やがて先端を口に入れようというところで、それは男のペースを無視して喉奥まで突き込まれた。
モウジは咽喉の奥まで犯され、思わず歯を合わせようとしたり吐こうとする。
だが男の口は例の口枷で全く閉じないようになっている上に、
強制フェラチオさせられるように真ん中に隙間があるため、ハダレには何の抵抗も伝わらない。
逆に吐き出そうとする頬の肉の動きや押し返そうとする舌の感触がくすぐったかった。
「別にイかそうとしなくてもいーけど、……ちゃんと舐めとけば流血はしないかもね」
「……ぅえっ…ぁぶっ……」
一方モウジは吐き気を収めるだけで精一杯だった。
殆ど咽喉一杯まで入れられたハダレ自身の質量が、まずいけなかった。
その上独特の匂い、感触、そして何より同性に奉仕させられているという心理的なものが、
男に生理的嫌悪感を拭わせないし、心を殺してこの場をすごさせなかった。
これで動かされたら本当に吐いてしまうのではないだろうか。無用な、かつ深刻な心配が男の頭をよぎる。
「ほーらー、ちゃんと舐める」
「うっ……うぐっ……」
いや、きっと青年はこのまま何もしないでおけば、こっちの頭を動かしてでも奉仕させる。
または「哀れなモウジさんの希望を採用して、痔主コース行きまーす」とかいいながらそのまま尻に挿入しそうだ。
男は汗まみれの背筋をぶるりと震わせた。それは嫌だ。
犯される事だってもちろん嫌に決まっている。かなうものならその瞬間は永遠に避けたい。
しかし二度と使い物にならない尻を抱えて生きる事など絶対嫌だ。
仕方が無い。
モウジは、ハダレが男の頭に置いた手に力をこめるより前にそれに舌を這わせた。
目尻には吐き気のためか、涙が光っていた。
「ん……ッ……やっぱ血塗れはエンリョするよなー…ぁ」
瞬間、ほんの少しハダレの息が上がる。
思えばこれだけの長丁場で、彼の体に肉体的な刺激は今までなかった。
散々モウジをいたぶって遊んでいたのと、試合に出ると否応無く興奮してしまうのとで
精神だけは高揚していて、心臓がばくばくと早く打ってはいた。
だが依頼者から課せられた仕事――ピアッシングや射精阻害だ――があった事と、
あまり肉体的な生々しい快感が先走って与えられるのを好まない、そういう彼の嗜好の影響でそういう段取りになっていた。
「うぐ、ぅ……う、むぅ」
「……もちょっと……丁寧に舐めないと……っ……痛いんじゃない……?」
涙目になって「早く抜いてくれ」と訴える男に、
直接脳を揺さぶり体温を上げ頬を火照らせる快感をその身に与えつづける事を強要する青年。
モウジの見上げる青年の片瞳にはとろんとした欲望の光が宿っている。
まるで霧の真中に灯りを置いたようだ、と男は思った。
――思っただけで、すぐに吐き気にかき消されて忘れてしまって、一生思い出す事も無かったが。
男の、今まで女性や、或いは男性を快楽の地獄へ引きずり落した舌が、
一心不乱に青年自身へ唾液をまぶす為に蠢き、自らを貶める。
その行為は青年が止めるまで、当然のように続けられた。
「んがぁッ……」
こぷ、という人が水をいれた器を傾けるような音とともに、ハダレの性器が姿をあらわす。
ハダレの火照った表情とは逆に、モウジの顔は涙で彩られ、屈辱に震えている。
まるでこの世の辛酸を一瞬で舐め尽くしたかのような姿に、ハダレは心底見惚れているかのような表情で告げる。
「……もうすぐ終わるからさァ……」
いいながら、男の頭側から尻側まで移動する。
そして材木に刺さったままののこぎりでも抜き出すように、無造作に足をかけて――
――一気に玩具を引きぬく。
「がぅあっーー、ぁあ゛っ…―…!」
色気の無い獣じみた悲鳴。それに重なるように沸きあがる歓声。
誰かも言っていたが、観客は別に性欲を満たすためにここに来ている訳ではないのが普通だ。
もちろん一部の同性愛者や、同性の行為を傍観するのを好むもの、
そういった代理戦争の一面を目当てに来るものが全くいないわけではない。
だが大多数の観客はそれ以外のものを求めに来ている。それは何か。
「は……ぃひッ……」
泣きながら、これだけは、と拒絶するように逃げようと蠢くモウジの四肢。
それをハダレはあっさりと押さえつけ、調節し、
「んあああーーー!!」
ぬめった性器を押しこんだ。
後は男の都合などお構いなしに、血と唾液で慣らしながら勝手に動く。
断末魔にも似た声が、一杯の人で溢れかえる会場自体をビリビリと震わせる。
その声に、その姿に、観客席がまとまって狂気に侵された様に沸いた。
2人を取り囲む狂気の『円』。2人のどちらも、そこから外れることは許されない。
人が抱く最も後ろ暗い喜び、それは他を蔑む心に他ならない。
整った顔立ちに優越感を持ち、ほんの少しの学歴に誇りを持ち、
他人の背が低いといってはそれを突つきまわし、身分が卑しいといっては貶め、
自分より明らかに強い者が惨めに嬲りまわされる姿を見て全ての憂さを晴らす。
それが代理戦争の価値であり、存在意義の『円』の帰結であり、人々が求めてやまない娯楽の真髄だった。
今も丸木のような強い肉体を持った男を、細い――より弱そうで自分たちに似た――青年が散々に犯し楽しむのを、
観客は同調するように、食い入るように眺めて興じている。
ここの代理戦争会場では命を賭けた試合は禁じられている。
命を対価にした戦場は、一応現行法の通用する中央街とは違って、
法が全く効力を持たない最下層街では泥沼の抗争を生むと分かりきっているからだ。
そのせいで、この戦場での敗者の肉体に食込むのは武器ではなく拳や性器の類である事が殆どであるが、
それでも観客が飽きる事は無い。
大切なのは、強者がずたずたにされて打ち捨てられる、その姿。
誰もがずたずたにする方と自分を重ね合わせて、快楽を得る、その『円』の帰結そのものだった。
「あーッ、あ、ッが、あぁっ」
ハダレは意識して、男の体の方向を時折変えて客につまらない画面だけを見せまいとしていたが、杞憂だったようだ。
わざわざ誘導せずとも勝手に苦しみ悶えて暴れまわるので、
抜けないように注意さえしていれば男の向きは勝手に変わった。
「……んッ……せっかく……濡らした、のに……」
ハダレは男を押さえつけながら犯すのに辟易していた。
辞書を与えれば「セックス」だの「性器」だのに赤ペンで線を引きたがる年頃であるし、
この男とハダレの間には何のかかわりもないから、
どうしたって行為がハダレの快楽だけを追うものになるのは仕方の無い事だ。
だがさっきまで自分の尻の穴に何か入れることなんて考えていなかった男の体には、それはきつすぎた。
苦痛の余り、体が勝手に逃げ惑うのも無理からぬ事とも言える。
事実、男の中は決して緩む事は無く、ぎちぎちに緊張したままだ。
ハダレも性器に鈍痛を覚えていた。快楽が無いとはいえないが、
「力……抜いて。オレ終わる……頃には、去勢されそ……」
だが男はかぶりを振って、中には変化が無い。
――ハダレは転がっていた新たなビンに手を伸ばして、苦心して捕まえた。
どぎついピンクの、妖しげなラベルのついた小瓶――その封を歯で抑え、ひねって栓を開ける。
「仕方……ない…………か……」
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