※痛そうな表現があります。
「悪いね。今日の試合の条件の一部なんだよなぁ、これ。……社章入りのピアス」
モウジがかっと目を見開いて、しきりにうめく。
が、ハダレの膝に股間をぐいっと圧迫されて黙る。
「暴れたらとんでもないとこに針刺さるかもしんねぇし、
うっかりタマ潰しちゃうかもしれないっしょ。ちょい黙ってて」
オレは何処に刺してもいいんだけど。そう言うと、急に男が大人しくなった。
青年はさっきから触れていなかったほうの乳頭に狙いを定めた。
ふひー、ふひーっと怯えた吐息がハダレの前髪を揺らす。が、構わない。
バネの弾ける音。
「はふぁあ!」
男の身体が弓なりに反って、ハダレの身体を持ち上げる。
「ぉお、流石筋肉ダルマ」
なんか百円入れたら動く奴に乗ってる気分、と面白がりながら、ハダレは素早く小さな箱を開けた。
中には有名な裏組織の、表の社名と社章の入ったシンプルなピアスが入っている。
慣れない手つきでそれをつまみ出すと、青年はたった今開けた穴にそれを嵌めてしまう。
男が痛がるのなどお構い無しだ。
「ぅう、…ううぅ…」
――ハダレの耳、鼻、唇、そのほかにピアスやその穴や跡は見られない。
ピアス開けに関して完全な素人がやったので、男の苦痛は相当なものだっただろう。
実際モウジは試合でも見せた事が無いほどに荒い息をつき、身悶えていた。
涙で濁った、今更縋るような瞳がハダレを見ていた。これ以上の苦痛には耐えられない、と訴えるように。
「訳わかんねーって顔だなぁ」
だがハダレは男の身体の上に乗ったまま、言った。
「もしかして、どうしてこんな事されてるのかわかってない?」
「…ふ……?」
モウジは涙にぬれた瞳をぱちくりさせた。ハダレの言葉を聴き損ねたらしい。
ハダレは、もう一度より分かりやすく、噛み砕いて告げた。
「あんたは、なぜ自分が、代理戦争だからってここまでひどく強姦されるのか、
そしてなんでオレがそうするように依頼されたか、分かってないでしょ?」
男は頷いた。
双方に依頼してきた組織同士は表向きは製薬会社である会社と、実験機材などを扱う子会社である。
裏でも同様で、両者はきわめて良好な関係にある。
今回の試合はどちらかというと、興行的な意味合いの強い――先日の哀れな青年のような一方的な陵辱ショーではなく、
もう少し健全な、格闘技のおもしろい対戦カードであるという程度の――試合だった。
怨みの絡んだ試合だと敗者は手ひどく、屈辱的で容赦ない暴行を受けることもままあるが、
こんな良好な関係で健全な試合の雰囲気でここまでするのはまれなことだ。
まずモウジが自分が敗北するなんてちっとも思っていなかった事は除いて、訳がわからない事があまりに多かった。
「……あんたに試合を依頼してきたのはA社。実験用の設備を作ってる会社。
で、俺に依頼してきたのはB社。製薬会社で、A社を傘下に置いてることになってる。
A社とB社はきわめて仲良し。ここまでおっけー?」
モウジが震えながら頷く。
ハダレは僅かに小声になって、
「B社は中央にはまともな薬や病院向けの商品を、
こっちにはいろいろ危ない薬剤を売ってる。
じゃあA社がB社に何を提供してるかっていうと――わかるよな?」
モウジは必死といっていいほど熱心に首を縦に振った。
「実験設備、とか実験機材、なんてよくカムフラしてるよな。
表向きには実験動物を、裏ではもっと大きな実験動物を――つまり人身売買だわ」
感心するような口調で、ハダレが続ける。
「まともなほうの薬のモニターなら志願者も一杯いるけど、裏はそうもいかないだろうから。
それにかこつけて、売れ残ったり使い古した『機材』をいい感じのペットに仕立てて儲けてるみたいだね。
――近頃は、むしろそっちもかなり流行ってるらしいし。一番最近の注文はたった10日くらい前だったんだって」
男は必死にその物語の結末を考えながら、首を縦に振りまくって入る。
一体、自分が何をしでかしたのか、考えが至らないらしい。
ハダレは説明を続けた。
「で、10日くらい前にどんな注文があって、実際どんなのが届いたかって言うと、さ。
十代後半の青年で、茶髪で、前も後も初物の『異』を注文したんだって。
オーダーメイドで相当高かったらしくて、注文したお客さんも楽しみにしてたらしいよ」
――思い当たる。十代後半で、茶髪で、初物の…青年。十日前より少し手前。
彼は――
「ところが、最終工程までいい感じに仕込まれた『機材』に、最後の最後で傷がつけられた。
当然出荷できなくて、今も現場は大混乱中。で、何でそういうことになったかって言うと…」
そうだ、彼は代理戦争に出させられていた、あの青年だ。彼の相手は――
――そうだ、彼の相手は、この、自分だった。
「反抗的で、『機材』としての自分の境遇が理解できない彼に、その立場を思い知らせるために出した代理戦争。
初物は守ったまま、傷の残らない程度に殴らせて、抵抗力を奪おうと思ったのかな。
そこで事前に打ち合わせしておいたはずの対戦相手が勝手に暴走して、『商品』を傷物にした」
モウジは心の奥底から震えあがった。
今までのような、痛みに対する表層的な鳥肌でなく、心の表面までもがあわ立つような重圧だった。
あの時、モウジは事前に「勝つだけでよい」と言い含められていた。
だがいざ、あの青年を嬲り出すとついその手が止まらなくなって――
「A社だって怒ったけれど、それにも増して怒りが収まらないのはB社のほうでさぁ。
でもまぁ、お客さんの厚意とか代わりの商品とかで、何とか取り成したらしいけど。
……で、今後どうするか協議した結果、事前の打ち合わせすら守れない、犬以下の代理戦争戦士を」
んぐ、という唾液を飲む音がして男ののどが上下する。
「痛めつけて観客から観覧料をたっぷり取った後に、売り飛ばす事にしたんだってさ」
モウジの腕から、持っていたはずの感覚や感情というものが一つ一つ抜け落ちていくようだった。
痛みも、疼きも、快楽も、苦しさも、何もわからなくなって、ただ判然としない息苦しさがあった。
ふらふらと視界が揺れているのはめまいなのか、或いは自分の首をもたげる力が失われたからなのか。
呆然と霞む、天井のライトがまぶしかった。
その隙に、ハダレは小さな箱からさらにチェーンを取り出して、ピアスの端に括り付ける。
チェーンの反対の端は男の性器に巻き付けて固定してしまう。
チェーンの長さはちょうど乳首と性器を一直線につないでいて、弛みはほとんど無い。
小さく鎖を引いて取れそうに無いことを確認すると、ハダレはポケットを探った。
そして取り出した薄いゴム手袋をはめると、消毒液とは違う瓶――透明なオイルを手のひらに塗りたくる。
ぬらぬらと妖しげな光沢がまんべんなく両手を覆っていることを確認すると、
ハダレは今さっき無慈悲なピアッシングをしたとは思えない丁寧な手つきで男自身をつつんだ。
「はぁ……っ」
「あの、半勃ちですよぉー、モウジさーん?」
青年の骨っぽい指を押し返すように、男のものが充血していく。
同時にチェーンがわずかに肌に食い込んで塞き止める。
「ピアス嵌められて感じたりしたぁ?そうなったらそろそろ変態の仲間入りですよー」
それとも膝でぐりぐりしてたからかな?と言って、手早く扱いて完全に勃起させる。
いくらそういう試合に不慣れだからと言って、ここは不慣れと言うことはないだろう。
「んっ、んっ……んっ」
硬い全身の筋肉を硬直させて快感を受け止める男の耳元で、ハダレが囁く。
「ここにもピアス……開けちゃう?」
「ふ、!?」
モウジは忘我の境地から引き戻されて、目を見開いて轡越しに抗議する。
首を必死に振って、抗議と言うよりは哀願の体だ。
それを眺めおろしてから、ハダレは先程の小箱を取って開けて見せた。
中身は無かった。からからと乾いた音を立てる箱。それに同調するように笑いながら、
「冗談冗談。それしか無いから」
ホッとしたように首を落とすモウジ。彼自身の先端からはオイルを水増しさせる物が増えてきた。
安心したように項垂れて喘ぐ男のそれを片手で愛撫したまま、ハダレの視線は男の後ろに注がれていた。
もう血は止まっていて、そこは堅く玩具をくわえ込んだままだった。
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