夜が更けても、グウィナンは見つからなかった。
夜明けと共に、ガスクはグウィナンを探す仲間たちにそれぞれ自宅へ戻るよう指示を出した。寺院に戻ってきたガスクがナッツ=マーラと部屋で食事を摂っていると、ふいにノックの音がしてドアが開いた。
「…少し話を」
小声で言ったアサガに、ガスクとナッツ=マーラが視線を合わせた。入れよ。ナッツ=マーラが言うと、アサガはそっと部屋に入ってドアを閉めた。
促されて椅子に座り、アサガは言葉を選んで黙り込んだ。しばらくジッとアサガを見ていたガスクは、パンをちぎってスープにひたしながら口を開いた。
「ナヴィのことだろう。いつでも連れていけばいい」
「あなたに言われなくてもそうします。こんな、いつ襲われるかも分からない環境にあの方を置いておく訳にはいきません」
「おいガスク、お前の『ナヴィ貴族説』も満更じゃなかったみたいだな。あの方、だって」
ニヤリと笑ったナッツ=マーラを軽く睨んで、アサガはテーブルの上で両手を組んでガスクを見上げた。
「あの方は命を救われたということで、あなたに義理を感じていらっしゃいます。けれど、あの方には行かなければならないところもやらねばならないこともあるのです。今はここに留まると仰っていますが、あなたから出ていけと言われれば出ていかざるを得ないはずです」
「俺が言って素直に出ていくかどうかも、怪しいけどな」
フッと息をついて、ガスクは手に持ったパンを口に運んだ。手についたスープを舐めるガスクを見て眉をひそめると、アサガは答えた。
「あなたから必要ないと言われれば、さすがにここにいる理由はなくなる。あなたからあの方に、プティへ行くよう話して下さい」
「プティ?」
ガスクが尋ね返すと、アサガは頷いた。プティであの方の肉親が到着を待っているのです。アサガの言葉に、ナッツ=マーラが黙ったままアサガを見つめた。
誰だ。まさか王ではないだろう。
第三王子は死んだ。王太子はアストリィにいる。第一王妃はエウリルと交流がない。なら、待っているのは第二王子ローレンか。
なぜ…エウリルの身の潔白でも証明するつもりか。
それとも。
「とにかく、プティへ行くように話せばいいんだな。分かったからもう部屋に戻ってくれ。一晩中歩き回って俺たちはクタクタなんだ」
ガスクの声にハッと我に返って、ナッツ=マーラはそうだなと言葉を重ねた。明日、お願いしますよ。アサガがそう言って部屋を出ていくと、ガスクはテーブルに肘をついて額を押さえた。
「苦手だ。ああいうのはな。グウィナンじゃないが、連れていきたきゃグルグル巻きにして馬車にでも放り込めばいいだろ」
「お前がそうしたいんじゃないのか、ガスク。プティなら確かにダッタンより安全だからな」
からかうようにナッツ=マーラが言うと、ガスクはナッツ=マーラを睨んだ。おおコワ。ニヤニヤ笑いながらガスクから椅子を離すと、ナッツ=マーラは食事を続けながら何でもないことのように口を開いた。
「グウィナンを探し出して説得しなきゃ。嫌な話だが、アストラウルの軍兵たちよりもこっちの詳細を把握しているグウィナンの方が、よっぽど恐いぞ。あいつはアスティでありながらお前のそばにいるナヴィを心底嫌っている。ナヴィをプティ市へやるなら早い方がいい」
「…分かってる」
短く答え、ガスクはパンをもう一つ取ってそれを半分に割った。いつまでもここに世話になる訳にもいかない。考えながらパンを口に放り込むガスクの横顔を見ると、ナッツ=マーラは小さく息をついた。
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