深夜営業の飲食店のざわめきもなくなりかけてきた――感覚で時を探るしかないが、もう夜明けまで二・三時間といったところなのだろう。
(あと一時間で探し出せなければ、引き返す)
だらだらと探しても見つかる相手ではなさそうだ。手元の金属片を上着の左側の内ポケットに入れ手を腰に落とし、振り向きざまにひとり斬り伏せながら、ウスライはそれを取り決めた。
――相手は三人組だった。おそらく一人が先行して襲いかかり、続く二人目が取り押さえるなり薬を嗅がせるなりし、三人目が証拠を抹消して獲物を輸送するのだろう。
くっ…というありきたりなセリフを吐く二人に、ウスライは一歩を踏み出す。二人目が予想通り、手にナイフと薄汚れた布を持っている。三人目の懐が膨らんでいるのは、テープか何かを携行しているせいか。
「っ…!」
反撃を全く予想していなかったのだろう、男が小さく悲鳴を上げる。ウスライは無視してさらに距離を詰めた。そして、刀を振りかぶる。
ヒュっと腕を下ろしかけた…その時、にやりと笑うような声がウスライに囁いた。
「後ろがお留守ですよぉ?」
はっ――とウスライが振り返ると、4人目が鉄パイプのような何かを振り上げていた。ウスライの腕は驚きにかすかにぶれ、2人目を取り逃している。とっさに横に一歩飛び鉄パイプを交わしたもののはさみうちは免れない。ウスライは完全に4人目を迎え撃つつもりで振り向いた。
ばさりとコートの裾がなびきウスライの後を追う。
だがウスライが構えもしないうちに4人目がこちらに押し出されるように突進した。反射的にそれをよけ、目で追いながらさらに振り返る。――と、ありえないことに4人目はそのままの勢いで2人目を巻き込んで路地に倒れこむ。
「ぐはっ…!」
押しつぶされるように転倒した2人目は、うちどころが悪かったのかそのまま昏倒したようだった。4人目もそのままぐったりと肢体を伸ばしている。3人目だけが呆然とその場に立ち尽くしていた。
その時、ウスライの視界のすみを黒い影がよぎった。
立ち尽くすウスライの横を通り抜け、4人目と折り重なった2人目を踏みつけ、跳躍する。
「う、あが…!」
逃げる体制もとらされずに3人目が蹴り倒される。あっという間の早業だった――血も流さず、早急にハンターを狩るその腕はウスライから見ても素晴らしいものだった。
「……目立つ殺し方はやめてくださいね。
せっかく助けてあげた意味がなくなっちゃいますからぁ」
その技を見せ付けた男――かなり息を切らしてはいるが、まだ本気というわけではなさそうだった――は、3人目の頭部を蹴り完全に意識を失わせた。のんびりとした口調に似合わず、男の仕事は予断なかった。
「背後を取られるなんて、あなたらしくないですよ」
「礼を言うが、相手を蹴り倒してよこさないでほしい。
万が一反応が遅れたらこちらを巻き込んでいた」
ウスライが抗議すると、男は幽かに笑ったようだった。
「……もしもあなたがその程度の人だとしたら、箱を託した私と主人が少しばかり失望す
るだけですよぉ。ウスライさん」
男がゆっくりと振り返った。
黒なのか、灰色のような目立たない色が闇にまぎれているのか分からない。男の輪郭は路地の暗闇に溶けていた。深く引き下げたパーカーが目元を覆っている。だが、ウスライにはその男の正体はわかっていた。
聞き覚えのある声色。独特のゆっくりとした話し方。容赦のない体術。
そして――いまだ外れ得ぬ首輪と、その下の血のにじむ包帯。ウスライが与えた傷だ。
「死んでいなかったのか」
「そこは"生きていたのか"って聞くところですよ?
御主人様と違って、ムードってものがわからないんですねぇ」
男がフードを払った。目じりのかすかに下がった切れ長の瞳が、ウスライをとらえて笑っている。肩を少し越す程度の長さの赤い髪が、穏やかな表情を際立たせていた。
「お久しぶりです」
顔色が青白い――そして彼はもはや目立つあの拘束衣ではなく、何より彼は奴隷ではなくなっていた。だが、その違いなどどうでもいいほど彼は不変の笑みを浮かべていた。
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