代理戦争/最下層街編/起・捕食/4


※微量の流血描写有ります※


モウジはうつ伏せで転がっていた。
尻の痛みに呻きながら、まだ今自分がおかれた事態が半ば夢であるかのような感じでいた。とびきりの悪夢。 同じような夢を見るならせめて相手が女性であって欲しいと思う位の自由はあったが、体に自由はない。 自慢の手足に自由はないのに、自由である夢を見る自由はある……

「さて。んじゃつづけよっか。…えぇとそこのモヒカンのおっちゃん」
その自由も、奪われようとしていた。
ハダレはまたも適当に人を名指すと、舞台の上から問いかけた。
「そう、あんたあんた。……今からまたオレとじゃんけんして。あんたが勝ったら……」
ハダレは少し思案した。そうして、改めて問う。
「…おっちゃん、長い試合と短いの、どっちが好み?」
青年に問われて、何だか妙に嬉しそうな強面の男が答える。
ハダレのファンなのか、あるいは照れているだけなのか。微妙なところだが、男は楽しそうに頷いた。
「そりゃあ長い方だ。激しい方がなおいい」
「おっけー」
ハダレはモウジの方に向き直ってから大声で言った。
「次のじゃんけん、オレが勝ったら速攻ここにぶち込む。
 おっちゃんが勝ったらもう1回じゃんけんして、次負けたら慣らしてから入れる。
 んで、もう1回おっちゃんが勝ったら」
足もとの屈強な男を眺める。
口枷の所為で口が閉じられず、涎が流れっぱなしになって見るも無残である。
輪の真ん中からちろちろと覗く舌は意外と赤みが強くて艶があった。
腰を掴まれるような疼きを感じ、ハダレは唇をぺろりと舐めた。

モウジの両手は後手に、足は揃えて縛られているため土下座しているようにも見える。 そして割れた尻の谷間から、血まみれの尻尾が突き出ている。その血はハダレに指にも付いているはずだ。 ハダレはその指を擦り合せて、乾いた血を落した。赤黒いかすのようなものが、マットの上に微量に積もる。 そんな事さえ楽しかった。――楽しくて仕方が無かった。
「尻を血だるまにしてから犯す」
会場が息を合わせたように盛り上がる、その気迫といったら、爆発のようだった。 モウジは口枷の奥で何度も例の言葉――「ごめんなさい」を叫んでいた。 だが観客には遠すぎて見えるものではなかったし、ハダレには何故かもっと見えなかった。
「んじゃいくよー、さーいしょはグー!じゃんけん……」
「ポン!」

『…これは…パーとグーで、またもハダレの負け!ということは、もう一度じゃんけんコース!  果たしてモウジ選手は穏便な初挿入を迎えられるのか、それとも…』

「ポン!」
実況などお構いなしに、2人はじゃんけんをした。その結果――
『ぐわー!グーとチョキでまたもハダレの負け!』
「……オレじゃんけん弱いのかな……」
青年は深刻そうに眉根を寄せ、手を握ったり開いたりして考え込んでいる。 一方、連勝して望み通りの試合を見れることになったモヒカン男は周りの連中とハイタッチなどして喜んでいる。 その様子を僅かに恨めしげに眺めてから青年はもう一度モウジの方を見下ろした。 モウジには最早、最初に登場してきた時の自信や何かは霧消していた。
可哀想なほどに手足を竦めて、あまつさえ僅かに震えている。まるで飼いウサギのようだ。
――代理戦争の場では誰もが狼にもなり、またウサギにもなり得る。
「……今からそんなんだとさぁ」
狼は震える大柄なウサギを蹴り転がして、仰向けにさせた。
尻に生えた短い尻尾が動いたのか、苦痛の鳴き声を漏らす。
その側に膝をついて顔を覗きこみながら、狼が歯を見せて笑った。
「最後までもつかなぁ……?」

「あ、ぁ…あふぁっ!」
筋肉でできた丸太のような胴が跳ね上がる。
ライトに照らされたモウジの肢体は、透明な液体と赤い液体でぬらぬらと光っている。 透明な液体は何種類もあったが、赤い液体は1種類しかない。血だ。 血は僅かににじむ程度から、数センチの線を引くものまで様々だったが、一様な傷痕から染み出している。
「……結構痛いの弱いねあんた」
例えて言うなら、寿司ネタとシャリ。
それほどに身体の厚みに差のある青年が男に覆い被さり、全身を舐めまわしている。
「それとも血だるまって言われて、サンドバッグにされると思った?そういう痛さには強い?」
舐めまわしているだけなら血塗れ、血だるまにはなるはずが無い。
ハダレは上目遣いににっと笑って、目の前の鎖骨に歯をつきたてた。
「うぁッ、あ、あ、あ!」
ぐいぐいと本気で――もしくは血が出る程度に――噛まれて、モウジが身を捩って逃げ惑う。 暴れるたびに歯が食込むのは承知でやっているのか、それとも反射的にそうしているのか。 いずれにしても、ハダレがゆっくりと口を離す頃には傷が広がってしまっていた。
いびつな歯型から、唾液に溶けた血液がゆっくりと流れ出す。
今度の傷は骨がすぐ下にあるから深くなりようも無かったが、血が沢山出てしまった。 じわっとゆっくりそれが広がっていくのを興味深げに眺めながら、
「オレも。殴られるのはもう慣れた」
殴るのもそうだけどね、とも言いながら指でそれを塗り広げる。 鎖骨から、盛り上がるほどに発達した胸筋の間をなぞり、親指でいきなり乳首の近くまで接近する。
「ぅう……」
ぬるぬるとした指で乳輪をなぞると、目に見えてふっくらと膨らみ始める。 それが面白くて、何度もくるくるとなぞってみると、あからさまに周囲の皮膚と感触が変わっていく。
男の反応が体を傷つけていた時とだいぶ違い、逃げまどうのにも必死さが無い。
ハダレは再び皮膚に口を付けた。
「噛めそーじゃない?こうなると」
「ふぁはっ……!?」
反射的に首をもたげてこちらの挙動を見ようとするモウジが見たのは、
赤く濡れた舌で乳輪をなぞるハダレの姿だった。
頂点には触れず、じっとりと入念になめている。 唾液が乾くとそこがすぅっとした様に感じるが、頂点にその感覚がないのが不自然で、気持ちが悪かった。
その気持ち悪さが鳥肌になり、鳥肌が乳首の勃起になる。
「もしかして触って欲しかったりする?」
青年の指が胸を這い、もう一方の乳首に直接触れる。
「は…はひっ…ぁひっ」
先ほどとは違って、乳頭を弄んで楽しんでいる。
褐色に近い、乳毛?の生えた、とても綺麗だのと褒められないそれを人差し指と親指ではさみ、 血液と唾液で滑らせて刺激する。
モウジは痛みとは違った刺激に身体をくねらせる位で、すっかり大人しくなった。
――単に恐がっているだけで、暴れると噛まれると思っているからかもしれないが。

「あ、ぁあ…ふ、」
唸りながら悶えるその姿を見ながら、ハダレはさっき自分で地面に撒き散らした玩具の中から 茶色い小ビンと、小さな箱と、もう一つのものを取った。 大きさはそれほどでもない。手で握っても外からはそれがなにか分からないかもしれない。 直方体で、白っぽい色をしているが、色に意味は無いだろう。
横から見ると缶切りのような、変な造型をしているが、凹んだそこには針がついている。

「ねーねー、あんた」
ハダレはそれを男の目の前に突き出した。なぞなぞを得意げに披露する子供のような口調で、
「これなぁーんだ」
「ぁ…?」
男がぼうっとした瞳をそれに向けた。見た事が無いらしい。
「分からない?ちなみにオレはこれ、知らなかったよ。そういうのに興味なかったから」
男のぼんやりした様子を尻目に、ハダレはその器具のカバーを外して針を剥き出しにする。 もう一方の手には小ビンを持ち、歯でその蓋を開けると、中身を男の胸の辺りにぶちまけた。
「ぅはぁッ…あ、あ!?」
男の身体が驚いたように跳ね上がる。
胸の辺りがやたらひんやりとして、刺激臭がして、何より傷にしみるこの液体。
「ふぉ、ふぉへ…!?」
「これ?これは単なる消毒液」
ハダレは中身の激減したビンを振って見せた。ピチャピチャという小さな音が聞こえて、ビンの茶色が揺れる。 そのビンを適当に置くと、青年は男の股間に右足の膝を乗せ、左手で首筋のツボを押さえ、 それぞれを人質に取る格好にして男の身体に乗り上げる。
右手に例の白い器具を持ち、言う。

「悪いね。今日の試合の条件の一部なんだよなぁ、これ。……社章入りのピアス」



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