代理戦争/最下層街編/結・検査/3


「『異』は基本的な欲求を抑えられない。それはヒトより獣に近いから」
拘束男が悠然と覆いかぶさってくる。
割れた腹筋を噛み、臍を舌で犯す隙間から、何かの物語のように話を続ける。
「そしてヒトですら溺れ、逃れられない欲――性欲には、特に捕らわれやすい」
腰骨に歯を立て、ハダレが呻いて痛みを訴えると同時に退く。
歯形を舌先を尖らせてちろちろと舐めながら、
「もっと、もっと。焦らして焦らして、それしか考えられなくなるくらいの極限状態においてやると、
 ただでさえ不安定な『異』の人格は壊れ始める」
僅かに上気したハダレの頬を見て満足げに笑う。
「プライドも尊厳も全部捨て去った後に残るのは、『異』を宿して、キモチいいのが大好きな抜け殻の体」
「んんッ!」
足の付け根を伝う生暖かい感触に、ハダレは何とか鉄枠を壊そうと必死で足掻いた。
キシ、ギシっとブランコをこぐような音が断続的に響く。
だが、壊れてくれない。
「抜け殻の身体に、もう一度心を入れてやると」
舌がついに性器の付け根に届いた。柔らかい唇が、なえた性器を軽く咥えて位置をずらす。
一方で後孔に指の先は触れ続け、爪の先でとん、と叩く。
「んくッ…」
「ご主人様の作品が一つ出来上がる」

たっぷりと唾液で濡れた舌がハダレの性器に絡みついた。
つつっと裏筋をなぞったと思う前に、かぷりと音を立てて咥え込まれる。
「ふ、」
「ン…ん、んあぁッ!」
じゅるっと下品で聞き苦しい、唾液の音と共に文字通り啜られて、ハダレはぴんと身体を強張らせた。
今まで執拗に身体を撫でられていたため多少敏感になってはいただろうが、
咥えられただけで性器は固い芯を持ち始めている。
必死に視線を下げて男を見返すと、拘束男はにやっと唇の端を上げた。
ハダレの背筋を冷たいものが伝う――その前に、拘束男はハダレ自身を改めて根本まで咥え、
自分の口腔をハダレ自身に犯させた。赤髪がぱさぱさと波打つほどに激しい、頭の律動。
「ふッ・・・くぅ!、んッ…」
(な、何だこれ……!?)
にやにやと笑みを浮かべながらも、拘束男のフェラチオは正確で攻撃的だった。
ハダレが今までされたことも、したことも無いほど深く深く喉の奥まで引き摺りこまれる様な……
「ああ、言い忘れていたが」
先ほどまでとは異なった意味合いで震える鉄枠につかつかと歩み寄り、カギロイ。
「彼は私が直々に仕込んだ最高傑作でね。
 第二の人格を刷り込まれたと自覚しつつも過去に引き戻されることの無い、最高の状態でいてくれる」
「は、ぁ…あんッ、ん」
じわりと汗ばんで悶える裸体を、傍から見つめながら、
「それに何より性的なことを純粋に楽しんでくれるので、飲み込みが早くていい。
 特にフェラチオは上手い。いわゆるディープスロート、という奴ができる。
 ……その様子だと、君はまだされたことが無かったようだが」
どこか得意そうに見下ろすのは、よほど作品の出来に自信があるからなのだろう。

事実、ハダレは拘束男の舌使いに翻弄されていた。
間も無く完勃ちになった性器を口から抜き出され、塞がれた口の隙間から喘ぐ。
「……はっ、……ふはぁっ…」
口周りが唾液でべたべたしている。が、それを拭える指先は繋ぎ止められたままだ。
拘束衣の男も、ハダレの性器と自身の唇を結ぶ唾液を拭いもせず、
猫のあくびのように口を大きく開け、出来るだけいやらしく舐め取る。
「いい味。出来ればこのままイかせてあげたいんだけど……」
何故か残念そうに呟きながら、ふっくらと腫れた先端に軽くキスをすると、立ち上がる。
「…………?」
姿が見えなくなったことに逆に不安を抱き、ハダレは精一杯視線を巡らせる。
が、見つける前に拘束男の方が視界に入ってきた。手に何か、大きな紙コップのようなものを持っている。
「しなくちゃならないことがあってさぁ。まぁ、すぐ終わるんだけど」
拘束男が自身の掌に紙コップを傾けた。
――何ともいえない、でろりとした蛍光ピンクの粘土のような物がコップから溢れ出す。
「あー、そんなに怯えなくてもいいよぉ」
初めて見るその不気味な物体に、鉄枠を鳴らして暴れるハダレを優しく宥める拘束男。
「ちょっと型取りするだけだから」
「……!?」
意味がわからず、なおも暴れるハダレ。
拘束男はそれと一緒に間抜に揺れる性器を五指で捕らえ、
「本当、2・3分で固まっちゃうし痛くないから」
等とのたまいながら、その粘土を満遍なく塗りたくった。
そこまでされて、ハダレはやっと「型取り」の意味を理解した。
これも検査とやらの一部なのか、それとも常軌を逸した趣味なのだろうか。
金持ちと権力者の考えることはよく分からない。
ただ、その粘土が偶然にも剥がれ落ちることを願って、ハダレは全身が枠に擦れて痛むまで暴れ続けた。
「そんなにしても、痛いだけで壊れやしないのに……」
手についた粘土を拭いながら、拘束男がさも哀れんでいるように呟く。
それに対して、カギロイは
「それより、固まらないうちに萎えない様に対処してくれ。やり直しは嫌だろう?」
と全く異なる心配をして見せた。拘束男は、はーいと元気な返事をするとまたもハダレの傍にしゃがみ込んだ。
が、今度は位置が違う。
「んうッ!んっ、んんっ!」
ハダレが羞恥に呻いた。あろう事か、ハダレを拘束する鉄枠の下方の隙間から拘束男が頭を出し、股座を覗き込んでいる。
その視点からは、毒々しいピンク色の粘土の小山から陰嚢、会陰、そして
「御開帳〜……って所かな」
尻肉を少し押し開けば、きゅぅっと健康的に締まった後孔までもが丸見えだ。
「あーやっぱり。全然型崩れしてない。遊んでなくて経験済みって、本当に面倒が無くていいなぁ」
何だか分からないがじろじろ眺められ賞賛されて、ハダレが真っ赤になって唸っていると、
生暖かい空気がそこに触れた。――嫌な予感がした。

べちゃ、と濡れた音がした。瞬間、反応したくも無いのにハダレの体が跳ね上がる。
「ふぁ、あッ!う…、んあ…」
温かく、柔らかく蠢く舌が敏感な後孔に触れたのだ。そんなこと、されたことが無い。
しかし今までのようにいきなり指で押し開かれるより純粋に気持ちが良くて、ハダレは棒を噛んで耐えた。
這い回る舌が一本一本の皺を伸ばすように丁寧に舐め上げ、周囲だけを執拗に攻められると、
焦れるように中心部が口を開いて収縮をする。それを見て取ったように、拘束男が舌を固く尖らせて中心部を押す。
「……ッん!ん、ぁ、あっ」
欲しがっていた中心部は、最初ほどの抵抗も無く舌を迎え入れる。その長さ僅かに数センチ。
しかし興奮し、受け入れることを知っている体はそれだけの刺激に過剰なほどに反応する。
「感じているな。彼の技術は素晴らしいだろう?」
いつの間にかハダレの顔近くに立って、カギロイが見下ろしてきていた。が、応える余裕が無い。
そんなハダレの様子に満足したような表情を浮かべると、カギロイは鉄枠の隙間から手を差し入れて何事か操作した。
するとかち、と小さな音がして、
「……ッは…ああっ…」
ハダレの口を塞いでいた棒が外れて、涎まみれのそれがどこかへやられる。
「あ…、ああ…、あぅっん、あッ!」
途端に大きくなる喘ぎ声。
仰向けで喘ぎ続けるのは息苦しく、何度もハダレは咳き込みながら、それでもこらえられない声を上げた。

それを全て吸い取り、封じ込めるように、カギロイがハダレの唇を塞ぐ。
「ん、ぅ……」
硬く唇を引き結び、ハダレは顔を背けて抵抗した。
だが、カギロイは慣れたように強く顎を押さえつけてきた。歯と頬の内側がごりごりと擦れて痛む。
思わず開いた顎関節の上に薄く載った唇は、抵抗するには弱すぎた。

カギロイの舌がぬるりとハダレの唇の継ぎ目をなぞり――侵入し――嘗め回した。
「……ぅ、」
頬を押さえつけられてすぼまった口腔の中で、ハダレの舌は捉えられた。
ぬるぬると舐めあげられ、逃げようとすると吸われてまた舐められる。
唇を閉じようとすると頬に食い込む指が力を増した。歯の角が頬肉を内側から抉る。口が閉じられない。
無駄な抵抗を続けるハダレの舌にたっぷりと唾液を絡ませながら、
カギロイは不敵に口角を上げた――

「ッ」
カギロイが身を起こした。その口元が、ハダレと始めて会った時のウスライのように、血に染まっている。
唇を思い切り噛まれ、ふっくらとした血の玉が浮かんではじわりと広がる。
「あっ!血が…!」
拘束男がびっくりしたように顔を上げる。が、カギロイは返事をしない。
無表情に――そうすると、尚更ウスライと似ていた――指先で口元を伝う血を拭い、じっと見つめるカギロイ。
暫くして、カギロイはハダレを見下ろした。
ハダレはせめてもの抵抗のつもりで、歯や口元に付いたカギロイの血を見せびらかすように舐め取ってやった。
舌先に乗った血の粒を見せ付け、ゆっくりと口に戻す。
それほど俺は安くない、と無言で語りかける。
それに対するカギロイの返答は――

「500だ」
意味がわからず、ハダレは眉をひそめた。
一方の拘束男は理解したようで、何だか分からないが慌てた様子で、
「ちょっ……ちょっと多すぎませんかぁ?多分彼、やったこと無いと思いますけど」
「死にやしない。いいからやれ。スコープを使って、徹底的に貶めてやれ」
「……はぁ……」
納得していない様子で、拘束男が生返事を返す。
そして憮然としているハダレを振り返って、ため息をついた。
「あーあ、余計なことするから。大人しくしてれば、気持ちいいだけで済んだのにー」



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