「なんか……嘘みたいだ。夢みたいっつか」
コモリはハダレの体に跨り、うっとりと呟いた。
腰の辺りに跨っているためコモリから見えるのは上半身だけだったが、視線でそれを撫でまわす。
脱がせて両手を上に拘束してやると、あばらが浮いて一層痩せて見える。
だが腐っても代理戦争の王者、薄く強靭な筋肉がついている所為で貧相ではない。
走り回っていた所為か、痛みのせいか、しっとりと汗で濡れて火照っているのがいやらしい。
想像していたよりも大人しく転がっている様は、本当に夢でも見ているようだった。
「……夢は寝て見ろってんだ。人を巻き込むんじゃねぇよ!離せ!」
だがハダレの言葉はあくまでも刺々しく、迸るような大音量だ。
しかし、コモリは飄然として言った。
「酷いなぁ。オレ、昔っからハダレっちのファンだったんだよ?だからこうやって……」
体を支えていた手をひょいと持ち上げ、指でそっとハダレの脇腹をなぞる。
「…………っ……」
ビクっと妙に大きく震えて、ハダレが体を捩る。
存外くすぐったがりなのかも知れないし、こちらの動きが見えずに不意を突かれたからかもしれない。
コモリはどちらでもいいやと言った心地で、執拗にその行為を続けた。
「……ハダレっち、ここ、折ったことあるでしょ。ちょっと違う手触り」
「や……めろっ……!」
脇のすぐ下から腰骨の上辺りまで、段々撫でまわす範囲を広げながら、
傷痕や骨折の跡を見つけては面白がってそこを特に舐りながら、コモリは青年を堪能する。
「……こうやって、すっごい優しくしてあげてるのに」
まだ、時間はたっぷりあった。その気になれば、時間は幾らでも上乗せできた。
コモリは実に楽しそうに、じわじわと浸食を広げていった。
「ぅッ……気持ちわるッ……」
「酷い」
脇腹から離れたコモリは、ハダレの首筋に吸い付いた。ソウジョウは反対したが、首輪は外した。
必死に顔を背けようとしていたため、首筋に顔を埋めるのは造作ない事だった。
気取って香水をつける訳でもない青年からは、体臭と血の匂いがした。それはそれで似合っている気がする。
変態と何度か罵られたが、コモリはその匂いを肺腑一杯に吸った。
「……コモリ、オレもちょっとお前が変態っぽい気がしてきた」
傍観に近い状態で煙草をふかしていたソウジョウにも言われ、流石にそれを止める。
その代わりに、生暖かい舌でべろりと味わった。汗と、やはり血の残り香がした。
「キ……キモい!やめろッて……コモリ!」
手を引き千切りかねない激しさで暴れるハダレの脈さえ感じながら、コモリはそこを強く吸った。
ビクン、と一瞬体を引きつらせるハダレからゆっくり上体を起こす。
画家が自分の書いた絵のバランスを確かめるように、距離を取ってそのキスマークを眺める。
「……すごいハッキリ付いたっつか……いいところについたよな?」
「お前にしては結構センスある所に付けたか?」
批評さえしながらこちらを眺める2人組みに、ハダレは寒気を感じていた。
この様子だと、即刻殺される事はないだろう。
だが何か、自分にはわからない事を2人で納得しあい、それで共に行動している。不気味だった。
そのわからない事には、さっきの怪しい追っ手のことも含まれているのだろう。
更にその行動の結果、自分が犯される事になるなど、無気味過ぎる。
さらに自分を見て、何だか分からないがうっとりされても、本当に心底気持ちが悪かった。
かといって自分を刺して、止血もせずに犯すという凶暴な面も持っている。訳がわからない。
「ハダレっち?気絶しちゃったわけじゃないよね?」
呼びかけられて、ハッとする。思考の渦にはまったまま、朦朧としていたらしい。
ソウジョウが揶揄する。煙草はくわえていなかった。
「随分余裕じゃないかと思った」
「……ンな訳……ないだろーが……」
いつのまにか少し上がっていた息の間から、それでも確かに答えてやる。
「ッ代理戦争して……その後怪しいのに追っかけられて……ぁ……刺されて襲われて!
それで……元気なやつ、いるんだったら……見てみてぇよ」
コモリが何か返事をする。そうだねとか、何か同意のような意味の事を。
そして舌先を下げていく。
「ッう……」
唐突に突起に吸い付かれ、ハダレが背筋を反りかえらせた。
膝が怯えたように曲げられ、引っ張られた足首の痛みに弛緩する。
「痛ぇっ……もーケガ人なんか相手しね―で、女でも買えよ……!」
今なら刺した事もチャラにしてやる、と言った心地でハダレは叫んだ。
右腿が妙な震えを起こしている。手首が擦れて仕方ない。引き伸ばされた鳩尾も疼く。
この状態で、この先更に尻だの腰だのが痛くなるのは御免だった。もう事前に医者に行きたいほどだ。
だが、コモリは許さなかった。
「だからー、ヤりたいんじゃないの。ハダレっちが抱きたいの。だからこんなことしてるんだっつの」
「迷惑だー!やめ、ぅっ……」
恍惚とした様子のコモリには、ハダレの全身全霊を持ってしての抗議も通じない。
子供が大切に取っておいたデザートを食べるように、コモリは目の前の体に吸い付く。
いきなり吸われて僅かに硬くなった乳首は、舐めても快感ではなくくすぐったさしか与えないようだ。
未開発なのか不感症なのか判断しかねるが、ともかくコモリはほっとした心地で刺激しつづけた。
くすぐったさを快感に変えようと、味もしない突起を執拗に舐め、転がし、時折吸い付いて刺激する。
「コモリは不良もどきのころから、物凄い代理戦争マニアでな」
ソウジョウがにやにやしながら、眉をしかめるハダレに話しかけた。
「中流階級の、割といい学校行ってた頃から、授業さぼって代理戦争見に行ったりとか、
歳を誤魔化して致死試合――命がけの試合見に行って補導されかけたりしてて。
家出してから俺と知り合ったんだが、酒や煙草は代理戦争の次って程入れ込んでやがったよ」
「ぃ……いい暮らし……してたんじゃねーか……何でこんな汚い街の……ぁ……試合見に来るんだよ」
ハダレには理解できなかった。
戦後、人々ははっきりと上中下の階層に隔てられ、下流の者にとって上の暮らしは夢見る事もままならないものだ。
その中流階級の学校を落第してこの街に流れつき、得体の知れない男を抱いて喜ぶコモリという人間が、
途方もなく不気味な存在に思えた。
その男は赤ん坊のように、夢中になって乳首を吸っている。
「まぁ、オレにも正直わからんがね。中流の代理戦争ってのは無駄に小奇麗で、
かといって上流ほど盛り上がらない。あんまり見て面白くねぇってのも正直なところだ。
で、ある日オレも誘われて、試合をあの店に見に行った時の話しだ――」
言葉の途切れに合わせるように、コモリの唇がちゅっという音を立ててハダレから離れる。
仄暗い中、質の悪いライトにぼんやり照らされた乳首は唾液に濡れ、無駄にいやらしい。
コモリは陶然としてそれを眺め、同じように唾液にまみれさせた指で軽く捏ねる。
「…………ぃ……」
奥歯を噛み締め、反射的に漏れたような声がライトに溶けた。両目がぎゅっと瞑られる。
それを見て聞いて、愛嬌のある顔立ちの男が反対側を刺激しにかかる。
硬いだけの突起を快感で腫れさせるために、柔らかい舌に埋めて乳輪ごと刺激したり、
舌先で埋没するほど押し捏ねたり、創意を凝らして責める。
最初に舐めたほうは指でそっと刺激する。
「ぁッ……だ!……ッ……」
拘束された腕に顔を押し付けるようにして嫌々をするハダレに、ソウジョウが言葉を続ける。
「――ビックリした。オレらより痩せたガキが、武器持った大人と喧嘩して勝つんだぜ?
強さがカッコ良さだと思ってる不良の端くれが憧れないわけないんじゃないか?
……そのときから、オレらはずっとアンタのファンだったんだよ」
「ファンが……っあ……こんな……事……」
何かを堪える様に顔を伏せるハダレに、ソウジョウはなおも言い募る。
「いや、正直俺はあんまり乗り気じゃないんだ。
だけどまぁ、親友のコモリがどうしてもって言うもんだから協力してやっただけで」
「気持ち良くない?」
重ねるようにコモリが尋ねる。その唇とハダレのしこった乳首が、唾液の糸で繋がっている。
薄い褐色と、肌色じみた桃色の中間の色だったそれは少し赤みを帯びて、前よりふっくらとしている。
「最初はくすぐったいだけだったみたいだけど、今は感じてるでしょ?」
「……何で……ンな……事すんだよ……」
問いをはぐらかすような形でハダレが尋ねる。
覗かせた片目――左眼の目許がうっすらと上気して、言外に薄い快感を肯定していた。
それを見て、コモリが嬉しそうに口元を上げた。
「あ、やっぱり感じてるっつか、努力のかいがあったっつーか」
「コモリ!」
咎めるように怒鳴るハダレ。
体力はとっくに尽きているが、気力はまだと言った青年の様子にソウジョウは
「ほらほら、どんどん気持ち良くしてかねぇと、また1からやりなおしだぞコモリ」
「分かってるっつの」
ソウジョウは大儀そうにその辺りに腰掛けているままだが、コモリはじわりと体を移動させた。
ハダレの腰の辺りを跨いでいた体を膝の辺りまで下げると、次の狙いは自ずと定まる。
「ちゃんといかせてあげるから、安心して」
優しい瞳には、ハダレの性器が映っていた。
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