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結局荷物を海都の部屋に運んだ後、詳しい話を聞こうとした空也だが入学式の時間が迫っており海都の部屋を訪れたのは4時ごろだった。
入学式は普通科の体育館で行われた。入学式と云うくらいだから全員参加のはずだが、特化クラスの半数近くは欠席であった。海都と、そしてもちろん牧も欠席した生徒だった。それに対して教師たちも黙認で、改めて特化クラスの異常さを知らされた。



空也が戸をノックするのをためらっていると隣の啓一が何の気負いもなしに、海都の部屋をノックしてしまった。
「ちょっ!まだ心の準備が!!」
だが数分ほどこの扉の前で”心の準備”をする時間はあった。いつまでたっても扉を叩こうとしない空也の代わりに業を煮やした啓一がノックしたのだった。
それにしても中から人の気配、実際先ほども何を話していたかまでは分らないが話し声も聞こえていた。なのになかなか扉は開かなかった。
気づかなかったのかと思い、啓一がもう一度ノックしようとしたところへ、海都が顔をのぞかせた。



「そろそろ来るかも、って話してたところなんだ。」
二人を見てそういうと海都は中へ二人を促した。
部屋を見てまず目にはいったのが、その海都と話していた人物だ。牧はベッドの上に上半身裸で壁にもたれてタバコをすっていた。その雰囲気とそして乱れたベッドの様子から、安易に情事の後がよみとれた。よく見れば、海都の浴衣も着崩れた感じがしなくも、ない。
「え・・・。ぁ・・・。」
「悪い。邪魔だったか?」
部屋の入り口付近で顔を赤くして立ち止まってしまった空也の代わりに啓一が海都に言えば、
「大丈夫。・・・空也赤くなって可愛い。もぅ、ほら入って、んで座って。」
熱くなった頬を人差し指でつっつかれ、動くように促される。
海都の自分の呼び方が”ソラちゃん”から”空也”変わっていることに空也は気づいた。実は入学式の前別れたときに、空也からそう切り出したのだ。そのときの海都の一瞬だけ見せた悲しそうな顔が頭をよぎった。だが後は、また笑顔で了承されそのまま、というわけだ。
「海都と、牧って・・・」
ようやく絞り出した言葉は少し、語尾が震えていたかもしれない。男同士ということに二人とも偏見は・・・あるわけがない。しかし、海都がそうで、しかも牧とということが驚きだった。
「空也と啓一みたいな関係だっていわなかったけ?」
「気づいて・・・」
赤かった空也の顔が、さらに赤くなる。
「慎ちゃんに聞いてたからね。」
慎ちゃんという語句を聞いて。啓一が牧を見る。が、すぐその目は逸らされた。
「ぢゃぁ、牧が時々俺を見てたのって。」
「まぁ、そういうこと、だね。」
海都がチラリと牧に視線を向けた。
「たまに会ったら、空也のこと教えてくれたんだ。」



空也はそ知らぬ顔でタバコを吸っている牧をみた。牧自身にもあまりいい噂は聞かないが、海都のためなら少々面倒なことでもやってしまうのだろうか。
空也の視線に気づいていたのか
「そんな話をしに来たのか?」
低い声で言った。その声だけで相当な威圧感があり、もしそれで凄まれたりしたらさぞ怖いことだろう。
「そうだったね。でも説明するにしても、いったい空也がドコまで知ってるのかわかんないんだけど?」
ドコから話していいのか海都も迷っているようだ。
9年近く離れ離れで暮らしていたのである。空也が海都が死んだと思っていたように、海都正確には知らないのかもしれない。その可能性も捨てきれないと思って、この部屋に来た空也だったがどうやら杞憂のようだった。海都はすべてではないにしろ、少なくとも空也の知りたいことは知ってそうな雰囲気だ。



「ドコまでって・・・。俺が知ってるのは母さんと空也が一緒に死んだって、聞かされただけ。」
本当に空也はそれしか知らなかった。それが真実だと思っていた。だが目の前には死んだと聞かされた海都がいる。
空也の聞いていた真実は嘘だったことになる。では真実はなんだったのか、それが知りたかった。
「そっか。・・・ぢゃぁ、空也は母さんが死んだ時のこと覚えてる?」
もう、かなり昔のことだ。覚えていなくても無理はない。そして、空也はその頃記憶が曖昧だ。
「あんまり・・。」
そこで一旦口を閉じ、言いにくそうに海都を伺いながらいった。
「・・・けど、踏み切りに飛び出した海都を助けようとして2人とも跳ねられたって。」
それを聞いた海都は面白そうに目を細めただけだった。
「そうだよ。お母さんが死んだのは僕のせいだ。」



そして海都は話し始めた。


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