アストリィから一か月ぶりに戻ってすぐ、ガスクたちが滞在している部屋を訪れたプティ市警団の使者は、部屋の中をゆっくりとなら歩けるぐらいに回復したガスクを見てにこやかに話した。
「もう出立できそうですね。大変結構」
「随分待たせて申し訳なかった。プティ市警団が信頼できるということもよく分かったよ」
少し痩せた手でガスクが使者と握手をすると、使者はニッと笑って答えた。
「正直だな、ガスク=ファルソ」
「正直だけが取り柄なんだ」
そう言って笑みを返すと、ガスクはベッドに座って使者を見上げた。
「明日にでもプティへ発てるが、どうする。こちらはプティへ向かうのは俺一人なんで、いつでも構わないが」
「馬に乗っていくつもりだったが、あなたのその足では無理でしょうね。馬車の手配をしてあげましょう。明後日の早朝はいかがです?」
「大丈夫だ」
ガスクが言うと、使者は頷いた。
「では明後日の早朝、太陽が昇る頃にダッタン市の北東門で。荷物は最小限、武装はもちろんなさって結構」
「分かった。あと一つだけ聞きたいんだが」
そう言ったガスクの言葉に、使者は不思議そうな表情でガスクを見た。
「どうぞ」
「あんたの名前を聞いてなかった。あんた、何て名だ?」
ニヤリと笑って尋ねたガスクに、使者はあははと声を上げて笑ってから答えた。
「本当だ。まだ名乗っていませんでしたね。私の名はヤソン。ヤソン=グラインです。どうぞよろしく」
「ヤソンと呼んでも?」
「結構。それでは明後日」
目を細めてヤソンが小さく頷いた。それを横で見ていたナヴィが、ふいに口を挟んだ。
「僕もプティまでついていきます」
「え?」
ガスクが驚いてナヴィを見ると、ナヴィはどうせ同じ所へ行くのだからと言って振り向いた。
「いいだろ、アサガ」
「いけません」
「僕は行くよ。アサガは残れば」
ナヴィがそう言うとアサガは顔をしかめて、ではご一緒にと答えた。ヤソンが楽しい旅になりそうだと言って部屋を出ていくと、ベッドに座っていたガスクがナヴィを見上げた。
「あんなにダッタンに残るって言ってたのに、どういう心境の変化だよ」
「うん」
ガスクの額の包帯を眺めると、ナヴィはベッドサイドの水差しを取ってコップに水を注いだ。
「僕がやらなければいけないことが、見つかったから」
「何それ」
興味津々といった表情でガスクが尋ねると、ナヴィはまだ秘密と答えてコップをガスクへ差し出した。どちらにせよ、プティへ行ってくれるなら文句はありませんよ。そう言って息を吐くと、アサガは準備をしなくちゃと呟いてあたふたと動き出した。
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