耐え難い悲鳴に耳を塞いで、男娼たちはみな自分の部屋に閉じこもった。ブッタリカの部屋から声がもれて、外にいたアニタとナザナが心配げに表情を曇らせていた。
時々、ムチで叩かれる音が響いた。そのたびにリーチャの悲鳴が上がって、アニタは我慢できずにブッタリカの部屋のドアを叩いた。
「ブッタリカさん! お願いだから許してやってよ! ちゃんと戻ってきたんだから」
ふいにドアが開いた。手にムチを持ったブッタリカが、アニタの頬を殴りつけた。唇が切れて、ナザナが震えながらアニタ!と呼ぶと、ブッタリカはアニタを見て鼻を鳴らした。
「許せ、だ? 抜け出した男娼を許して他の奴らにまで好き勝手されちゃ、高い金出してお前ら買った意味がねえんだよ! 商品は黙ってろ!」
「ブッタリカさん、リーチャはあのアストラウル人に唆されただけなんだよ。お願いだから、許してやって」
アニタが切々と訴えるとブッタリカはアニタをにらみつけ、自分の部屋に戻れと促した。またドアを閉めると、ぐったりと床に転がったリーチャの頭をムチで押さえて、ブッタリカは低い声で言った。
「唆されただと? お前の方が唆したんじゃねえのか。故郷の村でもどうしようもねえゴミだったそうだな。え?」
憎々しげにそう言って、ブッタリカがムチを振り上げた。それは勢いを増して背中に当たり、ギャン!と犬のようにリーチャが泣いた。みじめに床に這いつくばったまま怯えたように震え、リーチャは呻いた。
「明日からまた客を取らせてやる。背中は見せるな、いいな」
そう言ってリーチャの腕をつかんで立たせると、ブッタリカはリーチャを部屋の外へ追い出した。リーチャ! そこで待っていたアニタが慌ててリーチャの体を支えた。痛みに顔を歪めてアニタにしがみつくと、リーチャは小さな声で大丈夫だよと囁いた。
「ナザナ、しっかりしな! 手を貸して!」
腰が抜けたように震えていたナザナを振り向いて見ると、アニタは怒鳴った。両側からリーチャを支えて部屋へ運ぶと、ムチで打たれたリーチャの背中を見てアニタはナザナに水を汲んでくるよう頼んだ。
「バカだよ、あんたはホントに。もうやめなよ」
泣き出しそうな表情で、アニタが言った。ベッドにうつぶせに寝かせられて、リーチャはムチに打たれて熱っぽい自分の背中を感じながら、アニタに視線を向けた。
「…だって、ガスクが」
「あいつはあんたの男じゃない!」
本当は。
いつでもガスクのために死ねるつもりだった。重い目をゆっくりと閉じて、リーチャは痛みのために眠ることもできずにアニタの非難めいた言葉を聞き続けた。ナヴィのように、ガスクのために死の中へ飛び込むことも、命を投げ出すこともできなかった。俺は。
「…いたっ!」
ナザナが汲んできた水に布を浸して絞ると、アニタはそれでリーチャの背中の傷を丁寧に拭った。リーチャの目に涙が滲んだ。それを見ないふりをしてリーチャの体に毛布をかけると、アニタとナザナはそっと部屋を出ていった。
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