「俺、もうダメだわ」
対スーバルンゲリラ内戦部隊の駐屯地内にあるこぢんまりとした食堂で、仲間と賭けポーカーをしていたアンレバンがふいに言った。カードをテーブルに放り出してそこに肘をつくと、深いため息をつく。
「ずるいぞ、アンレバン。負けは負けだぜ」
「今まで貢いでたイロが死んだんだろ。金の使い道なくなるじゃねえか。負けの分払えよ」
仲間の軍兵が身を乗り出すようにして責めると、それは言うなってと答えてアンレバンはがっくりと頭を垂れた。
スーバルンゲリラの一掃作戦の巻き添えでリーチャが死んだと聞いたのは、昨日のことだった。
大量に運び込まれた負傷兵の介抱と現状把握に駆けずり回っていて、ようやく落ち着いてブッタリカの娼館へ出向くと、戦闘で壊れた室内を片づけていたブッタリカからリーチャの死を聞かされた。
「くっそお、リーチャが死んだのはあのグンナとかいう将校のせいだ。王宮衛兵だか何だか知らねえが、何で中央がこんな下町の、しかもスーバルンゲリラ部隊の応援に来るんだよ。おかしいじゃねえか」
「王太子直々の命令なんだから、しゃあねえじゃん。まあ、でなくてもその男娼はアストラウル人相手に稼ぎまくってたんだろ。違法スレスレの娼館なんて、どうせそのうち摘発されておしまいさ」
「だから、いつか請け出そうと思ってたんじゃねえか…」
「本気かお前」
仲間の兵士が呆れたように言うと、アンレバンはもう一度深くため息をついてから顔を上げた。
「リーチャはよお、本当にいい奴だったんだ。体だって最高だし、あんな所に閉じ込められてんのに俺が行くといっつもニコニコ笑ってくれてよお。この町じゃ、スーバルンゲリラ相手にやり合ってるって言っただけでアストラウル人たちはみんな嫌な顔しやがる。アストラウル人の娼婦まで、バカにしたみたいな目で見てよ」
「まあ、それは思うよな。俺らだって、アストリィに戻りゃ立派な王立軍兵だぜ。なのに俺の彼女の親父もさ、ダッタンにいる間は娘はやらんなんて言ってよ。本当にスーバルンゲリラは疫病神さ」
もう一人の軍兵が手近にあったリンゴを取ってナイフで皮を剥きながら言うと、アンレバンはリーチャだってスーバルン人じゃなきゃな…と呟いた。しばらく自分達の女の話をしていると、食堂に上官が入ってきて三人は立ち上がり敬礼をした。
「アンレバン。先ほどアストリィから急使が来た。軽武装してただちに司令室に集合だ」
「は…? 軽武装?」
驚いて思わず聞き返したアンレバンに、上官はただちにだと繰り返して食堂を出ていった。その場にいる三人で顔を見合わせた。アストリィから急使と言えば、それはハイヴェル卿率いる王立軍の本部からの通達を意味する。
「まあ、行ってくるわ。また訳分かんねえ任務じゃなきゃいいけどな」
そう言ってアンレバンが苦笑すると、他の二人もそりゃ分からんなと笑いながら答えた。食堂を出ると、駐屯地内は俄に騒々しくなっていた。同じように別部隊で召集をかけられている軍兵たちを横目で見ると、アンレバンは武装するために武器庫へ急いだ。
|