絶対に何かを企んでいるわよね?
「そんな生意気な口は塞ぐに限るな」
そう言うなりグイッ☆と引き寄せられて重ねられる唇。
貪るような激しいキスに一気に脳内が沸点に達してしまう。
頭の中が真っ白になって身体から力が抜けていくと、響さんは嬉しそうに笑ってキスを軽いものに変えていく。
…あぁもう、完全に遊ばれているわよね、あたし。
悔しいよぉ。いつだって響さんの思う壺なんだもん。
「千茉莉…カワイイ♪」
クスクス笑いながらあたしをぎゅうっと抱きしめて、唇を耳元に寄せる。
熱い息がかかって肌が一気に粟立った。
「俺、解ったんだよ。俺達ってケンカばっかりしてるだろ? だから最初から千茉莉にしゃべらせなきゃいいんだって」
「しゃべらせないって…何言って…んっ…」
「こうしてその口を塞いで話させてやんねっ♪」
あなたはお子ちゃまですか?
何を子どもみたいな事嬉しそうに言ってるのよ。
つーかっ、いきなりキャラ変わっていませんかっ?
「んんっ…。わか…った、若いって、こう言う…事なの…ね?」
唇を塞がれながらも一瞬の隙をついて話す事に成功すると、案の定あたしの言葉にピクッと反応した。
いかにも渋々といった表情で唇を離すと、顔を覗き込んでくる。
「若いって…精神年齢があたしレベルのお子ちゃまって事なんだ」
「ほぉ…。千茉莉はどうしてもその身体に教えてもらいたいらしいな。俺は精神的には大人で肉体的には若いんだよ。身を持って体験してもらおうか?」
そう言うと唇を首筋へと滑らせて所々強く吸い上げていく。
チュッと音がしてピリッと痛みが走るとそこに紅い痕がついた。
「…っ、ぃやあ。やめて」
「ダメ、千茉莉は危なっかしいからちゃんとマーキングしておかないとな」
「学校に行けなくなっちゃうよ」
「行かせたくねえよ。あのヤローのいる学校なんてさ。だからしっかり俺のモンだって痕をつけておく」
「犬の縄張り争いみたいね。…ってか、あたしの事信用してないの?」
「信用はしているよ。だけど…この間みたいに不意打ちとか無理矢理とかあるかもしれないだろう?心配なんだよ」
「…心配?」
「千茉莉は俺の天使だからな。汚されるわけにいかないんだ。千茉莉のその唇に触れていいのは俺だけだから」
「響さん…」
「千茉莉…好きだよ」
「ン…あたしも…」
「クスッ…そんな色っぽい声ならどれだけ出してもいいよ」
「…ばかっ。ヘンタイ。恥ずかしいじゃない」
「あ、その言葉は却下な。そう言う口は即塞ぐし…」
「…ん、んんんんんーー!!」
ジタバタするあたしにクスクス笑いながらキスを落としていく響さん。
キス一つにどぎまぎしているあたしと比べたら響さんは余裕だもの、悔しくなってしまう。
こんな事が自然に出来てしまうのは、やっぱり大人なんだな。
ジタバタする千茉莉が面白くて、つい悪戯が過ぎてしまった。
でも余りにも反応が可愛いからついつい苛めたくなるんだよなぁ。
怒るか泣くか、それとも俺の理性が砕けるかする前に、そろそろ止めておこうと思ったとき千茉莉が『誰にでもこんなことしているんじゃないでしょうね?』と言った。
ありえないっつーの。
そう言おうとして、不安げな千茉莉の表情にその言葉を呑み込み苦笑した。
「バカそんな見境の無い奴じゃねぇよ。最初から言ってるだろう? 千茉莉は特別だって」
「本当に?」
何がそんなに不安なんだろう?
俺は今まで女を極力遠ざけてきたし、付き合った事のある女はいたけれど、ここまで大切に思ったことも執着した事も無い。
ましてや嫉妬なんて一度だってした事は無かった。
千茉莉は特別なんだ。
どうして解らないかな?
「本当に。いままで、俺がここまで執着した女も大切にした女もいないぞ?
俺のモノだって印を付けたいと思ったことも無い。キスマークを付けたいと思ったのは千茉莉が初めてだよ」
そう言うとキスを繰り返しながら千茉莉を抱き上げた。
身体を硬くして僅かに震えるのを感じる。
そんな千茉莉が愛しくてたまらない。
今すぐに自分のものにしてしまいたいと自分の中の独占欲が心を覆い尽くしていく。
「信用しないなら俺の愛情の深さと体力年齢をその身体で実感してもらおうか?」
その台詞で予感が確信に変わったのだろう。
千茉莉の顔色が明らかに変わった。
それまで薔薇色に初々しく染まっていた頬が、僅かに引きつり徐々に顔色は白くなっていく。
そこまで緊張しなくてもいいのにな。
ベッドルームのドアを開けると、腕の中の身体が電流でも走ったかのようにビクッと跳ねた。
心拍数が限界まで一気に跳ね上がっているのが、大きく上下している胸の動きで分かる。
緊張と恥ずかしさで身体が小刻みに震える様子はまるで小動物だ。
宝物を扱うようにそっとベッドに寝かせると、その上に覆い被さるようにして、両手を絡めシーツに縫いとめた。
ふわふわした茶色の柔らかな髪がベッドに広がって、普段は髪に隠れている首筋の白さが俺を誘うように色香を放っている。
その部分に引寄せられる様に口付けると、千茉莉が身体を震わせた。
「や…だ、ダメだよ。あたしたちまだ出会って1ヶ月だもん。それに告白したその日になんて、あたしそんなに軽くないもん」
身持ちは硬いって事か。
それは嬉しい事だけど、俺には許して欲しいんだけどなぁ。
「出会って1ヶ月? 違うぞ、もう12年も前に出会ってるだろう? お互いの心のずっと深いところに住んでいたんだ。再会してからの時間なんて関係ないさ」
有無を言わせない俺に対して、まだ顔をプルプルと振って否定する千茉莉。
気持ちも解らないでは無いが、一度勢いのついた気持ちってのは、なかなか止まらないんだよな。
だが12も大人の俺より千茉莉のほうがよほど冷静っていうのも悔しいかもしれない。
「あ…んっ…でもダメ。心の準備が出来ていないもん」
甘い声を堪える千茉莉の姿に、もう少し時間をかけようと諦めて両手を離した。
ホッとした表情を見せる千茉莉には、まだあどけなさが残っている。
少女であって女の顔をもつ千茉莉。
俺の思考を唯一狂わせて、心を掻き乱す存在。
大切にしたいと思った初めての女だ。
絹で包むように大切に大切に少しずつ俺の色に染め上げていこう。
「クスッ…そうだな。ゆっくり進んでいこう。俺もこんな予定じゃなかったから何も用意して無いし」
「…用意?」
俺の言葉をオウム返しに繰り返す。
その無垢な表情に、思わず吹き出しそうになるのを堪えると、ニヤッと笑って耳元に唇を寄せた。
「正しい家族計画の必需品って知ってる?」
俺の言葉に暫く考えた後、ポン!と顔が赤くなる。
おっ、ちゃんと解ったらしい。
すげ〜カワイイ
こんなカワイイ千茉莉を見られるなら、多少の我慢くらいは良しとしよう。
まだまだ純粋な天使でいて欲しい気持ちと、俺の腕の中で女性として花開いていく千茉莉を手に入れたい気持ちが複雑に絡み合う。
「千茉莉は若いから俺なんかよりずっと体力があるだろうし大変だなぁ。
千茉莉のような若いお嬢さんを相手にするときは一晩に幾つくらい使うんだろうな? 俺体力持つかなぁ? なんせ、俺おじさんだもん。なーあ、千茉莉?」
「響先生のヘンタイ!もうしらないっ、やっぱりさっきのは取り消す、大嫌いだあっ!」
「嘘つき千茉莉。本当は大好き〜って言いたいくせに。ほら、言えよ。響大好き〜♪ってさ。」
「いやです〜!イジワルな先生には絶対言いませんっ!」
「あ゛〜!また先生って言ったな?お前学習能力無さ過ぎるって。絶対にバツゲームだ!」
「バツゲームなんて絶対しません」
「おまえ、その怒ると敬語になるのヤメロ」
「いやです〜!響先生の言う事なんか聞きたくありません」
「ほ〜良く言った。まだ懲りてないようだな。そう言う事を言う口は塞ぐって言っただろ?」
俺のイジワルな問いかけに引きつり、赤くなったり青くなったりしてる千茉莉を楽しみながら、いつものように喧嘩半分でじゃれている自分たちがとても自然だと思える。
「そうだな〜♪バツゲームは俺の誕生日に朝まで一睡もしないで体力の限界に挑戦っていうのはどうだ?千茉莉の言う10代の体力が俺の体力にどの位勝っているのかお手並み拝見してやるよ。
ひと月余り時間はあるし…千茉莉もその間に心の準備が出来るだろう? 楽しみにしてるからな?」
千茉莉が朱に染まった顔で恨めしそうに俺を見る。
まだ純粋な彼女をこれから俺が変えていくと思うと、真っ白なキャンパスを目の前にした気分だ。
拗ねて怒る千茉莉を宥めるように抱きしめると、膨れっ面をしながらもあの笑顔で俺を許してくれる。
その笑顔に、あの日俺に微笑んでくれた小さなエンジェルが、ようやく腕の中に舞い降りた事を実感した。
長かった。
だがようやく手に入れた。
千茉莉…俺を救ってくれるエンジェル。
もう二度と離すものか。
+++ 11月 5日 Fin +++
11月26日 /
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