オルスナ国で宗教弾圧が始まる前から、ミゼルは熱心なラバス教信者だった。
オルスナのラバス教信者の間でも数人しかいない指導者のうちの一人で、その名は国内外で有名だった。現国王のオルスナ三世が宗教弾圧を始めた頃からラバス教信者を集めて反旗を翻し、ミゼルの兄、ホックズの父でもあるニーデンと共に国王軍に捕らえられて投獄された。
それを知ったルイカは、なりふり構わずに下級役人から貴族相手の高級男娼へ、そして現国王の禁欲政策に異を唱える公爵の小姓となった。過酷な拷問の末、植物状態となったミゼルを牢獄から救い出し、ホックズと共に生まれ住んだこの町の一角に身を潜めたのだった。
「こんなことなら、愛してるって言っておけばよかった。無理にでも抱いてもらっておけばよかった」
夜、ホックズの小さなベッドに潜り込んで、足がはみ出ているとひとしきり笑った後、ルイカは呟いた。無理だって分かってるんだろ。ホックズの優しい声が闇に響いた。意地悪だな。そう言って、ルイカはホックズの厚い胸に頭を乗せた。
「そのはみ出てる足、ミゼルに似てるよ。今のベッドは大きいから、収まってるけど」
ルイカが言うと、ホックズは笑った。
肉厚の大きな手でルイカの髪をなでると、ホックズは口を開いた。
「アストラウルにあるという薬で、ミゼルは目を覚ますかもしれない。そうなったら、思う存分抱いてもらえばいい…」
「…そうだな。本当に目を覚ますと思う?」
「俺たちが信じないでどうする。さあ、もう寝ろ。疲れただろう…」
そう答えると、ホックズはルイカの熱っぽい頬を優しくなでた。頭の芯までクタクタだった。ミゼル、早く目を開いて、あれから随分大人になった俺を見てほしい。目を閉じて、ルイカはゆっくりと落ちるように眠り込んだ。
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