「グウィナンを見た!?」
ガスクと二人して身を乗り出した。そこは南地区の中でも比較的静かな地域で、古い石造りの家がずっと並んでいた。驚いてナヴィがそれどこでと尋ねると、家の前に座り込んでいたスーバルン人の老人はしどろもどろになって答えた。
「僧侶さまがほれ、そこの裏道をマント姿で市街地の方へ向かって歩いていらっしゃったんで、わしゃ声をかけたんじゃ。そしたらいつもは祝福を下さるのに、その時は急いでいるのでと仰って立ち止まらずに行ってしまわれた」
「どこへ行くとは言ってませんでしたか」
ナヴィが尋ねると、老人は首を捻った。しばらくジッと考えた後、また首を捻った老人にガスクは丁寧に礼を言った。教えられた通り裏道に入って足早に歩き出すと、ナヴィはガスクを見上げた。
「市街地って、オルスナの商人たちが市を出している広場がある辺りだろ」
「そうだ。まさか北へ向かったとは思わなかったな。てっきり南からダッタンを出ていると思っていた」
ため息まじりに言ったガスクに、ナヴィはなぜ?と尋ねた。町ですれ違うスーバルン人たちは相変わらずガスクとナヴィを物珍しげに見ていたけれど、いつの間にか気にならなくなっていた。ナヴィが小走りになっていることに気づくと、ガスクは歩調を緩めた。
「市街地にもスーバルン人はいるが、対スーバルンゲリラ内戦部隊の駐屯地があって見回りも多い。商人と取り引きをするとか、よっぽど用がなければ俺たちは寄りつかない場所なんだ」
「じゃあ、何でグウィナンは市街地へ? 何か仕入れるつもりなのかな」
ナヴィの言葉にどうかなと答えると、ガスクは黙り込んだ。
もしグウィナンが本気で俺たちと決別するつもりなら、まず仕入れるのは…。
武器。
考えると不安がよぎって、ガスクは思わず目を伏せた。グウィナンが本気で俺たちを襲ったら、俺はあいつと戦えるのか。いや、そうならないように見つけだして説得するんだ。考えながら歩いていると、自分を呼ぶ声が後ろから響いてガスクは振り向いた。
「待って、ガスク」
裏通りでも時間帯のせいか人で込み合っていて、ナヴィは行き交うスーバルン人たちに阻まれて見えなくなっていた。少し戻ってナヴィの手をつかむと、ガスクはナヴィの手を引いて裏通りから大通りへ出た。
「子供か、お前は」
呆れたように言ったガスクに、ナヴィは真っ赤になった。てっきり言い返してくるものだと思っていたのに予想に反して黙り込んだナヴィに気づくと、ガスクは歩調を緩めてナヴィの顔を覗き込んだ。
「何」
「ゴメン。僕もナッツ=マーラやグウィナンのようにしっかりとした大人ならよかったのに」
目を伏せたまま呟くと、ナヴィは赤くなった頬を擦った。バカじゃないのか、こいつは。動きに合わせて揺れるナヴィの栗色の髪を見ると、ガスクはそこから視線を外した。
子供とか大人とか関係なく、お前は十分、俺たちの力になってくれているのに。
「日が暮れる前に、グウィナンを見つけるぞ」
ポツリと雨粒が髪に当たった。無愛想にガスクが呟くと、ナヴィは分かったと答えた。今にも雨の降り出しそうな雲を見上げて、大通りを行き交う人々は心持ち歩みを早めていた。
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