真・艶事略決/攻の巻/鬼退治中編


「ぁ…ああっ、かぁああ―――!」
陰陽師の屋敷の隅々に響き渡るような咆哮が、鬼の咽喉を駆け上がる。
蛟(みずち)――蛇から年を重ねて姿を変え、やがて龍になって天を駆けるいきもの――の強い毒に
尻の孔を焼かれ、流石の大鬼も衝撃と痛みを隠せない。

しかし、始めは鬼の声帯を震わせ、次に陰陽師の身に付けている貴族の装束を、中庭に生えた庭木の葉を、
中庭からの目隠しとして設えられた帳を、そして最後に事情を良く知っているはずの使用人の背筋まで
震わせた叫びは、陰陽師にはまるでそよ風のよう。
絹を裂くような悲鳴も、轟く咆哮も、陰陽師として幼い頃から修行してきた陰陽師にとっては驚くに値しない。
それに…………生来の加虐者である彼にとって、悲鳴とはむしろ吉兆であった。

「蛟の毒は強い。交わりあうもの全てを溶かし、高熱を発する。どうだ、尻で味わうそれは」
「ぐぅ、はぁ…あ……い、痛いっ…!」
どろどろとした大量の液体が、蛟の頭に塞がれた後孔を蹂躙している。
身を捩るたびにあっちへごぼり、こちらへぷかりと温度の勾配が掻き混ぜられ、鬼は余計に泣き叫んだ。
しかしどんなに泣こうが喚こうが、蛟が鬼の体から引き剥がされることはなかった。
汗に濡れた身体に刻み込まれた刺青のように、筋肉の凹凸まで反映しながらてらてらと蠢く。
そのくせ、窄まりに呑み込まれた蛇の頭部は新たな毒液を吐き出しながら、不必要なほど奥へと侵入を進める――
「あ、ああっ……!ぎ、ぁ…」
ありえないほどの奥地を強い毒で汚される痛みと恐ろしさは、
元は紙に描かれた命に過ぎない鬼さえも怯えさせた。そして狂わせる。
「ぅうッ、あっ」
「痛むか、苦しいか、恐ろしいか?それとも――」

陰陽師は乱れに乱れた襤褸の裾を行儀悪くも足で掻き分け、そして鬼の棍棒をぐりりと踏みつけた。
奇しくもそれは、十分な硬さを伴って立ち上がっていた。

「おや……一体、如何様に言ったものかな……これは」
陰陽師は心底不思議そうな声音で呟きながらも、双眸にちらつく意地の悪い影は隠さずに呟いた。
そして、「これ」と言うのと同時に熱く滾ったものを履物の底で圧迫する。
鬼が苦しみともなんともつかない呻き声を漏らす。
「こんなに一物を腫れさせて……つい先刻、痛い痛いと泣き喚いていたのは何処の誰ぞ。
 それとも貴様は苦痛を感じると、このようになってしまう体質なのか?」
「ッ……か、勝手な事を……!ぁっ、あ」
反駁しかけた言葉は、途中で不自然に途切れる。
それというのも、陰陽師が絶妙な足捌きで鬼のそれを擦りあげたからだ。
履物の裏地の厚みと、それに覆われた足指のでこぼこの微妙な質感まで計算しつくされた刺激に、
思わず鬼の声がぐうっと詰まった。それをせせら笑いながら、陰陽師は蹴り上げるように何度もそこを嬲る。
心持、親指と人差し指の谷間で鬼の裏筋を挟みこみながら足の平でぐいぐいと扱くと、鬼の逞しいからだが一層うねった。
「尻を焼かれながらもこのような痴態を呈するとはな……式神でありながら、主人に似たか?
 ……ああ、いや失礼、似せるように文句を書いたのは私だったな。ならばどうだ、気持ちよかろうが」
「そ、そんな訳が……ぁっが!」
乱暴ながらも、札の力によって敏感にされた棍棒を扱かれて、腰を熱い衝動が襲う。
勝手に蠢くそれには抗いがたい魔力があった。
その一方で蛟の責めは休むことなく尻穴の奥に与えられ、棍棒とは逆に、蠢くたびに痛みが腰を押さえつける。
「はぁっ…あ…あっぐ……ひ、ぁ」
尻が蕩けるような感覚がする。文字通り、毒で尻が溶けてしまったのか――それとも、何か別の感覚なのか。
分からない。だが、尻が熱い。棍棒も熱い。熱い熱い熱い……!
「好かろうが」
「ぎ、ぁがっ…!あぁっ!」
ぐいっと急所を踏まれ、鬼は悲痛な呻き声をもらした。そして、同時に白いものも。
その白いものを搾り出すように、更に手酷く踏みつけながら――陰陽師は笑った。
肝心な事はまだ聞けていない。聞かずとも分かったとしても、言わない。意地悪く、白状するまで遊んでやろう。
睾丸を踏み転がされて、足コキから一転、目を白黒させてのた打ち回る鬼を見下ろしながら、月は傾いていった。

「……っ…………ぃ、…………ぃ…」
大分冷たさを増してきた夜風が、のた打ち回る大きな影と、それを見下ろす男をさぁっと撫でた。
かすかに木の葉が擦れる音が、地べたに伏した影の漏らすうめき声を隠すようにさわさわと鳴る。

影――つまり、浅黒い肌を震わせている鬼は、聞くも哀れな声音で啼いていた。
たとえば、置き去りにされた飼い犬のような。思わず手を差し伸べざるを得ないような、かすれ声で。
だが、傍らに佇む陰陽師はそれを鼻で笑うと、つま先で鬼の尻孔を蹴り上げた。
「ぎゃ、っ!」
人体――と言っていいのか分からないが、それの急所中の急所を無慈悲に蹴られ、
鬼は未だ蛟に縛られたままの体を前へ前へとのたうたせた。
「ひ、……ぃ、いっ……!」
黒い縄のような蛟からむちむちとした筋肉をはみ出させ、精悍な顔つきをした大の鬼が、
毛虫でも見た女子のように情けない細い悲鳴を上げながらあとずさるのを見るのはなかなか面白い。
最初は大貴族の屋敷を夜な夜な荒らしまわり、町の人々を怯えさせていたというのに、
今は墨を含んだ筆一本をちらつかせただけで狼狽する。
力技では到底かないそうもない優男の陰陽師相手に、何もできずに蹴られ、嬲られるしかない鬼のその姿は、
生来の嗜虐者である陰陽師を久方ぶりに勃起させるのに相応しいほど惨めで哀れだった。

だが、陰陽師の肉棒は厚い衣に隠されているので鬼にはどうなっているかなどわからない。
そもそも、その様な余裕などなかった。
腸に――というか、内部に――たっぷりと染み渡った蛟の毒が五臓を焼く。
腹が痛くて仕方ないが、体は強く戒められていてほとんど動かすことができない。
動いたところで逃れられるものでもなかろうが、最早堪える吐息もつけない鬼には何より辛い。

――このまま、毒に浸されて自分は溶け消え、紙くずとなるのだろうか?
ふと、そのような考えが鬼の脳裏をよぎった。だが、それもいいかもしれない。
自分は主人が誰なのかを言うことなく、秘密を守り通して命を全うする。かりそめの命は消える。紙切れは朽ちる。

が、散々甚振られて熱を持った尻穴に押し当てられる灼熱を感じて、鬼はぎょっとして体をよじった。
視線の先では、何匹もの蛟を辺りに呼び出し、鬼の体を固定して身の安全を確保した陰陽師が、
鬼の棍棒すら適わないほどの逞しく滾った肉棒を鬼の尻に擦り付けていた。
その恐ろしいほどの大きさと熱さに、思わず鬼も全身を硬直させる。
「……ひ…」
「流石の鬼も、尻を犯されるのは怖いと見える。まるでおぼこ娘のようだな」
ずるりと滑った陰陽師自身が、鬼の尻孔を掠める。が、鬼は荒い息の間に告げた。
「お、……お前、…も、毒、……浴び、る事……に……」

鬼の尻孔は確かに解れていはいたが、それは蛟の体積と毒のせいだ。
逆に言えば、その狭い穴は毒の壷と化しており、到底人が生身のそれを入れて無事ですむものではない。
射精するまでに融けてなくなってしまう心配が必要なほどの毒だからこそ、鬼もこれほど苦しんだのだ。
どんなに優れていても、陰陽師は人間に違いはない。
その大事なものが溶けても構わないならばやってみるがよい。そのくらいの心意気で、鬼は陰陽師を睨んだ。

だが不思議なことに、あふれ出す蛟の毒に触れても陰陽師は全く反応しない。
それどころか、いくら肌と肌が触れ合っても液体がまとわりつく音がする気配もない。
「全く、お前の主人はお前を生み出す時に脳みそを作るのを忘れたのではないか?」
不敵に笑みながら、陰陽師は鬼の肌をなでた。その手のひらが汗で汚れる気配はなく、毒に焼ける様子もない。
「お前の体に起きていることは、私がお前の札に筆で描いて起こしたことだ。
 札に触れぬ限り、お前に毒が降ろうが燃え盛ろうが私にかかわることではない」
鬼は戦慄した。
その為に――その為に、この男は一番最初に自分の複製を作っていたのだ。
「さて、それではあいつ自慢の式神の具合を試させて頂こうか」

鬼は精一杯もがいたが、体の重要な関節は全て蛇や蛟が押さえつけていて満足に動くこともできない。
それどころか必死に閉じようとする尻孔をこじ開け、陰陽師が入りやすいように広げる物すらいる。どうしようもない。
陰陽師の自身が肉の穴に触れ――狙いを定め――押し当てられ――そして、こじ開けた。
鬼の指先が射抜かれた鹿のように震え、くたりとへたった。



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