自分が使っていた部屋のベッドに座り込んでいたナヴィが顔を上げると、いつの間にかそこにはラバス教の僧服を着たグウィナンが立っていた。いつもと同じ冷静なその目を見ると、ナヴィは立ち上がってグウィナンの胸ぐらをつかんだ。
「リーチャは死んだ」
震える声でグウィナンをにらみ上げると、ナヴィは手にギュッと力を込めた。眉をピクリと寄せて、グウィナンが黙ったままナヴィを見据えた。
「お前のせいで、リーチャは死んだんだ! 何で切った!? リーチャは仲間だったんじゃないのか!」
ダン!とドアにグウィナンの体を打ちつけて、ナヴィは顔を伏せた。
あれからリーチャは、眠るように息を引き取った。
リーチャ、最後に君はこの男を許したけれど、僕には許せない。
目を見開いて大きく息をすると、グウィナンから手を離してナヴィは横に立てかけてあった剣を取った。剣の柄を握りしめたナヴィを見下ろすと、グウィナンは怯える様子もなくただ少し疲れたような目で答えた。
「俺は、俺の信じるもののためにリーチャを切った」
鞘から剣をスラリと抜いて、ナヴィはそれをグウィナンの喉元に押しつけた。わずかに皮一枚、うっすらと切れて血がにじんだ。ナヴィの目に涙が浮かび、それは見る見るうちに溢れて頬を滑り落ちた。
「お前の信じる神とは何だ。お前の神はリーチャを殺せと言ったのか」
ナヴィの言葉にグウィナンは答えず、切りたければ切るがいいと囁いた。グッとナヴィが手に力を込めると同時に、ドアをノックする音が響いた。ナヴィが一瞬迷ってから剣を鞘に収めると、ドアが開いてナザナが顔を出した。
「ナヴィ。リーチャをラバス教寺院へ送るって、ガスクが」
「…」
黙っているグウィナンをチラリと見上げ、その体を押しのけるようにナヴィは部屋を出ていった。
神は殺せとは仰らない。
ただ、私を心に留め置けとのたまうだけだ。
リーチャ。
なぜ俺たちを裏切ったんだ。あのアストラウルの指揮官に脅されたのか、それとも不甲斐ない俺たちを見限ったのか。
俺が切らなくても、リーチャはアスティの軍兵に切られていた。
それなら、俺の手で。
額を押さえて俯くと、グウィナンはドアにもたれて座り込み静かに涙を流した。最後にリーチャは何を思っただろう。リーチャ一人救えず、俺は僧侶などと名乗る資格もない。息を殺して顔を両手で覆うと、グウィナンはジッと一人でリーチャを思い続けた。
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